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1章 出会いのクッキー
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久志はごくりと息をのんだ。
「ち、違いません」
確かに久志はお菓子作りが趣味だし、甘いスイーツが大好きだ。それは間違いない。けれど、「お守りから甘い匂いがする」「リュックの中身」だけで人の素性が分かるだなんて。
「それだけの情報で答えを導き出すなんて、という顔をしているな」
そう言われて、目を見開く久志。この金髪イケメンには何でもお見通しなのか。
「いや、ちょっとビックリして……」
久志が驚いていると、スッと目を細めた金髪イケメンの視線が久志の手元に向けられた。
「……簡単なことだ。人をよく観察すれば、おおよそのことは分かる。例えば、この庭に足を踏み入れた君の視線がときおりこのスイーツに向けられていること。それも、手がかりの一つになりうる」
ふと笑いかけられて、久志は頬を赤らめた。視線の先には、庭園に設置されたテーブル。その卓上には、見た目も華やかな三段のアフタヌーンティーセットが置いてある。
(バレてたのか……めっちゃ気になってたんだよな)
スコーンにタルト、シュークリーム、ムース……と旬のフルーツをふんだんに使用した華美なスイーツの数々を前に、たらふく食べたはずの久志のお腹が鳴りそうになった。
「食べたいものがあるなら、どうぞご自由に」
久志は、また心を読まれたのかと思った。主人が席に戻ると、執事がさっと品よく椅子を引く。そうするのがさも同然といわんばかりのスマートさだ。麗しの金髪イケメンはそのまま優雅に椅子に腰掛け、唖然とした表情で突っ立っている久志に微笑みかけた。
「いまから僕と真夜中のティーパーティーを楽しむかい?それとも──」
金髪イケメンは、そこで言葉を区切ると首を少し傾けて今度は挑発的な笑みを浮かべた。
「吸血鬼が用意した食べ物なんか口には出来ないか?」
その瞬間、久志の顔は蒼白になった。お守りが見つかったことと、目の前のスイーツに気を取られていたが、そもそも久志がここへやってきた理由を思い出したからだ。
『あの洋館、吸血鬼が住んでるらしいねん』
意気揚々と、ドヤ顔でそんな話をしていた真司の言葉がまた頭の中に響いた。いやいや、そんな話があるわけない。そう思うのに、月を背景に佇む二人の男があまりにも絵になっているものだから、もしかして……という思考にもなってしまう。
「君からは、とても美味しそうな匂いがする」
妖艶な笑みを浮かべ、そう呟いた金髪イケメンは立ち上がって久志の方へと近づいてこようとした。ドクドクと音を立てる心臓。頭の中で危険を知らせる警報音が鳴る。とっさに防衛本能が働いた久志は、「し、失礼しました!」と勢いよく頭を下げた。
そのまま二人の顔も見ずに門をくぐり抜け、坂を駆け下りた。息が上がる。気づけば辺りはすっかり暗くなっており、月がやけに煌々と輝いている気がした。
しばらく走った久志は、膝に手をついて立ち止まった。ちらりと後ろを向いたが、誰もいない。静かな夜に息を乱し、久志はごくりと息を呑んだ。
「いやいや、吸血鬼とか……ファンタジー小説じゃないんだから」
「ち、違いません」
確かに久志はお菓子作りが趣味だし、甘いスイーツが大好きだ。それは間違いない。けれど、「お守りから甘い匂いがする」「リュックの中身」だけで人の素性が分かるだなんて。
「それだけの情報で答えを導き出すなんて、という顔をしているな」
そう言われて、目を見開く久志。この金髪イケメンには何でもお見通しなのか。
「いや、ちょっとビックリして……」
久志が驚いていると、スッと目を細めた金髪イケメンの視線が久志の手元に向けられた。
「……簡単なことだ。人をよく観察すれば、おおよそのことは分かる。例えば、この庭に足を踏み入れた君の視線がときおりこのスイーツに向けられていること。それも、手がかりの一つになりうる」
ふと笑いかけられて、久志は頬を赤らめた。視線の先には、庭園に設置されたテーブル。その卓上には、見た目も華やかな三段のアフタヌーンティーセットが置いてある。
(バレてたのか……めっちゃ気になってたんだよな)
スコーンにタルト、シュークリーム、ムース……と旬のフルーツをふんだんに使用した華美なスイーツの数々を前に、たらふく食べたはずの久志のお腹が鳴りそうになった。
「食べたいものがあるなら、どうぞご自由に」
久志は、また心を読まれたのかと思った。主人が席に戻ると、執事がさっと品よく椅子を引く。そうするのがさも同然といわんばかりのスマートさだ。麗しの金髪イケメンはそのまま優雅に椅子に腰掛け、唖然とした表情で突っ立っている久志に微笑みかけた。
「いまから僕と真夜中のティーパーティーを楽しむかい?それとも──」
金髪イケメンは、そこで言葉を区切ると首を少し傾けて今度は挑発的な笑みを浮かべた。
「吸血鬼が用意した食べ物なんか口には出来ないか?」
その瞬間、久志の顔は蒼白になった。お守りが見つかったことと、目の前のスイーツに気を取られていたが、そもそも久志がここへやってきた理由を思い出したからだ。
『あの洋館、吸血鬼が住んでるらしいねん』
意気揚々と、ドヤ顔でそんな話をしていた真司の言葉がまた頭の中に響いた。いやいや、そんな話があるわけない。そう思うのに、月を背景に佇む二人の男があまりにも絵になっているものだから、もしかして……という思考にもなってしまう。
「君からは、とても美味しそうな匂いがする」
妖艶な笑みを浮かべ、そう呟いた金髪イケメンは立ち上がって久志の方へと近づいてこようとした。ドクドクと音を立てる心臓。頭の中で危険を知らせる警報音が鳴る。とっさに防衛本能が働いた久志は、「し、失礼しました!」と勢いよく頭を下げた。
そのまま二人の顔も見ずに門をくぐり抜け、坂を駆け下りた。息が上がる。気づけば辺りはすっかり暗くなっており、月がやけに煌々と輝いている気がした。
しばらく走った久志は、膝に手をついて立ち止まった。ちらりと後ろを向いたが、誰もいない。静かな夜に息を乱し、久志はごくりと息を呑んだ。
「いやいや、吸血鬼とか……ファンタジー小説じゃないんだから」
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