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助平な人
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工事責任者の男が脚立を置いて、助手の男とコーヒーを飲みながら一休みしている。
男が龍太郎を見て、
「ああ、それから天井裏に人形みたいな物が置いてありますね」
「ニンギョウ?・・・誰が置いたんだろう。ねえ、石田サン」
石田さんはタバコの火を灰皿に押し付け、
「知りませんよ、そんな事。でも気持ちワリーっスね」
龍太郎は男を見て、
「こう云う古い家には、この「テ」の話はつき物ですよね」
「ハハハハ、そうですか? 」
二人はコーヒーを飲み干して、
「じゃッ、終わりましたんでこれで失礼します」
「あッ、帰ります? じゃッ、ご苦労さまでした」
派遣の男が、
「ウイッす」
二人は事務所を出て行く。
すると、通路から責任者の声が、
「オメー、脚立は」
「あッ、置きッパだ」
「オメー、ほ・ん・とう・に、大丈夫か? 」
賑やかな二人の『工事担当コンビ』であった。
龍太郎と石田さんが天井を見ている。
「都市伝説っスか?」
「トシデンセツ? ああ、ホラーね。・・・ちょっと見てみようか」
「そおっスね」
龍太郎がテーブルの上に乗り天井の蓋をそ~と開ける。
中を覗きながら、
「ほおー ・・・こんなふうになってるんだ」
「なんか見えますか?」
「暗くて良く見えないなあ。石田サン、机の一番下の引き出しに懐中電灯があるから取ってくれる」
石田さんが引き出しを開けて懐中電灯を取り出す。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
「どうっスか?」
「ええ?・・・うん。あッ! 有った。光ってるぞ」
「あのバイトのメガネのレンズじゃないっスか?」
「いや、違う。目だ! 目が光ってる。でも人形か?・・・あ~あッ!猫だ。ネコが干乾びて死んでいる」
「ネコ? 分かったッ! チュー功(ネズミ)にやられたんだ」
「ネズミに? うんなバカな」
「いや、アイツならヤリかねないっス。一匹、でっかいボスネズが居るんス」
「ボスネズ? 石田サン、店長呼んできてくれる」
「は~い」
暫くして静子と石田さんが事務所に来る。
静子が渋い顔でテーブルの上に立つ龍太郎を見て、
「何やってるの?」
龍太郎は静子を見て、
「マイッタたよ。屋根裏でネコが死んでんの。ッたく、なに考えてるんだろうなあ」
「ああッ! それだ。それであんなにハエが居たんだ」
「あ~あ、そうだったのか。店長、わるいけど隣りの大家サン呼んで来てくれる」
「分かった。でも、あのお爺さん居るかしら」
静子が事務所を出て行く。
石田さんはタバコを吹かしながら、
「・・・あのスケベジジイ」
龍太郎は天井に頭を入れながら、
「え? なんか言った」
「あの大家、人(シト)の尻(ケツ)をやたら触るんスよ」
龍太郎は下の石田さんを見て、
「何だい、それは?」
「この店の女の客、ほとんどが 触られてるんじゃないっスか」
「ハハハハ」
「店長も今頃、触られてますよ」
龍太郎は驚いて、
「え~え!」
暫くして、静子と大家さんが事務所に入って来る。
この大家さん、「典型的な江戸っ子」。
まるで『歌麿の絵』に出て来る奴(ヤッコ)の様な顔立ちである。
その大家さんが、
「あんだって、ネコが死ンでる? ど~ら、ちょっとドイテみな!」
大家さんは、さりげなく石田さんの尻(シリ)をさわる。
石田さんは驚いて、
「キャッ! またやった。スケベ爺い」
「なんだい、子供じゃあるめえし」
「ナニ言ってんスか! いい加減にしてくださいよ。警察呼びますよ」
