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何も知らない聖女
身体を綺麗にしよう
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翌日の朝、クララは、突然差し込んできた朝日によって、睡眠を妨害された。その犯人は、部屋のカーテンを開いていっていたリリンだった。
「うぅん……」
「クララさん、朝ですよ」
「もう……少し……」
昨日の夕方から寝ているというのに、クララは、まだ寝足りないと言う。そんなクララを、リリンは、起こし続ける。
「起きてください、クララさん」
「まだ……寝たい……」
魔族に捕まっているというのに、クララは、今までの旅の中で……いや、教会に連れて行かれてから、一番安心して眠っていた。普段であれば、朝になったのとほぼ同時に、自分で起きているところだが、今の眠りが気持ちよすぎて、起きたくないという気持ちが優先されてしまっているのだ。
(良いベッドにしすぎましたかね? 寝顔が可愛いので、いつまでも見ていたいですが……)
リリンは、心を鬼にして、クララを起こす決意をする。
「クララさん、起きてください。起きないと……」
ここで、リリンは自分の口をクララの耳元に近づける。
「また、キスしてしまいますよ?」
「んん……」
クララのトラウマを利用して起こす作戦だったのだが、そう言われたクララは、リリンの思惑とは逆に、唇をリリンの方に向けた。傍から見れば、キスをせがんでいるようにも見える。
「……」
これには、リリンも驚いた。だが、すぐに小さく微笑む。
(本当に……食べたくなるくらい可愛いですね)
リリンは、我慢できなくなり、クララの唇に軽くキスをする。その直後、クララが眼を覚ました。クララは、目の前にリリンの顔がある事に驚き、その後に周囲を見る。自分の置かれている状況を思い出しているのだ。
クララがそんな反応している間に、リリンは部屋に置かれているテーブルに朝食を並べていく。
「……もしかして、キスしました?」
「きちんと確認は取りましたよ。キスしてしまいますよと。そうしたら、クララさんの方から、こちらに唇を向けましたので、して欲しかったのかと思いキスしました」
「寝ぼけていたんです!」
クララは、顔を赤くしながら弁明する。クララは、自分がそんな事をしたという記憶がないため、自分が寝ぼけていたと判断した。そうでないと、心の奥では、リリンのキスを受け入れているという事になると思ったからだった。
「そもそも、起きないクララさんが悪いのですよ? ずっと、まだ寝たいばかり言うのですから」
「うぅ……このベッドと布団が気持ち良すぎるのが悪い……」
ここのベッドは、クララが今まで泊まったどの宿屋も敵わない程、寝心地が良いベッドだった。それは、人族領の中に、これ程までのベッドはないと思ってしまうほどの代物だったのだ。
「一流の職人が仕上げていますからね。魔族領の中でも良質なものです」
「人族にはない技術って事ですか?」
「どうでしょうか? 寝具に関しては、そこまで詳しくはないので、確実な事は言えませんが、向こうにも似たような技術はあると思いますよ。違うのは、素材かと」
「素材ですか?」
特殊な技術が必要なのだと考えていたクララは、素材が違うということに首を傾げる。
「はい。続きは、朝食を食べながらとしましょう」
リリンは、いつまで経っても布団から抜け出さないクララをお姫様抱っこして運ぶ。いきなりお姫様抱っこをされたクララは、驚いて縮まり込んだ。そのまま、備え付けの椅子に座らされて、テーブルとの距離を調整される。
クララの目の前にある朝食は、ベーコンエッグとパン、サラダだった。飲み物は牛乳と水の二種類が置かれている。
「……こんな豪華な食事を頂いても良いんですか?」
「豪華? いえ、申し訳ありませんが、これはあまり豪華ではないですよ? 一般的な食事です」
「そうなんですか? こんないっぱい食べられる朝ご飯は久しぶりです」
教会に連れ去られてから、あまり良い食事を出来ていなかったクララにとっては、これでも豪華な食事と呼べた。そんなクララに同情して、リリンは優しく頭を撫でる。
「おかわりもございますので、遠慮せずにお召し上がりください」
「いただきます」
クララは、用意された朝食を食べていく。リリンは、そんなクララの給仕をしていく。そんな中、部屋の扉が開いた。
「失礼するわよ」
ノックもせずに、中へと入ってきたのは、カタリナだった。
「あら、まだ朝食中だったのね。良いわよ、食べていて」
カタリナが来たことで、食事の手を止めていたクララに食べたままで良いと促した。クララは、言葉に甘えて朝食を食べ続けながら、気になった事を訊く。
「昨日の話の続きですか?」
「今日は、その前にやることがあるわ」
「?」
どういうことか検討がつかず、クララは首を傾げる。そんなクララに、カタリナは、ニコッと微笑む。
「お風呂よ。クララちゃんは、昨日から一度も入っていないでしょ? しっかり洗わないとね」
「おふろ……?」
────────────────────────
朝食を食べ終わったクララが連れてこられたのは、見たことがない光景だった。辺りに湯気が立ちこめ、床よりもかなり深くなった場所にお湯が溜められている。
「これが、お風呂……」
「本当に、見たことがなかったのね。向こうにも温泉くらいならあるんじゃないの?」
「温泉……確か、旅をしているとき、皆が行ってきたって、言っていた気がします」
「……」
「……」
クララの言葉に、カタリナとリリンは何も言えなくなり、クララの頭を撫でる。
「それじゃあ、まずは身体を洗うわよ」
「クララさんは、こちらにお越しください」
クララは、リリンに手を引かれて、洗い場に移動した。クララは、人族領では見たことがない設備に、戸惑っていた。リリンは、そんなクララを椅子に座らせて、その後ろに自分も座る。
「お湯を掛けますから、眼を瞑っていてください」
「は、はい」
リリンがシャワーノズルを持って、クララにお湯を掛けていく。クララは、いつも水浴びと濡れ布巾で済ませていたので、これで終わりだと思い、立ち上がろうとする。
「クララさん、まだですよ」
「?」
そんなクララを、リリンが椅子に押し留める。
「今から、髪や身体を綺麗に洗いますので、また少しの間、眼を瞑っていてください。眼に入ってしまうと、染みてしまって痛いですから」
リリンにそう言われたクララは、痛いのは嫌だと思い、眼をぎゅっと瞑った。そんなクララを、リリンとカタリナは微笑ましいと感じた。リリンは、手で洗髪剤を泡立てると、クララの髪を洗っていく。
「向こうでは、石鹸などはないのですか?」
「石鹸は高級品だったので、私は使えませんでした。他の三人は使っていたみたいですけど……」
「本当に、どうしようもないわね。よくずっと一緒にいたわね?」
「勇者と一緒に魔王を倒す事が使命だったので……その前に捨てられましたけど……」
「結果的に、そうなって正解だったかもしれませんね。ずっと一緒にいたら、何をされたか、分かりませんし」
実際、クララは、魔王城に攫われてからの方が、人族領にいた頃よりも良い暮らしをしている。
「少しの間なら、眼を開けて大丈夫ですよ」
「はい」
クララが眼を開けると、リリンが見た事の無い油のようなものを髪に塗っていた。クララは、リリンが何をしているか分からず、きょとんとしていた。
「せっかくの綺麗な髪ですので、きちんと整えないといけませんから。これで、もっと綺麗になりますよ」
「……魔族の方々は、いつもこんな感じで清めているんですか?」
「身分の程度で、豪華さに違いはあるけど、基本的には、こんな感じで暮らしているはずよ。こういう生活を充実させるものを、領土の端まで広める事を重視した魔王がいてね。今、こういう形になっているのよ」
「へぇ~……」
魔族が、確実に人族よりも良い暮らしをしている事を知り、クララは呆然としてしまう。何から何まで、聞いていた話と違う。
「私は、洗い終わったから、クララちゃんを受け取るわ。リリンも洗っちゃいなさい」
「かしこまりました。ありがとうございます」
リリンとカタリナが場所を入れ替えて、カタリナが、クララの世話をする。石鹸を泡立てて、手を使って丁寧に身体を洗っていく。
「やっぱり、クララちゃんは細いわね……」
「いや……お二人に比べたら、さすがに細いですけど……」
クララは、横目でリリンとカタリナの身体を見る。そこには、自分にはない実りがあった。そんなクララにカタリナは苦笑いをしてしまう。
「そこだけじゃなくて、身体全体の事よ。やっぱり、食事は、三食必要ね。後は、適度な運動と睡眠も必須だわ……」
カタリナは、クララの身体を洗いつつ、その身体の状態を確かめていた。やはり、年齢のわりに身体の発育が悪かった。そのため、カタリナは、クララの今後の成長のために必要な事を考えていた。
「あの……私って、人族領には帰されないのでしょうか?」
「帰りたいの? でも、どこに?」
カタリナの問いに、クララはピクッと反応した。
「そういえば……私の過去も全部知っているんでしたっけ?」
「そうですね」
「リリンからの報告を聞いているからね。クララちゃんは、私達を恨んでないの?」
「私の故郷を魔族が滅ぼしたからですか?」
クララが教会に軟禁されて数ヶ月経ったある日、故郷が魔族に滅ぼされたと聞かされた。その際に、両親も失っている。つまり、クララ自身に帰るべき場所はないのだ。
「本当に、私の故郷を魔族が滅ぼしたんですか?」
「クララちゃんは、違うと思っているのね?」
「……はい。私の故郷って、魔族領から離れた場所にあるはずなんです。態々、人族領に侵入して、私の故郷を攻撃する理由がないと思いました」
魔族領は西に広がり、人族領は東に広がっている。その内、クララの故郷は東端の方にある。そんな場所を魔族が、態々攻め込んで滅ぼす理由は、本当にないのだ。
「聖女の故郷だから滅ぼされたと聞かされましたけど、故郷を滅ぼす利点ってないじゃないですか。逆に、私のやる気を引き上げる事になりますし、人族領を横断するリスクの方が高くないですか?」
「そうね。そもそも、人族領に攻め込んですらいないから、滅ぼすことなんて出来ないもの」
「やっぱり……」
これによって、教会が嘘をついていた事が確定した。クララのやる気を引き上げるために、態々、自分達で滅ぼしたのだ。この出来事自体が嘘だったという可能性はない。クララは、実際に滅んだ村の姿を見ており、さらには、亡くなった両親の遺体も目にしている。こういう事は、実際に目にして事実を見せつける方が効果的だったからだ。
「だから、ここにいれば良いと思うわ。情報をくれるというだけで、有用性はあるわけだから、安全は保証するわよ」
「……考えておきます」
「そうして。じゃあ、頭も合わせて流すわよ。眼を瞑って」
クララは、またぎゅっと眼を瞑る。その間に、カタリナが、シャワーで頭と身体全体を流していく。
「はい。後は、タオルで髪を覆って……これで大丈夫よ」
「では、中に入りましょう」
クララが洗い終わるのと同時に、リリンも身体を洗い終えていた。そして、リリンは、クララの手を取って、カタリナと共に湯船の方に連れて行った。
「うぅん……」
「クララさん、朝ですよ」
「もう……少し……」
昨日の夕方から寝ているというのに、クララは、まだ寝足りないと言う。そんなクララを、リリンは、起こし続ける。
「起きてください、クララさん」
「まだ……寝たい……」
魔族に捕まっているというのに、クララは、今までの旅の中で……いや、教会に連れて行かれてから、一番安心して眠っていた。普段であれば、朝になったのとほぼ同時に、自分で起きているところだが、今の眠りが気持ちよすぎて、起きたくないという気持ちが優先されてしまっているのだ。
(良いベッドにしすぎましたかね? 寝顔が可愛いので、いつまでも見ていたいですが……)
リリンは、心を鬼にして、クララを起こす決意をする。
「クララさん、起きてください。起きないと……」
ここで、リリンは自分の口をクララの耳元に近づける。
「また、キスしてしまいますよ?」
「んん……」
クララのトラウマを利用して起こす作戦だったのだが、そう言われたクララは、リリンの思惑とは逆に、唇をリリンの方に向けた。傍から見れば、キスをせがんでいるようにも見える。
「……」
これには、リリンも驚いた。だが、すぐに小さく微笑む。
(本当に……食べたくなるくらい可愛いですね)
リリンは、我慢できなくなり、クララの唇に軽くキスをする。その直後、クララが眼を覚ました。クララは、目の前にリリンの顔がある事に驚き、その後に周囲を見る。自分の置かれている状況を思い出しているのだ。
クララがそんな反応している間に、リリンは部屋に置かれているテーブルに朝食を並べていく。
「……もしかして、キスしました?」
「きちんと確認は取りましたよ。キスしてしまいますよと。そうしたら、クララさんの方から、こちらに唇を向けましたので、して欲しかったのかと思いキスしました」
「寝ぼけていたんです!」
クララは、顔を赤くしながら弁明する。クララは、自分がそんな事をしたという記憶がないため、自分が寝ぼけていたと判断した。そうでないと、心の奥では、リリンのキスを受け入れているという事になると思ったからだった。
「そもそも、起きないクララさんが悪いのですよ? ずっと、まだ寝たいばかり言うのですから」
「うぅ……このベッドと布団が気持ち良すぎるのが悪い……」
ここのベッドは、クララが今まで泊まったどの宿屋も敵わない程、寝心地が良いベッドだった。それは、人族領の中に、これ程までのベッドはないと思ってしまうほどの代物だったのだ。
「一流の職人が仕上げていますからね。魔族領の中でも良質なものです」
「人族にはない技術って事ですか?」
「どうでしょうか? 寝具に関しては、そこまで詳しくはないので、確実な事は言えませんが、向こうにも似たような技術はあると思いますよ。違うのは、素材かと」
「素材ですか?」
特殊な技術が必要なのだと考えていたクララは、素材が違うということに首を傾げる。
「はい。続きは、朝食を食べながらとしましょう」
リリンは、いつまで経っても布団から抜け出さないクララをお姫様抱っこして運ぶ。いきなりお姫様抱っこをされたクララは、驚いて縮まり込んだ。そのまま、備え付けの椅子に座らされて、テーブルとの距離を調整される。
クララの目の前にある朝食は、ベーコンエッグとパン、サラダだった。飲み物は牛乳と水の二種類が置かれている。
「……こんな豪華な食事を頂いても良いんですか?」
「豪華? いえ、申し訳ありませんが、これはあまり豪華ではないですよ? 一般的な食事です」
「そうなんですか? こんないっぱい食べられる朝ご飯は久しぶりです」
教会に連れ去られてから、あまり良い食事を出来ていなかったクララにとっては、これでも豪華な食事と呼べた。そんなクララに同情して、リリンは優しく頭を撫でる。
「おかわりもございますので、遠慮せずにお召し上がりください」
「いただきます」
クララは、用意された朝食を食べていく。リリンは、そんなクララの給仕をしていく。そんな中、部屋の扉が開いた。
「失礼するわよ」
ノックもせずに、中へと入ってきたのは、カタリナだった。
「あら、まだ朝食中だったのね。良いわよ、食べていて」
カタリナが来たことで、食事の手を止めていたクララに食べたままで良いと促した。クララは、言葉に甘えて朝食を食べ続けながら、気になった事を訊く。
「昨日の話の続きですか?」
「今日は、その前にやることがあるわ」
「?」
どういうことか検討がつかず、クララは首を傾げる。そんなクララに、カタリナは、ニコッと微笑む。
「お風呂よ。クララちゃんは、昨日から一度も入っていないでしょ? しっかり洗わないとね」
「おふろ……?」
────────────────────────
朝食を食べ終わったクララが連れてこられたのは、見たことがない光景だった。辺りに湯気が立ちこめ、床よりもかなり深くなった場所にお湯が溜められている。
「これが、お風呂……」
「本当に、見たことがなかったのね。向こうにも温泉くらいならあるんじゃないの?」
「温泉……確か、旅をしているとき、皆が行ってきたって、言っていた気がします」
「……」
「……」
クララの言葉に、カタリナとリリンは何も言えなくなり、クララの頭を撫でる。
「それじゃあ、まずは身体を洗うわよ」
「クララさんは、こちらにお越しください」
クララは、リリンに手を引かれて、洗い場に移動した。クララは、人族領では見たことがない設備に、戸惑っていた。リリンは、そんなクララを椅子に座らせて、その後ろに自分も座る。
「お湯を掛けますから、眼を瞑っていてください」
「は、はい」
リリンがシャワーノズルを持って、クララにお湯を掛けていく。クララは、いつも水浴びと濡れ布巾で済ませていたので、これで終わりだと思い、立ち上がろうとする。
「クララさん、まだですよ」
「?」
そんなクララを、リリンが椅子に押し留める。
「今から、髪や身体を綺麗に洗いますので、また少しの間、眼を瞑っていてください。眼に入ってしまうと、染みてしまって痛いですから」
リリンにそう言われたクララは、痛いのは嫌だと思い、眼をぎゅっと瞑った。そんなクララを、リリンとカタリナは微笑ましいと感じた。リリンは、手で洗髪剤を泡立てると、クララの髪を洗っていく。
「向こうでは、石鹸などはないのですか?」
「石鹸は高級品だったので、私は使えませんでした。他の三人は使っていたみたいですけど……」
「本当に、どうしようもないわね。よくずっと一緒にいたわね?」
「勇者と一緒に魔王を倒す事が使命だったので……その前に捨てられましたけど……」
「結果的に、そうなって正解だったかもしれませんね。ずっと一緒にいたら、何をされたか、分かりませんし」
実際、クララは、魔王城に攫われてからの方が、人族領にいた頃よりも良い暮らしをしている。
「少しの間なら、眼を開けて大丈夫ですよ」
「はい」
クララが眼を開けると、リリンが見た事の無い油のようなものを髪に塗っていた。クララは、リリンが何をしているか分からず、きょとんとしていた。
「せっかくの綺麗な髪ですので、きちんと整えないといけませんから。これで、もっと綺麗になりますよ」
「……魔族の方々は、いつもこんな感じで清めているんですか?」
「身分の程度で、豪華さに違いはあるけど、基本的には、こんな感じで暮らしているはずよ。こういう生活を充実させるものを、領土の端まで広める事を重視した魔王がいてね。今、こういう形になっているのよ」
「へぇ~……」
魔族が、確実に人族よりも良い暮らしをしている事を知り、クララは呆然としてしまう。何から何まで、聞いていた話と違う。
「私は、洗い終わったから、クララちゃんを受け取るわ。リリンも洗っちゃいなさい」
「かしこまりました。ありがとうございます」
リリンとカタリナが場所を入れ替えて、カタリナが、クララの世話をする。石鹸を泡立てて、手を使って丁寧に身体を洗っていく。
「やっぱり、クララちゃんは細いわね……」
「いや……お二人に比べたら、さすがに細いですけど……」
クララは、横目でリリンとカタリナの身体を見る。そこには、自分にはない実りがあった。そんなクララにカタリナは苦笑いをしてしまう。
「そこだけじゃなくて、身体全体の事よ。やっぱり、食事は、三食必要ね。後は、適度な運動と睡眠も必須だわ……」
カタリナは、クララの身体を洗いつつ、その身体の状態を確かめていた。やはり、年齢のわりに身体の発育が悪かった。そのため、カタリナは、クララの今後の成長のために必要な事を考えていた。
「あの……私って、人族領には帰されないのでしょうか?」
「帰りたいの? でも、どこに?」
カタリナの問いに、クララはピクッと反応した。
「そういえば……私の過去も全部知っているんでしたっけ?」
「そうですね」
「リリンからの報告を聞いているからね。クララちゃんは、私達を恨んでないの?」
「私の故郷を魔族が滅ぼしたからですか?」
クララが教会に軟禁されて数ヶ月経ったある日、故郷が魔族に滅ぼされたと聞かされた。その際に、両親も失っている。つまり、クララ自身に帰るべき場所はないのだ。
「本当に、私の故郷を魔族が滅ぼしたんですか?」
「クララちゃんは、違うと思っているのね?」
「……はい。私の故郷って、魔族領から離れた場所にあるはずなんです。態々、人族領に侵入して、私の故郷を攻撃する理由がないと思いました」
魔族領は西に広がり、人族領は東に広がっている。その内、クララの故郷は東端の方にある。そんな場所を魔族が、態々攻め込んで滅ぼす理由は、本当にないのだ。
「聖女の故郷だから滅ぼされたと聞かされましたけど、故郷を滅ぼす利点ってないじゃないですか。逆に、私のやる気を引き上げる事になりますし、人族領を横断するリスクの方が高くないですか?」
「そうね。そもそも、人族領に攻め込んですらいないから、滅ぼすことなんて出来ないもの」
「やっぱり……」
これによって、教会が嘘をついていた事が確定した。クララのやる気を引き上げるために、態々、自分達で滅ぼしたのだ。この出来事自体が嘘だったという可能性はない。クララは、実際に滅んだ村の姿を見ており、さらには、亡くなった両親の遺体も目にしている。こういう事は、実際に目にして事実を見せつける方が効果的だったからだ。
「だから、ここにいれば良いと思うわ。情報をくれるというだけで、有用性はあるわけだから、安全は保証するわよ」
「……考えておきます」
「そうして。じゃあ、頭も合わせて流すわよ。眼を瞑って」
クララは、またぎゅっと眼を瞑る。その間に、カタリナが、シャワーで頭と身体全体を流していく。
「はい。後は、タオルで髪を覆って……これで大丈夫よ」
「では、中に入りましょう」
クララが洗い終わるのと同時に、リリンも身体を洗い終えていた。そして、リリンは、クララの手を取って、カタリナと共に湯船の方に連れて行った。
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