人間観察記『ドヤの店』

具流次郎

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ケニアの人

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 夕方の三時。

店の周り(サバンナ)に、六~七人の路上生活者達(プー太郎)が酒を飲んで騒いでいる。

そこに長身の黒い青年(モンサ・ギンボ)が、ランニングパンツで、走って店に入って行く。
プー太郎達は呆気に取られ見ている。

ドアーチャイムが鳴り、ギンボが白い歯を見せてレジカウンターの前に立つ。

 ギンボ「キマシタ!」

静子と石田は目が点。

 二人「え? え? え~!」
 ギンボ「ギンボ デス。ヨロシク!」
 石田「チンボ? 」
 ギンボ「チガイマス。ギンボ、『ギ・ン・ボ』デス」

ギンボが事務所に入って行く。

 石田「?、店長、あの男、ウチの店で?」
 静子「働くみたいよ」
 石田「ハタラク? マジっスか!」

 龍太郎とギンボが事務所でダンボール箱を開け、『ユニホーム』を探している。

 龍太郎「ちょっと、これを着てみな」

ギンボが着替える。

 ギンボ「オーナー、小サイデス」

龍太郎が遠目でギンボを見て、

 龍太郎「・・・そうだなあ。じゃ、これは?」
 ギンボ「小サイ!」
 龍太郎「困ったなあ~、腕が合わない。そうだ。半袖だッ!」

龍太郎はロッカーの上の「半袖」と書いてあるダンボール箱を下ろす。

 龍太郎「え~と、四Lだよなあ・・・。あ、有った。これ、着てみ?」

ギンボは半袖のユニホームに腕を通す。

 ギンボ「・・・ワオ! ジャストフィット」

その場で一回転するギンボ。
龍太郎はそれを見て、

 龍太郎「おお! 黒い肌に縞模様。合うね~。格好良いじゃん。決まった! ただ下だな。下が『ジョギパン』じゃダメし・・・」
 ギンボ「パンツは持って来ました」
 龍太郎「来た? ソレは良かった」

ジャージのパンツである。
ランニングパンツの上からジャージパンツを履くギンボ。
龍太郎は形(カタチ)が成ったモンサを見て、

 龍太郎「オー、良いじゃない。何かアフリカのコンビニみたいだな」

龍太郎は冗談で、

 龍太郎「ギンボ、ケニアのダンス踊ってみな」
 ギンボ「ダンス? オーケー」

ギンボがピョンピョンと踊り始める。

石田がカウンターから事務所を覗いて、

 石田「店長。アイツ、跳ねてますよ」

静子は驚いて、

 静子「え~ッ! 面接じゃないの?」

暫くして、半袖のユニホームに着替えたギンボが、売り場に出て来る。
後を追うように龍太郎が。

 龍太郎「石田サン、紹介しょう。モンサ・ギンボくんだ」
 石田「えッ! あ、ああ・・・」
 龍太郎「それから、隣に居るのがマイ ワイフ」

モンサは静子を見て、

 ギンボ「ワオ! キレイ デスネ」

静子は大きく咳払いをして、呆れた顔でカウンターを出て行く。
売り場で品揃えを始める静子。
石田の傍に近寄るギンボ。
ギンボと石田の『身長の差』があまりにも眩(マブ)しい。

 ギンボ「高校生?」

石田はムッとした顔で、

 石田「オトナです!」
 ギンボ「オトナ? 可愛イネ」

石田がギンボをキツイ目で睨む。

すると、店にあの恍惚の老婆が入って来る。
奥の売り場から静子が、

 静子「いらっしゃいませ~」

恍惚の老婆はカウンターの半袖のギンボを見るやいなや、店を出て行ってしまう。

数人の悪ガキが店に入って来る。

 石田「いらっしゃいませ~」

悪ガキはカウンターの前を通り過ぎる。
ふと立ち止りギンボを見る。
ガキAが、

 ガキA「ビックリした。黒人じゃん」

ギンボは腕を後ろに組み、上から目線で、

 ギンボ「イラッシャイマセ!」

するとガキBがギンボを見て、

 ガキB「いらっしゃいました~」
 ギンボ「ワオ、ツメタイ『アイス』 ハ イカガデスカ?」
 ガキ達「?」

競馬新聞を買いに来た客に、

 ギンボ「ヤキタテ ノ『パン』ヲ ドーゾ」

客はカウンターの前の新聞挿しを見て、

 客 「あれ? まだ来てないの」
 ギンボ「何ガデスカ?」
 客 「?・・・」

客は何も言わずに店を出て行ってしまう。
茶髪の悪ガキ達が数人、店に入って来る。
ギンボは軽く右手を挙げ、

 ギンボ「ハ~イ、オイシイ『カラアゲ』アリマスヨ」

ガキ達は、

 「?・!・?」

ギンボを見た途端、直ぐにUターンして店を出て行ってしまう。
外で悪ガキ達が集まり、ギンボを指差し話し合っている。

杏子と弘美が売り場に出て来る。
異常に背が高いギンボが売り場内をふらついている。
弘美がレジカウンターに入り静子に、

 弘美「おはようございま~す」
 静子「おはよう。勉強してる?」
 弘美「ハイ」

杏子はカウンターの前を通り過ぎながら、

 杏子「おはようございまーす」
 静子「はい、おはよう。今日も頑張りましょう」
 杏子「は~い」

静子は杏子の服装を見て、

 静子「杏子サン、名札が曲(マガ)がってるッ!」
 杏子「あッ、すいません」
 静子「ちょっと杏子サンも来て。新人サンを紹介するから」
 杏子「は~い」

杏子がカウンターに入って来る。
静子が、

 静子「ギンボ! 来てー」
 ギンボ「ハ~イ」

弘美と杏子が顔を見合わせ、

 二人「チンボ?」

ギンボがカウンターの中に入って来る。

 静子「今日からここで働いてもらうアルバイトのモンサ・ギンボくんです。で、こちらが杏子サンにこちらが弘美サン」

杏子は上目づかいでギンボを見て、

 杏子「・・・どこの国の人ですか?」
 ギンボ「ケニア デス」

ギンボは二人を見て、

 ギンボ「高校生デスカ?」

杏子は消極的に、

 杏子「あ、イエスッ!」
 ギンボ「ワオ、可愛イー 」

弘美は何か聞かれる事を恐れ、急いで雑誌コーナーに逃げて行く。
杏子も徐々にギンボから離れて行く。
弘美は雑誌を整理しながら、カウンター内の二人の会話を聞いている。

 静子「杏子サン、いろいろ教えてあげてね」
 杏子「え!? あ、はい」

杏子はおでん鍋の前で俯いて居る。
弘美が雑誌を持ってカウンターの前に来る。

 弘美「店長、チャンピオンの表紙、破(ヤブ)けてます」
 静子「ええ! また~、ッたくー」

ギンボが弘美を見る。
弘美は急いで離れる。

 ギンボ「高校生デスカ?」
 弘美「チンボさんは学生ですか?」
 ギンボ「チンボ デハアリマセン。ギ・ン・ボ デス」
 弘美「あ、すいません。ギンボさん」
 ギンボ「ボクハ、大学生デス。大学 デ 『マラソン ト コンビニ』ノベンキョウ ヲ シテマス」
 弘美「えッ! アスリートなんですか?」
 ギンボ「箱根駅伝 ノ レギュラー デス」

静子が驚いて、

 静子「え~ッ! そうなの」

 そこにドアーチャイムが鳴り続け、外に居た悪ガキ達が店に入って来る。
杏子は渋い顔で悪ガキ達を見て、

 杏子「いらっしゃいませ~」

ギンボも、

 ギンボ「ラッシャイマセ~。ヤッパリ カラアゲ カイニ キタネ」

全員がレジカウンターの前に立ち止まりギンボを見る。
帰り支度を終え、売り場を通り過ぎる石田。
石田がカウンターの前に立ち尽くす一人の悪ガキの肩にぶつかる。

 ガキC「イテッ!」
 石田「ボーっとつッ立ッてんじゃねえよ。邪魔だ。ボケッ!」

石田の「迫力の啖呵」に驚き、

 ガキC「あ、すいません!」

悪ガキ達は通りを開ける。
静子、杏子、弘美は石田の迫力に目が点。
ギンボは石田の帰る背中に、

 ギンボ「オツカレサマデス、ボス!」
 石田「おう、頑張れよ。チンボ!」

悪ガキ達は石田の最後の一言に、

 ガキ達「チッ、チンボ~!?」

カウンター内のギンボが悪ガキの一人を見て、

 ギンボ「シヨウガクセイ?」

悪ガキAはムカついた顔でギンボを見上げて、

 ガキA「お・と・な・ッ!」
 ギンボ「オトナ? 小サイネエ」

悪ガキ達は黙って売り場の奥へ行く。
龍太郎がバックルームから出て来る。
悪ガキの傍にそっと近寄り、

 龍太郎「いらっしゃい。マ、セ~ッ!」

悪ガキは驚いて、

 ガキ達「ビックリしたー!」
 龍太郎「何もビックリする事はねえだろう。それとも・・・」
 ガキD(少女)「何でアタシ達の事を疑うんですか?」
  ガキB「お客だぞ」
 龍太郎「おお、チャント金払えばな」
 ガキB「・・・さっきあの黒いヤツ、踊ってたぞ」
 龍太郎「踊ってた?! あ~、アレはトレーニングと言うのだ」
 ガキA「トレーニング?! ・・・オーナー、バイトやらせてよ」
 龍太郎「ダメだ! フラフラして騒いでるヤツはウチの店では働けない。ジャマだ! 買わないなら出て行け」
 ガキC「クソジジイ」
 龍太郎「何か言ったか?」
 ガキA「分かったよ」

悪ガキ達が店を出て行く。

 店の外で、一人の悪ガキがギンボを見て『ストリートダンス』を始める。
ギンボはソレを見てポケットに両手を突っ込みカウンター内で飛び跳ねる。
キッズ達はそれを見てギンボに「V」サインを送る。
ギンボはポケットから両手を出して、両親指を横に立てガッツで踊る。
杏子がそれを見て、

 杏子「カッコイ~!」

弘美はギンボを見て親指を立てて真似をする。

 龍太郎が店の外があまりにも騒がしいので、外に出て行く。

 龍太郎「何してるッ! カエレ」

悪ガキAがカウンターのギンボを指差す。
龍太郎が店内を見るとギンボがカウンター内でピョンピョンと跳ねている。
龍太郎は急いで店内に戻り、

 龍太郎「ユー、ダメッ! トレーニング ノウ」
 ギンボ「オウ、スイマセン」
 龍太郎「ここは大学じゃないんだ。カウンター内でトレーニングは絶対ダメッ!」
 ギンボ「分リマシタ。オーナー、オコラナイデ クダサイ」

龍太郎はまた店から出て、

 龍太郎「邪魔だ! 公共の道路をこんなに汚して・・・掃除して行けッ!」
 悪ガキA「モモチさん、バイト~」
 龍太郎「ダメ! 絶対に、ダメーッ!」

 ダストボックスの上で『雉トラ』が悪ガキ達を見ている。
                つづく
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