悪役令嬢(男)だけど、ヒロイン(男)と幸せになります。

カイリ

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#9 交換留学

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 隣国の王女がお忍びでやってきた話は貴族間に一瞬で広がり、即座に使者がやってきて無礼を詫びていた。てっきり婚約者の辺境伯令息が使者なのかと思っていたが、彼もまた彼女が出国したのを知ると勝手に飛び出してきたらしい。

 辺境伯の嫡子がそれでいいのか? しかもその事実が隣の国に知られているというのが余計に悲しさを生む。
 そもそも王女が国境を勝手に超えた時点で国にとっては大失態だ。我が国としては隣国に対して大きな貸しを作ったことになる。

 そこでエリューザルが提案してきたのは両国の信頼関係をさらに強固にするための「若き後継者たちの交流」だった。

 つまり、交換留学。

 王女の軽率な行動を「若い世代の交流の一端」とすり替えることで体裁を保ち、こちらには「名誉ある留学生を出す」ことで大きな貸しを作ったという形にできる。

 しかも派遣するのは、家を継がない次男・三男といった立場の貴族子弟。重すぎず軽すぎず、外交カードとしてちょうどいい。

 そしてその候補として白羽の矢が立ったのが俺、シェラード公爵家三男、ヴィンセント・ド・シェラード。

 ふざけんな!

「父さんも猛反対したんだけど、高位貴族で年齢的にちょうどいいのがヴィンスしかいなかったんだよ」

 ちょうどいいってなんだよ!

 不満は口には出さなかったけれど、顔と態度にもろ出ていたので父と兄が必死に俺の機嫌を取ろうとしているのがよく分かる。だがここで我儘を言って困らせることができないのは俺の性分でもあり、二人がテーブルに額をぶつけながら懇願している姿を目の当たりにして、

「分かりました」

 と答えるほかなかった。

 半ば強引に決まった交換留学の話だが、国を代表して行くのだからしっかりと勉強をしなければならない。そういうところも踏まえて、きっと俺しかいないという判断なのだろう。ふとアルフレッドのことが脳裏をよぎったけれど、それでも国や家を優先してしまうあたり、やはり俺は公爵令息なのだと思い知らされる。

 期間は一年だと聞いているが、長期休みぐらいしかこちらには帰ってこれないだろう。その間、あの王女がアルフレッドの傍にいると考えると、むしゃくしゃして全てを投げ捨てたくなった。

 さすがに留学するとなった途端、忙しくなった。言語は共通なので学ぶ必要はないけれど、エリューザルの国の成り立ち、貴族の名前等、覚えることが一気に増えた。家庭教師を付けられて、一日みっちりとカリキュラムが組まれて遊んでいる暇も、暇を持て余す時間も無くなってしまった。

 当然、アルフレッドとも会えていない。俺が留学することは知っているだろうが、俺の口からも説明できていない。手紙で伝えるのも不義理なようで出せていないけれど、俺はただそういう理由を付けて説明するのを先送りにしていた。
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