幽 閉(大川周明)

具流次郎

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看護婦長『畑 千尋』

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 畑 婦長が『102号室』で、周明氏に「入院中の規則」を説明している。
周明氏の担当医(西丸医師)が入って来る。

 「いやいや、大川さん。良い部屋でしょう。気に入ってもらえたかな」

周明氏は西丸医師の脚を見て、

 「? 杖はどうしました?」
 「ああ、あれはヨソ行きだ」
 「ヨソ行き? 西丸先生は脚を撃たれたんじゃなかったのですか?」

西丸医師は驚いて、

 「撃たれた? 何故そんな事を知ってる」
 「え? いや、・・・」

西丸医師は周明氏を鋭い眼で見詰める。

 「まあ、良い。これはな、・・・実は撃ったんだ」
 「撃った?」
 「撃たれる前に撃った。あんな戦争で命なんか捨てられるか。私は最後の一発で生き延びたんだ。あんたインパールって知ってるか?」

周明氏は憮然と、

 「勿論」
 「ハハハ、それは失敬。怒るな。血圧が上がるぞ」

西丸医師は話をそらす。

 「ところで、アンタは俘虜だったらしいが?」
 「違います!」
 「違う? 民間人が気が狂(フ)れたとも思えんがね」

畑 婦長が二人の話を割って、

 「大川さんは戦犯です」
 「戦犯!? ほ~う。で、沢山ヤッ(殺す)たのか」
 「私は、人は殺していません」
 「まあ良い。ヤラなければヤラれる。それも味方にな。それでも戦犯だ。まさに前門の虎、後門の狼とはこの事だ。ハハハ」

西丸医師は戦争をバカにした笑いをする。

 「西丸先生は赤月毘法と云う方をご存知ですか?」
 「赤月?・・・おお、知っている。アイツも戦犯になったのか」
 「いや、ここに来る前に診てもらった医師です」
 「? どこで」
 「東大病院」
 「東大病院? アイツ、そんな所に紛れ込んだのか。よく生き延びてるな。『731』に居たくせに」
 「ナナ・サン・イチ?」
 「いや、何でもない。しかしアンタは随分特別待遇だな。僕はどのように治療したら良いのか分らないぞ」
 「院長からは定時の体操と入浴、減塩と滋養物の摂取を勧められております」

西丸医師は周明氏を見て、

 「アンタ、脳病か?」
 「高血圧疾患なので安静が必要なのです。西丸先生、あまり大川さんを刺激しないようにお願いします」

西丸医師は周明氏をまじまじと見て、

 「コウケツアツ?」
                つづく
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