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私、提案します
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砂を含んだ荒野の風を突き抜けて一日ばかり進むと、青々と茂る広大な森に至ります。
魔物の狂暴化――魔暴災害が起きているクスラの地へは、オクスノへの道と同じく馬車で向かいました。
私という賓客を最前線にただ送るわけにはいかないということで、カリレア卿に加えて医療所で治療を受けた兵士や予備選力も含めたおよそ千人も同行する大所帯となっています。
やたらとオークの方々の士気が高く、少し馬車から顔を出してみればそれを発見した兵士の方々が賑やかになり、手を振ってみればうおーと歓声が上がるほどです。
一体なぜでしょうとソーニャさんに尋ねてみれば、彼女は兵士の方々の間で流れている話を教えてくれました。
曰く、三日月姫は勝利と癒しをもたらす白銀の女神となられたと。
どうやら先日医療所で私の力で治された方々がその時の話を口々に話しておられるそうで、その場にいなかった方にも噂が伝わっているようです。
もう戻らないと思っていた腕が生えてきた、医者も諦めた命を繋ぎとめたなど如何に私の行いで救われたかなど。
その影響で私が神格化と言いますか、一部では尊敬を超えて崇拝の対象となっていると。
また私の直属の護衛の方々も勇者が襲来したときのことを話してそれに拍車をかけていたり、直属の護衛ということで羨ましがられていたり……。
ソーニャさんもソーニャさんで、行軍の際に食事の準備や配膳を彼女が望んで手伝っていることからアイドルのような扱いを受けているようです。
いつの間にかとんでもないことになっています。私はそこまであがめられたり尊敬されるような大層な人間ではないのですが……。いえ、もう魔王の娘なので魔族と言った方が正解かもしれませんけども、とにかく私の実像に見合わない偶像が形成されつつあるようです。何やら心苦しいです。私にできることは癒すことだけで、勝利をもたらすことなんてできませんし、女神でもありません。
とはいえステラ様を大好きな方が増えてくださってとても嬉しいです、とはしゃぐソーニャさんを見ていると水を差す気にもなれません。
なんといいますか、前世でアイドルを熱烈に推していた方々を思い出して微笑ましくなりました。
クスラの地は物々しい雰囲気に包まれていました。柵で森の入り口を囲い、離れたところに一万人は常駐できる規模の拠点が構築されています。
私たちの一行が辿り着くと、見張りの兵士が一番に出迎えます。先頭に立つカリレア卿と言葉を交わしていますが、その内容までは私たちの馬車には届きません。
そのまま何事もなく拠点の内部の広場に馬車は進み、ゆっくりと止まりました。少し待っているとカリレア卿が馬車の戸を開け、エスコートしてくださいます。
馬車を降りる私に向けられる視線の多くは友好的と言えるものではありませんでした。大方今まで引きこもっていたお姫様が何をしにこんなところまで、といった感じでしょうか。人によっては迷惑そうな顔さえしています。
実際カリレア卿に無理を言ってここに来ているのですから文句はぐうの一つも言えません。甘んじて受け入れるほかなく、私の行動で私の意志と力を表明するほかないでしょう。
「第一王女ステラ・ノルト・フェイルト、参上いたしました。微力ではございますが皆様のお力となり、この地に降りかかる災いを祓いたく思います」
敬礼をして立ち並ぶ面々に対して、カーテシ―を伴う挨拶を述べます。相対するのは肩にひときわ目立つ勲章を付けた壮年の方です。
「今回の魔物討伐を拝命しておりますグルノ・レーゲン大将であります。王女殿下にあられましては、我らの雄姿を見守っていただけますようお願い申し上げます」
完璧な敬礼の裏に、レーゲン大将は私に後ろでおとなしくしていてほしいという意図を含ませています。それをカリレア卿が咎めることはありません。
恐らく貴族としてはかなり無礼な振る舞いをされていると思うのですが、私に実力がないことは事実であるため何も言えませんし、言おうとも思いません。
この程度のことを気にしていてはこれから先何もできないでしょうから。
「ありがとうございますレーゲン大将。皆様の勇気に応えられるよう全力を尽くさせていただきます」
