攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎

文字の大きさ
50 / 122
聖女の新たな日常

当然の結果

しおりを挟む
 その日の夜。仕事を終えたカタリナは、ガーランドと話をしていた。内容は、今日のクララの件だった。

「今回の件で、クララへの治療依頼が来ると思うか?」
「いえ、さすがに一億ゴールドという金額ではおいそれとは出せないと思いますので、富豪くらいしか言い出せないと思います」
「最近は支出も多くなっているというからな。こっちの問題も解決したいところだが……中々難しいところだな」
「仕方ない事です」

 支出が多くなった理由は、魔道具の普及にある。暮らしが便利になる魔道具は、爆発的に売れていった。さらに、新型は二年ごとに出ている。その結果、家計を圧迫する事になったのだ。

「そんなに新型が良いものなのか?」
「家事をしてみれば分かりますよ。試しにやってみますか?」
「…………いや、やめておこう。何となく威厳がなくなる気がする」
「そうですか。それは残念です。メイド達に楽をさせてあげられるかと思いましたのに」

 カタリナは、少しからかうようにそう言った。ガーランドは、少しだけばつの悪そうな顔をする。

「それよりもだ。明日、クララの件に関して触れを出す。そこから一週間程は、クララの外出を禁止する。この件で、今よりもクララの注目が集まる事だろう。また、今日みたいな誘拐が起こらないとも限らない」
「分かりました。明日伝えに行きます」
「それにしても……聖女は、やはり聖女だな」
「え? どういうことですか?」

 カタリナは、ガーランドが言っている事が分からず、首を傾げていた。

「不治の病を癒やす事が出来る。立派な奇跡だろう。その奇跡を起こしたクララは、その心持ちも聖女らしい。慈愛に満ちている。それは人族には向かなかったみたいだがな」
「確かに」

 クララの能力は、魔族領に来る前から人族に向けられていない。その証拠に勇者のカルロス達への回復に大して効果がなかった。あの時のクララは、魔族よりも人族の方を憎んでいた。家族と故郷を失った理由が人族にあったからだ。

「クララには、このままゆっくりと暮らして欲しい。その下地は、大分出来てきている……と思っていたのだが……」
「今回はクララちゃんを害するための誘拐ではなかったのですから、大丈夫だと思いますよ。もっとクララちゃんの人となりを知れば、皆、受け入れてくれます」
「そうだな。あれも早めるか……」
「では、リリンに準備をするように伝えます。店の指定は……?」
「いつものところで良いだろう。費用は、こっちで持つ」
「分かりました」

 カタリナとガーランドは、揃ってニヤリと笑いながら何かを計画していた。

────────────────────────

 翌日。クララが治療を行うという触れが、城下町の掲示板に張り出された。城下町に住んでいる魔族達は、その金額に驚きつつも衰弱病を治したという事を知り、納得した。そして、カタリナの読み通り、クララに治療を頼みたいと言い出す魔族は一人も現れなかった。治療費を払える程の貯金をしているものは少ない。そして、その中で治療を必要としているものも少ないのだ。
 そんな事もつゆ知らず、クララは熱を出して寝込んでいた。

「何で……また魔力暴走なんて……」
「今回の治療は、かなり難しいものでした。そのため、消耗する魔力の量もかなり多かったのでしょう。医学書は、しばらくお預けですね」
「うぅ……」
「熱が下がるまでは、絶対に没収ですから。それと今日から一週間は、外出禁止となります」
「え!? なんでですか?」

 突然外出禁止と言われ、クララは驚いて身体を起こす。それをサーファが優しく寝かせた。

「もしかして……私が勝手をしてしまったから……」
「まぁ、それもありますが、クララさんが不治の病でも治療出来るという事を触れで知らせたので、よからぬ者に狙われないようにするという措置です。何かしらの問題が起きても一週間ほどで鎮圧出来るだろうとの事です」
「それ、一週間後に外出したら、やられるとかないんですか?」
「それもあり得ますが……ずっと外出禁止でもよろしいのですか?」
「嫌です!」

 クララはふくれっ面になりながらそう言った。せっかく外に出る事が出来るようになったというのに、また軟禁生活になったら、今度は耐えきれないのだ。

「次からの外出は、少し警戒を強くしながら行く事になります。少し窮屈に感じるかもしれませんが、その時は我慢してください」
「はい」
「では、しばらくは療養に集中してください」
「は~い……」

 クララは、再び寝込み生活を送ることになった。今度は、三日程で熱も下がり、その翌日には、体調も完全に戻っていた。この間、主な看病をしていたのはサーファだった。リリンは、外出をよくしていた。
 完全復活したクララは、身体を伸ばしながらベッドから起き上がった。

「う~ん……今回は、前よりも早く治りましたね」
「そうですね。この前の魔力暴走と魔力酒で、かなり伸びていたのかもしれないですね」
「伸び幅が小さくなったって事は、私の魔力の最大値が近いって事ですか?」
「どうでしょうか。聖女の魔力ですから、もっと上がってもおかしくはないと思います。しばらくは、このくらい寝込むと考えていた方が良いかもしれません」
「なるほど……」

 クララは、若干嫌な顔をする。多少期間が短くなったとはいえ、魔力暴走で熱を出している間は、何も出来ないというのは、色々な意味で辛いと感じているのだ。

「さて、体調も良くなったという事ですので、こちらが医学書を持ってきます」

 リリンの言葉に、クララは見るからにわくわくしていた。リリンは一度自室に戻る。そして、大量の本を載せた台車を押して戻ってきた。

「これらが医学書になります。ここに置いてある物の他にもありますので、読み終わりましたらお知らせ下さい。持って参ります」
「わ、分かりました。これって、薬学書よりも多いですよね?」
「そうですね。医療の分野は、かなり広いですから」
「後三日で、外出禁止も終わりですよね?」
「はい。解禁日には、少し行かなくてはいけない場所がありますので、ご承知下さい」
「?」

 クララは、自分に行かなくてはいけない場所があったかと考える。だが、特に何も思いつかなかった。

「どこに行くんですか?」
「服屋です」
「また服を買うんですか? もう十分買ったとも思うんですが」
「いえ、必要な服があるのです。本来はもう少し先の話だったのですが、急遽早まったので、買いに行かなくてはいけなくなったのです」
「何をするんですか?」
「凄く簡単に言うと、クララちゃんの歓迎パーティーだよ」
「歓迎? こっちに来て、もう三ヶ月近く経ちますけど……」

 クララは、歓迎と言うには遅くはないかと思っていた。だが、それも仕方のないことだった。

「デズモニアにいる魔族達だけを対象にすれば、もっと早く出来たんだけど、色々な都市にクララちゃんの情報を伝えて、こっちに来てもらっているの」
「……えっ? 外部の魔族の方々が来ているって事ですか!?」
「うん。まぁ、まだ来ている途中の方も多いけどね。大丈夫だよ。ラビオニアの時みたいな人はいないと思うよ」

 クララが聞き返したのは、また危ない目に遭うかもしれないと考えているからではと思ったので、サーファは安心させるためにそう言った。実際、クララの歓迎のために来て欲しいと言う連絡だったので、クララがいることを良く思わない魔族は、そもそも魔王城に来ないと思われた。

「下手をすれば、魔王城で惨劇が起こる可能性もありますが、そんな事をすれば自身の身が危ないので、実行に移すような者はいないでしょう。この歓迎パーティーで着用するドレスを購入するのです」
「ドレス……」

 クララは呆然と呟いた。ドレスから程遠い生活をしていたので、全く実感が湧かなかった。

「お披露目の時の物とその後のダンスパーティーの時の物と二種類購入します。片方は聖女らしい物。もう片方は可愛らしい物にする予定です」
「聖女らしい……そうなると、ローブみたいなのですか?」
「いえ、それは教会に着せられた物でしょう。もう少し違った物にするつもりです。これは、店側と相談しているところです」
「……あっ、私が寝ている時にいなかったのって……」
「はい。その時に店側と話し合いをしていました。大分方向性が決まってきたので、後は具体的なデザインとサイズですね。後者の方を確かめるために店の方に向かうのです」
「なる……ほど……」

 クララは、自分の身体を見下ろして、言葉を詰まらせる。

(私の体型って、ドレスを着て映えるのかな?)

 自分の体型で似合うドレスがあるのかと不安になっているのだ。それをリリンは、いとも容易く見抜いた。

「クララさんの身体でも似合うドレスは、いくらでもありますよ」

 リリンに頭を撫でられながらそう言われると、クララは少し安心した。リリンもクララの安堵したような顔を見て、少しホッとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...