9 / 12
第9話
しおりを挟む
リセリアはガイルが地面に崩れ落ちるのを確認すると、荒い息を整えながら門の方を見やった。遥斗たちはすでに門を目指して移動を始めている。彼女は自分がここで立ち止まってはいけないと気を引き締め、急ぎ彼らの後を追うことにした。
廊下を駆け抜け、館の出口に近づくにつれて、遠くから遥斗たちの気配が感じられる。リセリアはその姿を見つけると、大きな声で呼びかけた。
「遥斗!そちらは無事?」
遥斗が振り返り、彼女に向かって手を振った。彼の隣には解放された奴隷たちが不安そうな表情を浮かべながらも、リセリアの姿を見て少しだけ安堵の表情を見せる。
「リセリア!ガイルはどうなった?」
「もう二度と立ち上がることはないわ。さあ、急ぎましょう」
「まさか倒したのか?」
「まぁね」
「す、すげぇ……どうやって」
「説明は後。とりあえず今は走るわよ!」
その言葉を聞いた遥斗は再び足を速め、リセリアも後に続く。外へと続く広場では、残りの衛兵が待ち構えていた。奴隷たちが怯える中、リセリアは冷静に立ち止まり、彼らの前に立って衛兵たちを見据えた。
「あなたたち、ここを通してもらうわよ。もう無意味な戦いはやめなさい」
衛兵たちはリセリアの威圧感に圧倒され、一瞬ためらいを見せたが、命令に従わざるを得ない様子で武器を構えた。リセリアは目を閉じ、一瞬、静かな祈りのように両手を合わせると、再び淡い光が彼女の体から溢れ出した。
「させない」
その一言とともに、青白い光が衛兵たちに向かって放たれ、彼らの武器が一瞬にして粉々に砕け散った。衛兵たちは驚き、動揺しながらもその場から退き始める。
「今の隙に、行くわよ!」
リセリアが奴隷たちに声をかけると、彼らは彼女に従い、一斉に門へと走り出した。遥斗が先頭に立ち、門を押し開けると、冷たい夜風が彼らを迎えた。館からの脱出を果たし、彼らは一気に自由への道を駆け抜けていった。
リセリアは後方を警戒しながらも、遥斗たちの無事を確認しつつ共に夜の闇の中へと姿を消していった。
(なんだ今のは?)
遥斗は内心でとても驚いていた。今のリセリアの力は普通じゃない。こんなに強いのになんで奴隷なんかになったんだ。遥斗は、ずっと協力して今日まできたリセリアのことが初めて怖いと感じた。
王宮から脱出し、夜の闇の中を駆け抜けていく遥斗たち。冷たい夜風が彼らの頬を撫で、自由を手にした実感が胸に広がり始める。しかし、遥斗の心には疑念が生まれていた。リセリアが見せた力、それは常軌を逸していた。彼女のあの力があれば、どうして今まで逃げられなかったのか、どうして奴隷という立場に甘んじていたのか──その問いが頭を離れない。
リセリアは遥斗たちの様子を気にかけつつも、後方を警戒し続けている。彼女の表情には緊張の色が見え隠れし、どこか険しいものがある。それでも、彼女の目はまっすぐ前を向き、先導する姿勢を崩さない。奴隷たちは、彼女の後ろに続きながらも、心配そうに周囲を見回し、追手が来ないことを祈るように小声で囁き合っていた。
しばらく走り続けた後、一行はようやく近くの森に辿り着く。木々が密集したこの場所なら、少なくとも一時的に身を隠せるだろう。遥斗は奴隷たちを見渡し、全員が無事であることを確認すると、安堵の息を漏らした。
「ひとまずここで休憩しよう。みんな、無事でよかった」
奴隷たちは疲労と緊張から解放され、地面に腰を下ろす。それぞれがささやかな喜びを分かち合い、互いに微笑み合っていた。自由を実感し始めた彼らの姿を見て、遥斗も少しだけ肩の力を抜いた。
だが、リセリアだけは警戒を解かない。木陰に立ち、周囲の様子を見張り続けている。そんな彼女の姿に、遥斗は再び不思議な感覚を覚えた。彼女のあの力、それに加えてその冷静さと覚悟。普通の人間ではないのだろうか?その思いが彼の心に浮かび、思わず彼女に声をかけた。
「リセリア、君は一体……何者なんだ?」
リセリアは振り返り、遥斗を見つめる。その瞳には冷たい光が宿り、言葉を選ぶように少し間を置いてから答えた。
