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聖女の新たな日常
当然の結果
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その日の夜。仕事を終えたカタリナは、ガーランドと話をしていた。内容は、今日のクララの件だった。
「今回の件で、クララへの治療依頼が来ると思うか?」
「いえ、さすがに一億ゴールドという金額ではおいそれとは出せないと思いますので、富豪くらいしか言い出せないと思います」
「最近は支出も多くなっているというからな。こっちの問題も解決したいところだが……中々難しいところだな」
「仕方ない事です」
支出が多くなった理由は、魔道具の普及にある。暮らしが便利になる魔道具は、爆発的に売れていった。さらに、新型は二年ごとに出ている。その結果、家計を圧迫する事になったのだ。
「そんなに新型が良いものなのか?」
「家事をしてみれば分かりますよ。試しにやってみますか?」
「…………いや、やめておこう。何となく威厳がなくなる気がする」
「そうですか。それは残念です。メイド達に楽をさせてあげられるかと思いましたのに」
カタリナは、少しからかうようにそう言った。ガーランドは、少しだけばつの悪そうな顔をする。
「それよりもだ。明日、クララの件に関して触れを出す。そこから一週間程は、クララの外出を禁止する。この件で、今よりもクララの注目が集まる事だろう。また、今日みたいな誘拐が起こらないとも限らない」
「分かりました。明日伝えに行きます」
「それにしても……聖女は、やはり聖女だな」
「え? どういうことですか?」
カタリナは、ガーランドが言っている事が分からず、首を傾げていた。
「不治の病を癒やす事が出来る。立派な奇跡だろう。その奇跡を起こしたクララは、その心持ちも聖女らしい。慈愛に満ちている。それは人族には向かなかったみたいだがな」
「確かに」
クララの能力は、魔族領に来る前から人族に向けられていない。その証拠に勇者のカルロス達への回復に大して効果がなかった。あの時のクララは、魔族よりも人族の方を憎んでいた。家族と故郷を失った理由が人族にあったからだ。
「クララには、このままゆっくりと暮らして欲しい。その下地は、大分出来てきている……と思っていたのだが……」
「今回はクララちゃんを害するための誘拐ではなかったのですから、大丈夫だと思いますよ。もっとクララちゃんの人となりを知れば、皆、受け入れてくれます」
「そうだな。あれも早めるか……」
「では、リリンに準備をするように伝えます。店の指定は……?」
「いつものところで良いだろう。費用は、こっちで持つ」
「分かりました」
カタリナとガーランドは、揃ってニヤリと笑いながら何かを計画していた。
────────────────────────
翌日。クララが治療を行うという触れが、城下町の掲示板に張り出された。城下町に住んでいる魔族達は、その金額に驚きつつも衰弱病を治したという事を知り、納得した。そして、カタリナの読み通り、クララに治療を頼みたいと言い出す魔族は一人も現れなかった。治療費を払える程の貯金をしているものは少ない。そして、その中で治療を必要としているものも少ないのだ。
そんな事もつゆ知らず、クララは熱を出して寝込んでいた。
「何で……また魔力暴走なんて……」
「今回の治療は、かなり難しいものでした。そのため、消耗する魔力の量もかなり多かったのでしょう。医学書は、しばらくお預けですね」
「うぅ……」
「熱が下がるまでは、絶対に没収ですから。それと今日から一週間は、外出禁止となります」
「え!? なんでですか?」
突然外出禁止と言われ、クララは驚いて身体を起こす。それをサーファが優しく寝かせた。
「もしかして……私が勝手をしてしまったから……」
「まぁ、それもありますが、クララさんが不治の病でも治療出来るという事を触れで知らせたので、よからぬ者に狙われないようにするという措置です。何かしらの問題が起きても一週間ほどで鎮圧出来るだろうとの事です」
「それ、一週間後に外出したら、やられるとかないんですか?」
「それもあり得ますが……ずっと外出禁止でもよろしいのですか?」
「嫌です!」
