魔王の娘ですが、人類最高支援能力を持つ聖女です ーお前の勇者を連れて来いって、どういうことですかお父様ー

星 高目

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狩りに興味がある女の子は変ですか?

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「いいか。わしら狩人は森に入って獲物を狩り、糧を得る。しかしそれは何も生活のためだけのものではない。森に異常を感じれば、この赤い狼煙を上げて村に知らせる見張りの役割も担っておる。村で暮らす以上この役は命よりも重い」

 そういうと、モーガンさんは赤い実がところどころに混ざった草の塊を見せてくれます。
 キャッチボールするのにちょうどよさそうな大きさのそれは、乾いていてとてもよく燃えそうです。
 人の気配が全くない森の中、私たちは大きな木のの中で獲物が現れるのを待っています。
 狙うは食料となる野生の獣。
 モーガンさんが弓に矢を軽くつがえて獲物を待つ傍らで、手慰みにしてくださる話を私とルッツは真剣に聞いていました。
 

 事の始まりは朝ごはんの後の事でした。
 ハンナさんが村の人から他の女の子のお下がりの服を頂いてきたので、私はそれに着替えました。
 それまではルッツの服で何とかごまかしていたのですが、ぶかぶかだったので動きにくかったです。
 もともと着ていた服はボロボロの血塗れだったので、燃やしてしまいました。
 
 そして普通の村娘の格好をした私の手を、ルッツが引いて外に出ます。
 向かう先はモーガンさんの家です。
 なぜに?

「ステラは狩りに興味ある?」

 この言葉を聞いた瞬間の私の心中を何と言えばよいでしょうか。
 この世界の狩りに興味があるのは事実です。
 もしもの時を考えれば覚えておいて損はないでしょう。
 それでも狩りに興味ある女の子は変だと思われないでしょうか。
 そんな考えが心に浮かびます。
 しかしルッツの無邪気な眼差しが私を見ているのです。
 断るのは、少し良心が痛みそうです。

「ええと……」
「大丈夫だよ。モーガンおじさんは強いし、何かあっても僕が守るから」
 
 腰に差した木剣を揺らしてルッツは言います。
 迷っているのはそこではないんです。
 恥じらいと、ルッツをがっかりさせたくない気持ち。
 心の中で両者がせめぎ合います。
 結果。

「狩り、見てみたいです」
「よかった。じゃあ行こっか!」

 恥じらいは捨てました。
 ノーと言えない日本人の気質は転生程度では消えないようです。
 なんという根深さ。
 いえ、しかしまだ希望はあります。
 狩りをする女の子がこの世界では一般的であるという希望が。

「お前らか。今日はなんじゃ」
「おじさん、今日は狩りに連れてってよ!」
「……構わんが、嬢ちゃんも狩りに興味があるのか?」
「ええ。困ったときに役立ちそうですから」
「それは間違いないな」
「ちなみに、女の子も狩りをしますよね」
「する者もおるが、珍しいな。少なくともこの村にはおらん」

 なんということでしょう、希望は潰えました。
 異世界カルチャーはそう都合よくはないようです。

 これをつけろ、と言って渡されたのは革で作られた子ども用の肘当て、膝当てでした。
 中に綿が詰めてあるのか、柔らかい感触がします。
 森の中は用心するべき場所なのでしょう。
 モーガンさんが用意してくださったそれを二人で装着します。

「アサン村の子どもはね、こうして大人に教えてもらったり手伝いをしながら暮らすんだ」
「そうなのですね」
「僕は冒険に出た時。自分で獲物を採れるようになりたいからおじさんに狩りをよく教えてもらってるんだよ。まだ見習いで、弓も持たせてもらえないけどね」
「ということは見学ですか?」
「そうだねー。でもおじさんはいろんなことを知ってるから勉強になるよ」

 そんな会話をしながら準備を終えます。
 そこでモーガンさんが声を掛けてきました。
 彼の背中には私では引くこともできないだろう大弓、腰には長剣が装備されています。
 
