異世界に英雄候補として召喚されたけど魔力が足りなくて奴隷になりました。なので手に入れた特別な力で復讐します。

疾風

文字の大きさ
3 / 12

第3話

しおりを挟む
遥斗の能力『真実の秤』の詳細

『真実の秤』は、遥斗が自らに向けられる言葉や行動が「真実」であるか「偽り」であるかを直感的に見極める力だ。その上に、内に秘めた真実さえも見破り理解することができる。そしてそれは、ただ単に相手の言葉が嘘か本当かを見抜くだけではない。何が嘘なのか。嘘をついている背景はどのようなものかまで自在に理解することができる。
 使用者が『真実の秤』の力を発動させたとき、偽りを抱えている者に対しては無言の威圧感が放たれ、相手が不安に駆られる。嘘をついている者には、自らの欺瞞が重りのようにのしかかり、逃げ場を失わせるような苦しみを感じさせるという副作用もある。この力はまだ遥斗が完全に習得したわけではなく、発動には集中力を要し、持続時間にも限りがある。だが、それでもこの力を駆使すれば、彼を蔑み、侮辱してきた者たちを一人ずつ裁き、償わせることができるかもしれない。



 遥斗は日々の奴隷生活の中で、自分の力を練習する機会を探し続けた。彼は表向きには無力な奴隷として振る舞いながらも、心の内で『真実の秤』の使い方を試行錯誤していた。

 ある日、厨房で皿を運んでいる最中、彼は料理長が他の奴隷に高圧的に特に手を上げながら命令する様子を目にした。

「上から、痛めつけてでもこき使えって言われてるんだよぉ~。悪く思うなよなぁ」

 料理長は顔をしかめて奴隷に悪態をつき、皿を粗雑に押し付けていた。それを見て遥斗は『真実の秤』を発動させてみた。目を凝らし、料理長の顔をじっと見つめると、遥斗の視界にわずかだが薄い灰色の靄《もや》が見え始めた。それは料理長が抱える偽りや後ろめたさが可視化されたものである。
 遥斗はその靄の色と重さから、料理長は上から奴隷に対しての扱いを改善するように言われていること。それにもかかわらず上に隠れて奴隷を酷使していることを直感的に理解した。奴隷を雑に扱うのが当たり前の世界ではあるが、この国では手を挙げ使い物にならなくしてしまってはいけない、と教育されているようである。この王国はそれほど、奴隷のコマが揃っているわけではないようだ。
 遥斗の能力は、相手の「表面の言葉」だけでなく「心の中の欺瞞」まで浮き彫りにする力を持っている。料理長のような立場を悪用する人間に対して、いつかこの力で報いを与えたいと遥斗は強く心に誓った。
 
 遥斗が『真実の秤』を確実に操れるようになるためには、実践が必要だと感じていた。そして、ついにその機会が訪れた。

 ある夜、遥斗は厨房で残り物の整理をしていたところ、貴族の一人が酔っ払ってふらふらと厨房に入ってきた。彼は遥斗に気付くと、愉快そうに口元を歪めて笑いながら近づいてきた。

「おい、お前、ちょっとここに来い」

 遥斗は無言のまま貴族の男に従ったが、その心には冷たい怒りが渦巻いていた。この男は、遥斗が召喚されて間もないころ、初めて「異世界からの英雄」として王宮で紹介された時に、遥斗を嘲り笑っていた貴族の一人だった。

 貴族の男が命じるままに遥斗は近づく。

「なんでしょうか?」

「なぁ、俺がお前を雇ってやろうか?腐っても、異世界からやってきた英雄候補だったやつだ。俺が給料の良い職を面倒見てやっても良い」

 遥斗は『真実の秤』を発動させる。

 貴族の男の表情を見つめた。その瞬間、彼の視界に赤黒い靄が現れ、貴族の男が持つ浅ましい偽りの本性が浮かび上がった。は遥斗に対する嫌悪感と、見下しの気持ちが渦巻いていることが明確に感じ取れた。
 どうやら、先日、自分の屋敷にいた奴隷を自らの手で殺めてしまい、新しい奴隷を探しているようだった。

「嘘つけ。お前んちの奴隷になどなってたまるか」
 
 遥斗はそう言って、唾を吐く。

「貴様!なんて口の聞き方をするんだ……!」
 
 貴族はそう言いながらいきなり背中を平手打ちした、遥斗はその場に倒れ込んでしまった。男は笑いながら「クソがっ!異世界の英雄と言われた男も一瞬にしてただの奴隷か、情けないものだなぁ~」と言う。


…貴様こそ、何の価値もないくせに

 遥斗は内心で毒づきながら、ゆっくりと立ち上がった。そして、視界に広がる赤黒い靄が男の周りに重く降り積もり、彼の心の「真実」を映し出していく。貴族の男は最初は遥斗に気付かずにいたが、徐々にその冷たい威圧感に顔色が青ざめ、目を泳がせ始めた。

「お、おい。貴様、俺に何をした!?」

 男は怯えた様子で後退りし、次第に焦りと恐怖が顔に浮かんできた。遥斗の『真実の秤』は相手のついた嘘を明らかにし、使用者に教えてくれる。そして、嘘をついた相手は精神的な圧力をかける。その重さに耐えきれず、男は膝をついて震え出し、「許してくれ」と懇願し、そして気絶した。

 まだ力は弱いが、これが遥斗にとって初めての「裁き」だった。

 貴族の男が恐怖で崩れ落ちる姿を見て、遥斗は不思議な達成感を感じた。自分がこの異世界での最初の一歩を踏み出したような気がしたのだ。この力で王国の悪人、偽善者たちを裁き、彼らに報いを与えることができる――そんな確信が彼の胸に芽生え始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?

処理中です...