「おお、呼んで来い。オマワリが怖くて団子が食えるかい!」
龍太郎は威勢の良い大家さんを見て、
「さすが、江戸っ子ですねえ」
「浅草の生まれよ」
「ごもっとも。すいませんねえ、忙しいところ」
大家さんは持参した脚立を開き、身軽に階段を上がり、屋根裏を覗く。
「おうッ! 暗くて見えねえぞ。何かねえのかい」
龍太郎はテーブルの上の懐中電灯を渡す。
「これどうぞ」
「良い物のあるじゃねえか。でッ、どこだい?」
「左の柱の下です」
「ヒダリ?・・・ああ、アレか。分かった。ちょっとその辺のナガモノ貸してみな」
「このカーテンレールなんかどうですか?」
「ダメだい、そんなんじゃ。おう、そこの壊れたモップの柄を取ってくれ」
「あッ、はい」
「よっしゃ! 待ってろ。今、取っちまうから。ウッ! チッ、しぶてえ野郎ダ。干乾びてひっ付いちまってるぜ。ヨイショット! おッ、取れた。よ~し、今 落とすぞ、どいてろよ! セーノ、アラヨット!」
干乾びたネコと、ネズミの糞、ハエのサナギが床に落ちて来る。
「キャ~ッ!」
静子は卒倒しそうな声を上げて事務所から飛び出て行く。
石田さんも「それ」を見て、
「すッげえ!」
騒がしい事務所を、杏子さんが覗きに来る。
「何やってんですか?」
石田さんは杏子さんをきつい目で見て
「オマエには関係ねえ。仕事しろ!」
杏子さんは『ネコのミィーラ』を見て、
「ウワ~ッ!」
売り場に飛んで行ってしまう。
大家さんは脚立をたたみながら、
「これで一件落着! 参っちゃうよな、こんな所でオッチンじゃいやがってよ。おうッ! これ、ダンボウルにでも入れて燃やっしまいな」
大家さんは干乾びたネコの死骸を石田さんの方に蹴飛ばす。
石田さんは卒倒しそうな声で、
「ギャーッ!」
石田さんもどこかへ、飛んで行ってしまう。
龍太郎は感心して、
「いや~あ、コンビニっていろんな事が起こりますねえ」
大家さんは龍太郎を見てニヤっと笑い一言。
「賑やかで良いじゃねえか」
つづく
男が龍太郎を見て、
「ああ、それから天井裏に人形みたいな物が置いてありますね」
「ニンギョウ?・・・誰が置いたんだろう。ねえ、石田サン」
石田さんはタバコの火を灰皿に押し付け、
「知りませんよ、そんな事。でも気持ちワリーっスね」
龍太郎は男を見て、
「こう云う古い家には、この「テ」の話はつき物ですよね」
「ハハハハ、そうですか? 」
二人はコーヒーを飲み干して、
「じゃッ、終わりましたんでこれで失礼します」
「あッ、帰ります? じゃッ、ご苦労さまでした」
派遣の男が、
「ウイッす」
二人は事務所を出て行く。
すると、通路から責任者の声が、
「オメー、脚立は」
「あッ、置きッパだ」
「オメー、ほ・ん・とう・に、大丈夫か? 」
賑やかな二人の『工事担当コンビ』であった。
龍太郎と石田さんが天井を見ている。
「都市伝説っスか?」
「トシデンセツ? ああ、ホラーね。・・・ちょっと見てみようか」
「そおっスね」
龍太郎がテーブルの上に乗り天井の蓋をそ~と開ける。
中を覗きながら、
「ほおー ・・・こんなふうになってるんだ」
「なんか見えますか?」
「暗くて良く見えないなあ。石田サン、机の一番下の引き出しに懐中電灯があるから取ってくれる」
石田さんが引き出しを開けて懐中電灯を取り出す。
「はい、どうぞ」
「サンキュー」
「どうっスか?」
「ええ?・・・うん。あッ! 有った。光ってるぞ」
「あのバイトのメガネのレンズじゃないっスか?」
「いや、違う。目だ! 目が光ってる。でも人形か?・・・あ~あッ!猫だ。ネコが干乾びて死んでいる」
「ネコ? 分かったッ! チュー功(ネズミ)にやられたんだ」
「ネズミに? うんなバカな」
