運命と宿命(刑事の子)

具流次郎

文字の大きさ
上 下
1 / 24

1頁 戸籍謄本

しおりを挟む
 昭和26年(秋)。
午後の役場である。
秋霖(シユウリン)が紅葉(モミジ)を濡らす。

役場の受付(戸籍係り)に「赤ん坊」を抱いた『石原道子』が立って居る。
係りの職員が「戸籍謄本」の写しを持って来る。

 「お待たせしました。ちょっとご確認下さい」

道子は謄本を見る。

  『養子・沢村 繁から石原 繁』

 「・・・間違い有りません」 

職員を見て笑う赤ん坊。

 「可愛いお子さんですね」

道子は『繁(シゲル)』の顔を見て嬉しそう。

 「ヨシヨシ、バー。今日から私がアナタの母さんだよ」

憲司(道子の夫・刑事)が待合室の長椅子を立つ。

 役場玄関。
雨空を睨み傘を開く憲司。
憲司の持つ傘が三人を包む。
憲司は道子を見て、

 「無事に終わったな」

道子は少し俯き、

 「ヒロ(沢村弘子・シゲルの実母)ちゃん可哀想だった」

憲司は気丈に、

 「仕方がねえよ。旦那があんな事故で亡くなっちゃったんだ。女手一つで役所の給料じゃ養えきれねえ。それにヒロちゃんだってまだ若けえんだ。再婚する時、子持ちじゃなぁ」

                つづく
しおりを挟む

処理中です...