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#6 アルフレッド・リース
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俺に前世の記憶がある話はアルフレッドにしているけれど、ここがゲームの世界だという説明はしていない。その話は主人公にもなるアルフレッドに対して厳しすぎる現実だからだ。これまでの出来事は全てゲームで決められたことです、なんてアルフレッドに対して失礼だ。
それにゲームの世界だとしてもここで生活をして生きているわけだし、リセットボタンなんてものは存在しない。王女はその辺も理解しているのだろうか。……あの様子だと取り返しのつかないことになるまで分からなさそうだ。
「何? その悪役令嬢って言うの」
「最近、令嬢たちの間で流行っている恋愛小説だよ。そこに出てくる主人公の恋路を邪魔する我儘で傲慢な令嬢を悪役令嬢って呼ぶんだと」
「ヴィンスにはそんなの似合わないよ」
そう言ってアルフレッドは俺の頬を撫でる。似合わないも何も俺が前世の記憶を取り戻さなければ、アルフレッドにきつく当たっていたかもしれないというのに。ゲームの存在を思い出すと、俺が悪役令嬢だったことを思い出さずには居られない。
そしてアルフレッドがヒロインであることも。
「以前、俺が前世の記憶がある話をしたのは覚えているか?」
「うん」
どうってことないような顔をしたアルフレッドは「それで?」と俺に話を続けるよう促す。
「どうやら第二王女にも前世の記憶があるらしい」
「まあ、君がそうなら他にもそう言う人が居ても可笑しくないけど、意外と近くにいたもんだね」
アルフレッドは顎に手を当てて納得したように頷いた。俺は前世の記憶を取り戻してからあれこれ気を使っていたが、王女の様子を見ていると彼女はそう言ったことは全く気にして無さそうだ。だからアルフレッドに対しても遠慮なくずけずけと言いたいことを言うに違いない。
彼がこの世界で生まれて育っているなんてことも考えず、お前の人生はゲームで決められていると、遊びだと言われたらどんな気持ちになるだろうか。
きっとそんなことを言われてもアルフレッドは傷ついたりしない。気にもしないだろう。
「俺が住んでいた世界では、娯楽としてゲームって言うのがあったんだ。説明が難しんだが、主人公になって敵を倒して世界を救ったり、武器を持って人と対戦したりとか、まあ、星の数ほど色んな種類のゲームがあった。その一つに恋愛小説のような話のゲームもあったんだ」
アルフレッドは何も言わずに俺を見ている。
「文字や絵だけじゃなく、自分が選んだ行動で物語が変わっていくような、不思議な仕組みだった。主人公には色んな選択肢が与えられて、その選択によって迎える最後が変わるんだ」
俺はごくりと口の中に溜まった唾を飲み込む。何を聞かされてもアルフレッドは動じないと信じていても、それでも俺の口からこんなことを言いたくなかった。
でも王女から聞かされるのはもっと嫌だ。
「俺は前世に居た時から、この世界のことを知っていた」
「………………どういうこと?」
さすがのアルフレッドも咄嗟には理解できないようで首を傾げる。
「ここはそのあるゲームと、全く同じ世界なんだ」
シン、と静寂が部屋を包む。
「さっき、ヴィンスが悪役令嬢とか言っていたけれど、そのげーむってやつに関係があるの?」
「……そうだ。俺はそのゲームに出てくる悪役令嬢だ」
「俺はその悪役令嬢って言うのがどういう存在なのかよく知らないけど、ヴィンスは悪役と呼ばれるような悪い人ではない。それにここがゲームの世界だって言っても、数人がそのことを知っているぐらいじゃこの世界は揺らがないよ」
本当にそういうところがヒロインらしくて、あまりの眩しさに目を逸らしたくなる。
「ヴィンスのその反応を見ていると、王女は遠慮のない人物っぽいね」
「え?」
「前にヴィンスが前世の話をしてくれたときはゲームのことを隠していたでしょう? それをわざわざこのタイミングでするってことは、回りまわって俺の耳に入ることを警戒したからじゃない?」