クララはふくれっ面になりながらそう言った。せっかく外に出る事が出来るようになったというのに、また軟禁生活になったら、今度は耐えきれないのだ。
「次からの外出は、少し警戒を強くしながら行く事になります。少し窮屈に感じるかもしれませんが、その時は我慢してください」
「はい」
「では、しばらくは療養に集中してください」
「は~い……」
クララは、再び寝込み生活を送ることになった。今度は、三日程で熱も下がり、その翌日には、体調も完全に戻っていた。この間、主な看病をしていたのはサーファだった。リリンは、外出をよくしていた。
完全復活したクララは、身体を伸ばしながらベッドから起き上がった。
「う~ん……今回は、前よりも早く治りましたね」
「そうですね。この前の魔力暴走と魔力酒で、かなり伸びていたのかもしれないですね」
「伸び幅が小さくなったって事は、私の魔力の最大値が近いって事ですか?」
「どうでしょうか。聖女の魔力ですから、もっと上がってもおかしくはないと思います。しばらくは、このくらい寝込むと考えていた方が良いかもしれません」
「なるほど……」
クララは、若干嫌な顔をする。多少期間が短くなったとはいえ、魔力暴走で熱を出している間は、何も出来ないというのは、色々な意味で辛いと感じているのだ。
「さて、体調も良くなったという事ですので、こちらが医学書を持ってきます」
リリンの言葉に、クララは見るからにわくわくしていた。リリンは一度自室に戻る。そして、大量の本を載せた台車を押して戻ってきた。
「これらが医学書になります。ここに置いてある物の他にもありますので、読み終わりましたらお知らせ下さい。持って参ります」
「わ、分かりました。これって、薬学書よりも多いですよね?」
「そうですね。医療の分野は、かなり広いですから」
「後三日で、外出禁止も終わりですよね?」
「はい。解禁日には、少し行かなくてはいけない場所がありますので、ご承知下さい」
「?」
クララは、自分に行かなくてはいけない場所があったかと考える。だが、特に何も思いつかなかった。
「どこに行くんですか?」
「服屋です」
「また服を買うんですか? もう十分買ったとも思うんですが」
「いえ、必要な服があるのです。本来はもう少し先の話だったのですが、急遽早まったので、買いに行かなくてはいけなくなったのです」
「何をするんですか?」
「凄く簡単に言うと、クララちゃんの歓迎パーティーだよ」
「歓迎? こっちに来て、もう三ヶ月近く経ちますけど……」
クララは、歓迎と言うには遅くはないかと思っていた。だが、それも仕方のないことだった。
「デズモニアにいる魔族達だけを対象にすれば、もっと早く出来たんだけど、色々な都市にクララちゃんの情報を伝えて、こっちに来てもらっているの」
「……えっ? 外部の魔族の方々が来ているって事ですか!?」
「うん。まぁ、まだ来ている途中の方も多いけどね。大丈夫だよ。ラビオニアの時みたいな人はいないと思うよ」
クララが聞き返したのは、また危ない目に遭うかもしれないと考えているからではと思ったので、サーファは安心させるためにそう言った。実際、クララの歓迎のために来て欲しいと言う連絡だったので、クララがいることを良く思わない魔族は、そもそも魔王城に来ないと思われた。
「下手をすれば、魔王城で惨劇が起こる可能性もありますが、そんな事をすれば自身の身が危ないので、実行に移すような者はいないでしょう。この歓迎パーティーで着用するドレスを購入するのです」
「ドレス……」
クララは呆然と呟いた。ドレスから程遠い生活をしていたので、全く実感が湧かなかった。
「お披露目の時の物とその後のダンスパーティーの時の物と二種類購入します。片方は聖女らしい物。もう片方は可愛らしい物にする予定です」
「聖女らしい……そうなると、ローブみたいなのですか?」
「いえ、それは教会に着せられた物でしょう。もう少し違った物にするつもりです。これは、店側と相談しているところです」
「……あっ、私が寝ている時にいなかったのって……」
「はい。その時に店側と話し合いをしていました。大分方向性が決まってきたので、後は具体的なデザインとサイズですね。後者の方を確かめるために店の方に向かうのです」
「なる……ほど……」
クララは、自分の身体を見下ろして、言葉を詰まらせる。
(私の体型って、ドレスを着て映えるのかな?)
