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聖女の新たな日常
ドレスのサイズ測定
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それから四日後。クララは、カタリナ御用達の服屋にいた。ここは、クララ達が買い物をしたような奥にある店では無く、魔王城に近い店だ。見るからに高級店なので、クララは、かなり緊張していた。
「いらっしゃいませ~!!」
龍族の女性店員が、クララ達の元にやって来る。
「リリンちゃんがいるって事は、この子が例の子ね。うん。話に聞いていたよりも可愛らしい子ね。確かに、私のデザインよりもリリンちゃんのデザイン方が似合いそうだわ。早速サイズを測っていくわ。奥まで来てくれる?」
「は、はい!」
クララは、店員に連れられて、店の奥まで移動する。そこで下着姿になるまで剥かれ、身体の隅々まで測定されることになった。終始恥ずかしそうにしているクララだったが、必要な事なので、リリンもサーファも何も言わなかった。
特にサーファは、常に店の外を意識していた。魔王城から出て、ここに来るまで様々な魔族とすれ違ったが、特に何もされる事はなかった。前と同じく遠目からチラチラと見ているくらいだったのだ。
結局何も変わらなかったと片付けてしまうのは簡単だが、サーファは、まだ油断は出来ないと思い、警戒を強めているのである。店内の方は、龍族の店員しかいないので、特に警戒する必要はなかった。彼女は、カタリナの友人でもあるので、クララを害する事はないと判断されているからだ。
「特に変わりないです」
「そうですか。本当に、私達の考えすぎだった可能性が高まっていきますね」
「ですが、警戒は続けます。オウィンさんのように、どこか見えない場所から侵入してくる可能性もありますし」
「そうですね」
オウィンがクララを誘拐した事は、サーファにとって苦い思い出になっていた。自分の役目を果たせなかったからだ。サーファのこの気持ちは、自分の胸の中だけに納めているが、リリンにはバレバレだった。自分も同じ経験をしているからだ。それも二回も……
そんなリリンから、サーファへ助言をする事はなかった。これは、自分達の認識が甘いせいで起こった事なので、自分達それぞれで乗り越える必要があるからだった。
「終わったわよ。いっぱい食べるって聞いていたけど、思っていたより細かったわ」
「そうでしたか。日頃の運動に効果があったと分かって良かったです」
前程の頻度で運動をしているわけでは無いが、定期的にリリンとサーファの指導の下、運動を行っている。その効果が、こんなところで顔を出した。
クララは、どこか勝ち誇ったような表情をしていた。これならいっぱい食べても問題無いと言わんばかりだ。
「運動を続けないと、すぐに太りますよ」
「うぐっ……」
何も言い返せないクララは、肩を落としていた。出来れば運動をしたくないというのは、クララの変わらない考えだ。
「いつ頃出来上がりますか?」
「そうね……一週間と少しと言ったところかしら。間に合う?」
「はい」
「じゃあ、仕上がったら知らせるわ」
「お願いします」
ここでの用事を終えたクララ達は、店から出て行く。
「じゃあ、ここから自由ですか?」
クララはわくわくしながらリリンに訊く。
「いえ、ここから薬草園に顔を出した後、魔王城に戻ってやることがあります」
「?」
薬草園の方は、何となくどんな用事があるか分かるが、魔王城でやることが分からなかった。
「前にも言いましたが、お披露目の後にダンスパーティーがあるのです。踊れますか?」
リリンの問いにクララは首を振って答える。そもそも一度も踊ったことがないので、どんな踊りかも分からなかった。
「二人一組で踊りますので、踊り方を知らないと、相手に迷惑を掛ける事になります。恐らく、最初に踊るのは私になると思いますが、その後にどうなるか分かりません。練習をしておいても損はないと思います」
「うっ……確かに……練習しておかないと不格好になりますよね……頑張ります!」
「はい。では、薬草園に行きましょう」
「はい!」
クララ達は、まっすぐ薬草園へと向かった。その最中、クララはある事が気になった。
「そういえば、歓迎パーティーって、街の人達は来るんですか?」
「いえ、来るのは魔族の中でも位の高い方々です。基本的に街の運営をしている方々と言った方が分かりやすいですね」
「貴族って感じの人達だよ。私も会った事はないから緊張するよ」
サーファは苦笑いになりながらそう言った。気持ち的には、クララと同じようなものだと思ったからだ。だが、実際にはちょっと違う。
「貴族……人族領で会った事あります」
「え!? そうなの!?」
クララを自分と同じだと思っていたサーファは、クララの言葉に驚いていた。
「一応、聖女なので、王城に入った事があるんです。あそこにいる人達は、ほとんど貴族なので」
「ああ……納得。話した事もあるの?」
「えっと……何人かの人に挨拶程度ですけどしましたよ。まともな人は少なかったですけど」
「ああ……」
クララの境遇を思い出して、サーファは少し申し訳なさそうにしていた。
「人族の上の人達って、何でああいう人達が多いんでしょうか?」
「向こうは、一番上から腐っていますから、結果的に全てが腐ってしまっているのかもしれないですね」
魔族も全て清廉潔白というわけではないが、人族の場合は、腐っている範囲が大きすぎた。特にその上層部である国王以下配下達と教会関係者は、腐敗しすぎて悪臭を放つレベルだ。
そんな事を話している内に薬草園に着いた。クララ達が中に入ると、横にある部屋からサラが飛び出してきた。
「ク~ララ~!」
飛び出してきたサラは、まっすぐクララに飛びついた。
「うげっ……!」
「うわっ……!」
いきなりの飛びつきに、クララが耐えられるはずもなく、二人揃って床に倒れる。
「痛たた……いきなり飛びついたら危ないよ」
「あはは、ごめん、ごめん。クララを見たら、嬉しさでついね」
サラはそう言いながら立ち上がり、クララに手を差し伸べる。その手を取って、クララも立ち上がる。
「クララにお礼が言いたいの。クララが、魔王妃様に掛け合ってくれたから、実験を続ける事が出来るようになったんだ。本当にありがとうね!」
サラはそう言って、改めてクララに抱きつく。
「う、うん。どういたしまして」
クララもサラを抱きしめ返す。
「でも、クララの区画を使わせて貰っちゃって良かったの?」
「私が言い出した事だし、私の利益にもなるしね。上手くいっている?」
「そこそこ。結果が出るのはもう少し先だよ」
「へぇ~」
カタリナから許可を貰い、実験を開始したのがついこの間なので、まだ結果が出るには早い。
二人が話しているところに、リリンが入っていく。
「少しよろしいですか?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「この間から、こちらでオウィスという羊族の男が働いていると思うのですが、問題はないでしょうか?」
薬草園に来た理由は、オウィスの様子を確認するためだった。ここで働くことになったのは、クララとの契約の結果なので、しっかりと働いているか確認する義務がある。クララにその自覚がないので、こうして連れてきたのだ。
「働いていますよ。今は、肉体労働を担当しています。土を耕したりするのは、力や体力が必要ですから」
サラが指を指した方向には、鍬を使って畑を耕しているオウィスの姿があった。その表情は、どこかすっきりとしていた。アリエスが助かった事で、心に積もっていた不安などが取り除かれ、清々しい気持ちになっているのだ。
「仕事が楽しいって毎日のように言っています。楽しんでくれるのは嬉しいのですが、本当に毎日のように言っているので、新手の変態かと思いました」
「遠慮無しに言いますね。まぁ、気持ちは分かりますが、本人には言わないように」
「分かっています。そうだ。クララちゃんが申請していた薬草が届いたから、今、栽培中だよ。大体一、二週間で収穫出来ると思う」
「そうなの!? やった!」
新しい薬草が手に入ると知り、クララは飛び跳ねて喜ぶ。
「あっ、そういえば、サラさんは、私の歓迎パーティーに来るの?」
「うん。私は招待されているよ。正直、私が行って良いのかって不安になるけど」
「招待されているなら、大丈夫だよ。私は、サラさんがいてくれた方が心強いかな。周りは知らない人が多くなるだろうし」
「ああ、だから招待されたんだ。友達がいた方がクララも楽になるだろうしね」
クララは、サラがちゃんとパーティーに来てくれる事を内心ものすごく喜んでいた。リリンとサーファが来ることは確実だが、他にも友人がいた方が、クララが打ち解けやすいだろうと考えたカタリナが招待したのだ。
「それでは、私達はそろそろ魔王城に戻りましょう。まだやることがありますから」
「そうですね。じゃあ、行くね。また今度ね」
「うん。今度来たときは、実験の内容も見せてあげるね」
クララ達は手を振って別れ、魔王城へと戻っていった。そして、魔王城の自室でパーティーで踊るダンスの練習をした。リリンとサーファを交互にパートナーとして練習をしたが、何度も何度も二人の足を踏んでしまい、クララはとても申し訳なく思っていた。
「いらっしゃいませ~!!」
龍族の女性店員が、クララ達の元にやって来る。
「リリンちゃんがいるって事は、この子が例の子ね。うん。話に聞いていたよりも可愛らしい子ね。確かに、私のデザインよりもリリンちゃんのデザイン方が似合いそうだわ。早速サイズを測っていくわ。奥まで来てくれる?」
「は、はい!」
クララは、店員に連れられて、店の奥まで移動する。そこで下着姿になるまで剥かれ、身体の隅々まで測定されることになった。終始恥ずかしそうにしているクララだったが、必要な事なので、リリンもサーファも何も言わなかった。
特にサーファは、常に店の外を意識していた。魔王城から出て、ここに来るまで様々な魔族とすれ違ったが、特に何もされる事はなかった。前と同じく遠目からチラチラと見ているくらいだったのだ。
結局何も変わらなかったと片付けてしまうのは簡単だが、サーファは、まだ油断は出来ないと思い、警戒を強めているのである。店内の方は、龍族の店員しかいないので、特に警戒する必要はなかった。彼女は、カタリナの友人でもあるので、クララを害する事はないと判断されているからだ。
「特に変わりないです」
「そうですか。本当に、私達の考えすぎだった可能性が高まっていきますね」
「ですが、警戒は続けます。オウィンさんのように、どこか見えない場所から侵入してくる可能性もありますし」
「そうですね」
オウィンがクララを誘拐した事は、サーファにとって苦い思い出になっていた。自分の役目を果たせなかったからだ。サーファのこの気持ちは、自分の胸の中だけに納めているが、リリンにはバレバレだった。自分も同じ経験をしているからだ。それも二回も……
そんなリリンから、サーファへ助言をする事はなかった。これは、自分達の認識が甘いせいで起こった事なので、自分達それぞれで乗り越える必要があるからだった。
「終わったわよ。いっぱい食べるって聞いていたけど、思っていたより細かったわ」
「そうでしたか。日頃の運動に効果があったと分かって良かったです」
前程の頻度で運動をしているわけでは無いが、定期的にリリンとサーファの指導の下、運動を行っている。その効果が、こんなところで顔を出した。
クララは、どこか勝ち誇ったような表情をしていた。これならいっぱい食べても問題無いと言わんばかりだ。
「運動を続けないと、すぐに太りますよ」
「うぐっ……」
何も言い返せないクララは、肩を落としていた。出来れば運動をしたくないというのは、クララの変わらない考えだ。
「いつ頃出来上がりますか?」
「そうね……一週間と少しと言ったところかしら。間に合う?」
「はい」
「じゃあ、仕上がったら知らせるわ」
「お願いします」
ここでの用事を終えたクララ達は、店から出て行く。
「じゃあ、ここから自由ですか?」
クララはわくわくしながらリリンに訊く。
「いえ、ここから薬草園に顔を出した後、魔王城に戻ってやることがあります」
「?」
薬草園の方は、何となくどんな用事があるか分かるが、魔王城でやることが分からなかった。
「前にも言いましたが、お披露目の後にダンスパーティーがあるのです。踊れますか?」
リリンの問いにクララは首を振って答える。そもそも一度も踊ったことがないので、どんな踊りかも分からなかった。
「二人一組で踊りますので、踊り方を知らないと、相手に迷惑を掛ける事になります。恐らく、最初に踊るのは私になると思いますが、その後にどうなるか分かりません。練習をしておいても損はないと思います」
「うっ……確かに……練習しておかないと不格好になりますよね……頑張ります!」
「はい。では、薬草園に行きましょう」
「はい!」
クララ達は、まっすぐ薬草園へと向かった。その最中、クララはある事が気になった。
「そういえば、歓迎パーティーって、街の人達は来るんですか?」
「いえ、来るのは魔族の中でも位の高い方々です。基本的に街の運営をしている方々と言った方が分かりやすいですね」
「貴族って感じの人達だよ。私も会った事はないから緊張するよ」
サーファは苦笑いになりながらそう言った。気持ち的には、クララと同じようなものだと思ったからだ。だが、実際にはちょっと違う。
「貴族……人族領で会った事あります」
「え!? そうなの!?」
クララを自分と同じだと思っていたサーファは、クララの言葉に驚いていた。
