4 / 41
出会いの桜
3
しおりを挟む
夜も更け、静まり返った部屋で寝付けずにいた椿は、体を起こし布団から出た。羽織を肩にかけ障子を引いて縁側に出ると、からからと鳴る窓をそっと開ける。
時折虫の鳴き声が聞こえるだけの、静かな夜。星々が煌めく夜空には、月が光り輝き街を照らしていた。春とはいえ、夜になるとやや肌寒さを感じ、羽織をぎゅっと握りしめる。椿は縁側に腰かけると、そっと夜空を見上げた。
「結婚、かぁ……」
ぽつり呟いた声が空に消えた。
世間一般では年頃になると、親が決めた相手と結婚することが多い。
なかには小さな頃から約束している婚約者と結婚する人もいるそうだが、あいにく椿にはそういった相手もいなかった。
いずれは自分もと、ぼんやりと考えていたことだが、そんな折に両親が急逝。それどころではなかったこともあり、前から出ていた見合いを受けるのも先延ばしにしていたのだ。
『君に縁談の話があるんだが、どうだろう』
椿にそんな話を持ってきたのは、父と生前親交があった青山という男だった。和服もスーツもお洒落に着こなす紳士然とした男で、椿も何度か顔を合わせたことがあった。
『悪鬼討伐の特務部隊副隊長を務める院瀬見という青年だよ。隊の中でも出世頭で、優秀な男だと聞いている。稼ぎも十分で、椿君が不自由な生活を送ることはないだろう』
青山からの突然の話に驚きつつも、椿はちょうど良い頃合いかもしれないと考えた。
四ノ宮家当主だった父が亡くなり、現当主は椿よりもふたつ下の弟が務めることとなった。
両親や先祖が代々守ってきたこの家を、葵にはこれから守っていってもらわなければならない。家の存続という意味で、葵が妻を娶ることも当主の務めの一つなのだ。だからこそ、姉である自分も早く嫁に行かなくては。
今回の見合いを受けることに決めたのも、そういう理由からだった。
「それに私も、もう子どもじゃないんだから、しっかり自立しないといけないわ!」
ぐっと両手を握りしめ、決意を新たにする椿。
それは、まるで自分に言い聞かせるように出た言葉だったのか、月が映る瞳はどこか不安げに揺れていた。その不安を掻き消すように、椿は夜空に浮かぶ一等星を見つめ、誓いを立てた。
「……お父様、お母様。私、幸せになりますからね」と呟いて。
時折虫の鳴き声が聞こえるだけの、静かな夜。星々が煌めく夜空には、月が光り輝き街を照らしていた。春とはいえ、夜になるとやや肌寒さを感じ、羽織をぎゅっと握りしめる。椿は縁側に腰かけると、そっと夜空を見上げた。
「結婚、かぁ……」
ぽつり呟いた声が空に消えた。
世間一般では年頃になると、親が決めた相手と結婚することが多い。
なかには小さな頃から約束している婚約者と結婚する人もいるそうだが、あいにく椿にはそういった相手もいなかった。
いずれは自分もと、ぼんやりと考えていたことだが、そんな折に両親が急逝。それどころではなかったこともあり、前から出ていた見合いを受けるのも先延ばしにしていたのだ。
『君に縁談の話があるんだが、どうだろう』
椿にそんな話を持ってきたのは、父と生前親交があった青山という男だった。和服もスーツもお洒落に着こなす紳士然とした男で、椿も何度か顔を合わせたことがあった。
『悪鬼討伐の特務部隊副隊長を務める院瀬見という青年だよ。隊の中でも出世頭で、優秀な男だと聞いている。稼ぎも十分で、椿君が不自由な生活を送ることはないだろう』
青山からの突然の話に驚きつつも、椿はちょうど良い頃合いかもしれないと考えた。
四ノ宮家当主だった父が亡くなり、現当主は椿よりもふたつ下の弟が務めることとなった。
両親や先祖が代々守ってきたこの家を、葵にはこれから守っていってもらわなければならない。家の存続という意味で、葵が妻を娶ることも当主の務めの一つなのだ。だからこそ、姉である自分も早く嫁に行かなくては。
今回の見合いを受けることに決めたのも、そういう理由からだった。
「それに私も、もう子どもじゃないんだから、しっかり自立しないといけないわ!」
ぐっと両手を握りしめ、決意を新たにする椿。
それは、まるで自分に言い聞かせるように出た言葉だったのか、月が映る瞳はどこか不安げに揺れていた。その不安を掻き消すように、椿は夜空に浮かぶ一等星を見つめ、誓いを立てた。
「……お父様、お母様。私、幸せになりますからね」と呟いて。
0
あなたにおすすめの小説
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
◆平民出身令嬢、断罪で自由になります◆~ミッカン畑で待つ幼馴染のもとへ~
ささい
恋愛
「え、帰ってくんの?」
「え、帰れないの?」
前世の記憶が蘇ったニーナは気づいた。
ここは乙女ゲームの世界で、自分はピンク髪のヒロインなのだと。
男爵家に拾われ学園に通うことになったけれど、貴族社会は息苦しくて、
幼馴染のクローにも会えない。
乙女ゲームの世界を舞台に悪役令嬢が活躍して
ヒロインをざまあする世界じゃない!?
