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アスリートの人
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静子は不安であった。
有賀の件も一段落して、龍太郎はまた奇妙なアルバイトを採用した。
・・・「人間好き」にもほどが有る。
ダストボックスの上で『雉トラ猫』がのんびりと寝ている。
その日、龍太郎はドアーの貼り紙を指差し、
龍太郎「林クン、アレ、反応はあるの?」
林 「あ~、アレっすか? ハハハ。早朝、ランパン(ランニングパンツ)の黒いヤツが見てますよ」
龍太郎「ランパンの黒いヤツ?」
林 「そおッす。毎朝、アーケードん中、良い感じで走ってます」
龍太郎「良い感じで・・・」
林 「アイツ、東マラ(東京マラソン)にでも出るンじゃないすか?」
翌朝。
店内でランニングパンツの『黒豹の様な青年』が「ミネラルウォーター」を片手に立っていた。
龍太郎が出勤して来る。
林 「オーナー。アイツ、オーナーに用事が有るんですって。アレっすよ。募集の貼り紙見て走って行くヤツ」
龍太郎はその青年に下手くそな英語で、
龍太郎「Do you want to work ?(仕事を探しているの)」
青年「ハイ」
龍太郎「ワオ! ユー、日本語、喋れるの」
青年はニッコリ笑い、
青年「ハイ」
龍太郎「普段は何をしているの?」
青年「大学ニ行ッテマス」
龍太郎「ダイガク? 留学生?」
青年「ソウデス」
龍太郎「どこに住んでるの?」
青年「三ノ輪デス」
龍太郎「三ノ輪? 直ぐそこじゃないか。そこから走って来るの?」
青年「ソウデス」
龍太郎「毎朝?」
青年「ソウデス。浅草の周りを五周してます」
龍太郎「五周? ワ~オ、そうだったの。そのランニングのマークはOK大学かな?」
青年「ソウデス」
龍太郎「じゃ、働いてみるか?」
青年「本当デスカ? ヤッター!」
ガッツポーズをする黒い青年。
龍太郎「ただし、履歴書を書いて持って来なさい。あッ、それと身元保証人の欄は必ず書いてね。印鑑も押してもらって、その人の電話番号も忘れずに書いて来る事。後で確認するから」
青年「オーケー! アシタノ朝、持ッテ来マス」
青年は走って店を出て行く。
ダストボックスの上で『雉トラ』が異常に背が高い「黒い青年」を見ている。
石田が出勤して来る。
石田「おはようございま~す」
石田を見て林は退勤のため事務所に。
龍太郎が石田を見て、
龍太郎「おはよう」
石田「今、走って出て行った黒いヤツは何すか?」
龍太郎「あ~、バイトやりたいんだって」
石田は驚いて、
石田「バイト!? ウチの店で?」
龍太郎「貼り紙、見たんだって」
石田「ハリガミ? 雇うンすか?」
龍太郎「一応、オーケー出した」
石田「出した? 何者ッすか?」
龍太郎「留学生だ」
石田「何でランパンなンすか?」
龍太郎「走ってるんだって」
石田「あ~あ、アスリートすか」
静子が出勤して来る。
静子「おはようございま~す」
石田が静子に近づき、
石田「バイト決まったらしいすよ」
静子は驚いて、
静子「決まった?! どんな人?」
石田「背が高くて、アスリート」
静子「背が高くてアスリート? わー、早く見たいわ。ここのお店のイメージに合うかしら?」
翌朝、満面の笑みを湛えた、「青年」が店にやって来る。
歯の白さがやたら際立(キワダ)つ。
青年はカウンターの静子を見て、
青年「コンニチハ」
静子「いらっしゃいませ~」
石田が静子に近づき耳元に、
石田「あのヒトですよ」
静子はその青年の風体(フウテイ)を見て驚く。
『ランニングパンツに、OKマークがプリントされたランニングシャツ』
静子「あの~・・・どちら?」
青年「ボク、面接ニ来マシタ」
するとバックルームから龍太郎が出て来る。
龍太郎「ハ~イ。来たね。練習中だね?」
青年「ハイ。表通リハ アブナイ デスカラ」
龍太郎「ああ、それでこのアーケードを」
青年「ハイ。雨でも走れます」
龍太郎「そうだなあ」
青年「店長、履歴書持ッテ来マシタ」
龍太郎「オウ、ノウ。私ハ、オーナー。アソコノ女性ガ店長」
青年「ワ~オ、失礼シマシタ。オーナー」
青年は静子を見て片手を上げ、
青年「テンチヨウ、ハジメマシテ」
静子が振り向くと、青年は丁寧にオジギをする。
静子「?」
龍太郎「ハハハ。じゃ、事務所で面接でもしましょうか」
静子が、
静子「オーナー、ちょと!」
龍太郎「え?」
龍太郎が静子のそばに来る。
静子が小声で、
静子「あの人、黒人じゃない」
龍太郎「黒人じゃダメ?」
静子「いや、ダメって言う事はないけど・・・。合わないンじゃない?」
龍太郎「合わない?」
静子「この店に」
龍太郎「合うよ~。まず、面接だ」
二人は事務所に入って行く。
静子と石田は呆気に取られて二人を見ている。
林がレジカウンターの前を渋い笑いを浮かべて帰宅して行く。
林 「お疲れ様ッす」
龍太郎と青年が事務所で立って面接している。
身長の差が際立つ。
龍太郎が、
龍太郎「どら、履歴書を見せてごらん」
青年はウエストポーチから履歴書を取り出し、龍太郎に渡す。
龍太郎は履歴書を開く。
龍太郎「・・・モンサ・チンポ? チンポって云うの?」
ギンボ「チガイマス。ギンボ デス」
龍太郎「あ~あ、『モンサ・ギンボ』ね。ごめん、ごめん」
龍太郎は空いた椅子を指差し、
龍太郎「そこに座りなさい」
ギンボ「ハイ、・・・失礼シマス」
ギンボは日本語を流暢に使いこなす。
龍太郎は汚い日本語で書いてある履歴書を見て、
龍太郎「ええッ! ケニア? ケニアから来たの!」
ギンボ「ハイ」
龍太郎「実家は何をヤッテるの?」
ギンボ「ジッカ?」
龍太郎「あ~、ごめん、ごめん。ケニアでのギンボくんの家の仕事」
ギンボ「アア、酋長デス」
龍太郎「シユウチョウ?」
ギンボ「アッ、イエ、村長デス」
龍太郎「村長? ああ、政治を勉強しに日本に来たんだね」
ギンボ「違イマス。フランス デ スカウト サレマシタ」
龍太郎「フランス!? へ~・・・。で保証人は中野康介? 競輪か?」
ギンボ「イエ、監督デス」
龍太郎「ああ、マラソンの監督」
ギンボ「スカウト シテクレタ人デス」
龍太郎「凄いなあ~。それでOK大学に留学中か。四カ国語を喋れるの。フランス、スワヒリ、アラビア、日本語。うちの店にも東大や明治は居るけれど、それ以上だな。で、こういうアルバイト(仕事)やった事あるの?」
ギンボ「ケニア ノ 雑貨屋 デ 槍 ヤ ライフル コーヒー豆 ソレト・・・靴 ヲ 売ッテマシタ」
龍太郎「ヤリ? ライフル、クツ? ちょっとジャンルが違うな。ウチはパンやアイスだぞ」
石田がカウンターで静子に、
石田「二人、話、長いっスね」
静子「・・・」
龍太郎とギンボは事務所で、
龍太郎「で、いつから来れる?」
ギンボ「今日カラデモ大丈夫デス。夕方ナラ毎日デモOK」
龍太郎「そうか。それじゃあ、あとで、保証人に確認した後、君の携帯に電話する」
ギンボ「OK!」
ギンボが事務所を出て行く。
入れ替わりに静子が事務所に入って来る。
龍太郎を見て、
静子「だいじょぶなの、あの黒人」
龍太郎「だ・か・ら、コクジンって云う言い方は良くない! 差別用語だ」
静子「だって黒い人じゃない」
龍太郎「彼には『モンサ・ギンボ』と云う立派な名前がある。しかも、彼の実家はケニア。父親は酋長(シユウチョウ)だぞ。そんな偏見的な言い方は日本人の恥だ」
静子「シユウチョウ? ・・・まさか、雇うんじゃないでしょうね」
龍太郎「うん?・・・うん」
静子「うん? 有賀くんの件を忘れたの。あんな得体の知れない黒人、今度は麻薬の密売人かも知れないわよ」
龍太郎「そんな子ではない!この履歴書を見なさい」
龍太郎は『モンサ・ギンボの履歴書』を静子に渡す。
静子は履歴書を見て、
静子「・・・う~ん。OK大学・・・。で、こんな仕事出来るの?」
龍太郎「ケニアで雑貨屋のバイトをやってた。コンビニの様なモノだ」
静子「ザッカヤ? 何、売ってたの」
龍太郎「何って、住民に一番必要とされるモノだ」
静子「ナニ?」
龍太郎「うるさいなーあ。コーヒーとかクツだよ」
静子「本当? 猟銃とか槍じゃないの?」
龍太郎「・・・。店長、ケニアはコレから開発の中心国だ。草原にもコンビニは必要になる。彼はそれを学ぼうとして毎朝、街を観て走ってるんだ。店の周りに寝てる路上生活者。アレはサバンナの動物の様なものだ」
静子「? ソレこそ、差別じゃない」
龍太郎「うん? まあ、言い過ぎかな」
静子「アンタが選ぶアルバイトって変な人が多いから」
龍太郎「ヘンなヒト? 何を言ってるんだ君は。この街では私達が『ヘンな人』なんだぞ」
静子は呆れた顔で
静子「アンタあの頃の病気、まだ治ってない様ね。ここは東京でも指折りの労働者の街よ」
龍太郎「あの頃?」
静子「会長の金魚の糞!」
龍太郎はさっそく、身元保証人に確認を取る。
気合いの入った体育会系監督の声である。
中野「ハイ、中野ですッ! ギンボがアルバイト? ソレはどうかな~あ。彼は今、強化練習中なんですよ。一応、彼に聞いてみますけど、支障が無いと彼が言うのなら私には止められません。彼にとっても社会勉強ですしね。何しろ自由と挑戦を謳いますから。少し、オタクで鍛えてもらいましょうか」
龍太郎はギンボに電話をする。
龍太郎「ハーイ! チンポ? オーナーデス」
ギンボ「オーナーッ! コンニチワ。監督ニ レンラク トレマシタカ?」
龍太郎「取れたよ。キミと話し合うって」
ギンボ「監督ハ、練習ニ 支障ガナケレバ ヤッテ良イッテ」
龍太郎「OK!ヨカッタネ。カモ~ン」
ギンボ「ワーオ、ワオ! ワオ! ヤッター」
龍太郎「今日の夕方三時からバイト、オッケイ?」
ギンボ「モチロンデス! 軽ク ナガシテカラ 行キマス」
龍太郎「じゃあ、待ってる」
ギンボ「OK!」
つづく
有賀の件も一段落して、龍太郎はまた奇妙なアルバイトを採用した。
・・・「人間好き」にもほどが有る。
ダストボックスの上で『雉トラ猫』がのんびりと寝ている。
その日、龍太郎はドアーの貼り紙を指差し、
龍太郎「林クン、アレ、反応はあるの?」
林 「あ~、アレっすか? ハハハ。早朝、ランパン(ランニングパンツ)の黒いヤツが見てますよ」
龍太郎「ランパンの黒いヤツ?」
林 「そおッす。毎朝、アーケードん中、良い感じで走ってます」
龍太郎「良い感じで・・・」
林 「アイツ、東マラ(東京マラソン)にでも出るンじゃないすか?」
翌朝。
店内でランニングパンツの『黒豹の様な青年』が「ミネラルウォーター」を片手に立っていた。
龍太郎が出勤して来る。
林 「オーナー。アイツ、オーナーに用事が有るんですって。アレっすよ。募集の貼り紙見て走って行くヤツ」
龍太郎はその青年に下手くそな英語で、
龍太郎「Do you want to work ?(仕事を探しているの)」
青年「ハイ」
龍太郎「ワオ! ユー、日本語、喋れるの」
青年はニッコリ笑い、
青年「ハイ」
龍太郎「普段は何をしているの?」
青年「大学ニ行ッテマス」
龍太郎「ダイガク? 留学生?」
青年「ソウデス」
龍太郎「どこに住んでるの?」
青年「三ノ輪デス」
龍太郎「三ノ輪? 直ぐそこじゃないか。そこから走って来るの?」
青年「ソウデス」
龍太郎「毎朝?」
青年「ソウデス。浅草の周りを五周してます」
龍太郎「五周? ワ~オ、そうだったの。そのランニングのマークはOK大学かな?」
青年「ソウデス」
龍太郎「じゃ、働いてみるか?」
青年「本当デスカ? ヤッター!」
ガッツポーズをする黒い青年。
龍太郎「ただし、履歴書を書いて持って来なさい。あッ、それと身元保証人の欄は必ず書いてね。印鑑も押してもらって、その人の電話番号も忘れずに書いて来る事。後で確認するから」