「一応、聖女なので、王城に入った事があるんです。あそこにいる人達は、ほとんど貴族なので」
「ああ……納得。話した事もあるの?」
「えっと……何人かの人に挨拶程度ですけどしましたよ。まともな人は少なかったですけど」
「ああ……」
クララの境遇を思い出して、サーファは少し申し訳なさそうにしていた。
「人族の上の人達って、何でああいう人達が多いんでしょうか?」
「向こうは、一番上から腐っていますから、結果的に全てが腐ってしまっているのかもしれないですね」
魔族も全て清廉潔白というわけではないが、人族の場合は、腐っている範囲が大きすぎた。特にその上層部である国王以下配下達と教会関係者は、腐敗しすぎて悪臭を放つレベルだ。
そんな事を話している内に薬草園に着いた。クララ達が中に入ると、横にある部屋からサラが飛び出してきた。
「ク~ララ~!」
飛び出してきたサラは、まっすぐクララに飛びついた。
「うげっ……!」
「うわっ……!」
いきなりの飛びつきに、クララが耐えられるはずもなく、二人揃って床に倒れる。
「痛たた……いきなり飛びついたら危ないよ」
「あはは、ごめん、ごめん。クララを見たら、嬉しさでついね」
サラはそう言いながら立ち上がり、クララに手を差し伸べる。その手を取って、クララも立ち上がる。
「クララにお礼が言いたいの。クララが、魔王妃様に掛け合ってくれたから、実験を続ける事が出来るようになったんだ。本当にありがとうね!」
サラはそう言って、改めてクララに抱きつく。
「う、うん。どういたしまして」
クララもサラを抱きしめ返す。
「でも、クララの区画を使わせて貰っちゃって良かったの?」
「私が言い出した事だし、私の利益にもなるしね。上手くいっている?」
「そこそこ。結果が出るのはもう少し先だよ」
「へぇ~」
カタリナから許可を貰い、実験を開始したのがついこの間なので、まだ結果が出るには早い。
二人が話しているところに、リリンが入っていく。
「少しよろしいですか?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「この間から、こちらでオウィスという羊族の男が働いていると思うのですが、問題はないでしょうか?」
薬草園に来た理由は、オウィスの様子を確認するためだった。ここで働くことになったのは、クララとの契約の結果なので、しっかりと働いているか確認する義務がある。クララにその自覚がないので、こうして連れてきたのだ。
「働いていますよ。今は、肉体労働を担当しています。土を耕したりするのは、力や体力が必要ですから」
サラが指を指した方向には、鍬を使って畑を耕しているオウィスの姿があった。その表情は、どこかすっきりとしていた。アリエスが助かった事で、心に積もっていた不安などが取り除かれ、清々しい気持ちになっているのだ。
「仕事が楽しいって毎日のように言っています。楽しんでくれるのは嬉しいのですが、本当に毎日のように言っているので、新手の変態かと思いました」
「遠慮無しに言いますね。まぁ、気持ちは分かりますが、本人には言わないように」
「分かっています。そうだ。クララちゃんが申請していた薬草が届いたから、今、栽培中だよ。大体一、二週間で収穫出来ると思う」
「そうなの!? やった!」
新しい薬草が手に入ると知り、クララは飛び跳ねて喜ぶ。
「あっ、そういえば、サラさんは、私の歓迎パーティーに来るの?」
「うん。私は招待されているよ。正直、私が行って良いのかって不安になるけど」
「招待されているなら、大丈夫だよ。私は、サラさんがいてくれた方が心強いかな。周りは知らない人が多くなるだろうし」
「ああ、だから招待されたんだ。友達がいた方がクララも楽になるだろうしね」
クララは、サラがちゃんとパーティーに来てくれる事を内心ものすごく喜んでいた。リリンとサーファが来ることは確実だが、他にも友人がいた方が、クララが打ち解けやすいだろうと考えたカタリナが招待したのだ。
「それでは、私達はそろそろ魔王城に戻りましょう。まだやることがありますから」
「そうですね。じゃあ、行くね。また今度ね」
「うん。今度来たときは、実験の内容も見せてあげるね」
クララ達は手を振って別れ、魔王城へと戻っていった。そして、魔王城の自室でパーティーで踊るダンスの練習をした。リリンとサーファを交互にパートナーとして練習をしたが、何度も何度も二人の足を踏んでしまい、クララはとても申し訳なく思っていた。
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