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扉を開けて部屋に入るとそこには胸元が大きく開いた真っ赤なドレスを着たきれいな紫色の少女がいた。

もしや…と期待を膨らませ面会を始める。しかし聞けば聞くほど噂のような生活を送っているらしく服の自慢やかかった費用などの話ばかり。女神様かもしれないと期待を抱いた自分が愚かだったと1時間もかからない面会は終わりを迎えた。

どのような女性でもエスコートをするのが皇太子のモットーだった。エスコートをするために差し出した手。それにこたえるようにおろしていた髪を耳にかけ手をそえる。立ち上がった彼女の方に目を向けると見覚えのあるピアスが目に入った。

「女神様…。」フィズケルは無意識にその言葉が口から出てしまった。

もしかしたら片方の耳にも同じものがついているのかもしれない。ただ似ているだけかもしれない。だが、紫色の髪に紫色の瞳。共通点が多すぎてただの偶然とは割り切れなかった。

女神様と言われ困惑しながら固まるにフィズケル「どうしました…?」と声をかける。

「ヴァイオレッタ公爵令嬢…正直に答えてください。貴方は本当に噂されるような人なのですか…?」

「噂がどういうものかは知りませんけど間違ってはいないのでは?」

「聞き方を変えます。貴方のお金の使い道は本当に私欲に使ったのですか?もし嘘と発覚した場合それ相応の対応を…よく考えて答えてください。」

「なっ…。職権乱用ですってば…。知ってたんですか?その聞き方はもう把握されているようですけど…」

「そうだね。今君の正体に気が付いたというのが正しい。そのピアスが目に入ったから…」

「ピアス…?」

フィズケルはいつ会えてもいいように持ち歩いていたピアスをポケットの中から取り出す。

「無くしたと思っていたんです。あの時私に声をかけたのは殿下だったんですね。母の形見なんです。ずっと前の事ですのに長い間大切に預かっててくれてありがとうございます。」

「ヴァイオレッタ公爵令嬢。まだ時間は大丈夫かい?僕は悪名高いヴァイオレッタ公爵令嬢ではなく国民から女神様と呼ばれる貴方と話がしたい。」

「わかりましたから///女神様はやめて…ください…///まさかそう呼ばれていたとは…初耳でした。」

女神様と美形の殿下に真剣に言われ照れずにはいられない。

「では単刀直入に聞く。君はなぜ悪女と呼ばれその噂に当てはまる服装できたんだい?君はだいぶ食料を分けてくれているみたいだけど自分のお金がないのでは?」

ヴァイオレッタ公爵令嬢は説明した。貧民街に通い食料を与えていると公爵に知られ恥だとお金をもらえなくなった彼女は庶子だとしても公爵令嬢。伝手を頼りに起業し今では経営をも手掛けていること。そしてこの破廉恥な服装は噂通りだと周りに誤解させるため。

「どうしてその噂を訂正しないんだい?」

元々その噂は庶子のくせに顔が整っていると姉たちにいじめられお金をもらえなくなったあたりで話が飛躍しその中で仕事柄男性と仕事について話す機会がありその現場をおそらく見られ今現在の噂になったという。そしてお金に困っている様子のないヴァイオレッタは「その男にお金をもらっているのだわ」と姉たちに言われていた。

「その方が都合が良いのです。パーティーなどに行けば私は男性たちに勘違いされ良からぬ提案をされたこともありました。しかし行かない選択をしても噂は1人歩きをし、私の都合のいいように勝手に解釈される。そして今日この格好できたのは変に目立たないため。普段着ている服で来たら殿下は疑問を抱くのでしょう。しかし噂のような雰囲気でこればこの程度の女性だと早めに判断され早めに帰れると考えました。」

そのヴァイオレッタの企みは成功していた。何が問題かを聞かれたらピアスを付けてきたからだと答えるしかない。しかしそれは母の形見であり外す選択肢がないことから気づかれるのは必然だったといえる。
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