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聖女の新たな日常
衣類購入
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喫茶店を出て行った三人は、再び通りを歩き始める。
「ここら辺には、食事処が多くありますので、気になる場所があればおしゃってください。次に降りてきた時、食べる場所の候補にしますので」
「分かりました。だから、さっきよりも人通りが多くなっているんですね」
クララの言う通り、先程よりも通りの人通りが多くなっている。そのため、好奇の眼差しがクララに注がれていた。クララは、若干居心地の悪さを感じていた。
「大丈夫です。喫茶店の時と同じように、クララさんを初めて見るので、驚いているのです。それに尻込みになっているのかもしれません」
「リリンさんの言うとおりだよ。その証拠に、そこかしこでクララちゃんの事を話す声が聞こえるから」
「私の事をですか?」
クララの問いに、サーファは頷きにで返す。クララとリリンの耳には届いていないが、サーファの耳には、クララの事を話す魔族達の声が聞こえていた。
「うん。クララちゃんに対する否定的な声はないから安心して。『あの人が、魔聖女様か』とか、『思っていたよりも小さいな』とか、『可愛らしい見た目だな』とかね」
サーファが聞こえている声も、通りにいる魔族全ての声では無い。そのため、本当に否定的な声がないと言い切れるわけではないが、少なくともほとんどの魔族は肯定的と考えて良いだろう。
「いずれは、道行く人達に声を掛けられるようになるんでしょうか?」
「そうですね。そのようになるといいですね」
周囲からの視線に居心地の悪さを感じつつも、クララ達は通りを歩いて行った。その中で、いくつか気になる店を見つけたので、今後街に降りたときに食事をするところとしてメモをしていった。通りの最後には、分かれ道があった。
「どっちに行くんですか?」
「どっちにも行きません。この先にあるのは、住居ばかりですので」
「今度は通りを戻って、別の通りに向かうんだよ。そっちは、服屋が主体となっているんだ。街散策の本番だね!」
サーファは、ニコニコと笑いながらそう言った。クララの外出着を増やすという目的があるので、これが本場というのは間違いでは無い。
クララ達は、来た道を戻って、別の通りに移動した。そこは、サーファが言った通り、大きな服屋が並んでいた。どの服屋も取り扱っている服のデザインが異なっている。互いに競合しすぎないようにしているのだろう。
「うわぁ……いっぱいある……」
思っていたよりも服屋があったので、クララは色々と目移りしていた。そんなクララの手を引いて、リリンは通りを歩いて行く。
「お店に寄らないんですか?」
一度も服屋に入らないので、クララは、少し不思議に思っていた。
「魔王城近くの服屋は、基本的に高級店なんだ。多分、クララちゃんが思っている値段よりゼロがいくつか多いと思う」
「うぇっ!?」
クララの顔が引き攣る。クララは、なるべく店から離れるために、リリンを盾にして歩く。
「外に出ているものは、そこまでの値段はしないので大丈夫ですよ。中にあるものは、異常なまでに高いですが。基本的に上流階級の人達が利用します。クララさんもよく知っているカタリナ様もご利用為されている店があります」
「カタリナさんもですか……? 本当に高級店なんですね。一生縁がなさそうです」
「どうでしょうね」
リリンは、クララにニコッと微笑みかける。その微笑みの意味が分からず、クララは首を傾げた。そんな風にしている間も通りを進んで行き、ある服屋の前で止まった。
「ここが目的の服屋です」
クララ達の視線の先にある服屋は、シンプルなデザインながらも可愛らしい服が並んでいた。
「あまり凝ったものはお好きでは無いと思いましたので」
「ありがとうございます」
リリンの言う通り、あまり華美な服はあまり好みではなかった。
「早速中に入って、色々と見ていきましょう。クララさんが気に入る服があるといいのですが」
「はい」
服屋の中に入ったクララは、周囲の服を見ていく。
「本当に可愛い物が多いですね。目移りしちゃいます」
