氷月の最愛~政略結婚のはずが、クールな旦那様から溺愛が始まりました!~

来海空々瑠

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出会いの桜

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「最初に言っておきますが、結婚しても私には夫らしい振る舞いを期待しないでいただきたい」

 舞い散る桜を背景に、千歳は色のない眼差しを椿に向け、冷たい声でそう言った。告げられた言葉に、椿の手がぴたりと止まる。

「夫婦で出席する公式の行事があれば同伴すること、公の場では夫婦らしく振舞うこと。私が貴女に求めるのはそれだけです。欲しいものがあれば家の金を自由に使っていいですし、家事は通いの使用人に任せて貴女は好きに暮らしたって構いません」

 千歳は真正面から、何の取り繕いもせずに、そう言い切った。

「ただ……悪鬼を殲滅せんめつする特務部隊の副隊長を務める私の人生において、最優先すべきは帝のお命であり、この帝都の平和です。任務によっては長期で家を空けることもありますし、有事の際には貴女一人よりも大勢の命を救うことを優先する場合もあるでしょう。……私はそんな非情な男です」

 淡々と述べられた言葉。けれど、強く、凛とした眼差しに、どきりと胸が音を立てた。

「それでも貴女は、私と結婚なさいますか」

 真剣な瞳でそう問われ、椿は目を見張った後、ふと頬を緩めた。

 大事な弟のため、もとより覚悟を決めてこの見合い話を引き受けたのだ。だから、どんな風に尋ねられようとも、始めから答えは決まっていた。

「ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします、院瀬見様」

 そう伝え、顔を上げた椿は千歳に、にこやかに微笑みかけた。麗しい旦那様に、自由な暮らし。考えようによっては、これだけ好条件の結婚はないだろう。

「私のことはどうかお構いなく。どうぞ職務を最優先なさってくださいませ」

 両手をぐっと握りしめそう言った椿。そんな明るい返しは想定外だったのか、千歳はやや呆気に取られたような顔で椿のことを見つめていた──。
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