57 / 59
番外編
彼は明らかに激怒していた。
彼が利己的で傲慢であるのはかなり有名な話で、ルドルフの側に居るのもスコット侯爵家を乗っ取るつもりだと噂されても、彼自身が「その方がスコット家に相応しいでしょう?」と否定しなかったり、自分の恩人が悪人だったと知った時は寝込みそうになるぐらいショックを受けた。
だがそれでもきっかけがあれば改心するのではないかと期待していたし、全ての罪を擦り付けられたときは同情もした。そして時を戻して彼がすっかり変わった時は、ようやく自分の願いが通じたのではないかと喜んでしまった。今の人生を歩んでいる彼は自分中心ではなく、しっかりと周りのことを考えている。そして何より人を利用して成り上がろうなんて考えていなかった。
だからちゃんと考えれば、彼が自分のためにわざわざ危険なことをするのはあり得ないと分かったのに、ルドルフの所へ行くという衝撃が強すぎて冷静になれていなかった。
あんなことを言われて怒るのも当然だ。もう自分の話は二度と聞いてくれないだろう。
「あー、アレクシス殿下? オリヴァー様、すっげえ怒ってましたけど? あなた、説得しに来てくれたんですよね」
部屋に入ってきたバルナバスがアレクシスを見る。呆れた顔をされて文句を言いたくなったが、そんな顔をしたくなるのも分かる。早馬で知らせてくれたのに、交渉失敗したのだ。
「…………バルナバスは俺が時間を戻して、前回の人生の記憶があるって言ったら信じますか?」
「えっ!? え、ああ、まあ、そうですね。信じますよ」
「信じるんですか?」
意外な返答に勢いよく顔を上げると、バルナバスも驚いて「信じてほしくないんですか?」と返される。
「そんなすんなりと信じられるってことはバルナバスもやり直した記憶があるんですか?」
すでにルドルフとオリヴァーに記憶があったのだから、その他にも記憶がある人間が居ても可笑しくないと思った。
「いいえ、全く。ただあなたと出会った時のことを考えたら、人生二週目でも可笑しくないなと思っただけです。六歳の少年とは思えませんでしたからね」
「……なるほど」
出来るだけ年相応に振舞っていたつもりだったが、三十近い男が子供を演じるなんて無理がある。よく考えたらオリヴァーも出会った頃は十歳という年の割にはかなり大人びていた。ルドルフは本人から言われないと気付かないぐらい変わらなかったが。
きっとオリヴァーは前回の人生で後悔があったのだろう。成り上がろうなんて思っていなかったから、ルドルフから距離を置き、学園でもクラスメートとも一線を引いていた。やり直した人生では平穏な人生を歩むつもりだったのかもしれない。
それなのに成り上がるために功を立てようとしているなんて思い込んで引き留めようとした。恥ずかしくて消えてしまいたい。
「殿下はオリヴァー様を怒らせるのが上手いですね」
「それ褒めてない」
「けど、オリヴァー様があんなに感情を露にするのも、殿下にだけですよね」
貴族としての教育をしっかり受けているオリヴァーが感情を露にするのは確かに珍しい。自分が特別だと言われているようで一瞬舞い上がったけれど、喜ばせるならまだしも怒らせているのはあまりいいことではない。
「…………バルナバス。ジュノ辺境伯には俺がオリー兄様に指示をして帝国へ行かせたと報告するように」
「は!?」
「あと、俺があの人に出来ることは、全力でサポートすることだけだから。あとのことは辺境伯が戻ってきてから話をしよう」
あれほど怒ったのだから、本当に戦争を止めるつもりでルドルフの所へ行くのだろう。それならば邪魔などせず、サポートするのが今は一番だと思った。
あなたにおすすめの小説
政略結婚のはずが恋して拗れて離縁を申し出る話
藍
BL
聞いたことのない侯爵家から釣書が届いた。僕のことを求めてくれるなら政略結婚でもいいかな。そう考えた伯爵家四男のフィリベルトは『お受けします』と父へ答える。
ところがなかなか侯爵閣下とお会いすることができない。婚姻式の準備は着々と進み、数カ月後ようやく対面してみれば金髪碧眼の美丈夫。徐々に二人の距離は近づいて…いたはずなのに。『え、僕ってばやっぱり政略結婚の代用品!?』政略結婚でもいいと思っていたがいつの間にか恋してしまいやっぱり無理だから離縁しよ!とするフィリベルトの話。
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
【完結】やらかし兄は勇者の腕の中で幸せに。それくらいがちょうど良いのです
鏑木 うりこ
BL
レンとリンは不幸な一生を終え、やっていたゲームと酷似した世界に降りてきた。楽しく幸せに暮らせる世界なのに魔王がいて平和を脅かしている。
聖剣を棍棒的な何かにしてしまった責任を取るためにレンとリンは勇者アランフィールドの一行に加わる。
勘違いしたり、やらかしたり、シチューを食べたりしながら、二人の中は深まって行く。
完結済み、全36話予定5万字程の話です。
お笑い封印失敗しました_:(´ཀ`」 ∠):
⚪︎王子様の勇者アランフィールド×鍛冶師のレン(兄)
後半少しだけ
⚪︎魔王ルーセウス×薬師のリン(弟)
で、構成されております。
一気に書いたので誤字脱字があるかと思います。教えて頂けたら嬉しいです。(話数を明記して頂けると探す時凄く助かります!)なお、誤字に見えてわざと効果として使っている場所はそのままになります。
多忙時、お返事を返す事ができない事があります。コメント等全て読ませていただいておりますが、その辺りは申し訳ございません。
後、ないとは思いますがAI学習とかさせないでね!
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました