35 / 122
聖女の新たな日常
寝込む
しおりを挟む
その翌日。昨日の忙しさのせいか、クララは熱を出して寝込んでいた。リリンが気が付いたふらつきは、これの兆候だったのかもしれない。
「高熱というわけではありませんが、確実に熱を出していますね。これから、上がる可能性もあるでしょう。改めて訊きますが、喉の痛みはなく、頭が少し痛いのでしたね?」
「はい……」
「頭は、どのように痛いのですか?」
「ズキズキです」
クララの申告に、リリンは眉を寄せる。可哀想だという気持ちが出ているのだ。
「昨日の疲れが出たかもしれないですね。詳しい原因は、後ほど調べますので、今は眠っていて下さい」
「はい……」
眼を瞑ったクララの頭を軽く撫でつつ、リリンはベッドから立ち上がる。
「サーファ、あわあわとしていないで、濡れタオルを掛けてあげて下さい」
「は、はい!」
クララが熱を出した事で、あわあわと落ち着かない様子だったサーファに、リリンが指示を出す。サーファは、リリンの指示通りに、濡れタオルを絞って、クララの額に乗せる。氷水に入れていたので、適度に冷えている。そのおかげで、クララの寝顔が楽になっていた。
「タオルの交換と汗拭きは、サーファに任せます。私は、時間になり次第、医者を連れてきます」
「わ、分かりました!」
サーファは、リリンの指示に頷く。リリンは、すぐにでも医者を連れてきたいところだったが、まだ勤務時間外のため、城まで来ていない。病気になったのが魔王などであれば、勤務時間外であっても呼び出して、診療して貰うところだが、クララではその対象にはならない。
「クララちゃんも対象にする方法とかはないんですか?」
「ないです。要職に就いている者が対象ですから」
「そう……ですよね。でも、魔族の医者で、大丈夫ですかね?」
サーファは、魔族の医者が人族であるクララを診ることが出来るのか少しだけ不安だった。
「大丈夫でしょう。人族に近い身体をしている種族もいます。実際、私がそうですから」
サキュバスとインキュバスは、基本的に人族に近い身体をしている。そんな種族も診る魔族の医者であれば、人族でも問題無いだろうとリリンは考えていた。
「人族特有の病気じゃないといいですね」
「そうですね。そうなってしまったら、私達ではどうしようもない可能性がありますから。その場合は、人族領に潜入している者達から、特効薬を取り寄せる必要があります」
「時間が掛かるってことですよね。そうならないように祈ります」
「そうですね。では、しばらくクララさんを頼みます。私は、このことをカタリナ様に報告してきます」
「分かりました。お任せ下さい!」
リリンは、クララをサーファに任せて、カタリナの元に向かう。まだ朝早いので、カタリナが執務室にいるかどうかは賭けだったのだが、運良く執務室で仕事をしていた。
「あら、リリンじゃない。どうしたの?」
「実は、クララさんが熱を出してしまいまして」
「!? 大丈夫なの!?」
カタリナは、驚きのあまり机に手を突いて、勢いよく立ち上がった。
「現状、命の危機というわけではありません。詳しいところは、医者が到着次第調べます」
「そう……取りあえず、生きているのなら良かったわ。でも、病気なら、クララちゃんの能力で治せるんじゃない?」
「いえ、無理でした。回復出来ないと言うよりも、能力が使えないといった感じでした」
クララは、眼を覚ました際に、自分で回復を試みていた。しかし、聖女の能力は、一切発動しなかった。
「力を行使する事すらも出来なかったという事ね。そこは、少し心配ね。何か分かり次第、報告して。人族特有の病気とかだったら、困るから」
ここはカタリナもリリンと同じ考えだった。
「はぁ……クララちゃんが来てから病気とかに罹っていなかったから、失念していたわ。今後、クララちゃんが病気に罹った時用に、薬の調達はした方が良いわね。クララちゃん自身が作れる可能性もあるけど」
「私もその方が良いかと思います。魔族領の薬学書では、人族専用の物は載っていないと思われますので」
「そうね。手配しておくわ。クララちゃんの事は、リリンとサーファに任せるわ。時々様子は見にいくようにはするわ」
「かしこまりました。では、失礼します」
「ええ、よろしくね」
カタリナへの報告も済ませたリリンは、クララの居室へと帰ってきた。
「様子はどうですか?」
「特に変わりないです。熱も上がっている感じはしないので、そこまで酷いものではないのかもしれないです」
「まだ油断は出来ません。容態が急変する可能性もあるのですから」
「そ、そうですよね……もう少し気を引き締めます!」
「そうして下さい。取りあえず、私がクララさんを見ておきますので、サーファは朝食を済ませてきなさい。食事は、交代交代で取りましょう」
「分かりました!」
サーファは、急いで部屋から出て行く。なるべく早く朝食を済ませて、リリンにも朝食を食べて貰うためだ。食堂から受け取った朝食を、自室に運んで喉に詰まらせないよう注意しながら、急いで食べていく。
その後、交代したリリンも朝食を済ませる。その頃になると、医者が登城してくる時間帯なっていた。その事に気が付いたリリンは、サーファに医者を連れてくると伝えてから、呼びに向かった。サーファに伝えた理由は、クララを起こしておいて貰うためだ。
そうして、リリンが医者を連れてくると、クララは目を開けて起きていた。魔王城の医者は、リリンと同じサキュバスだった。名前をエリノラという。
そんなエリノラは、クララの傍に腰を下ろして、診察を始めた。
「それで、クララさんは、大丈夫なのですか?」
「急かさないでよ。口を大きく開けてくれる?」
「あ~」
エリノラは、舌圧子でクララの舌を抑えつつ、魔法で生み出した光で喉の奥を確認する。
「喉は腫れてない……今も頭は痛い?」
「はい」
「頭が痛すぎて眠れないとかはある?」
「なかったです」
「症状に気が付いたのは、朝、眼を覚ました時?」
「はい」
この問答の間に、エリノラは、クララの脈と呼吸を確認していた。
「風邪じゃないみたい。後、考えられるのは……」
エリノラは、クララの手首を取ると、眼を瞑って集中し始めた。リリンとサーファは、口出しするわけにもいかず、黙って見守っていた。
「やっぱり……この子は、風邪を引いているわけじゃない」
「どういうことですか?」
「『魔力暴走』が起こっている。何か沢山魔力を使うような事した?」
「昨日、怪我人の治療に能力を使いましたね。ですが、一ヶ月前のラビオニアの時の方が、使った魔力は多かったと思いますが」
「その経験が引き金になっている感じかな」
エリノラの言葉に、クララは首を傾げる。その事に気が付いたエリノラは、一度咳払いをする。
「じゃあ、あなたにも分かるように説明するね」
「お願いします」
「魔力暴走っていうのは、自身の身体を巡る魔力の量が、身体の許容限界以上になっている状態の事を言うの。もっと簡単に言うのなら、今のあなたは、水を一杯入れたコップに水を注いでいる状態かな」
水が満杯になったコップに水を注ぎ続ければ、水は溢れてしまう。それは、人族領でも魔族領でも当たり前の事だ。
「身体から溢れてしまった魔力は、自分の身体を蝕む事になる。それが、熱や頭痛となって現れているの」
「なるほど……でも、なんでそんな状態になったんでしょうか?」
「それが、さっきの話に通ずるの。ラビオニアでの事は、私も又聞きだから、実際のところは知らないけど、リリンの話通りなら、かなりの魔力を消費したでしょ? その経験から、保有魔力量が増えたのだと思う。その段階だと、身体の許容内に収まっていたけど、今回の事で、保有魔力量が許容限界になって、魔力暴走を引き起こしたって事」
魔力許容限界は、保有魔力が上がり、許容限界以上になっていくと自然と伸びる。クララの魔力許容限界は、聖女という事もあり、かなり大きい。
ただ、保有魔力の方は、年齢と今までの生活の事もあり、あまり伸びていなかった。そのため、魔力許容限界は、全く伸びる事がなかった。保有魔力は、身体の成長に伴って自然と上がっていくだけでなく、魔力を使い込めば使い込む程上げる事も出来るのだ。上がり幅は、伸び代によって変わる。
だが、それも魔族領に来るまでの話だ。ラビオニアでの経験を経て、大幅に上昇している。それでも魔力許容限界ギリギリで留まっていたのだが、今回の演習での経験により、それを超えてしまったのだ。
「それにしても、魔力暴走ですか……私達には縁のないことでしたので、候補から抜けていましたね」
「縁がない……ですか?」
「はい。私達魔族は、身体の内側も外側も頑丈ですので、魔力暴走程度であれば、気合いでねじ伏せられます」
「でも、辛いですよね?」
「そうでもないですよ。エリノラも同じ意見のはずです」
リリンがそう言ったので、クララはエリノラのことを見る。エリノラは、少し困った顔になる。
「確かに、魔力暴走が起こっても、普通に生活出来るけど、リリンは異常だと思う。暴走していた魔力を制御していたじゃん」
エリノラの言葉に、サーファは眼を剥く。それだけおかしいことをしていたということなのだ。
「若気の至りです。あの時は、好奇心旺盛でしたから」
リリンは、少し恥ずかしそうにそう言った。この話で、クララは少し気になる事があった。
「お二人は、知り合いなのですか?」
「いえ、私達は幼馴染みなので、一応、知り合い以上の関係ですよ」
「だから、学校も一緒だったの」
「がっこう……?」
クララは、首を傾げてリリンを見る。
「学び舎とも言います。クララさんの故郷にもありませんでしたか?」
「あったんでしょうか? 分かりません……」
故郷を思い出して、顔を伏せてしまったクララの頭をリリンは優しく撫でる。
「それで、魔力暴走の処置はどうすれば良いのですか?」
リリンは、クララを慰めながら、今後、どういう風に看病すれば良いのかを訊く。
「特にない。栄養取って寝るが一番。魔力許容限界が、どのくらい上がるのか分からないけど、熱と頭痛は、それが終わるまで続くから、長引いても焦らないで平気。ただ、熱が極端に上がるようなら、すぐに呼んで。解熱剤を処方するから」
「分かりました。診察ありがとうございました」
「ううん。仕事だから。お大事にね」
エリノラは、クララに手を振ってから部屋を出て行く。その後に、リリンも部屋を出て行った。クララの看病なら、サーファもいるので、出ていっても問題はないのだ。
「こんな早くに、本当にありがとうございました」
「いや、勤務時間だし、病人を診るのは当たり前でしょ。てか、私しかいないのに、その丁寧な言葉遣いを続けるの?」
「今では、こちらの方が喋りやすいので」
「ふぅん。まぁいいや。多分、食欲はあまりないだろうから、いつも通りの食事じゃないほうがいいと思う。そこら辺は、あの子の様子を見て判断して」
「分かりました」
「じゃあ、何かあったら呼んでね」
エリノラはそう言って、自分の勤務場所に戻っていった。
「高熱というわけではありませんが、確実に熱を出していますね。これから、上がる可能性もあるでしょう。改めて訊きますが、喉の痛みはなく、頭が少し痛いのでしたね?」
「はい……」
「頭は、どのように痛いのですか?」
「ズキズキです」
クララの申告に、リリンは眉を寄せる。可哀想だという気持ちが出ているのだ。
「昨日の疲れが出たかもしれないですね。詳しい原因は、後ほど調べますので、今は眠っていて下さい」
「はい……」
眼を瞑ったクララの頭を軽く撫でつつ、リリンはベッドから立ち上がる。
「サーファ、あわあわとしていないで、濡れタオルを掛けてあげて下さい」
「は、はい!」
クララが熱を出した事で、あわあわと落ち着かない様子だったサーファに、リリンが指示を出す。サーファは、リリンの指示通りに、濡れタオルを絞って、クララの額に乗せる。氷水に入れていたので、適度に冷えている。そのおかげで、クララの寝顔が楽になっていた。
「タオルの交換と汗拭きは、サーファに任せます。私は、時間になり次第、医者を連れてきます」
「わ、分かりました!」
サーファは、リリンの指示に頷く。リリンは、すぐにでも医者を連れてきたいところだったが、まだ勤務時間外のため、城まで来ていない。病気になったのが魔王などであれば、勤務時間外であっても呼び出して、診療して貰うところだが、クララではその対象にはならない。
「クララちゃんも対象にする方法とかはないんですか?」
「ないです。要職に就いている者が対象ですから」
「そう……ですよね。でも、魔族の医者で、大丈夫ですかね?」
サーファは、魔族の医者が人族であるクララを診ることが出来るのか少しだけ不安だった。
「大丈夫でしょう。人族に近い身体をしている種族もいます。実際、私がそうですから」
サキュバスとインキュバスは、基本的に人族に近い身体をしている。そんな種族も診る魔族の医者であれば、人族でも問題無いだろうとリリンは考えていた。
「人族特有の病気じゃないといいですね」
「そうですね。そうなってしまったら、私達ではどうしようもない可能性がありますから。その場合は、人族領に潜入している者達から、特効薬を取り寄せる必要があります」
「時間が掛かるってことですよね。そうならないように祈ります」
「そうですね。では、しばらくクララさんを頼みます。私は、このことをカタリナ様に報告してきます」
「分かりました。お任せ下さい!」
リリンは、クララをサーファに任せて、カタリナの元に向かう。まだ朝早いので、カタリナが執務室にいるかどうかは賭けだったのだが、運良く執務室で仕事をしていた。
「あら、リリンじゃない。どうしたの?」
「実は、クララさんが熱を出してしまいまして」
「!? 大丈夫なの!?」
カタリナは、驚きのあまり机に手を突いて、勢いよく立ち上がった。
「現状、命の危機というわけではありません。詳しいところは、医者が到着次第調べます」
「そう……取りあえず、生きているのなら良かったわ。でも、病気なら、クララちゃんの能力で治せるんじゃない?」
「いえ、無理でした。回復出来ないと言うよりも、能力が使えないといった感じでした」
クララは、眼を覚ました際に、自分で回復を試みていた。しかし、聖女の能力は、一切発動しなかった。
「力を行使する事すらも出来なかったという事ね。そこは、少し心配ね。何か分かり次第、報告して。人族特有の病気とかだったら、困るから」
ここはカタリナもリリンと同じ考えだった。
「はぁ……クララちゃんが来てから病気とかに罹っていなかったから、失念していたわ。今後、クララちゃんが病気に罹った時用に、薬の調達はした方が良いわね。クララちゃん自身が作れる可能性もあるけど」
「私もその方が良いかと思います。魔族領の薬学書では、人族専用の物は載っていないと思われますので」
「そうね。手配しておくわ。クララちゃんの事は、リリンとサーファに任せるわ。時々様子は見にいくようにはするわ」
「かしこまりました。では、失礼します」
「ええ、よろしくね」
カタリナへの報告も済ませたリリンは、クララの居室へと帰ってきた。
「様子はどうですか?」
「特に変わりないです。熱も上がっている感じはしないので、そこまで酷いものではないのかもしれないです」
「まだ油断は出来ません。容態が急変する可能性もあるのですから」
「そ、そうですよね……もう少し気を引き締めます!」
「そうして下さい。取りあえず、私がクララさんを見ておきますので、サーファは朝食を済ませてきなさい。食事は、交代交代で取りましょう」
「分かりました!」
サーファは、急いで部屋から出て行く。なるべく早く朝食を済ませて、リリンにも朝食を食べて貰うためだ。食堂から受け取った朝食を、自室に運んで喉に詰まらせないよう注意しながら、急いで食べていく。
その後、交代したリリンも朝食を済ませる。その頃になると、医者が登城してくる時間帯なっていた。その事に気が付いたリリンは、サーファに医者を連れてくると伝えてから、呼びに向かった。サーファに伝えた理由は、クララを起こしておいて貰うためだ。
そうして、リリンが医者を連れてくると、クララは目を開けて起きていた。魔王城の医者は、リリンと同じサキュバスだった。名前をエリノラという。
そんなエリノラは、クララの傍に腰を下ろして、診察を始めた。
「それで、クララさんは、大丈夫なのですか?」
「急かさないでよ。口を大きく開けてくれる?」
「あ~」
エリノラは、舌圧子でクララの舌を抑えつつ、魔法で生み出した光で喉の奥を確認する。
「喉は腫れてない……今も頭は痛い?」
「はい」
「頭が痛すぎて眠れないとかはある?」
「なかったです」
「症状に気が付いたのは、朝、眼を覚ました時?」
「はい」
この問答の間に、エリノラは、クララの脈と呼吸を確認していた。
「風邪じゃないみたい。後、考えられるのは……」
エリノラは、クララの手首を取ると、眼を瞑って集中し始めた。リリンとサーファは、口出しするわけにもいかず、黙って見守っていた。
「やっぱり……この子は、風邪を引いているわけじゃない」
「どういうことですか?」
「『魔力暴走』が起こっている。何か沢山魔力を使うような事した?」
「昨日、怪我人の治療に能力を使いましたね。ですが、一ヶ月前のラビオニアの時の方が、使った魔力は多かったと思いますが」
「その経験が引き金になっている感じかな」
エリノラの言葉に、クララは首を傾げる。その事に気が付いたエリノラは、一度咳払いをする。
「じゃあ、あなたにも分かるように説明するね」
「お願いします」
「魔力暴走っていうのは、自身の身体を巡る魔力の量が、身体の許容限界以上になっている状態の事を言うの。もっと簡単に言うのなら、今のあなたは、水を一杯入れたコップに水を注いでいる状態かな」
水が満杯になったコップに水を注ぎ続ければ、水は溢れてしまう。それは、人族領でも魔族領でも当たり前の事だ。
「身体から溢れてしまった魔力は、自分の身体を蝕む事になる。それが、熱や頭痛となって現れているの」
「なるほど……でも、なんでそんな状態になったんでしょうか?」
「それが、さっきの話に通ずるの。ラビオニアでの事は、私も又聞きだから、実際のところは知らないけど、リリンの話通りなら、かなりの魔力を消費したでしょ? その経験から、保有魔力量が増えたのだと思う。その段階だと、身体の許容内に収まっていたけど、今回の事で、保有魔力量が許容限界になって、魔力暴走を引き起こしたって事」
魔力許容限界は、保有魔力が上がり、許容限界以上になっていくと自然と伸びる。クララの魔力許容限界は、聖女という事もあり、かなり大きい。
ただ、保有魔力の方は、年齢と今までの生活の事もあり、あまり伸びていなかった。そのため、魔力許容限界は、全く伸びる事がなかった。保有魔力は、身体の成長に伴って自然と上がっていくだけでなく、魔力を使い込めば使い込む程上げる事も出来るのだ。上がり幅は、伸び代によって変わる。
だが、それも魔族領に来るまでの話だ。ラビオニアでの経験を経て、大幅に上昇している。それでも魔力許容限界ギリギリで留まっていたのだが、今回の演習での経験により、それを超えてしまったのだ。
「それにしても、魔力暴走ですか……私達には縁のないことでしたので、候補から抜けていましたね」
「縁がない……ですか?」
「はい。私達魔族は、身体の内側も外側も頑丈ですので、魔力暴走程度であれば、気合いでねじ伏せられます」
「でも、辛いですよね?」
「そうでもないですよ。エリノラも同じ意見のはずです」
リリンがそう言ったので、クララはエリノラのことを見る。エリノラは、少し困った顔になる。
「確かに、魔力暴走が起こっても、普通に生活出来るけど、リリンは異常だと思う。暴走していた魔力を制御していたじゃん」
エリノラの言葉に、サーファは眼を剥く。それだけおかしいことをしていたということなのだ。
「若気の至りです。あの時は、好奇心旺盛でしたから」
リリンは、少し恥ずかしそうにそう言った。この話で、クララは少し気になる事があった。
「お二人は、知り合いなのですか?」
「いえ、私達は幼馴染みなので、一応、知り合い以上の関係ですよ」
「だから、学校も一緒だったの」
「がっこう……?」
クララは、首を傾げてリリンを見る。
「学び舎とも言います。クララさんの故郷にもありませんでしたか?」
「あったんでしょうか? 分かりません……」
故郷を思い出して、顔を伏せてしまったクララの頭をリリンは優しく撫でる。
「それで、魔力暴走の処置はどうすれば良いのですか?」
リリンは、クララを慰めながら、今後、どういう風に看病すれば良いのかを訊く。
「特にない。栄養取って寝るが一番。魔力許容限界が、どのくらい上がるのか分からないけど、熱と頭痛は、それが終わるまで続くから、長引いても焦らないで平気。ただ、熱が極端に上がるようなら、すぐに呼んで。解熱剤を処方するから」
「分かりました。診察ありがとうございました」
「ううん。仕事だから。お大事にね」
エリノラは、クララに手を振ってから部屋を出て行く。その後に、リリンも部屋を出て行った。クララの看病なら、サーファもいるので、出ていっても問題はないのだ。
「こんな早くに、本当にありがとうございました」
「いや、勤務時間だし、病人を診るのは当たり前でしょ。てか、私しかいないのに、その丁寧な言葉遣いを続けるの?」
「今では、こちらの方が喋りやすいので」
「ふぅん。まぁいいや。多分、食欲はあまりないだろうから、いつも通りの食事じゃないほうがいいと思う。そこら辺は、あの子の様子を見て判断して」
「分かりました」
「じゃあ、何かあったら呼んでね」
エリノラはそう言って、自分の勤務場所に戻っていった。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる