それらすべてが愛になる

青砥アヲ

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誰かと暮らすということ4

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 キッチン雑貨のお店での買い物を終えてから、地下の食料品売り場に移動した。
 まずは野菜コーナーを回りながら何を買おうか考える。

「お昼はどうしましょうか。帰ったら1時近くになりそうですし、何かすぐにできるものとか」
「ならパスタとかは?それなら茹でるの手伝えるし」

 ランチは茄子とベーコンのトマトパスタに決まった。これもカフェで特に女性客に人気でよく注文が入っていたメニューだ。
 夕食は和食系、せっかくなら買った深皿を使おうと、メインを肉じゃがにして献立を考える。

「料理得意なんだな、何でも作れんの?」
「4年キッチン担当だったので定番系なら大体…作ったことのない料理でも、今はレシピサイトも動画付きで分かりやすいですし。本格四川料理とか言われたらちょっと困っちゃうと思いますけど」

 話しながら食材を手に取って、茄子、じゃがいも、ほうれん草などをカートのカゴへと入れていく。

 そういえば、明日の月曜日は会社の初出勤日だ。
 朝ごはんは作るとして、明日からの夕食はどうすればいいのだろう。

「あの、明日からってどういうふうにします?」
「どうって…あぁ、朝とか?清流は家出るのは別がいいんだよな?」
「はい、絶対それがいいです」

 清流としては会社でこの関係はバレたくないので、行動パターンは別の方がいい。
 洸も会議の予定が多く7時半ごろに槙野が迎えにくるようなので、朝は一緒にごはんを食べ、清流が後に出ることにした。

「夜はどうしますか?」

 おそらく部長の洸よりは清流の方が早く家に帰ることになりそうだが、夕食を用意してもいいものなのか。
 洸のような立場ならば、社内や取引先などの付き合いもありそうだと想像できる。

「俺のことはひとまず気にしなくていい。
 それに清流自身も仕事が始まったら忙しくなるし生活ペースも変わるだろうから、慣れるまでは外で食べたり弁当買ったりでいいんじゃないか?うちの社食は夜22時まで開いてるからそこでも食べられるし。
 どうしても作りたいとかならもちろん止めないしキッチンも好きにしていい。けど、無理だけはするな」

 清流が配属される経営企画課は、一人欠員が出てすぐに人員が欲しいくらい人手不足だと言っていた。
 ただ仕事量もそうだが、業務内容も社外秘のことが多く、初出社するまでは詳しく教えてもらえていない。

 社会人経験も初めてになる自分が、どこまでやれるのかまだ見えない中で、何もかもやろうとするのは難しいのかもしれない。

「そうですね、まずは仕事を覚えたりするのが第一ですし、ペースが掴めるようになるまではそうします」

 まだ今日なら空いた時間で作り置きおかずを作ったりはできそうだなと思い、いくつかおかず用の材料を選んでいく。

「あのさ、気になってたんだけどいつまで『加賀城さん』呼びなんだ?」
「え?」

 ランチのサラダに入れようとアボカドを吟味していた手が止まる。
 俺は前から清流と呼んでいるのに、と不服そうな顔をするので、どう返答したものか困ってしまった。

「えっと、これから一緒に仕事するなら加賀城さんのままの方がいいと思うんですけど…私もずっと気になってたんですけど、会社ではちゃんと『工藤』って呼んでくださいね?」
「それくらいちゃんと使い分ける。だから家では名前で呼べよ、一緒に暮らすんだし」

(それはつまり、家ではたけるさんと呼ぶということ…?)

 清流は脳内で一度シミュレーションしてみるも、あまりのハードルの高さに首を全力で振った。

「いえ、無理ですっ、」
「要は慣れだろ1回言ってみれば、サンハイ」
「変な掛け声いらないですから!」

 顔を覗き込まれるように近づいてきて思わず後ずさる。

「清流も家と会社で使い分ければいいだろ」
「そうですけど、そういうの忘れてうっかり呼び間違えそうですし…私、物覚え悪いんで、」

 そう言い終わるが早いか、洸から頬をぎゅっとつねられた。

「い、痛いです…」
「あんまり卑下すんな」
「は、はい…?」
「うちの採用試験もパスしたんだ。頭も物覚えも悪くもない、面接した人事も褒めてたよ。人事の評価表を見せてやりたいくらい」

 まさかそんなふうに言われるとは思わず、清流はただ驚いて目を見張る。

「いいか、この試用期間中はお前の自己肯定感爆上げ期間にするからな」

 口調は冗談っぽいけれど、その目は意外なほど真剣だった。

「…それは初めて聞いたんですけど」
「だろうな、俺も今思いついた」

 ふっと笑うと、頬から手が離れて髪をぐしゃぐしゃと撫でられる。
 抗議しようかと洸を見上げて、その笑顔に毒気を抜かれてしまい、清流はそのままされるがままになっていた。

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