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可愛がられる聖女

美顔薬と火傷薬

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 翌日。薬室にいるクララの元にサラがやってくる。その手には、籠があり、昨日収穫したものが入っていた。それらは丁寧に洗われ、適切な処理もされている。

「一応、アフディ草の葉っぱ部分も持ってきてるけど、どうする?」
「えっ、う~ん……一応貰っておく。もしかしたら、いつか使うかもだし。乾燥させても問題はなかったよね?」
「うん。寧ろ乾燥させて使うものだから、そうやって別の容器に保存しておけば、年単位で保つはず」

 サラは、薬学に詳しい訳でないが、薬草を育てるという仕事上、薬草そのものには詳しくなっていた。

「分かった。持ってきてくれて、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。また、何か新しいものが収穫出来たら持ってくるね。収穫はまだまだだけど、傷薬の効能が高くなるみたいなものも育て始めてるから」
「へぇ~、そんなのあるんだ。まだ、私が読んでいない薬学書に書いてあるのかな?」
「さぁ? 私、薬学に詳しい訳じゃないし」
「それもそうだよね」
「それじゃあ、私は、もう行くね」
「うん。またね」

 サラと別れたクララは、サラから受け取った籠を薬室の机に置く。そこに、アリエスもやってくる。

「今回は、どんな薬草を仕入れたの?」
「バーン草とフェイシ草とアフディ草だよ。アフディ草は、根の部分だけ使って、葉っぱとかは乾燥させて保存するって形」
「そうなんだ。じゃあ、私が葉っぱを乾燥させようか?」
「ううん。今回は、新しい薬を作るのを手伝ってくれる? 結構色々な種類のものを作るし、アリエスにも作って貰うような薬もあるから」
「うん。分かった」

 アリエスが大量生産してくれているおかげで、薬にはかなり余裕が出ているので、今回は新しい薬の生産を優先する事にしていた。

「じゃあ、まずはモイスの種から油を絞ろう……あっ! 油絞り機を忘れてた……」
「それなら、部屋にありますので、取ってきます」

 リリンはそう言うと、薬室を出て自室に向かった。

「リリンさんが持っていて良かったね」
「はい。でも、サーファさんが手で絞ってくれるって言ってくれた事、忘れてないですからね」
「ふっふっふっ、獣族の底力を見せてあげよう」

 サーファはそう言いながら、クララを抱きあげて、クララの自室に連れて行く。モイスの種が、そこに置いてあるからだ。その後ろをアリエスがついてくる。
 一週間天日干しをしたモイスの種はカラッカラに乾いていた。

「多分、これで準備は大丈夫なはず」
「じゃあ、これを薬室に持っていけば良いんだね?」
「はい。お願いします」

 クララを降ろしたサーファは、種を置いている布の端を持って、種を包み込み薬室まで持っていく。

「これを割って、中身を取り出そう」
「うん」

 クララとアリエスが種から中身を取るために殻を割ろうと、近くにあるすりこぎを掴むのと同時に、サーファが素手で次々に種を割っていった。
 モイスの種は、クララ達が自然とすりこぎを取るくらいには、硬い。それを、サーファは卵を割るが如く、ごく普通に素手で割っている。

「……」
「……」

 クララとアリエスは、無言でサーファを見ていた。その視線に気付いたサーファは、どうしたのだろうといった風に首を傾げつつ、ニコッと笑った。

「結構簡単に割れちゃうから、二人は中身を取り出すのに集中して良いよ」
「あ、お願いします」

 二人は、サーファに殻を割るのを任せて、爪楊枝で中身を取っていった。その間に、油絞り機を持ってきたリリンが戻ってくる。

「一応、綺麗に洗っておきましたが、これで問題無いでしょうか?」
「はい。大丈夫だと思います。でも、使っちゃって良いんですか?」
「ええ、構いません。必要になったら、サーファに絞って貰えば良いと思いますので」
「お任せあれ!」

 それでいいのかと思わなくも無いリリンだったが、取りあえずツッコまないでおいた。
 三人の作業を見ていたリリンは、クララ達の方を手伝う。サーファの方は、サーファが異常な早さで割っているので、このままサーファにやらせても問題無いと判断したからだ。
 殻から取り出した中身を容器に移していき、軽く蒸す。
 その間に、火傷薬を作るために、バーン草を蒸留釜に持っていき、精油作りをしていく。この行程は、アリエスでも出来るので、アリエスが担当する。
 クララは別の作業に取りかかる。それは、フェイシ草の下処理だ。こっちは精油を取り出すのではなく、すり鉢でひたすらすり潰していく。
 蒸しの終わりに合わせて、一旦すり鉢を置き、蒸し終わった器を取り出し、油絞り機に掛ける前にサーファに渡す。

「この器に絞れば良い?」
「はい。お願いします」

 さすがに、人力では全然絞れないだろうと考えていたクララは、次の瞬間唖然とする事になる。身体強化をしているとはいえ、本当に油を搾り取っていたからだ。

「う~ん……私の力じゃ、これが限界かな」
「あ、はい。じゃあ、油絞り機に」

 クララが油絞り機に掛けると、本当に二、三滴しか絞り取れなかった。

「サーファさん、凄い……」
「馬鹿力という事ですね」

 サーファは胸を張ってドヤ顔をしていた。その手からは、付着した油が垂れている。

「サーファさん、手を洗って大丈夫ですよ?」
「あ、忘れてた」

 サーファが手を洗っている間に、取り出した油を煮沸させて、水分を飛ばす。その後は、濾紙を使って濾過をしていく。この濾過は、最低でも十回繰り返す。そうして、なるべく不純物が混ざらないようにするのだ。出来上がった油は、小瓶に入れて密閉しておく。

「結構な数の種があったのに、取れる油は少ないんだね」

 小瓶の中に入っている油を見ながら、サーファはそう言った。

「そうですね。今度からは、もっと種を集めたいところですけど、栽培用にも必要でしょうから、すぐに量を作るのは無理そうです。保湿薬と美顔薬は、大量生産出来そうにないですね」
「じゃ、じゃあ、もう作らない?」

 精油と芳香蒸留水を分けていたアリエスがそう訊いてくる。自分の業務にも関わってくるので、確認は必要だ。

「う~ん、自分達で使う分だけ作ろうかな。だから、アリエスは作らないで良いよ」
「うん」

 クララは、アリエスの業務には追加せず、自分達で使いたい時に作る事に決めた。もしかしたら、いずれ大量に仕入れられる時が来るかもしれないので、その時には出そうと決めた。

「そっちは、後は蝋と合わせるだけ?」
「うん」
「じゃあ、そっちはお願い。私は、こっちを仕上げちゃうから」
「わ、分かった」

 クララは、すり潰したフェイシ草に、先程精製した油を加えて、さらにすり潰していく。ある程度すり潰した後は、布で濾して別の小瓶に移す。出来上がったものは、白く濁った液体だった。

「これが美顔薬?」
「はい。後、この油、そのものが保湿薬になります。美顔薬は、名前の通り顔に付けるのが基本ですが、こっちはどこにでも使えるみたいです」
「へぇ~、こうやって作ってるんだ。いつもクララちゃんの顔に付けたりしているのも、これなんですか?」
「そうですね。恐らくはそうかと」

 クララは、自分も使っていたものを作っていた事に、少し驚く。基本的にリリン達に付けられているだけなので、自分で付けられているものを確認した事がなかった。それが、クララも知らなかった理由だ。

「火傷薬は出来たよ」

 そう伝えるアリエスの手には、白い軟膏があった。これに本当に効果があるかは、実際に使ってみないと分からないが、取りあえず完成はした。

「リリンさん、この薬も魔王軍の方々に使ってみて貰ってからって形ですか?」
「そうですね。そのようにするつもりです」
「分かりました。じゃあ、ある程度の数は作っておいてくれる? その後は、いつも通りの薬を作っていて。私は、アフディ草を乾燥させたり、媚薬を作ったりするから」
「うん」

 他の薬を任せて、クララは、媚薬作りに取りかかった。
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