「私は……奴隷よ。でも、たった今、君の力のおかげもあって奴隷じゃなくなった」
遥斗はその答えに納得しきれなかったが、それ以上深く追及するのは控えた。彼女には何か重大な秘密があるのかもしれないが、それを聞き出すのは今ではない、と直感で感じたからだ。
ふいに、遠くから何かが近づく音が聞こえてきた。リセリアが耳を澄ませ、目を細める。
「……馬の足音。追っ手が来たようね」
奴隷たちがその言葉に怯え、声を潜めた。恐怖が彼らの間に広がり始める。リセリアは奴隷たちを落ち着かせるように手を上げ、冷静な声で指示を出す。
「ここにいても危険だと思う。すぐにここを離れてさらに森の奥へ進むわ。できるだけ音を立てず、慎重に行動して」
遥斗も彼女に同意し、奴隷たちを支えるようにして再び移動を始めた。森の中は暗く、足元も見えづらいため、進むのは容易ではない。だが、彼らに選択肢はなかった。
進む中で、リセリアが後ろを振り返り、少しだけ不安げな表情を浮かべた。何かに迷っている様子だった…
「リセリア、追っ手が見つける前に君の力でなんとかできないか?」
遥斗のその言葉にリセリアは一瞬だけ思案したあと、ため息をつくように答えた。
「できれば使いたくないの。本当は、あの力は私自身にも制御が難しいから」
「わかった。なるべく使わないで良いようにみんなでなんとかしよう」
森の奥深くに進んだ彼らは、ようやく人目につかない小さな洞窟を見つけた。奴隷たちは疲労困憊していたが、ようやく休むことができる場所にたどり着いたことに安堵し、洞窟の中で一人一人、静かに座り込んでいった。
洞窟の入口に立ち、外を見張っていたリセリアが、ふと遥斗の方を見つめた。
「遥斗、ここから先は覚悟が必要よ。逃げることはできたけど、これからどうするか、考えなきゃいけないわ」
「俺は……。ここで終わるつもりはない。自由を掴んだ以上、それを守るために戦う覚悟があるよ。リセリアは?」
リセリアは静かに頷き、彼の言葉を受け止めるように視線を合わせた。
「もちろん。ここまで来たからには最後までやり遂げるわ」
彼女の力強い返事に、遥斗は心強さを感じた。そして二人は新たな決意を胸に、洞窟の中で体を休め、明日に備えることにした。
廊下を駆け抜け、館の出口に近づくにつれて、遠くから遥斗たちの気配が感じられる。リセリアはその姿を見つけると、大きな声で呼びかけた。
「遥斗!そちらは無事?」
遥斗が振り返り、彼女に向かって手を振った。彼の隣には解放された奴隷たちが不安そうな表情を浮かべながらも、リセリアの姿を見て少しだけ安堵の表情を見せる。
「リセリア!ガイルはどうなった?」
「もう二度と立ち上がることはないわ。さあ、急ぎましょう」
「まさか倒したのか?」
「まぁね」
「す、すげぇ……どうやって」
「説明は後。とりあえず今は走るわよ!」
その言葉を聞いた遥斗は再び足を速め、リセリアも後に続く。外へと続く広場では、残りの衛兵が待ち構えていた。奴隷たちが怯える中、リセリアは冷静に立ち止まり、彼らの前に立って衛兵たちを見据えた。
「あなたたち、ここを通してもらうわよ。もう無意味な戦いはやめなさい」
衛兵たちはリセリアの威圧感に圧倒され、一瞬ためらいを見せたが、命令に従わざるを得ない様子で武器を構えた。リセリアは目を閉じ、一瞬、静かな祈りのように両手を合わせると、再び淡い光が彼女の体から溢れ出した。
「させない」
その一言とともに、青白い光が衛兵たちに向かって放たれ、彼らの武器が一瞬にして粉々に砕け散った。衛兵たちは驚き、動揺しながらもその場から退き始める。
「今の隙に、行くわよ!」
リセリアが奴隷たちに声をかけると、彼らは彼女に従い、一斉に門へと走り出した。遥斗が先頭に立ち、門を押し開けると、冷たい夜風が彼らを迎えた。館からの脱出を果たし、彼らは一気に自由への道を駆け抜けていった。
リセリアは後方を警戒しながらも、遥斗たちの無事を確認しつつ共に夜の闇の中へと姿を消していった。
(なんだ今のは?)
遥斗は内心でとても驚いていた。今のリセリアの力は普通じゃない。こんなに強いのになんで奴隷なんかになったんだ。遥斗は、ずっと協力して今日まできたリセリアのことが初めて怖いと感じた。
王宮から脱出し、夜の闇の中を駆け抜けていく遥斗たち。冷たい夜風が彼らの頬を撫で、自由を手にした実感が胸に広がり始める。しかし、遥斗の心には疑念が生まれていた。リセリアが見せた力、それは常軌を逸していた。彼女のあの力があれば、どうして今まで逃げられなかったのか、どうして奴隷という立場に甘んじていたのか──その問いが頭を離れない。
リセリアは遥斗たちの様子を気にかけつつも、後方を警戒し続けている。彼女の表情には緊張の色が見え隠れし、どこか険しいものがある。それでも、彼女の目はまっすぐ前を向き、先導する姿勢を崩さない。奴隷たちは、彼女の後ろに続きながらも、心配そうに周囲を見回し、追手が来ないことを祈るように小声で囁き合っていた。
しばらく走り続けた後、一行はようやく近くの森に辿り着く。木々が密集したこの場所なら、少なくとも一時的に身を隠せるだろう。遥斗は奴隷たちを見渡し、全員が無事であることを確認すると、安堵の息を漏らした。
「ひとまずここで休憩しよう。みんな、無事でよかった」
奴隷たちは疲労と緊張から解放され、地面に腰を下ろす。それぞれがささやかな喜びを分かち合い、互いに微笑み合っていた。自由を実感し始めた彼らの姿を見て、遥斗も少しだけ肩の力を抜いた。
だが、リセリアだけは警戒を解かない。木陰に立ち、周囲の様子を見張り続けている。そんな彼女の姿に、遥斗は再び不思議な感覚を覚えた。彼女のあの力、それに加えてその冷静さと覚悟。普通の人間ではないのだろうか?その思いが彼の心に浮かび、思わず彼女に声をかけた。
「リセリア、君は一体……何者なんだ?」
リセリアは振り返り、遥斗を見つめる。その瞳には冷たい光が宿り、言葉を選ぶように少し間を置いてから答えた。
「私は……奴隷よ。でも、たった今、君の力のおかげもあって奴隷じゃなくなった」
遥斗はその答えに納得しきれなかったが、それ以上深く追及するのは控えた。彼女には何か重大な秘密があるのかもしれないが、それを聞き出すのは今ではない、と直感で感じたからだ。
ふいに、遠くから何かが近づく音が聞こえてきた。リセリアが耳を澄ませ、目を細める。
「……馬の足音。追っ手が来たようね」
奴隷たちがその言葉に怯え、声を潜めた。恐怖が彼らの間に広がり始める。リセリアは奴隷たちを落ち着かせるように手を上げ、冷静な声で指示を出す。
「ここにいても危険だと思う。すぐにここを離れてさらに森の奥へ進むわ。できるだけ音を立てず、慎重に行動して」
遥斗も彼女に同意し、奴隷たちを支えるようにして再び移動を始めた。森の中は暗く、足元も見えづらいため、進むのは容易ではない。だが、彼らに選択肢はなかった。
進む中で、リセリアが後ろを振り返り、少しだけ不安げな表情を浮かべた。何かに迷っている様子だった…
「リセリア、追っ手が見つける前に君の力でなんとかできないか?」
遥斗のその言葉にリセリアは一瞬だけ思案したあと、ため息をつくように答えた。
「できれば使いたくないの。本当は、あの力は私自身にも制御が難しいから」
「わかった。なるべく使わないで良いようにみんなでなんとかしよう」
森の奥深くに進んだ彼らは、ようやく人目につかない小さな洞窟を見つけた。奴隷たちは疲労困憊していたが、ようやく休むことができる場所にたどり着いたことに安堵し、洞窟の中で一人一人、静かに座り込んでいった。
洞窟の入口に立ち、外を見張っていたリセリアが、ふと遥斗の方を見つめた。
「遥斗、ここから先は覚悟が必要よ。逃げることはできたけど、これからどうするか、考えなきゃいけないわ」
「俺は……。ここで終わるつもりはない。自由を掴んだ以上、それを守るために戦う覚悟があるよ。リセリアは?」
リセリアは静かに頷き、彼の言葉を受け止めるように視線を合わせた。
「もちろん。ここまで来たからには最後までやり遂げるわ」
彼女の力強い返事に、遥斗は心強さを感じた。そして二人は新たな決意を胸に、洞窟の中で体を休め、明日に備えることにした。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
DIYと異世界建築生活〜ギャル娘たちとパパの腰袋チート
みーくん
ファンタジー
気づいたら異世界に飛ばされていた、おっさん大工。
唯一の武器は、腰につけた工具袋——
…って、これ中身無限!?釘も木材もコンクリも出てくるんだけど!?
戸惑いながらも、拾った(?)ギャル魔法少女や謎の娘たちと家づくりを始めたおっさん。
土木工事からリゾート開発、果てはダンジョン探索まで!?
「異世界に家がないなら、建てればいいじゃない」
今日もおっさんはハンマー片手に、愛とユーモアと魔法で暮らしをDIY!
建築×育児×チート×ギャル
“腰袋チート”で異世界を住みよく変える、大人の冒険がここに始まる!
腰活(こしかつっ!)よろしくお願いします
魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです
忠行
ファンタジー
魔法使いが無双するファンタジー世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか忍術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです。むしろ前の世界よりもイケてる感じ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる