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1章 出会いのクッキー

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「は、働くって一体……」
「クッキーなどと侮っていた……!素朴な味わいのクッキーに、これほどまでに心揺さぶられるとは!」

薫はそう言いながら、もう一枚のクッキーを取り出しては食べ、たまらないと言わんばかりに嬉々とした表情を浮かべている。その様を呆然とした様子で久志が見つめていると、加賀美が「申し訳ございません」と苦笑していた。

「い、いえ……こんなに、美味しそうに自分の作ったスイーツを食べてくれる人を見るのは初めてで、驚いてますけど」
「スイーツのことになると、いささか周りが見えなくなる傾向があるようで」
「喜んでもらえたみたいで、よかったです」

いまだパクパクとクッキーを食べ続ける薫。

「それより屋敷で働くって……どういうことですか?」
「加賀美の負担が大きいからと、雑用をこなしてくれる使用人をもう一人雇おうかと思っていたところだ。そこに、ちょうど職を失う君がいる。渡りに船じゃないか。パティシエとして、働く気はないか?」

何か問題が?と言わんばかりの物言いに、久志はただただ唖然とした。だが、すぐにはっとすると、「……パティシエを雇うって、そういうことで決めちゃっていいんですか」と言葉を続けた。久志の言葉に、眉をひそめる薫。

「……雇うなら、それ相応の条件が必要だと言いたいのか」

薫の言葉に、久志は顔を俯かせた。

『何度言ったらわかるんだ、この役立たず!』
『作業が遅すぎるんだよ、このノロマ!』

過去の記憶が蘇る。あの頃の、苦い苦い思い出が。

久志は手のひらをギュッと握りしめると、「そ、そうですよ……!」と返す。

「それこそ、神宮寺さんみたいなお金持ちがパティシエなんか雇うなら、海外とか有名店で修行を積んだとか、賞を獲ったとか……普通、そういう肩書きとか気にしませんか」
「確かに、名前のついた肩書きは、どういう人物かを知る物差しの一つにはなるだろうな」
「だったら──」
「でも、一番大事な判断材料にはなりえない」

迷いのない、まっすぐな言葉だった。薫は「少なくとも、僕にとっては」と付け加えると、俯いたままの久志に一歩近づいた。

「……本当は、大学生ではないのだろう?」
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