自分の体型で似合うドレスがあるのかと不安になっているのだ。それをリリンは、いとも容易く見抜いた。
「クララさんの身体でも似合うドレスは、いくらでもありますよ」
リリンに頭を撫でられながらそう言われると、クララは少し安心した。リリンもクララの安堵したような顔を見て、少しホッとしていた。
「今回の件で、クララへの治療依頼が来ると思うか?」
「いえ、さすがに一億ゴールドという金額ではおいそれとは出せないと思いますので、富豪くらいしか言い出せないと思います」
「最近は支出も多くなっているというからな。こっちの問題も解決したいところだが……中々難しいところだな」
「仕方ない事です」
支出が多くなった理由は、魔道具の普及にある。暮らしが便利になる魔道具は、爆発的に売れていった。さらに、新型は二年ごとに出ている。その結果、家計を圧迫する事になったのだ。
「そんなに新型が良いものなのか?」
「家事をしてみれば分かりますよ。試しにやってみますか?」
「…………いや、やめておこう。何となく威厳がなくなる気がする」
「そうですか。それは残念です。メイド達に楽をさせてあげられるかと思いましたのに」
カタリナは、少しからかうようにそう言った。ガーランドは、少しだけばつの悪そうな顔をする。
「それよりもだ。明日、クララの件に関して触れを出す。そこから一週間程は、クララの外出を禁止する。この件で、今よりもクララの注目が集まる事だろう。また、今日みたいな誘拐が起こらないとも限らない」
「分かりました。明日伝えに行きます」
「それにしても……聖女は、やはり聖女だな」
「え? どういうことですか?」
カタリナは、ガーランドが言っている事が分からず、首を傾げていた。
「不治の病を癒やす事が出来る。立派な奇跡だろう。その奇跡を起こしたクララは、その心持ちも聖女らしい。慈愛に満ちている。それは人族には向かなかったみたいだがな」
「確かに」
クララの能力は、魔族領に来る前から人族に向けられていない。その証拠に勇者のカルロス達への回復に大して効果がなかった。あの時のクララは、魔族よりも人族の方を憎んでいた。家族と故郷を失った理由が人族にあったからだ。
「クララには、このままゆっくりと暮らして欲しい。その下地は、大分出来てきている……と思っていたのだが……」
「今回はクララちゃんを害するための誘拐ではなかったのですから、大丈夫だと思いますよ。もっとクララちゃんの人となりを知れば、皆、受け入れてくれます」
「そうだな。あれも早めるか……」
「では、リリンに準備をするように伝えます。店の指定は……?」
「いつものところで良いだろう。費用は、こっちで持つ」
「分かりました」
カタリナとガーランドは、揃ってニヤリと笑いながら何かを計画していた。
────────────────────────
翌日。クララが治療を行うという触れが、城下町の掲示板に張り出された。城下町に住んでいる魔族達は、その金額に驚きつつも衰弱病を治したという事を知り、納得した。そして、カタリナの読み通り、クララに治療を頼みたいと言い出す魔族は一人も現れなかった。治療費を払える程の貯金をしているものは少ない。そして、その中で治療を必要としているものも少ないのだ。
そんな事もつゆ知らず、クララは熱を出して寝込んでいた。
「何で……また魔力暴走なんて……」
「今回の治療は、かなり難しいものでした。そのため、消耗する魔力の量もかなり多かったのでしょう。医学書は、しばらくお預けですね」
「うぅ……」
「熱が下がるまでは、絶対に没収ですから。それと今日から一週間は、外出禁止となります」
「え!? なんでですか?」
突然外出禁止と言われ、クララは驚いて身体を起こす。それをサーファが優しく寝かせた。
「もしかして……私が勝手をしてしまったから……」
「まぁ、それもありますが、クララさんが不治の病でも治療出来るという事を触れで知らせたので、よからぬ者に狙われないようにするという措置です。何かしらの問題が起きても一週間ほどで鎮圧出来るだろうとの事です」
「それ、一週間後に外出したら、やられるとかないんですか?」
「それもあり得ますが……ずっと外出禁止でもよろしいのですか?」
「嫌です!」
クララはふくれっ面になりながらそう言った。せっかく外に出る事が出来るようになったというのに、また軟禁生活になったら、今度は耐えきれないのだ。
「次からの外出は、少し警戒を強くしながら行く事になります。少し窮屈に感じるかもしれませんが、その時は我慢してください」
「はい」
「では、しばらくは療養に集中してください」
「は~い……」
クララは、再び寝込み生活を送ることになった。今度は、三日程で熱も下がり、その翌日には、体調も完全に戻っていた。この間、主な看病をしていたのはサーファだった。リリンは、外出をよくしていた。
完全復活したクララは、身体を伸ばしながらベッドから起き上がった。
「う~ん……今回は、前よりも早く治りましたね」
「そうですね。この前の魔力暴走と魔力酒で、かなり伸びていたのかもしれないですね」
「伸び幅が小さくなったって事は、私の魔力の最大値が近いって事ですか?」
「どうでしょうか。聖女の魔力ですから、もっと上がってもおかしくはないと思います。しばらくは、このくらい寝込むと考えていた方が良いかもしれません」
「なるほど……」
クララは、若干嫌な顔をする。多少期間が短くなったとはいえ、魔力暴走で熱を出している間は、何も出来ないというのは、色々な意味で辛いと感じているのだ。
「さて、体調も良くなったという事ですので、こちらが医学書を持ってきます」
リリンの言葉に、クララは見るからにわくわくしていた。リリンは一度自室に戻る。そして、大量の本を載せた台車を押して戻ってきた。
「これらが医学書になります。ここに置いてある物の他にもありますので、読み終わりましたらお知らせ下さい。持って参ります」
「わ、分かりました。これって、薬学書よりも多いですよね?」
「そうですね。医療の分野は、かなり広いですから」
「後三日で、外出禁止も終わりですよね?」
「はい。解禁日には、少し行かなくてはいけない場所がありますので、ご承知下さい」
「?」
クララは、自分に行かなくてはいけない場所があったかと考える。だが、特に何も思いつかなかった。
「どこに行くんですか?」
「服屋です」
「また服を買うんですか? もう十分買ったとも思うんですが」
「いえ、必要な服があるのです。本来はもう少し先の話だったのですが、急遽早まったので、買いに行かなくてはいけなくなったのです」
「何をするんですか?」
「凄く簡単に言うと、クララちゃんの歓迎パーティーだよ」
「歓迎? こっちに来て、もう三ヶ月近く経ちますけど……」
クララは、歓迎と言うには遅くはないかと思っていた。だが、それも仕方のないことだった。
「デズモニアにいる魔族達だけを対象にすれば、もっと早く出来たんだけど、色々な都市にクララちゃんの情報を伝えて、こっちに来てもらっているの」
「……えっ? 外部の魔族の方々が来ているって事ですか!?」
「うん。まぁ、まだ来ている途中の方も多いけどね。大丈夫だよ。ラビオニアの時みたいな人はいないと思うよ」
クララが聞き返したのは、また危ない目に遭うかもしれないと考えているからではと思ったので、サーファは安心させるためにそう言った。実際、クララの歓迎のために来て欲しいと言う連絡だったので、クララがいることを良く思わない魔族は、そもそも魔王城に来ないと思われた。
「下手をすれば、魔王城で惨劇が起こる可能性もありますが、そんな事をすれば自身の身が危ないので、実行に移すような者はいないでしょう。この歓迎パーティーで着用するドレスを購入するのです」
「ドレス……」
クララは呆然と呟いた。ドレスから程遠い生活をしていたので、全く実感が湧かなかった。
「お披露目の時の物とその後のダンスパーティーの時の物と二種類購入します。片方は聖女らしい物。もう片方は可愛らしい物にする予定です」
「聖女らしい……そうなると、ローブみたいなのですか?」
「いえ、それは教会に着せられた物でしょう。もう少し違った物にするつもりです。これは、店側と相談しているところです」
「……あっ、私が寝ている時にいなかったのって……」
「はい。その時に店側と話し合いをしていました。大分方向性が決まってきたので、後は具体的なデザインとサイズですね。後者の方を確かめるために店の方に向かうのです」
「なる……ほど……」
クララは、自分の身体を見下ろして、言葉を詰まらせる。
(私の体型って、ドレスを着て映えるのかな?)
自分の体型で似合うドレスがあるのかと不安になっているのだ。それをリリンは、いとも容易く見抜いた。
「クララさんの身体でも似合うドレスは、いくらでもありますよ」
リリンに頭を撫でられながらそう言われると、クララは少し安心した。リリンもクララの安堵したような顔を見て、少しホッとしていた。
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