私の言葉にレーゲン大将がぴくりと眉を微かに動かします。私は物見遊山をしに来たわけではないので、拠点にこもり続けるつもりはありません。いずれ戦闘にも参加することを考えています。
というのもソーニャさんやお父様から聞いた話によると聖女の力は傷を癒すだけでなく、他の人の身体能力を強化したり強固な障壁を張ることもできるようなのです。クスラに至る道中ではソーニャさんにアドバイスを頂きながら、それらの力が使えるよう練習していました。
やってみて全然ダメそうなら諦めますが、今後のためにもここで手ごたえをつかんでおきたいです。
そんな私の視線とレーゲン大将の視線は交錯し、やがて諦めたようにレーゲン大将がひときわ大きな天幕を見やりました。
「……王女殿下、将軍、現状を説明させていただきますので、こちらへどうぞ」
「現在このクスラの地で起きている魔暴災害はかなり大規模なもので、森の中層部まで進軍したわが軍は現時点で二割ほどの損害を被っております」
レーゲン大将がクスラの詳細な地図に、兵士を表す駒を置いて戦況を説明しています。私はそれをソーニャに抱きかかえられながら見ていました。なぜ抱きかかえられているのかと言いますと、五歳児用の椅子などというものが前線になかったからですね。ソーニャには身体能力の強化を軽く掛けているので、問題と言えば見た目がちょっと情けないくらいです。
地図を見れば魔暴災害の原因となったボスと呼ばれる強大な魔物の予測地点まで残り半分の地点まで進軍しているようです。
「二割か……」
「最深部に近づくほど魔物が強化されることや兵士の練度、森という大軍を動かしにくい地形であることを鑑みるに、このまま正攻法ではわが軍の損害は五割に至りうるものかと」
そもそも魔暴災害とは、原因不明の魔物の狂暴化です。空中に含まれる魔力が濃い魔力溜まりのような場所でよく起きることは知られていますが、その詳しいメカニズムまでははっきりしていないのが現状です。
とかく一度魔暴災害が起きると魔物の群れの中に強大な力を持つボスが生まれ、それに当てられたかのように狂暴な魔物が増えます。すると魔物の中にも食物連鎖はあるため、弱い部類に当たる魔物がどんどんと本来の生息地域から飛び出し周囲の町や村に被害を与えるのです。
これを鎮静化するためにはまず生息地域の外に出た魔物を討伐し、次いで狂暴化した魔物、最終的にボスを倒さなくてはなりません。
現状はボスのもとへとある程度進行できているようですが、軍という形で戦闘を行うオークにとって不利な要素が多く停滞しているようです。
「ボスの情報は?」
「偵察班によれば、巨大化した魔狼であるとのことです」
その言葉にカリレア卿が苦い顔をします。魔狼はこれまでの魔暴災害からボスの中でも知能が高いことで知られており、罠にかけるといったからめ手に非常にかかりにくい相手だからでしょう。
正攻法が難しい地形であるにもかかわらず、からめ手が使いにくい相手となれば攻略が難航することは容易に想像がつきます。
「なるほど、攻め手にかけるな」
カリレア卿が攻略法を思案しているようです。……提案するとすればこのタイミングでしょうか。
「私から一つ提案がございます」
「王女殿下?」
レーゲン大将が私の発言に驚いたようにこちらを見ます。ああ、胃が痛いです。気分は初めて会議で発言する新入社員、立場こそあれど門外漢が意見するのには違いありません。
「私の力で部隊の強化と回復ができます。それでどれほど戦況に影響があるか、試してみてもよろしいでしょうか。もし効果があれば、少数精鋭で戦闘を挑むことも視野に入るのではないかと」
私の提案に対して、レーゲン大将はあまり良い顔をされませんでした。どう断ろうかと悩んでいる節すらあるように思います。上司の上司から無茶を言われている状況ですからそれも仕方がないことでしょう。私としては一蹴されないだけでもありがたいです。
「王女殿下、御身の安全はどうされるので?」
レーゲン大将から手痛い質問が来ました。そうなんですよね、私自身があまり自衛できないという問題点はどうしても存在します。
「私はオークの兵士の方々を信頼しています。私に危険が及ぶことなどそうはないでしょう」
これは本当にそう思っています。道中の動きを見ていましたが、彼らも魔族の一員。相手が勇者などというインフレの極致みたいな存在でなければしっかり対処できるのです。
それを瞬殺してのけたお父様はインフレなどという言葉では表せない気がしますが……。
それに彼らは私を守るために命を懸けてくださいました。それは信頼に値することだと思うのです。
「それに私自らが望んで立つのです。それで私に危害が及んだのであれば私が非力であることに責があり、それまでの存在であるだけの事。誰にも咎を与えさせないことを魔璽を以て誓います」
そういって取り出すのは私の手より少し大きいサイズのハンコです。魔璽と呼ばれるこれは魔族で重要な書類を決済する時に使われるもので、登録された魔力と同じ魔力を持つ人物でなければ印を捺すことができません。
あらかじめ用意しておいた、この魔暴災害で私に危害が及んだ際の責は私のみにあるという書類に押印し、レーゲン大将とカリレア卿に渡します。
これでようやく認めてもらえるかどうかといったところでしょうか。
「しかし王女殿下……」
「王女殿下、本当に良いのですな」
レーゲン大将の言葉を遮って、カリレア卿が私に確認します。その目は相変わらず私を見定めるように細められていました。
「はい。覚悟の上です」
内心では怯えています。自ら死地に踏み入ることはこれまでの私では考えられないことです。ですがただバッドエンドを座して待つ以外の選択肢がある以上、覚悟を決めて進みましょう。
カリレア卿はしばらく瞑目したあとに言葉を続けました。
「では明後日志願兵を募り、一度試しに中層の魔物に当たってみましょう」
「感謝いたします。カリレア卿」
「くれぐれも戦闘は兵に任せ、危険なことはなさらぬよう」
「はい」
これで第一歩は成功ですね。
「長旅でお疲れでしょうから今日はお休みください」
そして私は自身の天幕に案内されました。
「ねえソーニャ」
「なんでしょうか、ステラ様」
「私、ちゃんとできるでしょうか」
「大丈夫だと思いますよ。ちゃんと練習しましたし、皆さんお強い方ばかりですから」
「そうですよね。大丈夫、きっと大丈夫」
「……ステラ様を見てると、アレフを思い出します」
「勇者さんですか?」
「はい。アレフもこうして隠れて悩んでいたなーって」
「彼はかなり勇敢な人に見えましたが……」
「ふふっそうですね。でもステラ様、私思うんです。本当に勇気ある人というのは、苦悩しながらそれでも困難な道を選べる人じゃないかって」
「……」
「ですからステラ様、あなたは聖女としてではなく、ステラ様としての道を選べていると思います」
「ありがとう、ソーニャ」
「いえいえ、では、良い夜を」
魔物の狂暴化――魔暴災害が起きているクスラの地へは、オクスノへの道と同じく馬車で向かいました。
私という賓客を最前線にただ送るわけにはいかないということで、カリレア卿に加えて医療所で治療を受けた兵士や予備選力も含めたおよそ千人も同行する大所帯となっています。
やたらとオークの方々の士気が高く、少し馬車から顔を出してみればそれを発見した兵士の方々が賑やかになり、手を振ってみればうおーと歓声が上がるほどです。
一体なぜでしょうとソーニャさんに尋ねてみれば、彼女は兵士の方々の間で流れている話を教えてくれました。
曰く、三日月姫は勝利と癒しをもたらす白銀の女神となられたと。
どうやら先日医療所で私の力で治された方々がその時の話を口々に話しておられるそうで、その場にいなかった方にも噂が伝わっているようです。
もう戻らないと思っていた腕が生えてきた、医者も諦めた命を繋ぎとめたなど如何に私の行いで救われたかなど。
その影響で私が神格化と言いますか、一部では尊敬を超えて崇拝の対象となっていると。
また私の直属の護衛の方々も勇者が襲来したときのことを話してそれに拍車をかけていたり、直属の護衛ということで羨ましがられていたり……。
ソーニャさんもソーニャさんで、行軍の際に食事の準備や配膳を彼女が望んで手伝っていることからアイドルのような扱いを受けているようです。
いつの間にかとんでもないことになっています。私はそこまであがめられたり尊敬されるような大層な人間ではないのですが……。いえ、もう魔王の娘なので魔族と言った方が正解かもしれませんけども、とにかく私の実像に見合わない偶像が形成されつつあるようです。何やら心苦しいです。私にできることは癒すことだけで、勝利をもたらすことなんてできませんし、女神でもありません。
とはいえステラ様を大好きな方が増えてくださってとても嬉しいです、とはしゃぐソーニャさんを見ていると水を差す気にもなれません。
なんといいますか、前世でアイドルを熱烈に推していた方々を思い出して微笑ましくなりました。
クスラの地は物々しい雰囲気に包まれていました。柵で森の入り口を囲い、離れたところに一万人は常駐できる規模の拠点が構築されています。
私たちの一行が辿り着くと、見張りの兵士が一番に出迎えます。先頭に立つカリレア卿と言葉を交わしていますが、その内容までは私たちの馬車には届きません。
そのまま何事もなく拠点の内部の広場に馬車は進み、ゆっくりと止まりました。少し待っているとカリレア卿が馬車の戸を開け、エスコートしてくださいます。
馬車を降りる私に向けられる視線の多くは友好的と言えるものではありませんでした。大方今まで引きこもっていたお姫様が何をしにこんなところまで、といった感じでしょうか。人によっては迷惑そうな顔さえしています。
実際カリレア卿に無理を言ってここに来ているのですから文句はぐうの一つも言えません。甘んじて受け入れるほかなく、私の行動で私の意志と力を表明するほかないでしょう。
「第一王女ステラ・ノルト・フェイルト、参上いたしました。微力ではございますが皆様のお力となり、この地に降りかかる災いを祓いたく思います」
敬礼をして立ち並ぶ面々に対して、カーテシ―を伴う挨拶を述べます。相対するのは肩にひときわ目立つ勲章を付けた壮年の方です。
「今回の魔物討伐を拝命しておりますグルノ・レーゲン大将であります。王女殿下にあられましては、我らの雄姿を見守っていただけますようお願い申し上げます」
完璧な敬礼の裏に、レーゲン大将は私に後ろでおとなしくしていてほしいという意図を含ませています。それをカリレア卿が咎めることはありません。
恐らく貴族としてはかなり無礼な振る舞いをされていると思うのですが、私に実力がないことは事実であるため何も言えませんし、言おうとも思いません。
この程度のことを気にしていてはこれから先何もできないでしょうから。
「ありがとうございますレーゲン大将。皆様の勇気に応えられるよう全力を尽くさせていただきます」
私の言葉にレーゲン大将がぴくりと眉を微かに動かします。私は物見遊山をしに来たわけではないので、拠点にこもり続けるつもりはありません。いずれ戦闘にも参加することを考えています。
というのもソーニャさんやお父様から聞いた話によると聖女の力は傷を癒すだけでなく、他の人の身体能力を強化したり強固な障壁を張ることもできるようなのです。クスラに至る道中ではソーニャさんにアドバイスを頂きながら、それらの力が使えるよう練習していました。
やってみて全然ダメそうなら諦めますが、今後のためにもここで手ごたえをつかんでおきたいです。
そんな私の視線とレーゲン大将の視線は交錯し、やがて諦めたようにレーゲン大将がひときわ大きな天幕を見やりました。
「……王女殿下、将軍、現状を説明させていただきますので、こちらへどうぞ」
「現在このクスラの地で起きている魔暴災害はかなり大規模なもので、森の中層部まで進軍したわが軍は現時点で二割ほどの損害を被っております」
レーゲン大将がクスラの詳細な地図に、兵士を表す駒を置いて戦況を説明しています。私はそれをソーニャに抱きかかえられながら見ていました。なぜ抱きかかえられているのかと言いますと、五歳児用の椅子などというものが前線になかったからですね。ソーニャには身体能力の強化を軽く掛けているので、問題と言えば見た目がちょっと情けないくらいです。
地図を見れば魔暴災害の原因となったボスと呼ばれる強大な魔物の予測地点まで残り半分の地点まで進軍しているようです。
「二割か……」
「最深部に近づくほど魔物が強化されることや兵士の練度、森という大軍を動かしにくい地形であることを鑑みるに、このまま正攻法ではわが軍の損害は五割に至りうるものかと」
そもそも魔暴災害とは、原因不明の魔物の狂暴化です。空中に含まれる魔力が濃い魔力溜まりのような場所でよく起きることは知られていますが、その詳しいメカニズムまでははっきりしていないのが現状です。
とかく一度魔暴災害が起きると魔物の群れの中に強大な力を持つボスが生まれ、それに当てられたかのように狂暴な魔物が増えます。すると魔物の中にも食物連鎖はあるため、弱い部類に当たる魔物がどんどんと本来の生息地域から飛び出し周囲の町や村に被害を与えるのです。
これを鎮静化するためにはまず生息地域の外に出た魔物を討伐し、次いで狂暴化した魔物、最終的にボスを倒さなくてはなりません。
現状はボスのもとへとある程度進行できているようですが、軍という形で戦闘を行うオークにとって不利な要素が多く停滞しているようです。
「ボスの情報は?」
「偵察班によれば、巨大化した魔狼であるとのことです」
その言葉にカリレア卿が苦い顔をします。魔狼はこれまでの魔暴災害からボスの中でも知能が高いことで知られており、罠にかけるといったからめ手に非常にかかりにくい相手だからでしょう。
正攻法が難しい地形であるにもかかわらず、からめ手が使いにくい相手となれば攻略が難航することは容易に想像がつきます。
「なるほど、攻め手にかけるな」
カリレア卿が攻略法を思案しているようです。……提案するとすればこのタイミングでしょうか。
「私から一つ提案がございます」
「王女殿下?」
レーゲン大将が私の発言に驚いたようにこちらを見ます。ああ、胃が痛いです。気分は初めて会議で発言する新入社員、立場こそあれど門外漢が意見するのには違いありません。
「私の力で部隊の強化と回復ができます。それでどれほど戦況に影響があるか、試してみてもよろしいでしょうか。もし効果があれば、少数精鋭で戦闘を挑むことも視野に入るのではないかと」
私の提案に対して、レーゲン大将はあまり良い顔をされませんでした。どう断ろうかと悩んでいる節すらあるように思います。上司の上司から無茶を言われている状況ですからそれも仕方がないことでしょう。私としては一蹴されないだけでもありがたいです。
「王女殿下、御身の安全はどうされるので?」
レーゲン大将から手痛い質問が来ました。そうなんですよね、私自身があまり自衛できないという問題点はどうしても存在します。
「私はオークの兵士の方々を信頼しています。私に危険が及ぶことなどそうはないでしょう」
これは本当にそう思っています。道中の動きを見ていましたが、彼らも魔族の一員。相手が勇者などというインフレの極致みたいな存在でなければしっかり対処できるのです。
それを瞬殺してのけたお父様はインフレなどという言葉では表せない気がしますが……。
それに彼らは私を守るために命を懸けてくださいました。それは信頼に値することだと思うのです。
「それに私自らが望んで立つのです。それで私に危害が及んだのであれば私が非力であることに責があり、それまでの存在であるだけの事。誰にも咎を与えさせないことを魔璽を以て誓います」
そういって取り出すのは私の手より少し大きいサイズのハンコです。魔璽と呼ばれるこれは魔族で重要な書類を決済する時に使われるもので、登録された魔力と同じ魔力を持つ人物でなければ印を捺すことができません。
あらかじめ用意しておいた、この魔暴災害で私に危害が及んだ際の責は私のみにあるという書類に押印し、レーゲン大将とカリレア卿に渡します。
これでようやく認めてもらえるかどうかといったところでしょうか。
「しかし王女殿下……」
「王女殿下、本当に良いのですな」
レーゲン大将の言葉を遮って、カリレア卿が私に確認します。その目は相変わらず私を見定めるように細められていました。
「はい。覚悟の上です」
内心では怯えています。自ら死地に踏み入ることはこれまでの私では考えられないことです。ですがただバッドエンドを座して待つ以外の選択肢がある以上、覚悟を決めて進みましょう。
カリレア卿はしばらく瞑目したあとに言葉を続けました。
「では明後日志願兵を募り、一度試しに中層の魔物に当たってみましょう」
「感謝いたします。カリレア卿」
「くれぐれも戦闘は兵に任せ、危険なことはなさらぬよう」
「はい」
これで第一歩は成功ですね。
「長旅でお疲れでしょうから今日はお休みください」
そして私は自身の天幕に案内されました。
「ねえソーニャ」
「なんでしょうか、ステラ様」
「私、ちゃんとできるでしょうか」
「大丈夫だと思いますよ。ちゃんと練習しましたし、皆さんお強い方ばかりですから」
「そうですよね。大丈夫、きっと大丈夫」
「……ステラ様を見てると、アレフを思い出します」
「勇者さんですか?」
「はい。アレフもこうして隠れて悩んでいたなーって」
「彼はかなり勇敢な人に見えましたが……」
「ふふっそうですね。でもステラ様、私思うんです。本当に勇気ある人というのは、苦悩しながらそれでも困難な道を選べる人じゃないかって」
「……」
「ですからステラ様、あなたは聖女としてではなく、ステラ様としての道を選べていると思います」
「ありがとう、ソーニャ」
「いえいえ、では、良い夜を」
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