鎌倉黒猫カフェ クロスオーバー

櫻井千姫

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第三話 本音を言うためのアップルパイ

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 学校まではまず大船に出て、そこから乗り換え。北鎌倉の駅から徒歩七分のところ、丘の中腹に立っている聖北鎌倉女学院は、古くは明治からある女学校。

地元に根差した歴史ある女子校で、小説家や活動家、政治家など、数々の自立した女性を多く輩出している、らしい。


 受験の時、この高校に行きたいと思ったのは、今どきちょっと古臭いくらいの三本ラインのセーラー服と白のスカーフが、わたしの目にはとっても凛々しく映ったからだ。

小中とずっと陰キャ、かろうじていじめられはしなかったけど、万年ぼっち。クラス内のカーストではいつも最底辺。

そんなわたしに相応しいのは、他の女の子たちが憧れるような、かわいいチェックのスカートじゃない。

地味だけど気品があって、人里離れた山奥にそっと咲く、百合の花みたいな制服。わたしが着るべき服だ、と思った。

 ところが意外にも、北女に行きたいと言うと、お母さんはあまりいい顔をしなかった。


「あそこはね、お母さん同士の評判があまり良くないの。上の子を北女に入れた人がいるんだけれど、中等部からの子たちが、高等部から入った子を自分たちより生活レベルが低い、貧乏人って見下すんですって。露骨ないじめとかはないみたいだけど、心配よ。芽衣がそういうのに耐えられる子じゃないって、お母さん知ってるし」


 実際、たしかに入学してみると、中等部からの内部進学組と、高校から受験して入った子の間には、しっかりと壁が築かれていた。

内部生は内部生で固まって、受験組は受験組でつるむ。

見下されてる、と感じたことはないけれど、内部生の子たちは庶民じゃぜったい手が出せないようなブランドもののポーチやハンカチをさりげなく学校に持ってきていて、あれも一種のマウントなのかな、と感じることはあった。

 よって、わたしは北女では少数派の受験組グループに属している。


「おっはよー、芽衣! あれー、寝ぐせついてるじゃん。やっだもう、前髪だけじゃなくて、後ろ髪もちゃんとブローしないと駄目だよ!」

「あ、ありがと……」


 教室に入るとさっそく話しかけてきた明日菜が、甲斐甲斐しく寝ぐせを直してくれる。

校則の厳しい北女に入ってしまったことを心底後悔している美容オタクの明日菜に、同じK―POPアイドルを推していて、四人でいると熱心に布教してくる理香と麻結。

三人とも、中学の時には同じ教室にいても、積極的に話しかけなかったタイプだ。だってみんなかわいいし、不思議なくらい自信に溢れていて、堂々としていて、眩しさに近寄ることすらためらわれる。

 とはいえ三人とも、元陰キャのわたしを一切見下さない良い子で、対等に扱ってくれて、それは感謝すべきこと、なんだけど……。


「昨日公開の新作PVさあ、マジ神じゃね? あたし十回連続再生した!」
「うち二十回!」

「すっご。麻結のウィズ愛本物じゃん!」
「理香こそいいセンいってるっしょー」

「ねえねえ、ふたりが推してるええと、何? With LOVEだっけ。あたしも昨日PV観たんだけど、どうしてもJUNとヨンの見分けつかなくてさ……」

「あはは、明日菜、おばさんみたいなこと言ってるー!」
「うっさ」


 合わせて笑いながら思う。正直、わたしも何度観ても、どうしてもJUNとヨンの区別がつかない。

 こういう華やかな友だちができることは中学までは考えられなかったので、最初は素直にうれしかった。

だけどみんなが好きなものは、ことごとくわたしの興味から外れていた。流行のメイクもアイドルも、みんなわたしのハートに刺さらない。


「ねーねー、芽衣は誰か推しっていないの? ウィズじゃなくてもいいんだよ」

 ずっと黙ってたわたしに気を遣ったのか、麻結が水を向ける。必死で頭を回転させ、この場をしのぐための言葉を探す。


「う、うーん……しいて言えば、坂口安吾が推しかな……」
「ふぁっ? 誰? 日本人?」
「うちも知らないやー。明日菜知ってる?」

「たしか……昭和の文豪じゃなかったっけ」
「えっ何それ。ウケる! 芽衣シブすぎなんだけどー!!」


 みんな笑ってくれてるけれど、自分ではスベってるとしか思えない。

 男子に興味がないって、はっきり言えたら楽なんだけどな。


 別に、男の子に何かされたとか、そういうわけじゃない。

ただ、中学の時クラスにいた人気者も、テレビのなかの芸能人も、あんまりカッコよくてキラキラしてて太陽みたいで、わたしみたいな子が好きになるのはおこがましいって思ってしまうから、距離を置く。

ちゃんと自分に自信があるみんなには、この感覚はとても理解してもらえないだろう。


「やっば、チャイム鳴った」


 んじゃあとでー、と手を振って解散。席について、日直の号令を待つ。

 ほっとしている自分に気づいて、トースト一枚しか入ってない胃がずきっと痛んだ。

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