なら、いっそ追放されて自由になろう——。
追放上等!私が帰りたいのはミッカン畑です。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
運命には間に合いますか?
入海月子
恋愛
スペイン建築が大好きな設計士
大橋優那(おおはし ゆな) 28歳
×
せっかちな空間デザイナー
守谷翔真(もりや しょうま) 33歳
優那はスペイン建築を学ぶという夢が実現するというときに、空間デザイナーの翔真と出会った。
せっかちな彼は出会って二日目で優那を口説いてくる。
翔真に惹かれながらも、スペインに行くことが決まっている優那はその気持ちに応えられないときっぱり告げた。
それでも、翔真はあきらめてくれない。
毎日のように熱く口説かれて、優那は――
婚活令嬢ロゼッタは、なによりお金を愛している!
鈴宮(すずみや)
恋愛
ロゼッタはお金がなにより大好きな伯爵令嬢。男性の価値はお金で決まると豪語する彼女は、金持ちとの出会いを求めて夜会通いをし、城で侍女として働いている。そんな彼女の周りには、超大金持ちの実業家に第三王子、騎士団長と、リッチでハイスペックな男性が勢揃い。それでも、貪欲な彼女はよりよい男性を求めて日夜邁進し続ける。
「世の中にはお金よりも大切なものがあるでしょう?」
とある夜会で出会った美貌の文官ライノアにそう尋ねられたロゼッタは、彼の主張を一笑。お金より大切なものなんてない、とこたえたロゼッタだったが――?
これは己の欲望に素直すぎる令嬢が、自分と本当の意味で向き合うまでの物語。
オネェ系公爵子息はたからものを見つけた
有川カナデ
恋愛
レオンツィオ・アルバーニは可愛いものと美しいものを愛する公爵子息である。ある日仲の良い令嬢たちから、第三王子とその婚約者の話を聞く。瓶底眼鏡にぎちぎちに固く結ばれた三編み、めいっぱい地味な公爵令嬢ニナ・ミネルヴィーノ。分厚い眼鏡の奥を見たレオンツィオは、全力のお節介を開始する。
いつも通りのご都合主義。ゆるゆる楽しんでいただければと思います。
愛は契約範囲外〈完結〉
伊沙羽 璃衣
恋愛
「カヴァリエリ令嬢! 私はここに、そなたとの婚約を破棄することを宣言する!」
王太子の婚約破棄宣言を笑顔で見つめる令嬢、フェデリカ。実は彼女はある目的のために、この騒動を企んだのであった。目論見は成功したことだし、さっさと帰って論文を読もう、とるんるん気分だったフェデリカだが、ひょんなことから次期王と婚約することになってしまい!?
「婚約破棄騒動を仕向けたのは君だね?」
しかも次期王はフェデリカの企みを知っており、その上でとんでもない計画を持ちかけてくる。
愛のない契約から始まった偽りの夫婦生活、果たしてフェデリカは無事に計画を遂行して帰ることができるのか!?
※本編43話執筆済み。毎日投稿予定。アルファポリスでも投稿中。旧題 愛は契約に含まれません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる