人間観察記『ドヤの店』

具流次郎

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裸尻の人

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 この日ぐらい『衝撃的な日』はなかった。

夏の暑い朝。
具流氏がブックコーナーで立ち読みしてるいる。

ドアーチャイム鳴り常連の「飯田さん」が店に入って来る。
と、カウンターの前に来て小声で、

 飯田「店長、そこの空き地で人が死んでるみたい。イヤーね~」

静子は驚いて、

 静子「ええ! 死んでる?」

客の一人が、

 客 「ああ、公園の隣の空き地でしょう。あのシト、死ンでんの?」

石田が、

 石田「ヤベ! またかよ。見て来ます」

石田は走って店を出て行く。
龍太郎が発注を終えて事務所から出て来る。

 龍太郎「いらっしゃいませ~」

静子は龍太郎に小声で、

 静子「人が死んでるみたいよ」

龍太郎は驚いて、

 龍太郎「死んでる!?」

石田が息を切らせ店に戻って来る。

 石田「店長! 死んでます。下半身ハダカで」

静子は驚いて、

 静子「カハンシン、ハダカ!?」
 石田「暑いからじゃないスか?」
 静子「そんな・・・。オーナー、警察に連絡した方が良いんじゃない」
 龍太郎「そうだな。僕もちょっと見て来くる。どこ?」
 石田「公園の隣の空き地っス」
 龍太郎「ヨシッ! ちょっと行って来る」

静子は龍太郎を見て、

 静子「直ぐに帰って来てよ。忙しいんだから」
 龍太郎「分ってるよ」

店を出て行く龍太郎。
暫くして龍太郎が戻って来る。
龍太郎は石田に、

 龍太郎「公園の隣の空き地だよねえ。・・・誰も居ないぞ」
 石田「居ない? どッかに行ったんじゃないスか」
 龍太郎「死人がか? ンなバカな、寝てたんじゃないの」
 石田「あんな草ン中で寝てる人なんていないっスよ」
 龍太郎「じゃー、どうしたんだ?」
 石田「知らないっスよ」

と、何気なく外を見る龍太郎。
店の前をのんびりと白い自転車が通り過ぎて行く。
下谷署の「安倍巡査長」である。
その後を、トボトボと一人の男が付いて行く。
この店の周囲の環境からすると、ごく自然な光景である。
龍太郎は目を逸ソらそうとした瞬間、視線が固まってしまう。
男の上半身は垢アカで汚れた肌着一枚。
下半身は「無垢(ムク)で裸足」である。
龍太郎が思わず、

 龍太郎「あ~!」

飯田さんが龍太郎の傍に来て、

 飯田「あの人じゃない、空き地で死んでた人って」

静子と石田が龍太郎の視線を辿(タド)って行く。
石田が驚いて、

 石田「ええ~、マジ!」

静子は急いで視線を逸らす。
客が、

 客 「あの人ですよ。やっぱり寝てたんだ」

静子が、

 客 「でも、良かったじゃないですか。生きてて」

飯田さんは通り過ぎる男を見ながら、

 飯田「そうよね~」

・・・すると通り過ぎた白い自転車が、いつの間にか店の前に戻って居る。
自転車のスタンドを下げるげる音が。
安倍巡査長が店の前で男と何か話している。
暫くすると男が店に入って来る。

 具流氏は急いで店を出て行く。

客達は蜘蛛の子を散らした様に出て行ってしまう。
安倍巡査長が、

 巡査長「店長! すいませんね~。何か欲しい物が有るらしいんですよ」

静子は巡査長の問い掛けを無視して、そそくさと事務所へ消えて行く。
石田も売り場の奥へ。
巡査長は男に距離を置き、背中に向かって、

 巡査長「迷惑は掛けるなよ」

男は無言で売り場の中を徘徊する。
下半身の裸尻が、龍太郎の目の前を通り過ぎって行く。
売り場の奥で逃げ遅れた客の悲鳴が聞こえる。

 声 「キャ~!」

安倍巡査長の声が、

 巡査長「ほら、迷惑を掛けるなあ~」

男はドリンクコーナーの前で来ると固まってしまう。

 巡査長「うん? 欲しいのか? これか?」

巡査長が「オロナミンC」を取る。
男は無視して、「ウーロン茶」を手に取る。

 巡査長「ああ、それか。じゃあ、それを買って帰ろう」

男はウーロン茶を持ってレジカウンターに来る。
龍太郎が、

 龍太郎「いらっしゃいませ~」

安倍巡査長は男性と距離を置き笑いながら、

 巡査長「店長、すいませんねえ。それを一つ」

制服のポケットから小さなガマグチを取り出して、小銭をカウンターの上に置く。

 龍太郎「ありがとうござおます。大変ですねえ~」

安倍巡査長が、

 巡査長「いや~仕事ですから。さッ、もう帰ろう」

男はウーロン茶のペットボトルを持って店を出て行く。
巡査長が後を追って白い自転車にまたがる。
と、また男と何か話している。
暫くすると男が、店の入り口の柱に寄り掛かり、カウンターの龍太郎を見ている。
安倍巡査長が、

 巡査長「おい、行こう。もう良いだろう。あまり迷惑掛けるな」

すると、男はウーロン茶を飲み始める。
そして龍太郎に裸尻を向け、お茶の缶を床に置き、入り口に横たわる。
安倍巡査長が一瞬、焦って、

 巡査長「あ、おい、コラッ! 立て、何をしている」

客の一人が店を出ようと試みるが、臭さと気持ち悪さで男性をまたぐ勇気が出ない。
巡査長が、堪忍袋の緒が切れる。

 巡査長「おいッ! 営業妨害だぞ。立てッ!」

巡査長の怒鳴り声を無視して「寝たふり」をする男。
安倍巡査長は汚いものでも触るかのように警棒で男性の尻を突く。

 音 「ピシッ!」

男は抵抗するかのように寝返りをうつ。
安倍巡査長が革靴の先で男性の尻をこずく。
男はこれにも抵抗するかのように、寝たまま汚れた上半身の肌着を脱ぎ捨てる。
素っ裸で、母の胎内に居るような形で丸くなる男。
安倍巡査長が、

 巡査長「コイツ! こら、いい加減にせんか! 抵抗するな。立てッ!」

男は返事をするかのように放屁(オナラ)をする。

 巡査長「あ! キサマ、本官をバカにしたな。こら、立てッ!」

安倍巡査長はキレル。
巡査長は警棒で男性の尻を更に強く叩く。
丸裸の男は諦アキラめたのか、ようやく立ち上がる。
巡査長はカウンターの龍太郎と静子に軽く敬礼して、

 巡査長「失礼しました。・・・さあ、行くぞ」

安倍巡査長は白い自転車にまたがり、丸裸の男と共に消えて行く。
が、数分してまた、白い自転車と丸裸の男が店の前を行ったり来たり。

 ダストボックスの上で『雉トラ猫』が裸の男を見て居る

飯田さんが、

 飯田「暑くなると裸が一番かもねえ~。イヤーね~」

龍太郎と静子は開いた口が塞がらない。
                つづく
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