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2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード
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「お父様は、金銭的に価値のあるものではなく、物事の本質を見極められる人になって欲しいという思いを込めたのではないでしょうか」
「物事の、本質……」
目を丸くする裕次郎に、薫は「ええ」と話を続けた。
「平家物語の冒頭には『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ』という有名な一説があります。栄華を極めた平家の者が、命を落とす。冨山家は、お父様が一代で築き上げた会社だそうですが、そのお父様がいなくなったあとの子どもたちを案じていたのかもしれません。見る人によっては美術的価値はなく、どうしてこんなものをと思うかもしれませんが、おそらくお父様は資産としてこの絵を見るのではなく、絵画に込められたメッセージを正しく理解できる人であってほしいと、そんな思いを伝えるために、この絵を残されたのではないでしょうか」
薫の言葉に、「そうか、やっぱりそうだったのか……」と、しみじみと呟いた。
「あなたは、その意味をきちんと理解した上で、今日ここへ来られたのでしょう?今日、会ったときの表情は決して悲観的なものではなく、どこか心穏やかそうな表情でしたから」
薫がそう指摘すると、裕次郎は「そんなところまで見られてたんですか」と、頬を掻きながら笑っていた。
「『平家物語』は父がよく病室で読んでいたものでしたから。いつだったか、見舞いに行った私に『今まで悪かったな』と、らしくもなく謝罪の言葉を口にしたことがありました。……そんな父が、残された子どもたちに、そんな嫌がらせをするとは思えませんでしたから。そうではないとわかって、よかったなと思います」
そういった裕次郎の表情は晴れやかだった。
久志は改めてテーブルの上に置かれた絵画に目を向けた。豪奢な鎧を身にまとい、力強い目を向け合う二人の男。あまり美術品については詳しくない久志だったが、その絵はどこかじっと見入ってしまうような何かを持っているような気がした。
「物事の、本質……」
目を丸くする裕次郎に、薫は「ええ」と話を続けた。
「平家物語の冒頭には『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ』という有名な一説があります。栄華を極めた平家の者が、命を落とす。冨山家は、お父様が一代で築き上げた会社だそうですが、そのお父様がいなくなったあとの子どもたちを案じていたのかもしれません。見る人によっては美術的価値はなく、どうしてこんなものをと思うかもしれませんが、おそらくお父様は資産としてこの絵を見るのではなく、絵画に込められたメッセージを正しく理解できる人であってほしいと、そんな思いを伝えるために、この絵を残されたのではないでしょうか」
薫の言葉に、「そうか、やっぱりそうだったのか……」と、しみじみと呟いた。
「あなたは、その意味をきちんと理解した上で、今日ここへ来られたのでしょう?今日、会ったときの表情は決して悲観的なものではなく、どこか心穏やかそうな表情でしたから」
薫がそう指摘すると、裕次郎は「そんなところまで見られてたんですか」と、頬を掻きながら笑っていた。
「『平家物語』は父がよく病室で読んでいたものでしたから。いつだったか、見舞いに行った私に『今まで悪かったな』と、らしくもなく謝罪の言葉を口にしたことがありました。……そんな父が、残された子どもたちに、そんな嫌がらせをするとは思えませんでしたから。そうではないとわかって、よかったなと思います」
そういった裕次郎の表情は晴れやかだった。
久志は改めてテーブルの上に置かれた絵画に目を向けた。豪奢な鎧を身にまとい、力強い目を向け合う二人の男。あまり美術品については詳しくない久志だったが、その絵はどこかじっと見入ってしまうような何かを持っているような気がした。
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