44 / 59
6-8 モルドペセライ帝国
しおりを挟む
王族の馬車はオリヴァーが乗っていた物よりも広く、幾分か揺れも軽減されていた。前回の人生ではよくこの馬車に乗っていたが、やり直してからは初めてだった。やり直しの人生が始まってそろそろ十年。初めの頃は前回の記憶が鮮明に残っていたけれど、月日の経過と共にそれはどんどんと薄れていき今では大まかな出来事しか覚えていない。
けれどこの流れはもうオリヴァーが知っている過去ではない。自分の行動がどう繋がるのか不明だ。
「……それで俺に会いたかった、と言うのはどういうことなんだ? オリヴァー」
いきなり本題を切り出されてオリヴァーはどきりとする。てっきり自分と出会って浮かれてくれているのかと思ったが、卒業パーティでの一件もあり、ルドルフはこちらを警戒しているようだった。
「侯爵家の次男として領地の一つでも与えられて、親に紹介された令嬢と結婚して兄を支える人生に嫌気が差したんですよ」
「どういうことだ?」
「領地に居たことで祖父から剣術を習い、学園では成績も上位でした。人脈もそこそこ作れたのに、それを兄のためにしか使えないのは可笑しいと思いませんか?」
元々、オリヴァーは上昇志向の強い人間だ。成り上がりたいという気持ちは今も変わっていないけれど、幸いにもルドルフにはオリヴァーが前回の記憶を持っていることを知らない。例え聞かれても否定するつもりだ。
これまで紆余曲折あったが、最終的にはルドルフを王太子に立てて自分が成り上がるつもりでいることを知れば、ルドルフは信じるのではないかとオリヴァーは考えていた。
「それはルドルフ殿下にも言えることですよね」
オリヴァーはにこりと微笑んでルドルフを見る。気持ちを理解しているふりをして、自分は味方だとルドルフに訴えかける。
「ここだけの話ですが、俺は前々から殿下のほうが王に相応しいと思っていたんですよ」
「その割に、俺に辛辣な態度を取っていたように思うが?」
これまでのことはしっかりと覚えているようでオリヴァーは「申し訳ありませんでした」と謝る。
「祖父から、あまり殿下に近づくなと言われてました。あの人は陛下が指名した人物が後を継ぐべきだと思っていましてね。まだ幼かった俺は祖父のいうことが正しいと思っていて、それで殿下とは一定の距離を置かせていただいてました」
ルドルフは「ふん」と言ってオリヴァーの話を聞いている。あまり表情が変わらないので何を考えているのか読めない。ここでオリヴァーが少しでも怪しい素振りを見せれば、ルドルフは密偵で入り込んでいることに気付くだろう。あくまでもルドルフを王太子にするため、わざわざ帝国までやって来たふりをしなければならない。
「けれど俺も学園の卒業を目前にしてようやく将来を考え始めた時に、本当にこのままでいいのかと疑問に思いました。俺の努力してきたことは全て兄の影に隠れてしまう。誰も俺自身を見ることはない、と思ったら、なんかバカバカしくなってきましてね。どうせなら兄を引きずり降ろして、俺がスコット侯爵になってやろうかと思ったんですよ。そのためには、ルドルフ殿下。あなたのお力が必要だと知り、恥を忍んで帝国までやってきました」
「ほお。別に俺でなくても、アレクシスを使えばよかったのではないか? あいつは腐っても王妃の子供だ」
まさかルドルフの口からアレクシスの名前が出てくるとは思わず、オリヴァーは息を呑む。
「……アレクシス殿下、ですか」
はあ、とわざとらしくため息を吐いてから、心底、呆れているように鼻で笑った。
「あの方は清廉潔白すぎるんですよね。物事を正しいことでしか考えていない。騎士としてはいいかもしれませんが、あれでは王になれませんよ。なったとしても、今までと変わりません」
そもそもアレクシスは自分が王になることなど全く考えていない。情勢が不安定ならまだしも、平和が続いている現在では第三王子が王になることはほとんどない。頭の回転も悪い方ではないし、剣術に長けているが、アレクシスが王になる姿は似合わな過ぎて想像したくもなかった。
「その点、ルドルフ殿下はこうやって他国に留学したり、学園では生徒会長を務められたり、王になるための努力しているのは知っております。だからこそ、俺はあなたの傍で仕えたいと思ったんです」
ルドルフは「そうか」と言って深く腰掛ける。
「俺のためなら何でもするんだな?」
そう言ってルドルフは右手をオリヴァーに差し出す。
「ええ、俺にできることなら何でも致します」
オリヴァーは差し出された手を掴んで、その場に跪く。それから忠誠を誓うため、手の甲に口づけをした。
けれどこの流れはもうオリヴァーが知っている過去ではない。自分の行動がどう繋がるのか不明だ。
「……それで俺に会いたかった、と言うのはどういうことなんだ? オリヴァー」
いきなり本題を切り出されてオリヴァーはどきりとする。てっきり自分と出会って浮かれてくれているのかと思ったが、卒業パーティでの一件もあり、ルドルフはこちらを警戒しているようだった。
「侯爵家の次男として領地の一つでも与えられて、親に紹介された令嬢と結婚して兄を支える人生に嫌気が差したんですよ」
「どういうことだ?」
「領地に居たことで祖父から剣術を習い、学園では成績も上位でした。人脈もそこそこ作れたのに、それを兄のためにしか使えないのは可笑しいと思いませんか?」
元々、オリヴァーは上昇志向の強い人間だ。成り上がりたいという気持ちは今も変わっていないけれど、幸いにもルドルフにはオリヴァーが前回の記憶を持っていることを知らない。例え聞かれても否定するつもりだ。
これまで紆余曲折あったが、最終的にはルドルフを王太子に立てて自分が成り上がるつもりでいることを知れば、ルドルフは信じるのではないかとオリヴァーは考えていた。
「それはルドルフ殿下にも言えることですよね」
オリヴァーはにこりと微笑んでルドルフを見る。気持ちを理解しているふりをして、自分は味方だとルドルフに訴えかける。
「ここだけの話ですが、俺は前々から殿下のほうが王に相応しいと思っていたんですよ」
「その割に、俺に辛辣な態度を取っていたように思うが?」
