神戸異人館に住む名探偵はスイーツをご所望です

来海空々瑠

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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード

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それから加賀美に連れられて厨房へとやってきた久志。中は最新式の設備が整っており、棚にはさまざまな種類の調味料がずらりと並んでいて圧巻だ。

「厨房にある食材や調理器具は、自由に使って構いませんよ」
「さすが豪邸ですね……。厨房も冷蔵庫もなんか豪華」
「薫様のお祖母様がお料理好きでしたから、調理器具類は基本的なものはもちろん、一流レストランのシェフが使用するような本格的なものまで一通り揃っています」
「はあ」

ますます自分がずいぶん場違いなところにいる感が増してきた。だが、経緯はどうであれ、今日は薫にスイーツを作る約束だったのは確かである。お菓子作りは好きだし、こんな設備が整っている場所で作業ができるとは、と久志はどこかうきうきとした気持ちで厨房を見渡した。ひとまず、加賀美が使っているいう黒のエプロンを着用して、流しで手を洗う。

「じゃあ、冷蔵庫見せてもらっていいですか?どんな食材があるのかを見て、それから何を作るか決めますね」
「どうぞ、ご自由に」

にこりと微笑む加賀美に促され、久志は二人暮らしにしては大きすぎる冷蔵庫の扉を開いた。管理している者が綺麗好きだからか、冷蔵庫の中身もきちんと整理されており、何がどこにあるのかとても見やすい。

「うーん……とりあえず、少ない材料で出来るプリンでも作るかな」

冷蔵庫の中には、久志が見たこともない高級そうな食材がずらりと並んでいた。さすがはお金持ちの家!と感動してしまったが、久志に今課せられている任務は「糖分が足りなくて頭が働かない……」と元気がなくなってしまった主のためのスイーツ作りである。気を取り直して、調理の準備にかかることにした。

「プリンですか。薫様がお好きなスイーツの一つですよ」
「そうなんですか?それはよかった!」

今から作るプリンは、卵と砂糖、牛乳の3つの食材があればできる。 プリンの発祥はイギリス。もともとは船の乗組員が、余った肉や野菜を捨てずに卵液に入れて蒸したものがプリンの始まりだと言われているだけあって、簡単に作れるのがポイントだ。

最初は「プディング」と呼ばれ船乗りたちの間で親しまれていたが、その後、陸上でもプディングが広がり、いつしかフルーツやなどの具材を使った甘いプリンが作られるように。18世紀末ごろには、今と同じような卵液だけを固めて作るカスタードプリンが登場するようになったのだとか。

日本に伝わったのは江戸時代後期らしいが、庶民が食べられるようになったのは、それよりもずっと後。

「プリンっていえば、神戸にはおいしいプリンが多いんですよね。モロゾフのカスタードプリンとか、お土産でも神戸プリンとか、神戸魔法の壷プリンとか有名どころがありますから」
「ああ、確か薫様もここへ越して来てから、すぐに買いに走っていたような……。本当に、『スイーツの街・神戸』と言われているだけあって、クオリティが高いものが揃っていますね」

久志の頭には、嬉々としてプリンを食べる主人の顔が思い浮かんだ。話を聞けば聞くほど、スイーツに目がない御仁である。苦笑しつつも「じゃあ、今から作りますね」と久志が言うと、加賀美からは「お願いします」と返ってきた。

「謎解きもしてもらわなきゃ、ですしね」
「ただスイーツが食べたいだけな気もしますが……」
「まあまあ」

はあと大きなため息をつく加賀美からは、日頃の苦労が伺えた。ご主人様と執事という関係が、どういうものかはマンガやアニメのイメージしかない久志だが、屋敷にいる使用人は加賀美ひとり。きっと、久志が想像もできないような絆が二人にはあるのだろう、となんとなく思う。

「とはいえ、薫様には遺言状の謎を解いてもらわなければなりませんから。後でしっかりカロリー消化のための運動をこなしてもらうことにして、間宮様にはプリン作りに専念してもらうことにいたしましょう」
「お任せください!」

久志は元気よくそう言って加賀美を見た。すると、加賀美は小さく息を吐いて「期待してますよ」と笑う。

「ということで、まずは主人の舌を納得させる美味しいプリンをお願いします」
「了解しました!」
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