「準備はできたか」
「ばっちりだよ!」
「はい」

 かくして私は狩りの見学に森の中へ入ることになったのです。



 こないだ来たときには暗かったのでわかりませんでしたが、森の地面は平たく意外と歩きやすい状態でした。
 代わりに変わり映えしない木々の並びが遠くまで続いています。
 モーガンさんはすたすたと歩いて行きますが、私は着いていくので精いっぱいです。
 恐らくはぐれたら現在地がわからなくなって一瞬で迷子になってしまいます。
 そこからうっかり熊さんにでも出会おうものなら危ないからお帰り、など言わずにむしゃむしゃされるでしょう。
 お腹の中へいらっしゃいませです。
 そんな益体のないことを考えながら歩いていると、モーガンさんが立ち止まります。

「どうしたの?」
「足跡だ。鹿、二頭か。子どもと親……」

 彼が膝をついて指でなぞるそこには、確かに小さなくぼみがありました。
 私なら絶対に見逃してしまっていただろう小さな足跡です。
 モーガンさんは慎重にそれを追いかけていきます。
 私とルッツも顔を見合わせて、出来るだけ足音を立てないようにしてついて行くのでした。

 足跡の先にはまだ湿っている糞やまれた草がありました。
 それを辿って辿り着いたのは小さな水辺。
 どうやらこの水辺が足跡の主の行き先だったようです。

「あそこが隠れるのによさそうだ」
 
 モーガンさんは辺りを見回し、隠れるのにちょうどよい木のを見つけると私たちをそこへ連れて行きました。

「この森に水辺はそう多くあるものでもない。鹿はまたここに来るだろう。そこを狙う」

 なるほど、生物である以上避けられない水分の補給。
 獲物を待つにはちょうどよく、無防備にもなるその瞬間を狙おうというのですね。
 とても勉強になります。
 そして彼は矢を一本軽く弓につがえた状態で、私たちにいろんな知識を教えてくれました。
 弓の狙い方、狩人の心構え、獣除けの方法など……。
 
「狩人は獣を狙う。だが冒険者は魔物を相手せにゃならん。奴らにとって儂らは狩られる側じゃ。それを忘れるな」

 そう言ったきり、モーガンさんは辺りの気配に集中してしまいました。
 
 やがて時は訪れます。
 小さな足音。息を潜めます。
 用心深く少しずつ水辺に近づく足音に焦らされるような時間。
 緊張したまま水辺を見続ければ、鹿の親子が姿を現します。

(来た……)
 
 親鹿が辺りを警戒するように首を巡らせます。
 モーガンさんは既に弦を目いっぱい引き絞ってその時を待っています。
 そして親鹿が警戒を解いて水に口をつけた瞬間。

 ぱしゅっ。

 小さな擦過音の後に、とすっ、と矢が親鹿の首に刺さります。
 親鹿はその一撃で倒れ、子鹿が驚いて逃げ出しました。
 モーガンさんは二の矢を継ぐことなく、親鹿のもとに向かいます。

「死んどるな」

 どうやら親鹿は即死していたようです。
 体は筋肉の反射によるものか痙攣するように動いていますが、もう既に命はない。
 そこには死の影がありました。
 ふと顔を上げれば、離れたところで親鹿をじっと見つめている子鹿がいます。
 あの子はこれからどうやって生きていくのでしょう。
 頼れるものもなく、周りは油断ならない敵が闊歩するこの森の中で。

 これは自然の摂理です。
 命を奪う、奪われる。
 奪わねば生きていけない。
 だからこの親鹿の命を奪った。
 納得しなければならないこと。
 けれど私は。
 子鹿に自分を重ねてしまったのです。

 だからでしょうか。
 私は周りが見えていませんでした。

「危ない!」

 覚えのある獣臭さ。
 どんっと肩に衝撃が走り、地面を転がります。

「何が……ルッツ!」

 起き上がって目にしたのは。
 ルッツに馬乗りになって彼を噛み殺さんとする狼と、その口を木剣で受けとめて必死にこらえているルッツの姿でした。
 その奥には他の狼の姿。
 辺りを見渡せば、私たちは狼に囲まれています。
 じわじわと方位を狭めてくるその姿にぞっと背筋が凍ります。
 今、私たちは狩られる側になったのです。
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