「ゆっくりお選び下さい。特にここで無いといけないという事もありませんので、ここで決める必要はありません。その事は覚えておいてください」
「はい」
クララは、店内を歩き回って、気に入るような服がないかと探していく。
「やっぱり人族のところにある服と変わらない……というか、こっちの方が上質かも……あっ、この服……」
「ふむ。ワンピースですね。試着してみますか?」
「はい!」
リリンは、クララを連れて店の試着室まで向かう。その途中で、女性店員に捕まった。
「いらっしゃいませ! どのような服をお探しでっ……!?」
店員は、リリンの傍にいるクララを見ると固まった。
「魔王城の発表にあった聖女です。今日は、彼女の外出着を買いに来たのです。何かおすすめの服はありませんか?」
「えっ……あっ、魔聖女様でしたか……すみません。少し驚いてしまいまして」
「いえ、お気になさらず。それで、何かおすすめの服はありますか?」
「あっ! はい! 新作のものを持って参ります!」
店員はそう言って、店内を駆けていった。その姿を見ていたクララは、ある事が気になった。
「あの……リリンさん」
「はい。どうかなさいましたか?」
「何で、皆、私が聖女だって分かるんでしょうか?」
クララが気になったのは、出会う魔族が自分の事を聖女だと見抜いてくる事だった。見た目だけで言えば、リリンも人族に近いので、例えクララを見ても聖女だと一目で見抜くことはないはずだと考えているのだ。
「人相書きではありませんが、クララさんの特徴を書いた張り紙が出されているのです。後で見に行きますか?」
「……やめときます」
クララ自身の特徴にドンピシャで当てはまるのは、クララ自身なので、張り紙を見ていた魔族達はクララを見て聖女だと見抜けたのだ。
「まぁ、それはともかく、試着をしてしまいましょう。店員が服を持ってきてくれますし、恐らくそろそろ……」
リリンがそう言った直後、大量の服を籠に入れたサーファがやって来た。
「クララちゃんに似合いそうな服を持ってきたよ! 試着しよ!」
「は、はい!」
クララは、試着室に入り、まず自分が気に入った服を着る。白いワンピースに水色の花の刺繍がされたものだ。
「うん……やっぱり、昔着ていた服に似てる……」
クララが、この白いワンピースを手に取った理由は、昔、故郷にいたときに着ていたお気に入りの服にそっくりだったからだった。
「これは買って貰おう。絶対に……」
改めてお気に入りの服となったワンピースを着た姿を、リリンやサーファに見てもらう。
「おぉ、似合っていますね。ただ、どうせならあれが欲しいところですね」
「あっ、あれですね! 取ってきます!」
リリンが言いたい事を見抜いたサーファは、店内を駆けていき、ある物を持ってきた。それは、白いリボンが付いた麦わら帽子だった。
サーファは、そのままクララの頭に被せる。
「うん。これで、バッチリ!」
そこには、夏のひまわり畑にいそうな純情可憐な少女がいた。その姿に、新作の服を持ってきた店員も見惚れてしまっていた。
「これは買いですね」
「はい。私もこれ欲しいです」
「じゃあ、次にいってみよう!」
試着室にも取ったクララは、サーファや店員が持ってきた服をどんどん試着し、リリン達に見せていく。
この店が可愛らしい清楚系の服を重点的に取り扱っているという事もあり、基本的には落ち着いた可愛らしさのコーディネートとなった。
結局、この店では最初のワンピースと麦わら帽子に加えて、サーファが持ってきた服から二着、店員が持ってきた服から一着の合計四着を購入した。
「では、次の店に行きましょう」
「えっ!? まだ服屋を回るんですか!?」
てっきりこの店だけで終わりと思っていたクララは、リリンの言葉に驚く。
「ええ。色々な服を持っていた方が、気分転換もしやすいですからね」
「色々なクララちゃんになれるって事だね。今度は、かわいい系じゃなくて、格好いい系を攻めませんか?」
「いいですね」
この後も複数の服屋を転々としていった。パンク系の服から始まり、ゴスロリ、カジュアル、コンサバなどなど、クララの趣味とは違うものも試していき、クララが気に入ったものを購入して行った。その結果、購入した服は数十着となった。
「こんなにいっぱい買って良かったんですか?」
大量の紙袋を持ったサーファを見て、クララはそう言った。予算を遙かに超えているのではないかと不安になったのだ。
「元々数を揃える必要があって、基本的に安い物ばかりを買っていたので、大丈夫ですよ。ただ、服選びに時間を掛けてしまったので、今日はこれまでですね。散策の続きは、また後日としましょう」
服選びに時間を掛けた結果、空は既に夕刻になっていた。
「分かりました。荷物もいっぱいになっちゃいましたしね。サーファさん、大丈夫ですか?」
「このくらいなら、全然大丈夫だよ」
サーファは笑いながらそう言う。片手に四袋ずつ紙袋を持っているというのに、意にも介していなかった。リリンも紙袋を持っているが、片手でクララの手を取っているということもあり、もう片方に二袋しか持ってなかった。
「私も持ちますよ?」
「いえ、クララさんが持つと、紙袋を引き摺ってしまう可能性がありますから」
「ああ……確かに……」
大きめの紙袋を使用しているため、クララが持つと紙袋の底が地面すれすれを通る事になる。下手をすれば、底が擦れて破れてしまう可能性が出る。リリンは、そこを心配しているのだった。そして、クララ自身もその可能性に気付き、自分で持つ事を諦める事になった。
大量の荷物を持って帰還したクララ達は、まっすぐクララの部屋へと向かう。その途中で、クララの部屋に向かっていたカタリナと鉢合わせた。
「あら、クララちゃん。そういえば、今日は薬草園が完成する日だったわね。皆でお出かけ?」
「はい! 街に出ていました!」
「そう。楽しかった?」
「沢山の服を買って貰いました」
クララは、リリンとサーファが持っている紙袋に視線を向ける。それを見たカタリナは、少し驚く。
「本当にいっぱい買ったわね……どこで買ったのかしら?」
「通りの奥の方にある店です。数を揃えておきたかったので」
「なるほどね。ああ、そろそろあれがあるから、一式揃えておいてくれる? 費用はこっちで持つから」
「かしこまりました」
「?」
カタリナとリリンが話している内容がよく分からず、クララは首を傾げる。だが、すぐにある事を思い出した。
「あの、カタリナさん。一つお願いがあるのですが」
「ん? 何かしら?」
「薬草園を管理してくれているサラさんなんですけど」
「あら、結構優秀な子なんだけど、問題があったかしら?」
カタリナは、人選を間違えたかと思い、次に任せられる人の選定を始める。
「ち、違います! サラさんは、本当に優秀な人ですし、仲良くしてくれました!」
「そうなの? じゃあ、お願いって?」
「サラさんがやっていた研究を、薬草園でも続けさせて欲しいんです。サラさんの研究を薬草でも出来れば、薬草の栽培に活かせるみたいなので」
クララは、サラとの約束通りに、カタリナに研究の続行を嘆願した。
「そうね……確かに、あの子の研究が役に立つと思って、選んだのよね。実際、おかげで、作物が枯れることは少なくなったし……良いわ。後で通達しておくわ。そうなると、一部の区画をサラ用に使う事になるわね……」
「ありがとうございます! あの! 私の区画を使って下さい! 私が言い出した事ですから!」
「そう? 分かったわ。となると、早めに出した方が良いわね。じゃあ、私は失礼するわ。またね、クララちゃん」
「はい。また」
カタリナは、クララに手を振って執務室へと戻っていった。
「ふぅ……これで目的を達成出来ました!」
「いつの間にか、サラとそんな事を話していたんですね」
「私は、聞こえていました!」
サーファは、胸を張ってそう言った。そのサーファに、リリンは怖い笑顔を向ける。
「聞こえていたのなら、報告しなさい。止めないといけない可能性もあるのですから」
「はい! すみません!」
サーファは、涙目で謝罪する。報連相を怠っていたのは、サーファ自身なので、ここは素直に謝罪するしかなかった。
「まぁ、これから気を付けてくれれば良いです。クララさんも、部屋に戻ってから報告してくれるつもりだったのでしょうが、もう少し早く報告して下さい。今回の事は、特に大事に至るようなものではなかったので良いですが、色々と精査しないといけない事柄もありますので」
「わ、分かりました! すみません!」
「反省して頂けたのなら良いです。次からはお願いしますね」
「はい!」
クララは反省を示すために、元気よく返事をした。その後、部屋に戻ったクララ達は、服をタンスに仕舞った後、いつも通り入浴と夕食を済ませて、就寝した。
「ここら辺には、食事処が多くありますので、気になる場所があればおしゃってください。次に降りてきた時、食べる場所の候補にしますので」
「分かりました。だから、さっきよりも人通りが多くなっているんですね」
クララの言う通り、先程よりも通りの人通りが多くなっている。そのため、好奇の眼差しがクララに注がれていた。クララは、若干居心地の悪さを感じていた。
「大丈夫です。喫茶店の時と同じように、クララさんを初めて見るので、驚いているのです。それに尻込みになっているのかもしれません」
「リリンさんの言うとおりだよ。その証拠に、そこかしこでクララちゃんの事を話す声が聞こえるから」
「私の事をですか?」
クララの問いに、サーファは頷きにで返す。クララとリリンの耳には届いていないが、サーファの耳には、クララの事を話す魔族達の声が聞こえていた。
「うん。クララちゃんに対する否定的な声はないから安心して。『あの人が、魔聖女様か』とか、『思っていたよりも小さいな』とか、『可愛らしい見た目だな』とかね」
サーファが聞こえている声も、通りにいる魔族全ての声では無い。そのため、本当に否定的な声がないと言い切れるわけではないが、少なくともほとんどの魔族は肯定的と考えて良いだろう。
「いずれは、道行く人達に声を掛けられるようになるんでしょうか?」
「そうですね。そのようになるといいですね」
周囲からの視線に居心地の悪さを感じつつも、クララ達は通りを歩いて行った。その中で、いくつか気になる店を見つけたので、今後街に降りたときに食事をするところとしてメモをしていった。通りの最後には、分かれ道があった。
「どっちに行くんですか?」
「どっちにも行きません。この先にあるのは、住居ばかりですので」
「今度は通りを戻って、別の通りに向かうんだよ。そっちは、服屋が主体となっているんだ。街散策の本番だね!」
サーファは、ニコニコと笑いながらそう言った。クララの外出着を増やすという目的があるので、これが本場というのは間違いでは無い。
クララ達は、来た道を戻って、別の通りに移動した。そこは、サーファが言った通り、大きな服屋が並んでいた。どの服屋も取り扱っている服のデザインが異なっている。互いに競合しすぎないようにしているのだろう。
「うわぁ……いっぱいある……」
思っていたよりも服屋があったので、クララは色々と目移りしていた。そんなクララの手を引いて、リリンは通りを歩いて行く。
「お店に寄らないんですか?」
一度も服屋に入らないので、クララは、少し不思議に思っていた。
「魔王城近くの服屋は、基本的に高級店なんだ。多分、クララちゃんが思っている値段よりゼロがいくつか多いと思う」
「うぇっ!?」
クララの顔が引き攣る。クララは、なるべく店から離れるために、リリンを盾にして歩く。
「外に出ているものは、そこまでの値段はしないので大丈夫ですよ。中にあるものは、異常なまでに高いですが。基本的に上流階級の人達が利用します。クララさんもよく知っているカタリナ様もご利用為されている店があります」
「カタリナさんもですか……? 本当に高級店なんですね。一生縁がなさそうです」
「どうでしょうね」
リリンは、クララにニコッと微笑みかける。その微笑みの意味が分からず、クララは首を傾げた。そんな風にしている間も通りを進んで行き、ある服屋の前で止まった。
「ここが目的の服屋です」
クララ達の視線の先にある服屋は、シンプルなデザインながらも可愛らしい服が並んでいた。
「あまり凝ったものはお好きでは無いと思いましたので」
「ありがとうございます」
リリンの言う通り、あまり華美な服はあまり好みではなかった。
「早速中に入って、色々と見ていきましょう。クララさんが気に入る服があるといいのですが」
「はい」
服屋の中に入ったクララは、周囲の服を見ていく。
「本当に可愛い物が多いですね。目移りしちゃいます」
「ゆっくりお選び下さい。特にここで無いといけないという事もありませんので、ここで決める必要はありません。その事は覚えておいてください」
「はい」
クララは、店内を歩き回って、気に入るような服がないかと探していく。
