やり直しの人生、今度こそ絶対に成り上がってやる(本編完結)

カイリ

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3-3 スコット侯爵領

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 たった十分ほど打ち合っただけだと言うのに、容赦ない祖父のしごきにオリヴァーは立てなくなった。

「どうした? オリー。もう終わりか」

 文句を言ってやりたいが、息を吸ったり吐いたりするだけで精いっぱいのオリヴァーは言葉も出ない。見守っていた騎士達ははらはらとしていて、ミハエルは顔色を変えることなくにこにことしていた。

「まずは体力を付けるところから始めないといかんな。明日は朝から走り込みをせい」

「……わかり、ました」

 領地へ来たのだから領都の市場へ行ったりしたかったが、ここでは領主代行をしている祖父の命には逆らえない。当面の間は走り込みや剣術の稽古で忙しくなるだろう。そう急がなくても時間はまだまだある。何とか息を整えて立ち上がると、くりっとした髪の毛が視界に入った。

「……大丈夫ですか?」

 顔を覗き込まれて、一瞬、表情を作り忘れる。慌ててにこりと微笑み「ありがとう」と手を貸そうとするのを制してオリヴァーは城に向かって歩き始めた。祖父は彼の出自をはっきりと言わなかったが、わざわざここへ来るぐらいだから地方貴族の息子なのだろう。けれど仲良くするつもりはあまりない。




 日が暮れて夕食の準備が出来たと使用人から言われ、オリヴァーは自室を出た。体が軋んで痛い。祖父は軽くのつもりだったかもしれないが、王都の屋敷では運動などほとんどしていなかったためオリヴァーは付いていくこともできなかった。同年代の男と比べても体力はないほうだ。そもそもスコット家で祖父だけが異常なのだ。この祖父から生まれた父だって運動は得意でなく、兄は言うまでもない。筋肉だって付きにくいし、運動神経だっていいほうとは言えず、頭を使う方が断然楽だった。

 しかしそんなオリヴァーの都合など、祖父には通用しない。やらないからできないだけだと根性論を突きつけてくる。そんな考えの違いもあって前回の人生では幼少期に仲違いしたまま滅多に会うことはなかった。

 武器は使えるほうがいい。王立の学校に進学すれば授業で嫌でも武術を習う。ルドルフは槍を得意としていたので、槍術部に入っていた。オリヴァーも付き従うように槍術を習っていたが、見ているだけで自身が槍を使う機会はほとんどなかった。

 今日も剣を少し使っていてよく分かった。自分はこちらの方が向いている。

 食堂に入ると見慣れない赤毛が飛び込んできた。砕けた態度で祖父と話していて、祖父もそれに嫌な顔をしていないところを見ると仲がいいようだ。

「オリー。こやつがジュノ辺境伯の嫡子、バルナバスだ」

 祖父が彼を紹介すると、バルナバスは立ち上がってゆっくりと胸に手を当てる。
「初めまして、スコット侯爵令息。バルナバス・フォン・ジュノと申します」

 美しい所作だった。ボウ・アンド・スクレープ一つだけで彼が貴族の令息としてしっかりと教育を受けているのが良く分かる。祖父の訓練を抜け出していたようなのでとんでもない放蕩息子なのかと思いきや、礼儀はちゃんとしていた。

 人懐こい笑みを向けられ、オリヴァーもにこりと微笑む。

「初めまして。当面の間、こちらで生活することになりました。どうぞオリヴァーとお呼びください」

 辺境伯と言えば地位としてもかなり高い。彼が味方になってくれればとても心強い。一緒に生活をしていけば悪感情を抱かせない限り、それなりの情は生まれるだろう。

 そんな下心をオリヴァーは笑顔で隠した。
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