青年「オーケー! アシタノ朝、持ッテ来マス」
青年は走って店を出て行く。
ダストボックスの上で『雉トラ』が異常に背が高い「黒い青年」を見ている。
石田が出勤して来る。
石田「おはようございま~す」
石田を見て林は退勤のため事務所に。
龍太郎が石田を見て、
龍太郎「おはよう」
石田「今、走って出て行った黒いヤツは何すか?」
龍太郎「あ~、バイトやりたいんだって」
石田は驚いて、
石田「バイト!? ウチの店で?」
龍太郎「貼り紙、見たんだって」
石田「ハリガミ? 雇うンすか?」
龍太郎「一応、オーケー出した」
石田「出した? 何者ッすか?」
龍太郎「留学生だ」
石田「何でランパンなンすか?」
龍太郎「走ってるんだって」
石田「あ~あ、アスリートすか」
静子が出勤して来る。
静子「おはようございま~す」
石田が静子に近づき、
石田「バイト決まったらしいすよ」
静子は驚いて、
静子「決まった?! どんな人?」
石田「背が高くて、アスリート」
静子「背が高くてアスリート? わー、早く見たいわ。ここのお店のイメージに合うかしら?」
翌朝、満面の笑みを湛えた、「青年」が店にやって来る。
歯の白さがやたら際立(キワダ)つ。
青年はカウンターの静子を見て、
青年「コンニチハ」
静子「いらっしゃいませ~」
石田が静子に近づき耳元に、
石田「あのヒトですよ」
静子はその青年の風体(フウテイ)を見て驚く。
『ランニングパンツに、OKマークがプリントされたランニングシャツ』
静子「あの~・・・どちら?」
青年「ボク、面接ニ来マシタ」
するとバックルームから龍太郎が出て来る。
龍太郎「ハ~イ。来たね。練習中だね?」
青年「ハイ。表通リハ アブナイ デスカラ」
龍太郎「ああ、それでこのアーケードを」
青年「ハイ。雨でも走れます」
龍太郎「そうだなあ」
青年「店長、履歴書持ッテ来マシタ」
龍太郎「オウ、ノウ。私ハ、オーナー。アソコノ女性ガ店長」
青年「ワ~オ、失礼シマシタ。オーナー」
青年は静子を見て片手を上げ、
青年「テンチヨウ、ハジメマシテ」
静子が振り向くと、青年は丁寧にオジギをする。
静子「?」
龍太郎「ハハハ。じゃ、事務所で面接でもしましょうか」
静子が、
静子「オーナー、ちょと!」
龍太郎「え?」
龍太郎が静子のそばに来る。
静子が小声で、
静子「あの人、黒人じゃない」
龍太郎「黒人じゃダメ?」
静子「いや、ダメって言う事はないけど・・・。合わないンじゃない?」
龍太郎「合わない?」
静子「この店に」
龍太郎「合うよ~。まず、面接だ」
二人は事務所に入って行く。
静子と石田は呆気に取られて二人を見ている。
林がレジカウンターの前を渋い笑いを浮かべて帰宅して行く。
林 「お疲れ様ッす」
龍太郎と青年が事務所で立って面接している。
身長の差が際立つ。
龍太郎が、
龍太郎「どら、履歴書を見せてごらん」
青年はウエストポーチから履歴書を取り出し、龍太郎に渡す。
龍太郎は履歴書を開く。
龍太郎「・・・モンサ・チンポ? チンポって云うの?」
ギンボ「チガイマス。ギンボ デス」
龍太郎「あ~あ、『モンサ・ギンボ』ね。ごめん、ごめん」
龍太郎は空いた椅子を指差し、
龍太郎「そこに座りなさい」
ギンボ「ハイ、・・・失礼シマス」
ギンボは日本語を流暢に使いこなす。
龍太郎は汚い日本語で書いてある履歴書を見て、
龍太郎「ええッ! ケニア? ケニアから来たの!」
ギンボ「ハイ」
龍太郎「実家は何をヤッテるの?」
ギンボ「ジッカ?」
龍太郎「あ~、ごめん、ごめん。ケニアでのギンボくんの家の仕事」
ギンボ「アア、酋長デス」
龍太郎「シユウチョウ?」
ギンボ「アッ、イエ、村長デス」
龍太郎「村長? ああ、政治を勉強しに日本に来たんだね」
ギンボ「違イマス。フランス デ スカウト サレマシタ」
龍太郎「フランス!? へ~・・・。で保証人は中野康介? 競輪か?」
