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何も知らない聖女
演習見学
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あれから、また四日が経った。その間に、クララは、複数の薬を調合していた。消毒薬、傷薬の他に解熱薬や胃薬、鎮痛薬を調合している。魔王城の庭に生えている薬草で作れるのが、それらだったので、一応全部作ったのだ。
「ある程度、効率よく作れるようになってきたかな。本当は、火傷薬とかも作りたかったけど、薬草がないし……」
「魔王城の外でしたら、栽培場所を作れなくもないですが、この敷地内となると厳しいですね」
そもそも栽培場所を作る予定はなかったので、魔王城に余分な土地はない。唯一ある庭も魔王城の憩いの場として、お茶会用のスペースが確保されているので、そこに置くことも出来ない。
「そこら辺は、私が自由に外出出来るようになってからですかね?」
「そうですね。自由外出の許可が出たら、私と一緒に探しに行きましょうか」
「え? 土地って、そんな簡単に見付かるんですか?」
土地を探しに行くと言われ、クララは驚いてリリンを見る。
「簡単とはいきませんが、城下なら、余っている土地があるかと思います。開発が進んでいるとはいえ、まだ未開発の場所は残っていますから」
「城下……」
クララは、城下という言葉を聞いて、窓の外を眺める。クララは、魔王城に来てから、一度も外に出ていない。そのため、城下といわれても、どんな感じかが分からないのだ。
「申し訳ありませんが、もう少しお待ちください」
「いえ、全然気にしていませんよ。事情は承知していますから」
「とはいえ、明日は外に出ますが」
「!!」
リリンがさりげなく言った言葉に、クララはわかりやすく反応する。目を輝かして、リリンを見た。その様子に、リリンは思わず笑ってしまう。
「ただ、移動は馬車ですし、外を眺める事は出来ません。真っ直ぐ目的地へと向かわせて頂きます」
クララは、たっぷり三十秒程固まってから、しょぼんと肩を下ろす。外を見て回ることが出来るかと思ったからだ。その期待が大きかった分、落差が酷かった。
「さすがに、街の散策に許可は出ていませんので、申し訳ありません」
「じゃあ、どこに向かうんですか?」
クララには、城下に降りる以外、出掛ける場所が思いつかなかった。そもそも、クララは、魔族領の事も魔都市デズモニアの事も、全く知らないので、出掛ける場所を思いつけるはずもないのだが。
「演習場です」
「えん……しゅう……じょう……?」
自分と全く縁の無い言葉が出て来て、クララは、ぽかんとしてしまう。
「クララさんの薬は、魔王軍の方で試験的に使用させてもらう事になりましたので、実際の使用感の試させて欲しいと要望があったのです。ですので、制作者であるクララさんにも同行してもらいます」
「え、えっと……大丈夫なんですか?」
「恐らくは、大丈夫でしょう。仮に襲われる事があっても、心配はいらないと思われます。私も同行しますので」
「そう……ですよね……」
リリンが一緒に来ることは確定しているとはいえ、クララに不安がないなんて事はない。自分を害する相手が、演習場にいる可能性もあるからだ。
「今日は、明日に備えて、早めに休みましょう」
「は、はい!」
クララは、まだ前日だというのに、既に緊張していた。演習場に行くということは、クララの薬を使う事になる魔王軍がいるということだ。それは、今までにないほど多くの魔族と接するということでもある。
既に、魔族に対する苦手意識などはないが、向こうがこちらをどう思っているかは別の話だ。針のむしろにされる可能性は、まだ残っている。
クララの緊張を見破ったリリンは、クララをお風呂に入れ、ベッドに横にさせた後、すぐには部屋を出て行かず、ベッドの傍に座っていた。
「クララさんが寝付くまで、手を握っていてあげます」
「あ、ありがとうございます……」
クララは、少し戸惑いつつもリリンの手を握った。こんなことしても、そこまで効果はないだろうと思っていたクララだったが、不思議な程すんなりと眠りにつくことが出来た。
クララが静かに寝息を立てている事を確認して、リリンはそっと手を抜いた。
「唾液と違って、そこまでの効果はないはずですが、クララさんには、通用したようで良かったです」
リリンが取った行動は、汗による睡眠導入だ。手汗はあまりかかない方なのと、手と手による接触なので、体液の効果自体が薄いのだが、クララの緊張の糸を切るくらいの効果はあったようだ。
「おやすみなさい」
リリンはそう呟いてから、そっと部屋を出て行った。
────────────────────────
翌日、クララとリリンは、魔王城の入口にいた。ここまで降りて来たのは、初めてなので、クララは少し興奮気味に周りを見回している。まだ、城壁の内側ではあるので、街の様子が見えるわけではないのだが、ずっと同じ部屋を行き来しているだけだったので、見える景色が変わるだけでも充分だった。
「では、馬車にお乗りください」
「はい!」
クララは目の前に止まっている馬車に乗る。その手には、薬室で作った薬を入れたバケットが提げられていた。
クララが乗り込むと、リリンも後に続いて中に入る。そして、御者がいる方の壁をコンコンと叩くと、馬車が走り出した。
「本当に外は見られないんですね」
クララの視線の先には、カーテンが閉められた窓があった。完全に閉めきられているので、外の様子は見られない。
「はい。仮に、民の目にクララさんが映ってしまうと、何が起こるか分かりませんので。今やっている薬作りで、ある程度の実績を積めば、問題が起きる可能性も格段に減ると思います。それまではご辛抱ください」
「はい……」
こればかりは仕方のないことなので、クララは納得した。それから、三十分程移動を続けると、目的地である演習場に着いた。
「ある程度、効率よく作れるようになってきたかな。本当は、火傷薬とかも作りたかったけど、薬草がないし……」
「魔王城の外でしたら、栽培場所を作れなくもないですが、この敷地内となると厳しいですね」
そもそも栽培場所を作る予定はなかったので、魔王城に余分な土地はない。唯一ある庭も魔王城の憩いの場として、お茶会用のスペースが確保されているので、そこに置くことも出来ない。
「そこら辺は、私が自由に外出出来るようになってからですかね?」
「そうですね。自由外出の許可が出たら、私と一緒に探しに行きましょうか」
「え? 土地って、そんな簡単に見付かるんですか?」
土地を探しに行くと言われ、クララは驚いてリリンを見る。
「簡単とはいきませんが、城下なら、余っている土地があるかと思います。開発が進んでいるとはいえ、まだ未開発の場所は残っていますから」
「城下……」
クララは、城下という言葉を聞いて、窓の外を眺める。クララは、魔王城に来てから、一度も外に出ていない。そのため、城下といわれても、どんな感じかが分からないのだ。
「申し訳ありませんが、もう少しお待ちください」
「いえ、全然気にしていませんよ。事情は承知していますから」
「とはいえ、明日は外に出ますが」
「!!」
リリンがさりげなく言った言葉に、クララはわかりやすく反応する。目を輝かして、リリンを見た。その様子に、リリンは思わず笑ってしまう。
「ただ、移動は馬車ですし、外を眺める事は出来ません。真っ直ぐ目的地へと向かわせて頂きます」
クララは、たっぷり三十秒程固まってから、しょぼんと肩を下ろす。外を見て回ることが出来るかと思ったからだ。その期待が大きかった分、落差が酷かった。
「さすがに、街の散策に許可は出ていませんので、申し訳ありません」
「じゃあ、どこに向かうんですか?」
クララには、城下に降りる以外、出掛ける場所が思いつかなかった。そもそも、クララは、魔族領の事も魔都市デズモニアの事も、全く知らないので、出掛ける場所を思いつけるはずもないのだが。
「演習場です」
「えん……しゅう……じょう……?」
自分と全く縁の無い言葉が出て来て、クララは、ぽかんとしてしまう。
「クララさんの薬は、魔王軍の方で試験的に使用させてもらう事になりましたので、実際の使用感の試させて欲しいと要望があったのです。ですので、制作者であるクララさんにも同行してもらいます」
「え、えっと……大丈夫なんですか?」
「恐らくは、大丈夫でしょう。仮に襲われる事があっても、心配はいらないと思われます。私も同行しますので」
「そう……ですよね……」
リリンが一緒に来ることは確定しているとはいえ、クララに不安がないなんて事はない。自分を害する相手が、演習場にいる可能性もあるからだ。
「今日は、明日に備えて、早めに休みましょう」
「は、はい!」
クララは、まだ前日だというのに、既に緊張していた。演習場に行くということは、クララの薬を使う事になる魔王軍がいるということだ。それは、今までにないほど多くの魔族と接するということでもある。
既に、魔族に対する苦手意識などはないが、向こうがこちらをどう思っているかは別の話だ。針のむしろにされる可能性は、まだ残っている。
クララの緊張を見破ったリリンは、クララをお風呂に入れ、ベッドに横にさせた後、すぐには部屋を出て行かず、ベッドの傍に座っていた。
「クララさんが寝付くまで、手を握っていてあげます」
「あ、ありがとうございます……」
クララは、少し戸惑いつつもリリンの手を握った。こんなことしても、そこまで効果はないだろうと思っていたクララだったが、不思議な程すんなりと眠りにつくことが出来た。
クララが静かに寝息を立てている事を確認して、リリンはそっと手を抜いた。
「唾液と違って、そこまでの効果はないはずですが、クララさんには、通用したようで良かったです」
リリンが取った行動は、汗による睡眠導入だ。手汗はあまりかかない方なのと、手と手による接触なので、体液の効果自体が薄いのだが、クララの緊張の糸を切るくらいの効果はあったようだ。
「おやすみなさい」
リリンはそう呟いてから、そっと部屋を出て行った。
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翌日、クララとリリンは、魔王城の入口にいた。ここまで降りて来たのは、初めてなので、クララは少し興奮気味に周りを見回している。まだ、城壁の内側ではあるので、街の様子が見えるわけではないのだが、ずっと同じ部屋を行き来しているだけだったので、見える景色が変わるだけでも充分だった。
「では、馬車にお乗りください」
「はい!」
クララは目の前に止まっている馬車に乗る。その手には、薬室で作った薬を入れたバケットが提げられていた。
クララが乗り込むと、リリンも後に続いて中に入る。そして、御者がいる方の壁をコンコンと叩くと、馬車が走り出した。
「本当に外は見られないんですね」
クララの視線の先には、カーテンが閉められた窓があった。完全に閉めきられているので、外の様子は見られない。
「はい。仮に、民の目にクララさんが映ってしまうと、何が起こるか分かりませんので。今やっている薬作りで、ある程度の実績を積めば、問題が起きる可能性も格段に減ると思います。それまではご辛抱ください」
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