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番外編 遍歴
アレクシスがオリヴァーの過去にやたら執拗にこだわってしまうのには当然理由がある。
まずやり直す前の人生において、彼の性に対するだらしなさを耳にしている。そして上の兄とそういった行為に及んでしまっているのを目撃したことがあった。
決して覗こうとかそういうのではなく、たまたま部屋の前を通り過ぎたら扉がうっすら空いていて、中から声が聞こえてきた。
荒い息遣いに苦しそうな声。初めは誰か病気で倒れているのではないか、と心配したけれど、ソファーの上で睦み合っている二人を見て、喉の奥がひゅっと狭くなるのを感じた。
まるで動物の交尾のような体勢で後ろから挿入されている自分の恩人。女だけでなく男も相手をしている話は聞いていたけれど、それを目の当たりにすると複雑な気分になった。じわじわと腹の奥から込みあがってくるどす黒い感情。それが嫉妬だと気づくのに時間はそう要さなかった。
そこでようやくアレクシスは彼に対して恋慕の情を抱いているのに気づいた。きっかけは分からないけれど、やはり命の恩人だからだろうか。もう朧げにしか覚えていないけれど、日に透ける金色の髪と心配そうにこちらを見つめる海を彷彿させる青い瞳。最初は天使が迎えにやってきたのかと思った。
そう思うと自分が好きになったのは彼の顔かもしれない。それならば彼の遍歴に辟易しつつも、ずっと慕い続けてきた理由も分からなくはなかった。
「まあ、確かにキレーな顔はしてますよね」
先日での出来事をバルナバスに愚痴ると呆れ気味にそう言われた。うんざりとした表情を隠すことのない彼にアレクシスはムッとする。
「もう少し真面目に話を聞いてくれたっていいじゃないか」
「十分聞いていると思いますけどねえ。あ、パトリック呼びます?」
弟の名前をすぐに出してくるあたり、もう自分は相手をしたくないと言っているようなものだ。元々、バルナバスはアレクシスに対して遠慮がなかったけれど、オリヴァーの話題になるとそれが顕著に出てくる。
「俺が本当のことを言ったところで、気分を悪くするじゃないですか」
「内容にもよるだろ」
「じゃあ、ここ最近、色気がヤバいって言ったら怒りません?」
「…………どういう目で見ているんだ」
「ほら、怒った」
反論しようと思ったが、あまりに言い訳じみていたのでアレクシスは口を噤んだ。
まだ出会った時の幼さが脳裏に残っているけれど、そろそろ成人を迎える彼は美しさに磨きがかかっている。前回の人生でも処刑されたときの二十五歳の姿は彼の最盛期であり、その美貌を見た庶民たちはあの見目で第二王子を篭絡したなど言われていて思い出すだけで腹が立った。
そもそもオリヴァー自身、自分の見目が周囲よりもずば抜けていることを自覚している。だから余計に性質が悪い。そして多少、自分が犠牲になって物事が円滑に進むのなら、それを受け入れてしまう。
恋人となって数年が経過したけれど不安しかない。
「まあ、でも実際、そういうやつは多いですからねえ。いっそのこと結婚でもしてしまえば?」
「けっ?!」
「別に男同士で結婚してはいけない決まりはありませんから」
確かにそうだが、きっとオリヴァーはそういった形式には捉われないだろう。彼は周囲の目など全く気にしない。それに少々害が出てきたとしても武力か権力に訴えて解決してしまう。アレクシスに守ってもらわれるような人ではない。
「あーあ、檻にでも閉じ込めておければ安心するのに」
そんなこと決して出来はしないけれど冗談交じりにそういうと、バルナバスは真顔で「……うわっ」と呟いた。
まずやり直す前の人生において、彼の性に対するだらしなさを耳にしている。そして上の兄とそういった行為に及んでしまっているのを目撃したことがあった。
決して覗こうとかそういうのではなく、たまたま部屋の前を通り過ぎたら扉がうっすら空いていて、中から声が聞こえてきた。
荒い息遣いに苦しそうな声。初めは誰か病気で倒れているのではないか、と心配したけれど、ソファーの上で睦み合っている二人を見て、喉の奥がひゅっと狭くなるのを感じた。
まるで動物の交尾のような体勢で後ろから挿入されている自分の恩人。女だけでなく男も相手をしている話は聞いていたけれど、それを目の当たりにすると複雑な気分になった。じわじわと腹の奥から込みあがってくるどす黒い感情。それが嫉妬だと気づくのに時間はそう要さなかった。
そこでようやくアレクシスは彼に対して恋慕の情を抱いているのに気づいた。きっかけは分からないけれど、やはり命の恩人だからだろうか。もう朧げにしか覚えていないけれど、日に透ける金色の髪と心配そうにこちらを見つめる海を彷彿させる青い瞳。最初は天使が迎えにやってきたのかと思った。
そう思うと自分が好きになったのは彼の顔かもしれない。それならば彼の遍歴に辟易しつつも、ずっと慕い続けてきた理由も分からなくはなかった。
「まあ、確かにキレーな顔はしてますよね」
先日での出来事をバルナバスに愚痴ると呆れ気味にそう言われた。うんざりとした表情を隠すことのない彼にアレクシスはムッとする。
「もう少し真面目に話を聞いてくれたっていいじゃないか」
「十分聞いていると思いますけどねえ。あ、パトリック呼びます?」
弟の名前をすぐに出してくるあたり、もう自分は相手をしたくないと言っているようなものだ。元々、バルナバスはアレクシスに対して遠慮がなかったけれど、オリヴァーの話題になるとそれが顕著に出てくる。
「俺が本当のことを言ったところで、気分を悪くするじゃないですか」
「内容にもよるだろ」
「じゃあ、ここ最近、色気がヤバいって言ったら怒りません?」
「…………どういう目で見ているんだ」
「ほら、怒った」
反論しようと思ったが、あまりに言い訳じみていたのでアレクシスは口を噤んだ。
まだ出会った時の幼さが脳裏に残っているけれど、そろそろ成人を迎える彼は美しさに磨きがかかっている。前回の人生でも処刑されたときの二十五歳の姿は彼の最盛期であり、その美貌を見た庶民たちはあの見目で第二王子を篭絡したなど言われていて思い出すだけで腹が立った。
そもそもオリヴァー自身、自分の見目が周囲よりもずば抜けていることを自覚している。だから余計に性質が悪い。そして多少、自分が犠牲になって物事が円滑に進むのなら、それを受け入れてしまう。
恋人となって数年が経過したけれど不安しかない。
「まあ、でも実際、そういうやつは多いですからねえ。いっそのこと結婚でもしてしまえば?」
「けっ?!」
「別に男同士で結婚してはいけない決まりはありませんから」
確かにそうだが、きっとオリヴァーはそういった形式には捉われないだろう。彼は周囲の目など全く気にしない。それに少々害が出てきたとしても武力か権力に訴えて解決してしまう。アレクシスに守ってもらわれるような人ではない。
「あーあ、檻にでも閉じ込めておければ安心するのに」
そんなこと決して出来はしないけれど冗談交じりにそういうと、バルナバスは真顔で「……うわっ」と呟いた。
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