幽 閉(大川周明)

具流次郎

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いざ、出陣!

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 7月7日11時25分。
松澤病院から「奇妙な男達」が徐々に雑貨屋の前に集まって来る。
肥田春充が雑貨屋のポストの前のベンチに座り、男達に目配りをする。
堀田善衛、杉浦誠一、岡田 滋、首藤操六、大川周明氏。
一人づつ雑貨屋に入って行く。
肥田がベンチから立ち、鍋(ナベ)を見ている周明氏に近づく。
周明氏の耳元で、

 「・・・山田さんは」
 「・・・良い鍋(ナベ)だ・・・」
 「・・・そうですねえ・・・」

周明はボソッと、

 「朝倉と何か話しをしている」

 11時30分。
周明氏が雑貨屋から「通り」に出て来る。
雑貨屋から少し離れた所に米軍の軍用トラックが停まる。
ドアーのウインドーをおろし、元気よく村瀬巡査が顔を出す。

 「先生ッ! 迎えに来ましたッ!」

周明氏は右手を軽く上げトラックに近づく。
周明氏は村瀬を見て、

 「・・・ご苦労さまです」

周明氏は雑貨屋から顔を出した肥田を見て、眼で合図する。
肥田が軍用トラックの荷台の幌を上げて、堀田達に手招きする。
堀田、杉浦、岡田、首藤、の四人が店から出て、急いでトラックの荷台に乗る。
肥田が周囲を確認し、荷台に飛び乗る。
周明氏は五人が乗った事を確認、運転席の村瀬に近付く。

 「村瀬さん、少し待ってくれないか。一人遅れている」
 「勘弁してくださいよ。この車、30分しか借りてないんですからね」

すると山田が通りを走って来る。

 「待ってーッ! ゴメンナサ~イ」

肥田が荷台の幌(ホロ)をそっと開き、

 「おいッ! 早くしろ。何をしている」
 「ごめんなさ~い」

山田は急いでトラックにの荷台に飛び乗る。
周明氏はそれを確認し村瀬を見て、

 「全員揃った。お願いします!」

周明氏が急いで助手席に乗る。

 「ヨッシャッ!」

村瀬が軍用トラックのシフトレバーを二速に入れゆっくりと走りだす。
周明氏はトラックの助手席から村瀬を見て、

 「今から計画を実行に移します。大丈夫ですね」

村瀬は元気良く、

 「イエッサーッ! 任しといてください。アメ功の野郎、一発カマシテやる」

周明氏はハンドルを握る村瀬に七人の役割表を渡す。
村瀬が運転をしながら片手で役割表を見る。
村瀬はほくそ笑(エ)んで、

 「うん。・・・バッチリだ。こないだ、電話で先生に言われた通り、衣裳の方は伝えて有ります。これで衣裳に着替えれば本物よりホンモノだ」
 「本物よりホンモノ?」
 「誰が見ても判らないって事ですよ」
 「・・・で、日劇の方はだいじょぶでだろうね」
 「オーライッ! だいじょぶ。川口ってヤツでね、日劇の衣裳部で主任をやってます。ビルマの戦友ですよ。何でも言って下さい。ヤツも下町の空襲でカミサンを亡くしてましてね。今はシングルフアァザーです。アメ功には人一倍恨みは強い」
 「シングルファザー?」
 「男寡婦(オトコヤモメ)ッ! 子供が五人居るんですよ」
 「五人もッ! そりゃあ大変だ」
 「豆(マメ)な男だから出来るんですよ」

 村瀬は胸ポケットから小さく畳んだメモ紙を出し、周明氏に渡す。

 「はい、これ。GHQの場所と見取り図」

周明氏はメモ紙を受け取り、開いてジッと見る。

 「・・・第一生命・・・日劇・・・なるほどこの赤マルがマッカーサーの部屋か・・・」
 「そうです。それと、本部の正門の衛視は、11時50分にランチタイムで交代します。昼の衛視はジミーってヤツで融通の利かないトロイ男でから」
 「融通の利かない? ・・・だいじょぶだろうね」
 「だいじょぶ。先生達七人の通行許可証は川口に渡してあります。ジミーは許可証オンリーですから」
                つづく
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