赤十字(戦死者達の記録)

具流 覺

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60頁 連合軍の旗 と 赤十字の旗

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 マダンの陣地の中庭に、連合軍の軍用車輌が多数並んでいました。

陣地の旗柱(ハタバシラ)には赤十字の旗の上に『連合軍の旗』が靡いています。

 終戦の知らせを知った敗残兵達が徐々にマダンの町に集まって来ました。
部隊長室には『オーストラリア軍の将校』、金田サン、徳丸サン、緒方軍医長、私達ラエの医療班が集まり、これからの事を話し合いました。

この『オーストラリア軍の将校』は、蛇に噛まれた兵隊の治療のお礼にと、マダンの教会に来た方でした。

 玄関には連合軍の旗と赤十字の旗が交差して立ててあります。
中庭では元兵隊サン達が兵舎から長机を持ち出し、並べていました。

 伊藤(元衛生兵)サン達伝達班が陣地に戻って来ました。
朝、伝達班として出発した時と今の現実とのあまりの「さま変わり」に驚いていました。
伊藤サン達は躊躇しながら玄関を入り、会議室(元部隊長室)のドアーをノックしました。
私は急いでドアーを開けました。
伊藤サン達三人は挙手の敬礼をしたまま、開いたドアーの前に立っていました。
それを見て奥の椅子に座る、オーストラリア軍の将校が起立して挙手の敬礼をしました。

オーストラリア軍の将校は非常に謙虚で紳士的な兵隊サンでした。
そしてその将校は三人に対し流暢な日本語で、

 「ゴクロウサマデジタ。ハイッテ、オチャデモノンデクダサイ」

と言いました。
伊藤サンは少し驚いて、緊張しながら、

 「失礼します。入ります!」

と言って部屋に入って来ました。
土民のメードが机の上に『お茶とチョコレート』を並べます。
伊藤サン達は、それを見て目を丸くして見ていました。
伊藤サンは、お茶を啜りながら洞窟に残る『アイタペ守備隊植村部隊の敗残兵達』の話を緒方軍医長にしました。
それを聞いていたオーストラリア軍の将校はチラリと緒方軍医長を見ました。
緒方軍医長は私達医療班を見ます。
私と嶋田婦長サンは、直ぐに医務室に戻り、医療用具を揃えて外に出ました。

 将校は隣りに立つ、あの『蛇に噛まれた兵士』に軍用トラックの運転手を呼ぶようにと指示しました。
                つづく
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