「やっぱり人族のところにある服と変わらない……というか、こっちの方が上質かも……あっ、この服……」
「ふむ。ワンピースですね。試着してみますか?」
「はい!」
リリンは、クララを連れて店の試着室まで向かう。その途中で、女性店員に捕まった。
「いらっしゃいませ! どのような服をお探しでっ……!?」
店員は、リリンの傍にいるクララを見ると固まった。
「魔王城の発表にあった聖女です。今日は、彼女の外出着を買いに来たのです。何かおすすめの服はありませんか?」
「えっ……あっ、魔聖女様でしたか……すみません。少し驚いてしまいまして」
「いえ、お気になさらず。それで、何かおすすめの服はありますか?」
「あっ! はい! 新作のものを持って参ります!」
店員はそう言って、店内を駆けていった。その姿を見ていたクララは、ある事が気になった。
「あの……リリンさん」
「はい。どうかなさいましたか?」
「何で、皆、私が聖女だって分かるんでしょうか?」
クララが気になったのは、出会う魔族が自分の事を聖女だと見抜いてくる事だった。見た目だけで言えば、リリンも人族に近いので、例えクララを見ても聖女だと一目で見抜くことはないはずだと考えているのだ。
「人相書きではありませんが、クララさんの特徴を書いた張り紙が出されているのです。後で見に行きますか?」
「……やめときます」
クララ自身の特徴にドンピシャで当てはまるのは、クララ自身なので、張り紙を見ていた魔族達はクララを見て聖女だと見抜けたのだ。
「まぁ、それはともかく、試着をしてしまいましょう。店員が服を持ってきてくれますし、恐らくそろそろ……」
リリンがそう言った直後、大量の服を籠に入れたサーファがやって来た。
「クララちゃんに似合いそうな服を持ってきたよ! 試着しよ!」
「は、はい!」
クララは、試着室に入り、まず自分が気に入った服を着る。白いワンピースに水色の花の刺繍がされたものだ。
「うん……やっぱり、昔着ていた服に似てる……」
クララが、この白いワンピースを手に取った理由は、昔、故郷にいたときに着ていたお気に入りの服にそっくりだったからだった。
「これは買って貰おう。絶対に……」
改めてお気に入りの服となったワンピースを着た姿を、リリンやサーファに見てもらう。
「おぉ、似合っていますね。ただ、どうせならあれが欲しいところですね」
「あっ、あれですね! 取ってきます!」
リリンが言いたい事を見抜いたサーファは、店内を駆けていき、ある物を持ってきた。それは、白いリボンが付いた麦わら帽子だった。
サーファは、そのままクララの頭に被せる。
「うん。これで、バッチリ!」
そこには、夏のひまわり畑にいそうな純情可憐な少女がいた。その姿に、新作の服を持ってきた店員も見惚れてしまっていた。
「これは買いですね」
「はい。私もこれ欲しいです」
「じゃあ、次にいってみよう!」
試着室にも取ったクララは、サーファや店員が持ってきた服をどんどん試着し、リリン達に見せていく。
この店が可愛らしい清楚系の服を重点的に取り扱っているという事もあり、基本的には落ち着いた可愛らしさのコーディネートとなった。
結局、この店では最初のワンピースと麦わら帽子に加えて、サーファが持ってきた服から二着、店員が持ってきた服から一着の合計四着を購入した。
「では、次の店に行きましょう」
「えっ!? まだ服屋を回るんですか!?」
てっきりこの店だけで終わりと思っていたクララは、リリンの言葉に驚く。
「ええ。色々な服を持っていた方が、気分転換もしやすいですからね」
「色々なクララちゃんになれるって事だね。今度は、かわいい系じゃなくて、格好いい系を攻めませんか?」
「いいですね」
この後も複数の服屋を転々としていった。パンク系の服から始まり、ゴスロリ、カジュアル、コンサバなどなど、クララの趣味とは違うものも試していき、クララが気に入ったものを購入して行った。その結果、購入した服は数十着となった。
「こんなにいっぱい買って良かったんですか?」
大量の紙袋を持ったサーファを見て、クララはそう言った。予算を遙かに超えているのではないかと不安になったのだ。
「元々数を揃える必要があって、基本的に安い物ばかりを買っていたので、大丈夫ですよ。ただ、服選びに時間を掛けてしまったので、今日はこれまでですね。散策の続きは、また後日としましょう」
服選びに時間を掛けた結果、空は既に夕刻になっていた。
「分かりました。荷物もいっぱいになっちゃいましたしね。サーファさん、大丈夫ですか?」
「このくらいなら、全然大丈夫だよ」
サーファは笑いながらそう言う。片手に四袋ずつ紙袋を持っているというのに、意にも介していなかった。リリンも紙袋を持っているが、片手でクララの手を取っているということもあり、もう片方に二袋しか持ってなかった。
「私も持ちますよ?」
「いえ、クララさんが持つと、紙袋を引き摺ってしまう可能性がありますから」
「ああ……確かに……」
大きめの紙袋を使用しているため、クララが持つと紙袋の底が地面すれすれを通る事になる。下手をすれば、底が擦れて破れてしまう可能性が出る。リリンは、そこを心配しているのだった。そして、クララ自身もその可能性に気付き、自分で持つ事を諦める事になった。
大量の荷物を持って帰還したクララ達は、まっすぐクララの部屋へと向かう。その途中で、クララの部屋に向かっていたカタリナと鉢合わせた。
「あら、クララちゃん。そういえば、今日は薬草園が完成する日だったわね。皆でお出かけ?」
「はい! 街に出ていました!」
「そう。楽しかった?」
「沢山の服を買って貰いました」
クララは、リリンとサーファが持っている紙袋に視線を向ける。それを見たカタリナは、少し驚く。
「本当にいっぱい買ったわね……どこで買ったのかしら?」
「通りの奥の方にある店です。数を揃えておきたかったので」
「なるほどね。ああ、そろそろあれがあるから、一式揃えておいてくれる? 費用はこっちで持つから」
「かしこまりました」
「?」
カタリナとリリンが話している内容がよく分からず、クララは首を傾げる。だが、すぐにある事を思い出した。
「あの、カタリナさん。一つお願いがあるのですが」
「ん? 何かしら?」
「薬草園を管理してくれているサラさんなんですけど」
「あら、結構優秀な子なんだけど、問題があったかしら?」
カタリナは、人選を間違えたかと思い、次に任せられる人の選定を始める。
「ち、違います! サラさんは、本当に優秀な人ですし、仲良くしてくれました!」
「そうなの? じゃあ、お願いって?」
「サラさんがやっていた研究を、薬草園でも続けさせて欲しいんです。サラさんの研究を薬草でも出来れば、薬草の栽培に活かせるみたいなので」
クララは、サラとの約束通りに、カタリナに研究の続行を嘆願した。
「そうね……確かに、あの子の研究が役に立つと思って、選んだのよね。実際、おかげで、作物が枯れることは少なくなったし……良いわ。後で通達しておくわ。そうなると、一部の区画をサラ用に使う事になるわね……」
「ありがとうございます! あの! 私の区画を使って下さい! 私が言い出した事ですから!」
「そう? 分かったわ。となると、早めに出した方が良いわね。じゃあ、私は失礼するわ。またね、クララちゃん」
「はい。また」
カタリナは、クララに手を振って執務室へと戻っていった。
「ふぅ……これで目的を達成出来ました!」
「いつの間にか、サラとそんな事を話していたんですね」
「私は、聞こえていました!」
サーファは、胸を張ってそう言った。そのサーファに、リリンは怖い笑顔を向ける。
「聞こえていたのなら、報告しなさい。止めないといけない可能性もあるのですから」
「はい! すみません!」
サーファは、涙目で謝罪する。報連相を怠っていたのは、サーファ自身なので、ここは素直に謝罪するしかなかった。
「まぁ、これから気を付けてくれれば良いです。クララさんも、部屋に戻ってから報告してくれるつもりだったのでしょうが、もう少し早く報告して下さい。今回の事は、特に大事に至るようなものではなかったので良いですが、色々と精査しないといけない事柄もありますので」
「わ、分かりました! すみません!」
「反省して頂けたのなら良いです。次からはお願いしますね」
「はい!」
クララは反省を示すために、元気よく返事をした。その後、部屋に戻ったクララ達は、服をタンスに仕舞った後、いつも通り入浴と夕食を済ませて、就寝した。
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