統合失調症

具流次郎

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繋がらない記憶

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 舞子は杏奈(アンナ)の手紙を読み返した。

 『こんにちわ。隣の杏奈(アンナ)です。最近、舞子を見ないので手紙しました。元気ですか。杏奈は元気だけど、この手紙はお別れの手紙なの。杏奈は明日この家を出て行くの・・・』

信子が大きな荷物を二階に運んでいる。

 「あら? ママ、私の前を通った?」
 「なに言ってるの。ヨイショ、ヨイショ、これパパの頼んだ画材なの」

舞子は信子の重そうに運ぶ荷物を見て、

 「ママ、手伝おうか?」
 「いいわよ。休んでらっしゃい」

二階の龍太郎のアトリエのドアーが、ひとりでに開く。
龍太郎の声がする。

 「おお、届いたか。やっぱり百号のキャンパスじゃないとこう云う絵は描けないな。・・・で、舞子は?」
 「ソファーで休んでいるわ」
 「会いたいなぁ」
 「まだダメよ」
 「ダメか・・・」

信子はアトリエのドアーを閉めた。
舞子がドアーをジッと見ている。
信子はまた階段の踊り場まで下りて来て、立ち止まった。
リサ(猫)が信子の脚に絡みついている。
舞子の顔をジッと見ているリサ(猫)。

 「ママ、私、疲れたわ」
 「そう。じゃ、寝なさい。ママは上の部屋に行くわ」

舞子はソファーに横になった。
階段の踊り場を見ると信子は消えている。

横になり杏奈の手紙をもう一度読み返しました。

 『なぜ? だって道が無くなっちゃうんだもん。みんな途中で切れちゃうの。こんな家に居てもしょうがないじゃない。もう二度と戻れないし、戻らない。だからこの手紙はさよならの手紙。 ・・・・ 二月二七日』
 「あら? 日にちがさっき読んだ時と違っている」

舞子の記憶が繋(ツナ)がらない。

 『みんな途中で途切れてしまう』

舞子は今日一日の事を振り返った。

 『バスを降りる。・・・道路を歩く。・・・道が行き止まり。・・・農夫に道路の事を聞く。・・・あそこに見える白い家に行きたい。・・・家は無い。・・・? 表面だけの家? ・・・アナタは誰? ・・・? ・・・一ヶ月前に出て行った。・・・出て行った。あそこの家に帰りたい。・・・後ろの無い家? 表面だけの家。・・・誰も居ない ・・・何処から来た? ・・・金沢の病院。・・・気おつけて。・・・気をつけて』

 「行き止まり? 家は無い? アナタは誰。誰も居ない? 一ヶ月前。でも私はここに居る。ママもパパもリサ(猫)も。杏奈は病気」

舞子は徐々に深い眠りについた。
                つづく
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