見事に俺の考えを言い当てられ頷くことしかできなかった。
「王女の狙いはお前だ」
「………………へ?」
「お前はそのゲームの主人公なんだよ」
さすがにこればっかりは意外だったようで、アルフレッドは目を丸くしていた。
それにゲームの世界だとしてもここで生活をして生きているわけだし、リセットボタンなんてものは存在しない。王女はその辺も理解しているのだろうか。……あの様子だと取り返しのつかないことになるまで分からなさそうだ。
「何? その悪役令嬢って言うの」
「最近、令嬢たちの間で流行っている恋愛小説だよ。そこに出てくる主人公の恋路を邪魔する我儘で傲慢な令嬢を悪役令嬢って呼ぶんだと」
「ヴィンスにはそんなの似合わないよ」
そう言ってアルフレッドは俺の頬を撫でる。似合わないも何も俺が前世の記憶を取り戻さなければ、アルフレッドにきつく当たっていたかもしれないというのに。ゲームの存在を思い出すと、俺が悪役令嬢だったことを思い出さずには居られない。
そしてアルフレッドがヒロインであることも。
「以前、俺が前世の記憶がある話をしたのは覚えているか?」
「うん」
どうってことないような顔をしたアルフレッドは「それで?」と俺に話を続けるよう促す。
「どうやら第二王女にも前世の記憶があるらしい」
「まあ、君がそうなら他にもそう言う人が居ても可笑しくないけど、意外と近くにいたもんだね」
アルフレッドは顎に手を当てて納得したように頷いた。俺は前世の記憶を取り戻してからあれこれ気を使っていたが、王女の様子を見ていると彼女はそう言ったことは全く気にして無さそうだ。だからアルフレッドに対しても遠慮なくずけずけと言いたいことを言うに違いない。
彼がこの世界で生まれて育っているなんてことも考えず、お前の人生はゲームで決められていると、遊びだと言われたらどんな気持ちになるだろうか。
きっとそんなことを言われてもアルフレッドは傷ついたりしない。気にもしないだろう。
「俺が住んでいた世界では、娯楽としてゲームって言うのがあったんだ。説明が難しんだが、主人公になって敵を倒して世界を救ったり、武器を持って人と対戦したりとか、まあ、星の数ほど色んな種類のゲームがあった。その一つに恋愛小説のような話のゲームもあったんだ」
アルフレッドは何も言わずに俺を見ている。
「文字や絵だけじゃなく、自分が選んだ行動で物語が変わっていくような、不思議な仕組みだった。主人公には色んな選択肢が与えられて、その選択によって迎える最後が変わるんだ」
俺はごくりと口の中に溜まった唾を飲み込む。何を聞かされてもアルフレッドは動じないと信じていても、それでも俺の口からこんなことを言いたくなかった。
でも王女から聞かされるのはもっと嫌だ。
「俺は前世に居た時から、この世界のことを知っていた」
「………………どういうこと?」
さすがのアルフレッドも咄嗟には理解できないようで首を傾げる。
「ここはそのあるゲームと、全く同じ世界なんだ」
シン、と静寂が部屋を包む。
「さっき、ヴィンスが悪役令嬢とか言っていたけれど、そのげーむってやつに関係があるの?」
「……そうだ。俺はそのゲームに出てくる悪役令嬢だ」
「俺はその悪役令嬢って言うのがどういう存在なのかよく知らないけど、ヴィンスは悪役と呼ばれるような悪い人ではない。それにここがゲームの世界だって言っても、数人がそのことを知っているぐらいじゃこの世界は揺らがないよ」
本当にそういうところがヒロインらしくて、あまりの眩しさに目を逸らしたくなる。
「ヴィンスのその反応を見ていると、王女は遠慮のない人物っぽいね」
「え?」
「前にヴィンスが前世の話をしてくれたときはゲームのことを隠していたでしょう? それをわざわざこのタイミングでするってことは、回りまわって俺の耳に入ることを警戒したからじゃない?」
見事に俺の考えを言い当てられ頷くことしかできなかった。
「王女の狙いはお前だ」
「………………へ?」
「お前はそのゲームの主人公なんだよ」
さすがにこればっかりは意外だったようで、アルフレッドは目を丸くしていた。
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