魔王の娘ですが、人類最高支援能力を持つ聖女です ーお前の勇者を連れて来いって、どういうことですかお父様ー

星 高目

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それは今も続くおとぎ話

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 昔々のお話です。人々は皆で協力し合い平和に暮らしておりました。
 神に、自然に感謝し恵みを受け取る穏やかな日々。それがずっと続くと思われていました。
 しかしその平穏は、突如として現れた魔王とその配下である魔族によって破られます。
 人を遥かに超えた恐ろしい力を振るう魔王と魔族によって多くの人が殺され、人々は追い詰められました。
 英傑と謳われた騎士も、賢王と呼ばれた王様も、魔王の力の前には敵いませんでした。
 人々は女神様に願います。どうか我らを助けてくださいと。彼の者の猛威から我らを守る力をくださいと。
 ……そして勇者と聖女が現れました。
 魔王にも劣らぬ超常的な力、光り輝く聖剣を振るって襲い掛かる魔を打ち払う一騎当千の勇者。
 死者さえ蘇らせる癒し、城壁のような堅固な守り、人々の心の支えとなる美しき聖女。
 二人は言いました。私たちが魔王を打倒して見せると。
 これに勇気づけられた人々は魔族の脅威に一丸となって立ち向かい、少しづつ奪われた土地を取り返していきました。
 勇者と聖女は当代随一の魔法使いである賢者、英傑の一番弟子であった騎士と共に旅をし、魔王と戦いました。
 魔王の力は勇者と聖女の力が合わさってなお強大なもので、賢者と騎士は二人を守って命を落としてしまいます。
 仲間の死を嘆く暇もない激闘の末、とうとう勇者は魔王を打ち倒しました。
 しかし魔王は最期に、勇者に呪いをかけます。
 我は何度でもお前たちの前に現れよう。人間どもを滅ぼすまで。
 勇者はこう答えました。
 我らもまたお前たちの野望を何度でも打ち砕こう。この聖剣と聖女の光、人々の勇気で以て。

 魔王を打ち倒して平和を取り戻した二人を人々は温かく出迎えました。
 こうして勇者と聖女、そして魔王の戦いは始まったのです。

 *
 
 クルト牧師は心に穏やかにしみいるような優しい声音で語ります。それは人類の間で語り継がれているおとぎ話でした。
 勇者と聖女、そして魔王を巡る昔から続く因縁のお話。大筋は魔族の間に伝えられているものと同じでした。
 ただ一つ違うのは、初めの部分。
 戦いを仕掛けてきたのは人類だったと魔族では語られています。
 発達した魔法の力で以て侵略を始めた人類に対抗するため魔王が産まれ、人類から勢力圏を奪い返したのだと。
 昔話なので真実はわかりませんが、どちらも自分たちが被害者だと主張している形になります。
 果たしてこれをどう受け止めるべきでしょうか。

「勇者様と聖女様は大体十年毎に現れ、ナーデ様のお膝元であるナーデリア聖教国にて旅を始めます。次に勇者様が現れるのは、五年後くらいでしょうか」

 クルト牧師がそう付け加えました。次の勇者が現れるまであと五年。しかし私という片割れの聖女は既にここにいます。

「勇者様と聖女様が現れたというのはどのようにわかるのでしょうか」

 これは目下ぜひとも聞いておきたい情報です。私という存在が把握されているのかどうか。
 牧師はにこりと笑います。

「お二方が現れた時、教皇様に神託が下るそうです。また女神様から賜った神器によって大体の居場所もわかるのだとか」

 思わず顔が引きつります。無許可でGPSを搭載するとは女神様にプライバシーの概念というものはないのでしょうか。
 そして今の言葉を聞く限りでは私の存在は既に把握されていると考えた方が良いでしょう。魔王の城にいたことも、今こうして人類の領地にいることも。

「勇者と聖女に選ばれた人はどうなるのでしょうか?」

 私のことがばれているとなれば、考えるべきは相手がどう動いてくるのかです。

「神託を受けて、聖騎士隊がお迎えに上がります。この一団が来ることはあまりにもめでたいことですから、皆でお祝いするのですよ」

 向こうから迎えが来る、となればいずれはここに聖騎士の一団が来るのでしょう。位置が常にばれている以上逃げ回ることも難しそうです。
 魔王の城で生まれた聖女、どう考えても厄ネタとして扱われる気がするのでぜひとも逃げ出して旅でもしたいのですが。
 それにお父様は『私の勇者』を探せ、と言っておりました。ここで指す勇者は恐らく女神様に選ばれた人の事ではありません。
 もしただの勇者であるならば、わざわざなどという言葉はいらないのですから。
 勇者という名の結婚相手を連れてこいみたいなお話ではないでしょうし……。
 いや、流石に違いますよねお父様? そんな理由で瀕死の子どもを見知らぬ土地にぶっ飛ばすなんてことないですよね?

「勇者様と聖女様は皆を守ってくれるすごい人なんだ! 僕もいつか勇者様みたいになりたいなあ」

 勇者、その言葉にお父様が勇者を瞬殺したあの光景が蘇ります。
 人としての痕跡を残すことなく血煙となって消えたあの人は、一体どれだけの人の期待を背負ってあそこにやってきていたのでしょうか。
 勇者に憧れるというのは、あんな最期を迎える可能性が高いということなのではないのでしょうか。
 そう思うと、少しだけ胸が痛みます。
 皆が思うほど華々しいものではないのです。

 そしてもう一つ、気になったことがあります。

「勇者様と聖女様が魔族から現われることはないのですか?」

 私の問いに一瞬牧師の顔が凍り付きます。聞いてはいけないことだったかと後悔した直後、彼はまた笑いました。
 しかしその笑みは先ほどとは異なり非常に酷薄で、思わず背筋がぞっとするもの。

「それはあり得ません。魔族は我々の、ひいてはナーデ様の敵ですから」

 その細められた瞳の奥に、黒い炎が燃えていました。
 
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