「いや、アイツならヤリかねないっス。一匹、でっかいボスネズが居るんス」
「ボスネズ? 石田サン、店長呼んできてくれる」
「は~い」
暫くして静子と石田さんが事務所に来る。
静子が渋い顔でテーブルの上に立つ龍太郎を見て、
「何やってるの?」
龍太郎は静子を見て、
「マイッタたよ。屋根裏でネコが死んでんの。ッたく、なに考えてるんだろうなあ」
「ああッ! それだ。それであんなにハエが居たんだ」
「あ~あ、そうだったのか。店長、わるいけど隣りの大家サン呼んで来てくれる」
「分かった。でも、あのお爺さん居るかしら」
静子が事務所を出て行く。
石田さんはタバコを吹かしながら、
「・・・あのスケベジジイ」
龍太郎は天井に頭を入れながら、
「え? なんか言った」
「あの大家、人(シト)の尻(ケツ)をやたら触るんスよ」
龍太郎は下の石田さんを見て、
「何だい、それは?」
「この店の女の客、ほとんどが 触られてるんじゃないっスか」
「ハハハハ」
「店長も今頃、触られてますよ」
龍太郎は驚いて、
「え~え!」
暫くして、静子と大家さんが事務所に入って来る。
この大家さん、「典型的な江戸っ子」。
まるで『歌麿の絵』に出て来る奴(ヤッコ)の様な顔立ちである。
その大家さんが、
「あんだって、ネコが死ンでる? ど~ら、ちょっとドイテみな!」
大家さんは、さりげなく石田さんの尻(シリ)をさわる。
石田さんは驚いて、
「キャッ! またやった。スケベ爺い」
「なんだい、子供じゃあるめえし」
「ナニ言ってんスか! いい加減にしてくださいよ。警察呼びますよ」
「おお、呼んで来い。オマワリが怖くて団子が食えるかい!」
龍太郎は威勢の良い大家さんを見て、
「さすが、江戸っ子ですねえ」
「浅草の生まれよ」
「ごもっとも。すいませんねえ、忙しいところ」
大家さんは持参した脚立を開き、身軽に階段を上がり、屋根裏を覗く。
「おうッ! 暗くて見えねえぞ。何かねえのかい」
龍太郎はテーブルの上の懐中電灯を渡す。
「これどうぞ」
「良い物のあるじゃねえか。でッ、どこだい?」
「左の柱の下です」
「ヒダリ?・・・ああ、アレか。分かった。ちょっとその辺のナガモノ貸してみな」
「このカーテンレールなんかどうですか?」
「ダメだい、そんなんじゃ。おう、そこの壊れたモップの柄を取ってくれ」
「あッ、はい」
「よっしゃ! 待ってろ。今、取っちまうから。ウッ! チッ、しぶてえ野郎ダ。干乾びてひっ付いちまってるぜ。ヨイショット! おッ、取れた。よ~し、今 落とすぞ、どいてろよ! セーノ、アラヨット!」
干乾びたネコと、ネズミの糞、ハエのサナギが床に落ちて来る。
「キャ~ッ!」
静子は卒倒しそうな声を上げて事務所から飛び出て行く。
石田さんも「それ」を見て、
「すッげえ!」
騒がしい事務所を、杏子さんが覗きに来る。
「何やってんですか?」
石田さんは杏子さんをきつい目で見て
「オマエには関係ねえ。仕事しろ!」
杏子さんは『ネコのミィーラ』を見て、
「ウワ~ッ!」
売り場に飛んで行ってしまう。
大家さんは脚立をたたみながら、
「これで一件落着! 参っちゃうよな、こんな所でオッチンじゃいやがってよ。おうッ! これ、ダンボウルにでも入れて燃やっしまいな」
大家さんは干乾びたネコの死骸を石田さんの方に蹴飛ばす。
石田さんは卒倒しそうな声で、
「ギャーッ!」
石田さんもどこかへ、飛んで行ってしまう。
龍太郎は感心して、
「いや~あ、コンビニっていろんな事が起こりますねえ」
大家さんは龍太郎を見てニヤっと笑い一言。
「賑やかで良いじゃねえか」
つづく
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