ギンボ「イエ、監督デス」
龍太郎「ああ、マラソンの監督」
ギンボ「スカウト シテクレタ人デス」
龍太郎「凄いなあ~。それでOK大学に留学中か。四カ国語を喋れるの。フランス、スワヒリ、アラビア、日本語。うちの店にも東大や明治は居るけれど、それ以上だな。で、こういうアルバイト(仕事)やった事あるの?」
ギンボ「ケニア ノ 雑貨屋 デ 槍 ヤ ライフル コーヒー豆 ソレト・・・靴 ヲ 売ッテマシタ」
龍太郎「ヤリ? ライフル、クツ? ちょっとジャンルが違うな。ウチはパンやアイスだぞ」
石田がカウンターで静子に、
石田「二人、話、長いっスね」
静子「・・・」
龍太郎とギンボは事務所で、
龍太郎「で、いつから来れる?」
ギンボ「今日カラデモ大丈夫デス。夕方ナラ毎日デモOK」
龍太郎「そうか。それじゃあ、あとで、保証人に確認した後、君の携帯に電話する」
ギンボ「OK!」
ギンボが事務所を出て行く。
入れ替わりに静子が事務所に入って来る。
龍太郎を見て、
静子「だいじょぶなの、あの黒人」
龍太郎「だ・か・ら、コクジンって云う言い方は良くない! 差別用語だ」
静子「だって黒い人じゃない」
龍太郎「彼には『モンサ・ギンボ』と云う立派な名前がある。しかも、彼の実家はケニア。父親は酋長(シユウチョウ)だぞ。そんな偏見的な言い方は日本人の恥だ」
静子「シユウチョウ? ・・・まさか、雇うんじゃないでしょうね」
龍太郎「うん?・・・うん」
静子「うん? 有賀くんの件を忘れたの。あんな得体の知れない黒人、今度は麻薬の密売人かも知れないわよ」
龍太郎「そんな子ではない!この履歴書を見なさい」
龍太郎は『モンサ・ギンボの履歴書』を静子に渡す。
静子は履歴書を見て、
静子「・・・う~ん。OK大学・・・。で、こんな仕事出来るの?」
龍太郎「ケニアで雑貨屋のバイトをやってた。コンビニの様なモノだ」
静子「ザッカヤ? 何、売ってたの」
龍太郎「何って、住民に一番必要とされるモノだ」
静子「ナニ?」
龍太郎「うるさいなーあ。コーヒーとかクツだよ」
静子「本当? 猟銃とか槍じゃないの?」
龍太郎「・・・。店長、ケニアはコレから開発の中心国だ。草原にもコンビニは必要になる。彼はそれを学ぼうとして毎朝、街を観て走ってるんだ。店の周りに寝てる路上生活者。アレはサバンナの動物の様なものだ」
静子「? ソレこそ、差別じゃない」
龍太郎「うん? まあ、言い過ぎかな」
静子「アンタが選ぶアルバイトって変な人が多いから」
龍太郎「ヘンなヒト? 何を言ってるんだ君は。この街では私達が『ヘンな人』なんだぞ」
静子は呆れた顔で
静子「アンタあの頃の病気、まだ治ってない様ね。ここは東京でも指折りの労働者の街よ」
龍太郎「あの頃?」
静子「会長の金魚の糞!」
龍太郎はさっそく、身元保証人に確認を取る。
気合いの入った体育会系監督の声である。
中野「ハイ、中野ですッ! ギンボがアルバイト? ソレはどうかな~あ。彼は今、強化練習中なんですよ。一応、彼に聞いてみますけど、支障が無いと彼が言うのなら私には止められません。彼にとっても社会勉強ですしね。何しろ自由と挑戦を謳いますから。少し、オタクで鍛えてもらいましょうか」
龍太郎はギンボに電話をする。
龍太郎「ハーイ! チンポ? オーナーデス」
ギンボ「オーナーッ! コンニチワ。監督ニ レンラク トレマシタカ?」
龍太郎「取れたよ。キミと話し合うって」
ギンボ「監督ハ、練習ニ 支障ガナケレバ ヤッテ良イッテ」
龍太郎「OK!ヨカッタネ。カモ~ン」
ギンボ「ワーオ、ワオ! ワオ! ヤッター」
龍太郎「今日の夕方三時からバイト、オッケイ?」
ギンボ「モチロンデス! 軽ク ナガシテカラ 行キマス」
龍太郎「じゃあ、待ってる」
ギンボ「OK!」
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