25 / 59
4-6 王立学園
ルドルフのことならば性癖から野心までそれなりに知っていることが多いけれど、第三王子のアレクシスに関して持っている情報は少ない。
彼が表舞台に姿を現したのはオリヴァーが十七の時、学園の卒業を目前に控えた新年に行われる騎士の叙任式だった。
王族が騎士になるのも珍しいのでそれだけでもかなり目立ったが、それ以上に最年少という箔までついて王も身内には甘いなどと批判まで出てしまったけれど、それは決してお飾りではなかった。彼の剣の腕はかなり高く、王国内でも最強と呼ばれた騎士団長ですら彼には勝てなかった。
彼が騎士になった理由は剣の腕だけではない。王太子が健在でありルドルフも控えている以上、第三王子のアレクシスが王位を継ぐ可能性はそう高くない。あまりに認知されていなかったのもあり後ろ盾もなかった。公にはなっていなかったもの、ルドルフを支持する勢力もいることは王も知っていた。これ以上の後継者争いを起こさないためにも、アレクシスが王位を継ぐつもりなどないことを周知するためにも彼を騎士にしたのだろう。
ならばなぜ、今になって学園になど入学したのか。オリヴァーはさっぱり分からない。自分の取った行動で未来が変わりすぎている。ルドルフの従者になることを拒み、領地に引きこもっただけだったが、そのちょっとした行動が少しずつ形を変えて大きな波へと変化してしまった。
もうこれからどうなるかなど、オリヴァーには分からない。
「オリー兄様、どちらへ行かれるんです?」
くるりと振り返ると人懐こい笑みが飛び込んでくる。珍しく周囲に人はいないけれど、その呼び方だけはやめてほしい。
「殿下。どうぞ呼び捨てでお願いいたします」
「……ですが」
「敬語も必要ございません」
そもそもスコット領にいたことも隠さなければならないのだから、オリヴァーに対して敬語や兄様呼びはおかしい。身分も彼のほうが圧倒的に上だ。いくら年下であろうとも、王族が臣下に対して遜るなど言語道断だ。まだ短い人生のほとんどをザセキノロンで過ごし、ここ三年はスコットで身分を隠していたのだから王族としての自覚が足りないのは十分に承知しているが、それでもここは小さな国家だ。学園内では身分などなく平等を謡っているけれど、ここでの立ち居振る舞いは今後に影響する。王族が侮られることなど、決してあってはならない。
わずかな躊躇いを見せるアレクシスに対し、オリヴァーは目で訴える。誰かに聞かれても困る内容だ。
「申し訳……、いえ、すまなかった」
「分かっていただけて光栄でございます。それでは失礼いたします」
悲しそうな瞳をするアレクシスに後ろ髪を引かれながらも、そんなことは微塵も表に出さずオリヴァーは速足で寮へと向かった。
学園は四月から八月、十月から二月までの二期制である。期間の一ヶ月は休暇となり大半が王都の邸宅や自領へ戻ったりするが、その前に学生たちは論文を提出しなければならない。
「やあ、オリーじゃないか」
論文の資料を探しに図書館へ行くと、出来ることならばあまり目にしたくなかった黒髪の男が近寄ってくる。ルドルフの姿を見た生徒たちは頭を下げ、オリヴァーもそれに倣って黙ってお辞儀をする。
「ここは一応、身分差などないんだから、そうかしこまらなくていい」
「そうは参りません」
「オリーは律儀だな。まあ、それもいいところではあると思うが」
ぽんと肩を叩かれて、オリヴァーは顔を上げる。さっさとここを引き上げなければ、自習やオリヴァーと同じように資料を探しに来た生徒の邪魔になる。口では平等であり身分差などないと言うが、人一倍、王族であることを誇りに思っているのもあって敬わない人間には容赦ない。彼の執拗な嫌がらせに遭い、退学していった生徒も少なくなかった。
そう考えるとアレクシスは謙虚で温和だ。クラスメートに対して自分が王族であることを忘れてほしいと言い、誰に対しても平等だった。同じ王族でありながらもどうしてこうも性格に違いが出るのか。まあ、アレクシスの場合は王族として育てられていないから仕方ないのかもしれないが、それでもルドルフとの差は大きい。
「オリー。これから王都へ行って食事でもしないか?」
「申し訳ございません、ルドルフ殿下。まだ論文が終わっておりませんので……」
そろそろ学期が終わろうとしているのに遊んでいる時間などない。それはルドルフも同じのはずだが、思い返せば彼は面倒のほとんどを従者のオリヴァーに任せて遊び惚けていた。
ここで必死になって論文を仕上げていないというならば、新しい従者でもできたのだろうか。そんな話は聞いていなかったけれど、王都から離れていたのもあって情報が入ってきていないだけかもしれない。
「それならば俺が教えてやってもいい」
「……え?」
「ここでは俺のほうがいる時間も長い。部屋に食事を用意させる」
にやりと笑うルドルフに拒絶は許されない気配を感じた。
彼が表舞台に姿を現したのはオリヴァーが十七の時、学園の卒業を目前に控えた新年に行われる騎士の叙任式だった。
王族が騎士になるのも珍しいのでそれだけでもかなり目立ったが、それ以上に最年少という箔までついて王も身内には甘いなどと批判まで出てしまったけれど、それは決してお飾りではなかった。彼の剣の腕はかなり高く、王国内でも最強と呼ばれた騎士団長ですら彼には勝てなかった。
彼が騎士になった理由は剣の腕だけではない。王太子が健在でありルドルフも控えている以上、第三王子のアレクシスが王位を継ぐ可能性はそう高くない。あまりに認知されていなかったのもあり後ろ盾もなかった。公にはなっていなかったもの、ルドルフを支持する勢力もいることは王も知っていた。これ以上の後継者争いを起こさないためにも、アレクシスが王位を継ぐつもりなどないことを周知するためにも彼を騎士にしたのだろう。
ならばなぜ、今になって学園になど入学したのか。オリヴァーはさっぱり分からない。自分の取った行動で未来が変わりすぎている。ルドルフの従者になることを拒み、領地に引きこもっただけだったが、そのちょっとした行動が少しずつ形を変えて大きな波へと変化してしまった。
もうこれからどうなるかなど、オリヴァーには分からない。
「オリー兄様、どちらへ行かれるんです?」
くるりと振り返ると人懐こい笑みが飛び込んでくる。珍しく周囲に人はいないけれど、その呼び方だけはやめてほしい。
「殿下。どうぞ呼び捨てでお願いいたします」
「……ですが」
「敬語も必要ございません」
そもそもスコット領にいたことも隠さなければならないのだから、オリヴァーに対して敬語や兄様呼びはおかしい。身分も彼のほうが圧倒的に上だ。いくら年下であろうとも、王族が臣下に対して遜るなど言語道断だ。まだ短い人生のほとんどをザセキノロンで過ごし、ここ三年はスコットで身分を隠していたのだから王族としての自覚が足りないのは十分に承知しているが、それでもここは小さな国家だ。学園内では身分などなく平等を謡っているけれど、ここでの立ち居振る舞いは今後に影響する。王族が侮られることなど、決してあってはならない。
わずかな躊躇いを見せるアレクシスに対し、オリヴァーは目で訴える。誰かに聞かれても困る内容だ。
「申し訳……、いえ、すまなかった」
「分かっていただけて光栄でございます。それでは失礼いたします」
悲しそうな瞳をするアレクシスに後ろ髪を引かれながらも、そんなことは微塵も表に出さずオリヴァーは速足で寮へと向かった。
学園は四月から八月、十月から二月までの二期制である。期間の一ヶ月は休暇となり大半が王都の邸宅や自領へ戻ったりするが、その前に学生たちは論文を提出しなければならない。
「やあ、オリーじゃないか」
論文の資料を探しに図書館へ行くと、出来ることならばあまり目にしたくなかった黒髪の男が近寄ってくる。ルドルフの姿を見た生徒たちは頭を下げ、オリヴァーもそれに倣って黙ってお辞儀をする。
「ここは一応、身分差などないんだから、そうかしこまらなくていい」
「そうは参りません」
「オリーは律儀だな。まあ、それもいいところではあると思うが」
ぽんと肩を叩かれて、オリヴァーは顔を上げる。さっさとここを引き上げなければ、自習やオリヴァーと同じように資料を探しに来た生徒の邪魔になる。口では平等であり身分差などないと言うが、人一倍、王族であることを誇りに思っているのもあって敬わない人間には容赦ない。彼の執拗な嫌がらせに遭い、退学していった生徒も少なくなかった。
そう考えるとアレクシスは謙虚で温和だ。クラスメートに対して自分が王族であることを忘れてほしいと言い、誰に対しても平等だった。同じ王族でありながらもどうしてこうも性格に違いが出るのか。まあ、アレクシスの場合は王族として育てられていないから仕方ないのかもしれないが、それでもルドルフとの差は大きい。
「オリー。これから王都へ行って食事でもしないか?」
「申し訳ございません、ルドルフ殿下。まだ論文が終わっておりませんので……」
そろそろ学期が終わろうとしているのに遊んでいる時間などない。それはルドルフも同じのはずだが、思い返せば彼は面倒のほとんどを従者のオリヴァーに任せて遊び惚けていた。
ここで必死になって論文を仕上げていないというならば、新しい従者でもできたのだろうか。そんな話は聞いていなかったけれど、王都から離れていたのもあって情報が入ってきていないだけかもしれない。
「それならば俺が教えてやってもいい」
「……え?」
「ここでは俺のほうがいる時間も長い。部屋に食事を用意させる」
にやりと笑うルドルフに拒絶は許されない気配を感じた。
あなたにおすすめの小説
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
【完結】やらかし兄は勇者の腕の中で幸せに。それくらいがちょうど良いのです
鏑木 うりこ
BL
レンとリンは不幸な一生を終え、やっていたゲームと酷似した世界に降りてきた。楽しく幸せに暮らせる世界なのに魔王がいて平和を脅かしている。
聖剣を棍棒的な何かにしてしまった責任を取るためにレンとリンは勇者アランフィールドの一行に加わる。
勘違いしたり、やらかしたり、シチューを食べたりしながら、二人の中は深まって行く。
完結済み、全36話予定5万字程の話です。
お笑い封印失敗しました_:(´ཀ`」 ∠):
⚪︎王子様の勇者アランフィールド×鍛冶師のレン(兄)
後半少しだけ
⚪︎魔王ルーセウス×薬師のリン(弟)
で、構成されております。
一気に書いたので誤字脱字があるかと思います。教えて頂けたら嬉しいです。(話数を明記して頂けると探す時凄く助かります!)なお、誤字に見えてわざと効果として使っている場所はそのままになります。
多忙時、お返事を返す事ができない事があります。コメント等全て読ませていただいておりますが、その辺りは申し訳ございません。
後、ないとは思いますがAI学習とかさせないでね!
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました