幽 閉(大川周明)

具流次郎

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松澤病院院長室

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 院長室のドアーを激しく叩く音。

 「コンコン、コンコンコンコン」
 「どうぞ~」

畑 婦長が焦りながら部屋に入って来る。

 「院長ッ! オ、お昼になっても戻って来ません」

内村院長は畑 婦長を見て冷静に、

 「誰が?・・・」
 「あの、あの七人が!」

鮫島看護婦が走って部屋に入って来る。

 「院長ーッ!」
 「今、婦長から聞いた」

鮫島看護婦は息を荒げて、

 「どうしますか?」
 「どうしますか? う~ん。ヤッタな・・・」

西丸医師と朝倉看護婦が部屋に入って来る。

 「何か遭ったのか」

畑 婦長は気が動転して、

 「七人が」

西丸医師は驚いて、

 「おおッ! 決行日は今日だったのか」

鮫島、

 「そんなノンビリしてる場合じゃないですよ」
 「あッ、そうだ、院長!」
 「うん?」
 「山田さんが外出する前に、院長にって お手紙をお預かりしたんです」

朝倉看護婦が白衣のポケットから封筒を取り出し、内村院長に渡す。
内村院長は封書を開き便箋を取り出す。
中身をゆっくり開く。

  山田欽五郎の手紙

『私が密かに愛した内村様へ。内村様、私の身勝手を許して下さい。私は、もうここには当分、戻れません。場合によったら、戦死しちゃうかも。でも内村さんとの思い出は沢山、心に秘めて特攻に志願しました。今、ここに、私が集めた内村様の抜け毛が三十本有ります。大切に胸に仕舞って行って来ます。あ、それから私の形見に、敷布団の下に大切に使っていた落下傘で作ったパンテーを置いて行きます。綺麗に洗濯してあります。もしもの時は内村様の奥さんに穿かせてあげて下さい。
内村祐之(永遠の恋人)さようなら。さようなら。さようなら。
          山田欣五郎 昭和二十二年七月七日吉日』

内村院長は胸のポケットからチーフを取り出し、涙を拭く。

 「何を泣いてらっしゃるんですか」
 「いや、何でもない」
 「で、どうする気ですかッ?」
 「・・・放って置こう。関わらない方が良い」
 「ええッ!」
                つづく
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