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6-8 モルドペセライ帝国
王族の馬車はオリヴァーが乗っていた物よりも広く、幾分か揺れも軽減されていた。前回の人生ではよくこの馬車に乗っていたが、やり直してからは初めてだった。やり直しの人生が始まってそろそろ十年。初めの頃は前回の記憶が鮮明に残っていたけれど、月日の経過と共にそれはどんどんと薄れていき今では大まかな出来事しか覚えていない。
けれどこの流れはもうオリヴァーが知っている過去ではない。自分の行動がどう繋がるのか不明だ。
「……それで俺に会いたかった、と言うのはどういうことなんだ? オリヴァー」
いきなり本題を切り出されてオリヴァーはどきりとする。てっきり自分と出会って浮かれてくれているのかと思ったが、卒業パーティでの一件もあり、ルドルフはこちらを警戒しているようだった。
「侯爵家の次男として領地の一つでも与えられて、親に紹介された令嬢と結婚して兄を支える人生に嫌気が差したんですよ」
「どういうことだ?」
「領地に居たことで祖父から剣術を習い、学園では成績も上位でした。人脈もそこそこ作れたのに、それを兄のためにしか使えないのは可笑しいと思いませんか?」
元々、オリヴァーは上昇志向の強い人間だ。成り上がりたいという気持ちは今も変わっていないけれど、幸いにもルドルフにはオリヴァーが前回の記憶を持っていることを知らない。例え聞かれても否定するつもりだ。
これまで紆余曲折あったが、最終的にはルドルフを王太子に立てて自分が成り上がるつもりでいることを知れば、ルドルフは信じるのではないかとオリヴァーは考えていた。
「それはルドルフ殿下にも言えることですよね」
オリヴァーはにこりと微笑んでルドルフを見る。気持ちを理解しているふりをして、自分は味方だとルドルフに訴えかける。
「ここだけの話ですが、俺は前々から殿下のほうが王に相応しいと思っていたんですよ」
「その割に、俺に辛辣な態度を取っていたように思うが?」
これまでのことはしっかりと覚えているようでオリヴァーは「申し訳ありませんでした」と謝る。
「祖父から、あまり殿下に近づくなと言われてました。あの人は陛下が指名した人物が後を継ぐべきだと思っていましてね。まだ幼かった俺は祖父のいうことが正しいと思っていて、それで殿下とは一定の距離を置かせていただいてました」
ルドルフは「ふん」と言ってオリヴァーの話を聞いている。あまり表情が変わらないので何を考えているのか読めない。ここでオリヴァーが少しでも怪しい素振りを見せれば、ルドルフは密偵で入り込んでいることに気付くだろう。あくまでもルドルフを王太子にするため、わざわざ帝国までやって来たふりをしなければならない。
「けれど俺も学園の卒業を目前にしてようやく将来を考え始めた時に、本当にこのままでいいのかと疑問に思いました。俺の努力してきたことは全て兄の影に隠れてしまう。誰も俺自身を見ることはない、と思ったら、なんかバカバカしくなってきましてね。どうせなら兄を引きずり降ろして、俺がスコット侯爵になってやろうかと思ったんですよ。そのためには、ルドルフ殿下。あなたのお力が必要だと知り、恥を忍んで帝国までやってきました」
「ほお。別に俺でなくても、アレクシスを使えばよかったのではないか? あいつは腐っても王妃の子供だ」
まさかルドルフの口からアレクシスの名前が出てくるとは思わず、オリヴァーは息を呑む。
「……アレクシス殿下、ですか」
はあ、とわざとらしくため息を吐いてから、心底、呆れているように鼻で笑った。
「あの方は清廉潔白すぎるんですよね。物事を正しいことでしか考えていない。騎士としてはいいかもしれませんが、あれでは王になれませんよ。なったとしても、今までと変わりません」
そもそもアレクシスは自分が王になることなど全く考えていない。情勢が不安定ならまだしも、平和が続いている現在では第三王子が王になることはほとんどない。頭の回転も悪い方ではないし、剣術に長けているが、アレクシスが王になる姿は似合わな過ぎて想像したくもなかった。
「その点、ルドルフ殿下はこうやって他国に留学したり、学園では生徒会長を務められたり、王になるための努力しているのは知っております。だからこそ、俺はあなたの傍で仕えたいと思ったんです」
ルドルフは「そうか」と言って深く腰掛ける。
「俺のためなら何でもするんだな?」
そう言ってルドルフは右手をオリヴァーに差し出す。
「ええ、俺にできることなら何でも致します」
オリヴァーは差し出された手を掴んで、その場に跪く。それから忠誠を誓うため、手の甲に口づけをした。
けれどこの流れはもうオリヴァーが知っている過去ではない。自分の行動がどう繋がるのか不明だ。
「……それで俺に会いたかった、と言うのはどういうことなんだ? オリヴァー」
いきなり本題を切り出されてオリヴァーはどきりとする。てっきり自分と出会って浮かれてくれているのかと思ったが、卒業パーティでの一件もあり、ルドルフはこちらを警戒しているようだった。
「侯爵家の次男として領地の一つでも与えられて、親に紹介された令嬢と結婚して兄を支える人生に嫌気が差したんですよ」
「どういうことだ?」
「領地に居たことで祖父から剣術を習い、学園では成績も上位でした。人脈もそこそこ作れたのに、それを兄のためにしか使えないのは可笑しいと思いませんか?」
元々、オリヴァーは上昇志向の強い人間だ。成り上がりたいという気持ちは今も変わっていないけれど、幸いにもルドルフにはオリヴァーが前回の記憶を持っていることを知らない。例え聞かれても否定するつもりだ。
これまで紆余曲折あったが、最終的にはルドルフを王太子に立てて自分が成り上がるつもりでいることを知れば、ルドルフは信じるのではないかとオリヴァーは考えていた。
「それはルドルフ殿下にも言えることですよね」
オリヴァーはにこりと微笑んでルドルフを見る。気持ちを理解しているふりをして、自分は味方だとルドルフに訴えかける。
「ここだけの話ですが、俺は前々から殿下のほうが王に相応しいと思っていたんですよ」
「その割に、俺に辛辣な態度を取っていたように思うが?」
これまでのことはしっかりと覚えているようでオリヴァーは「申し訳ありませんでした」と謝る。
「祖父から、あまり殿下に近づくなと言われてました。あの人は陛下が指名した人物が後を継ぐべきだと思っていましてね。まだ幼かった俺は祖父のいうことが正しいと思っていて、それで殿下とは一定の距離を置かせていただいてました」
ルドルフは「ふん」と言ってオリヴァーの話を聞いている。あまり表情が変わらないので何を考えているのか読めない。ここでオリヴァーが少しでも怪しい素振りを見せれば、ルドルフは密偵で入り込んでいることに気付くだろう。あくまでもルドルフを王太子にするため、わざわざ帝国までやって来たふりをしなければならない。
「けれど俺も学園の卒業を目前にしてようやく将来を考え始めた時に、本当にこのままでいいのかと疑問に思いました。俺の努力してきたことは全て兄の影に隠れてしまう。誰も俺自身を見ることはない、と思ったら、なんかバカバカしくなってきましてね。どうせなら兄を引きずり降ろして、俺がスコット侯爵になってやろうかと思ったんですよ。そのためには、ルドルフ殿下。あなたのお力が必要だと知り、恥を忍んで帝国までやってきました」
「ほお。別に俺でなくても、アレクシスを使えばよかったのではないか? あいつは腐っても王妃の子供だ」
まさかルドルフの口からアレクシスの名前が出てくるとは思わず、オリヴァーは息を呑む。
「……アレクシス殿下、ですか」
はあ、とわざとらしくため息を吐いてから、心底、呆れているように鼻で笑った。
「あの方は清廉潔白すぎるんですよね。物事を正しいことでしか考えていない。騎士としてはいいかもしれませんが、あれでは王になれませんよ。なったとしても、今までと変わりません」
そもそもアレクシスは自分が王になることなど全く考えていない。情勢が不安定ならまだしも、平和が続いている現在では第三王子が王になることはほとんどない。頭の回転も悪い方ではないし、剣術に長けているが、アレクシスが王になる姿は似合わな過ぎて想像したくもなかった。
「その点、ルドルフ殿下はこうやって他国に留学したり、学園では生徒会長を務められたり、王になるための努力しているのは知っております。だからこそ、俺はあなたの傍で仕えたいと思ったんです」
ルドルフは「そうか」と言って深く腰掛ける。
「俺のためなら何でもするんだな?」
そう言ってルドルフは右手をオリヴァーに差し出す。
「ええ、俺にできることなら何でも致します」
オリヴァーは差し出された手を掴んで、その場に跪く。それから忠誠を誓うため、手の甲に口づけをした。
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