やり直しの人生、今度こそ絶対に成り上がってやる(本編完結)

カイリ

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4-11 王立学園

「いっ、ん、やめ、て、ください。殿下」

 ずるずると講堂から引きずり出され、我慢ができなくなったのか茂みに押し込まれて顔や服が木の枝に引っかかる。端々に痛みが走ったけれどそれよりも自分の貞操のほうが危ない。気にしている余裕はなかった。

 上に乗っかったルドルフはオリヴァーの唇を塞ぐと生暖かい舌を差し込んでくる。受け入れるつもりはなく嚙みつくと思いっきり頬を叩かれた。おかげで少しだけ熱っぽさが引いていく。

「お前がさっさと俺の物にならないから悪いんだぞ」

「それならばこの場で切り捨てればよろしいでしょう」

 殴られようとも切られようともルドルフに屈するつもりはなかった。自分が楽なほうに流されたとしても、待っているのは死だ。それならばわざわざ嫌なことを我慢する必要もない。

 ルドルフに媚を売ったとしてもオリヴァーにメリットはない。

「素直になれ、オリー。俺の言うことを聞けば、今後こそお前は兄よりも上に立てるようになる。誰もお前を次男だからと見下さない」

「その確証は? 今のあなたに俺を成り上がらせるだけの実力がおありだと?」

 オリヴァーは二ッと笑ってルドルフを見上げる。
 
「俺はあんたと一緒に沈むつもりはないんだよ」

 ルドルフの返事は平手打ちだった。パシ、パシ、と乾いた音が響き渡る。口の中が切れて鉄の味が広がっていくのを感じながら、オリヴァーは決して自分の言葉を取り下げはしなかった。

「オリー兄様!」

 遠くからアレクシスの声が聞こえルドルフの手が止まった。ルドルフに挨拶をすると言ってから姿を消したため、心配になって見に来たのだろう。ジンジンと両頬から襲ってくる痛みに仕込まれた薬の影響などどこかへ消えてしまっていた。

「アレっ…………!」

 名前を叫ぼうとするとルドルフの手で口を覆われる。茂みの周りには取り巻きもいたからこの場所はいろんな意味で目立っているはずだ。ルドルフはアレクシスに見つかりたくないようだが、見張りを立てたのが逆に不自然だった。

「そこを退きなさい」

 聞き覚えのある声がして不覚にも安堵した。いくらルドルフから見張るよう言われていても、第三王子から命じられては大人しく引き下がるしかない。ガサガサと草をかき分ける音が聞こえて、すぐに銀髪の男が飛び出してきた。

「オリー兄様!」

 ルドルフはアレクシスの姿を見るなりちっと舌打ちするとオリヴァーの上から退いて距離を取る。

「大丈夫ですか?」

 駆け寄ってきたアレクシスはオリヴァーの叩かれた顔を見て悲痛そうに表情を歪める。それからこうなった原因を睨みつけて、

「ルドルフ兄様。俺との約束をお忘れですか?」

 と、問い詰め始めた。

「そもそもお前の問題とオリヴァーのことは別問題だろう」

「だからあなたが俺にしたことを黙っておく代わりに、オリー兄様には手を出すなと言ったはずです。それを反故にしたんですから、あなた方が俺に何をしたのか、公表しても構わないということですよね」

 いつになく低い声にオリヴァーは身震いする。いつも明るく穏やかなところしか見ていなかったのでそのギャップに身震いする。

「っ、それは……。そもそもっ、そいつは俺の物だ! お前が手出ししていい相手じゃない」

 オリヴァーを指さしてそう言うルドルフに心底辟易した。いつ自分がルドルフの物になったのか。従者になるのも断ったし、学園内でもあまり接してこなかった。そんな勘違いをする理由が分からず、オリヴァーはルドルフを見た。

 やはりコイツ、前回の記憶があるのではないか?

 だとしたら自分に対する執着も理解できた。そしてルドルフの性格を考えれば前回の失敗だって自分のせいではなく、周りのせいにしたに違いない。だからやり直したとしても彼の行動なんて変わるはずがないのだ。

 自分は悪くないと思っているのだから、当然だ。呆れて乾いた笑いが漏れてくる。

「何を勘違いしているんですか、ルドルフ殿下」

「……何だと?」

「俺があなたの物になったことなんて、一度たりともないですよ」

 淡々と話すオリヴァーにルドルフの表情が見る見るうちに変わっていく。怒りを堪えて真っ赤になっているのを見ると更に面白くなってきてオリヴァーは腹を抱えながら笑った。

「手に入れたと勘違いさせたのなら申し訳ございません。俺は自分が成り上がるために、あなたを利用しただけです」

「きっ、さま…………、スコット家がどうなっても構わないのか!?」

「建国から続く侯爵家相手に王子一人の力でどうにか出来るとでもお思いですか?」

 オリヴァー一人だけならまだしも、家を相手にするのなら国王ですら手を焼くに違いない。相手にすればするほどルドルフの小物加減にはほとほと呆れて言葉にならなかった。

「あまりしつこいようなら侯爵家から王族へ正式に書面で抗議させていただきます」

 親に迷惑を掛けたくなかったのもあるし、これぐらいのことなら我慢しようと思っていたけれど、飲み物に薬物を混ぜてまで犯そうとしたのはさすがに見過ごせない。今までアレクシスが陰ながら守ってくれていたようだが、自分の身ぐらい自分で守れる。

「オリヴァー、覚えておけよ……」

 ルドルフは憎々しげにそう呟くと二人に背を向けて歩き出した。
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