これまでのことはしっかりと覚えているようでオリヴァーは「申し訳ありませんでした」と謝る。
「祖父から、あまり殿下に近づくなと言われてました。あの人は陛下が指名した人物が後を継ぐべきだと思っていましてね。まだ幼かった俺は祖父のいうことが正しいと思っていて、それで殿下とは一定の距離を置かせていただいてました」
ルドルフは「ふん」と言ってオリヴァーの話を聞いている。あまり表情が変わらないので何を考えているのか読めない。ここでオリヴァーが少しでも怪しい素振りを見せれば、ルドルフは密偵で入り込んでいることに気付くだろう。あくまでもルドルフを王太子にするため、わざわざ帝国までやって来たふりをしなければならない。
「けれど俺も学園の卒業を目前にしてようやく将来を考え始めた時に、本当にこのままでいいのかと疑問に思いました。俺の努力してきたことは全て兄の影に隠れてしまう。誰も俺自身を見ることはない、と思ったら、なんかバカバカしくなってきましてね。どうせなら兄を引きずり降ろして、俺がスコット侯爵になってやろうかと思ったんですよ。そのためには、ルドルフ殿下。あなたのお力が必要だと知り、恥を忍んで帝国までやってきました」
「ほお。別に俺でなくても、アレクシスを使えばよかったのではないか? あいつは腐っても王妃の子供だ」
まさかルドルフの口からアレクシスの名前が出てくるとは思わず、オリヴァーは息を呑む。
「……アレクシス殿下、ですか」
はあ、とわざとらしくため息を吐いてから、心底、呆れているように鼻で笑った。
「あの方は清廉潔白すぎるんですよね。物事を正しいことでしか考えていない。騎士としてはいいかもしれませんが、あれでは王になれませんよ。なったとしても、今までと変わりません」
そもそもアレクシスは自分が王になることなど全く考えていない。情勢が不安定ならまだしも、平和が続いている現在では第三王子が王になることはほとんどない。頭の回転も悪い方ではないし、剣術に長けているが、アレクシスが王になる姿は似合わな過ぎて想像したくもなかった。
「その点、ルドルフ殿下はこうやって他国に留学したり、学園では生徒会長を務められたり、王になるための努力しているのは知っております。だからこそ、俺はあなたの傍で仕えたいと思ったんです」
ルドルフは「そうか」と言って深く腰掛ける。
「俺のためなら何でもするんだな?」
そう言ってルドルフは右手をオリヴァーに差し出す。
「ええ、俺にできることなら何でも致します」
オリヴァーは差し出された手を掴んで、その場に跪く。それから忠誠を誓うため、手の甲に口づけをした。
126
あなたにおすすめの小説
【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!
ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。
そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。
翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。
実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。
楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。
楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。
※作者の個人的な解釈が含まれています。
※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。
黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
平穏なβ人生の終わりの始まりについて(完結)
ビスケット
BL
アルファ、ベータ、オメガの三つの性が存在するこの世界では、αこそがヒエラルキーの頂点に立つ。オメガは生まれついて庇護欲を誘う儚げな美しさの容姿と、αと番うという性質を持つ特権的な存在であった。そんな世界で、その他大勢といった雑なくくりの存在、ベータ。
希少な彼らと違って、取り立ててドラマチックなことも起きず、普通に出会い恋をして平々凡々な人生を送る。希少な者と、そうでない者、彼らの間には目に見えない壁が存在し、交わらないまま世界は回っていく。
そんな世界に生を受け、平凡上等を胸に普通に生きてきたβの男、山岸守28歳。淡々と努力を重ね、それなりに高スペックになりながらも、地味に埋もれるのはβの宿命と割り切っている。
しかしそんな男の日常が脆くも崩れようとしていた・・・
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
待て、妊活より婚活が先だ!
檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。
両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ!
……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ!
**ムーンライトノベルにも掲載しております**
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される
水ノ瀬 あおい
BL
若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。
昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。
年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。
リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。
無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる