7 / 50
看護婦長『畑 千尋』
しおりを挟む
畑 婦長が『102号室』で、周明氏に「入院中の規則」を説明している。
周明氏の担当医(西丸医師)が入って来る。
「いやいや、大川さん。良い部屋でしょう。気に入ってもらえたかな」
周明氏は西丸医師の脚を見て、
「? 杖はどうしました?」
「ああ、あれはヨソ行きだ」
「ヨソ行き? 西丸先生は脚を撃たれたんじゃなかったのですか?」
西丸医師は驚いて、
「撃たれた? 何故そんな事を知ってる」
「え? いや、・・・」
西丸医師は周明氏を鋭い眼で見詰める。
「まあ、良い。これはな、・・・実は撃ったんだ」
「撃った?」
「撃たれる前に撃った。あんな戦争で命なんか捨てられるか。私は最後の一発で生き延びたんだ。あんたインパールって知ってるか?」
周明氏は憮然と、
「勿論」
「ハハハ、それは失敬。怒るな。血圧が上がるぞ」
西丸医師は話をそらす。
「ところで、アンタは俘虜だったらしいが?」
「違います!」
「違う? 民間人が気が狂(フ)れたとも思えんがね」
畑 婦長が二人の話を割って、
「大川さんは戦犯です」
「戦犯!? ほ~う。で、沢山ヤッ(殺す)たのか」
「私は、人は殺していません」
「まあ良い。ヤラなければヤラれる。それも味方にな。それでも戦犯だ。まさに前門の虎、後門の狼とはこの事だ。ハハハ」
西丸医師は戦争をバカにした笑いをする。
「西丸先生は赤月毘法と云う方をご存知ですか?」
「赤月?・・・おお、知っている。アイツも戦犯になったのか」
「いや、ここに来る前に診てもらった医師です」
「? どこで」
「東大病院」
「東大病院? アイツ、そんな所に紛れ込んだのか。よく生き延びてるな。『731』に居たくせに」
「ナナ・サン・イチ?」
「いや、何でもない。しかしアンタは随分特別待遇だな。僕はどのように治療したら良いのか分らないぞ」
「院長からは定時の体操と入浴、減塩と滋養物の摂取を勧められております」
西丸医師は周明氏を見て、
「アンタ、脳病か?」
「高血圧疾患なので安静が必要なのです。西丸先生、あまり大川さんを刺激しないようにお願いします」
西丸医師は周明氏をまじまじと見て、
「コウケツアツ?」
つづく
周明氏の担当医(西丸医師)が入って来る。
「いやいや、大川さん。良い部屋でしょう。気に入ってもらえたかな」
周明氏は西丸医師の脚を見て、
「? 杖はどうしました?」
「ああ、あれはヨソ行きだ」
「ヨソ行き? 西丸先生は脚を撃たれたんじゃなかったのですか?」
西丸医師は驚いて、
「撃たれた? 何故そんな事を知ってる」
「え? いや、・・・」
西丸医師は周明氏を鋭い眼で見詰める。
「まあ、良い。これはな、・・・実は撃ったんだ」
「撃った?」
「撃たれる前に撃った。あんな戦争で命なんか捨てられるか。私は最後の一発で生き延びたんだ。あんたインパールって知ってるか?」
周明氏は憮然と、
「勿論」
「ハハハ、それは失敬。怒るな。血圧が上がるぞ」
西丸医師は話をそらす。
「ところで、アンタは俘虜だったらしいが?」
「違います!」
「違う? 民間人が気が狂(フ)れたとも思えんがね」
畑 婦長が二人の話を割って、
「大川さんは戦犯です」
「戦犯!? ほ~う。で、沢山ヤッ(殺す)たのか」
「私は、人は殺していません」
「まあ良い。ヤラなければヤラれる。それも味方にな。それでも戦犯だ。まさに前門の虎、後門の狼とはこの事だ。ハハハ」
西丸医師は戦争をバカにした笑いをする。
「西丸先生は赤月毘法と云う方をご存知ですか?」
「赤月?・・・おお、知っている。アイツも戦犯になったのか」
「いや、ここに来る前に診てもらった医師です」
「? どこで」
「東大病院」
「東大病院? アイツ、そんな所に紛れ込んだのか。よく生き延びてるな。『731』に居たくせに」
「ナナ・サン・イチ?」
「いや、何でもない。しかしアンタは随分特別待遇だな。僕はどのように治療したら良いのか分らないぞ」
「院長からは定時の体操と入浴、減塩と滋養物の摂取を勧められております」
西丸医師は周明氏を見て、
「アンタ、脳病か?」
「高血圧疾患なので安静が必要なのです。西丸先生、あまり大川さんを刺激しないようにお願いします」
西丸医師は周明氏をまじまじと見て、
「コウケツアツ?」
つづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる