幽 閉(大川周明)

具流次郎

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日劇衣装室より出陣!

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 数着の衣裳がハンガーに掛っている。
ハンガーには、各「役割の札」が下がっている。

 「時間が無いから急いでッ! え~と、杉浦さんはどなた・・・?」
 「はい! 僕です」
 「あッ、アナタね」

川口は杉浦を舐めるように見る。

 「アナタは・・・画家(杉浦誠一)ね。はい、これッ! 着て見て」

杉浦は急いで着替える。

 「それと、首藤さんは?」

首藤は妙に気合の入った返事で、

 「ハイッ!」
 「首藤さんは、・・・これね。帝大の教授(首藤操六)。品良く着てちょうだい。学者サンなんですから」
 「ハイッ!」
 「その軍隊調の返事はやめてちょうだい。アナタ、教授よ」
 「あッ、ハイ・・・」
 「早く着替えてちょうだい」

首藤が急いで着替える。

 「岡田さん?」
 「俺だッ!」
 「オレ?」

川口は岡田を睨む。

 「俺はやめてちょうだい。服屋さんなんだから。え~と、岡田さんはテーラー(岡田 滋)の役。はい、これ」
 「これ? これが、・・・俺?」
 「そう。良いから早く着替えてッ!」

岡田は渋々着替える。

 「肥田さんは?」
 「あッ、私だ」

川口はチラッと肥田を見て、

 「素敵な体格ね・・・。はい、これ。運送屋(肥田春充)さん」
 「家具屋じゃないのか?」
 「運ぶんでしょう」
 「うん? ・・・まあ」
 「早くしなさい。次、堀田さん」
 「急いで下さい。時間が無いですよ」

川口が怒って、

 「うるさいわね。分ってるわよ。堀田くんはプレス(堀田善衛)。毎朝新聞の記者ッ! これ、着てみて」

堀田は急いで着替える。
川口が着替えた堀田の姿を見て。

 「ワ~、アナタが一番似合うわ。素敵ッ!」
川口は熱い視線を堀田を見る。
山田を見て川口が、

 「え~と、次はー・・・山田さんね。はい、これッ! 喫茶店のママ(山田欣五郎)」
 「何これ・・・。このスカート、全然センス無いわ」
 「良いから、早く着替えなさいッ!」

山田は渋々スカートを穿く。

 「あッ、アナタ、化粧品はお持ち?」
 「そんの持って来ないわよ。アナタの貸して」
 「アタシはしないわよ。・・・あッ、隣の化粧部にユミちゃんて云う人が居るわ。急いでメークしてもらいなさい」
 「ユミちゃん?・・・分った」

川口は七人を見て、

 「以上かしら。・・・あら?」

川口は周明氏のワイシャツとズボン姿を見る。

 「先生は、その格好で?」
 「何か有りますか?」
 「そうね~。このヤンキーのジャンパーとズボンなんか良いんじゃない。着て見て」

周明氏は急いで着替える。
川口は着替えた周明氏を見て、

 「良いじゃな~い。素敵ッ! そうだッ、先生はハワイ出身の通訳(大川周明)って役どう?」
 「おお、良いねえ。それで行こう」
 「はいッ、イッチョ上がり! 皆んな、頑張ってちょうだいよ。日本人皆んながアンタ達の事、見てるんだから」

七人が、

 七「はい!」
 「さあ、行こうッ!」
 「いってらしゃい」
 「あッ、山田さんがまだ・・・」
 「またか。世話の焼けるオトコだ」
 「いや、オンナです」

山田が化粧室から出て来る。

 「ゴメンなさい。ど~お?」

山田が化粧済の顔を皆んなに見せる。

 「!?・・・分った。早く行こう」
 「あッ、待って! 大切な物。これ村瀬さんから預かってるの」

川口は七枚の『通行許可証』を各人に渡しながら、

 『本当に頑張ってよ。日本人の将来が懸かってっるんだから」

首藤は川口に挙手の敬礼をして、

 「はいッ! 行きますッ!」
 「ちょっと~、それヤメテちょうだい。特攻隊じゃないのよ。分っちゃうわよ」

首藤は気合の入った声で、

 「失礼しましたッ!」

川口は呆れた顔で首藤を見て、

 「バカッ」

川口は周明氏に、

 「あ、先生ッ! ちょっとそこに全員並ばして。口火を切るわ」

七人が、

 「えッ?」
 「いいから、早くッ!」

川口は神棚の火打石を取り、全員の肩に口火を切る。

 「ヨシッ! これで縁は切ったわ。いってらっしゃいッ!」
 「行くぞッ! 目指すはマッカーサー邸だッ!」
 「やめて下さい。忠臣蔵じゃあるまいし」

 七人が俳優通路に出て、舞台とは逆方向に足早に歩いて行く。

 裏通りに『軍用トラック』が停まっている。
村瀬がトラックから降りて不安そうに腕時計を見ている。

 「・・・何やってんだよ~。時間がねえぞ。ッたく~」

 通路を走る七人。
俳優受付の前を全速力で通り過ぎる。
受付の女がそれを見て、

 「あッ!?・・・チッ、ちょっとお~ッ!」

山田は衣裳のまま振り向いて、

 「ゴメンなさい。台本忘れちゃった。直ぐ戻るから」

受付の女が「出入者名簿帳」を振りかざしながら大声で、

 「ここに書いてから出てくださ~いッ!」

七人は逃げる様に走り去る。
待機して居る軍用トラックが見える。
七人が走って来る。
村瀬は焦りながら手招きをする。

 「早くーッ!」

村瀬がトラックの荷台のホロを上げる。
急いで荷台に飛び込む七人。

 「遅いよお。あと十分しか無いんですからね」
 「すまん。急いで行ってくれ」

軍用トラックが急いで走り去る。
                つづく 
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