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可愛がられる聖女
二人の来客
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「あら? お邪魔だった?」
クララの部屋に来た二人の内の一人が、クララとリリンの状態を見てそう言った。それと同時に、リリンが立ち上がってから跪いた。
「ああ、良いって。そういう堅苦しいのは苦手だから」
そう言うのは、白い髪を背中まで伸ばし、威圧感のある赤いつり目をした女性だった。その一番の特徴は、側頭部から上向きに生えた枝分かれのない角だった。
「私も姉さんと同じ。別に知らない仲でもないのだから、そこまで畏まらなくて良い」
そう言ったのは、姉と呼んだ先程の女性と同じく白い髪を肩口まで伸ばし、これまた姉と同じだが、姉よりは威圧感はない赤いつり目をしている女性だ。だが、姉の角とは違い、枝分かれした角が側頭部から斜め下に生えていた。
「かしこまりました」
リリンはそう返事をすると、立ち上がった。姉は、ずんずんとクララに歩み寄ると、クララの顔をジロッと覗きこんだ。
威圧感のある目でジロジロと見られているため、クララは少し緊張していた。
「この子が聖女? 小っさいけど、可愛い子じゃん。ユーリーも見てみなよ」
ユーリーと呼ばれた女性は、同じようにクララを見る。
「うん。顔も整ってるし、聖女って言われても違和感はない」
唐突に二人からジロジロと見られ、完全に困ったクララは、不安げな表情でリリンを見ていた。
「マーガレット様、ユーリー様。クララさんが困っていらっしゃいますので、少し離れて頂ければ幸いです」
クララから助けを求められたリリンは、すぐに二人に進言した。そう言われたマーガレットとユーリーは、素直に一歩下がった。だが、クララをジッと見る眼は変わらなかった。
クララが居心地の悪さを感じていると、再び部屋の扉が勢いよく開いた。そこから入ってきたカタリナは、即座にマーガレットとユーリーに近づいて、頭を叩いた。
「クララちゃんを困らせないの!」
「痛っ!?」
「っ!?」
マーガレットとユーリーは、同時に叩かれた頭を押えた。
「ごめんなさいね、クララちゃん。いきなり来て怖かったでしょ?」
「いきなり具合は、カタリナさんとそう変わりないので、あまり……」
そう言われたカタリナは、苦笑いをした。
「多分、大体分かっていると思うけど、この子達は私の娘よ。こっちの眼が怖いのが、長女のマーガレットで、こっちの大人しそうなのが次女のユーリーよ。あなた達、どうせ自己紹介してないでしょ?」
そう訊かれたマーガレットとユーリーは、互いに顔を見合わせてから、カタリナの方を見て頷いた。
「忘れてた」
「だってさ、私達って、結構有名じゃん。だから、態々自己紹介してないでも良いって事が多いんだもん」
「どんな時でも自己紹介はしなさいって、何度も言っているでしょ!」
カタリナは、マーガレットとユーリーの顔を鷲掴みにして、力を入れる。
「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」」
そんな親子のやり取りを見せられているクララは、相変わらず困った顔をしていた。それに気付いたカタリナは、マーガレット達を放すと、近くにある椅子を引いてきて、クララの前に座る。
「前にこの子達が会いたがっているって話したのを覚えているかしら?」
「えっと……あのパーティーの時ですよね? 確か予定があって来られなくなったって話だったと思います」
「正解よ。それで、ようやく予定が空いたから会いに来たって事なの。本当は、明後日くらいの予定だったから、まだ知らせてなかったのよ。ごめんなさいね」
「あ、そうだったんですね」
そんな事をカタリナと話していると、マーガレットがクララに近づいて来た。
「?」
どうしたのだろうとクララが思っていると、クララの頬を軽く摘まんだり、手を揉んだり、身体を持ち上げたり、匂いを嗅いだりと唐突に色々な事をしてきた。やられているクララは、どうしていいのか分からず、大人しく固まっていた。
そんなマーガレットの頭にカタリナの鉄拳が振り下ろされる。
「痛っ!?」
「一体何をしているのかしら?」
「いや、だって人族を見るの初めてだし、どんなのなんかなって」
「初対面なんだから、クララちゃんに声を掛けてからしなさい」
カタリナでさえも初対面でクララを揉みくちゃにする事はなかった。それは、クララが警戒していたからという事が大きい。だが、今のクララは、魔族に対してあまり警戒心がない。マーガレットが平然とクララに触っていた理由の一つはそれだ。
「じゃあ、ちょっと抱いて良い?」
「えっと……はい。どうぞ」
クララの許可を取ったので、マーガレットはクララを持ち上げて、自分がベッドに座ってからクララを膝に載せた。
「人族って、こんなに顔が整っているもの?」
「えっと……人によります」
「それは魔族と一緒か。身体の感触は、私達とあまり変わりないし、ちょっと拍子抜けだわ。ただ、ちょっと甘い匂いがするんだけど、これも人族の特徴?」
「?」
クララは、全く心当たりがなく、首を傾げる。唯一リリンだけ、心当たりがあった。
(媚薬が抜けた後の独特な匂いの事ですね……既に効力がなくなっているのは助かりました。取りあえず、この事は黙っている事にしましょう)
カタリナ達に言うような事でもないので、リリンは黙っておく事にした。
「聖女特有の見た目とかは?」
「特に無いと思います」
「なんだ。胸は……そこまでないか。人族って、胸の大きさは一定?」
「い、いえ、人によります……」
「ふぅん。そこら辺は個体差か」
マーガレットはそう言いながら、クララの胸を揉んでいた。そんなマーガレットの頭にカタリナの手刀が叩き込まれる。
「痛っ!?」
「いい加減にしなさい。自分がやられたら嫌でしょ」
「えっ、別にこの子だったら良いけど」
マーガレットは、男性に触られるのは嫌だが、クララくらいの女の子なら、大して抵抗はないのだった。
そんなマーガレットに、カタリナはため息を零して呆れる。
「全く……クララちゃんが恥ずかしがって、顔を赤くしているから止めなさい」
カタリナの言う通り、クララの頬は赤く染まっていた。だが、一つだけ違う点があり、恥ずかしがっているというよりも変な感じがして紅潮していた。その理由に、クララは心当たりがないでもない。だが、それは、媚薬の効果がまだ残っているという見当外れの心当たりだった。
(さすがに、あの後だからか身体が敏感なようですね。バレないと良いのですが……)
さすがに昨日一昨日の事件は、カタリナ達にバレたくないので、リリンは気付かれないようにと祈っていた。
「そういえば、この子の名前聞いてない」
ユーリーがそこに気付いて、クララが紅潮した理由に関しては気付かれなかった。
「あ、すみません。クララ・フリーゲルです」
「クララね……ねぇ、この子、ちょっと痩せすぎじゃない?」
「今の状態でも、ふっくらとしてきた方です。ここに来た当初はもっと痩せていました」
クララを触っていてクララの細さに気付いたマーガレットに、リリンがそう答えた。実際に、今の状態は、かなり改善している状態なので、マーガレットから痩せていると言われても、リリンからしたら大分マシになってきたという印象なのだ。
「そういえば、向こうでは、劣悪な環境で暮らしていたんだっけか。それを考えたら良い状態なのか」
マーガレットはクララの髪の毛を触りながら、カタリナから送られてきた情報を思い出していた。
「ねぇ、お母さん。クララが着ている服って、私達の服じゃないの?」
ユーリーは、クララを見ていて服に見覚えがある事に気が付いた。
「そうよ。あなた達が着なかった服をあげたのよ。問題無いでしょ?」
「ない。私達よりも似合っているから。そういう服が好き?」
今日クララが着ている服は、魔王城に着た頃にも着ていた白いフリル付きのワンピースだった。
「えっと、好きと言えば好きです」
「そう」
ユーリーは、目を細めてジッとクララを見る。普通にしていれば、マーガレットよりも威圧感はないものの、こうして目を細めると少し威圧感が出る。それを受けて、クララは緊張して身体が硬くなる。
クララを膝に載せていたマーガレットは、すぐにその事に気が付いた。
「ちょっとユーリー。クララが怖がってるから」
「姉さんに抱えられているからじゃない?」
「何? 喧嘩売ってんの?」
マーガレットとユーリーが睨み合う。その間に挟まれているクララとしては、さらに緊張する事になった。それを解決したのは、やはりカタリナだった。
「喧嘩するなら、部屋の外でしなさい。クララちゃんが困っているでしょ」
そう言われた直後、二人から発せられる威圧感が消え去る。その事にクララは安堵した。
落ち着いた二人を改めて見て、クララはある事に気が付く。
「そういえば、お二人は龍族なんですね。魔王様は鬼族なのに」
「あら、そういえば、そこら辺の説明はした事がなかったわね。簡単に言うと、種族の違う魔族から産まれる子供は、遺伝子の強さが関係するわ。遺伝子っていうのは、親から子に受け継がれるものね。龍族は、この遺伝子の強さが他の種族よりも強いの。だから、私から産まれてくる子供は龍族になるのよ」
人族と違い、様々な種族を内包している魔族だからこそ起こり得る事だった。
「それって、遺伝子が弱い種族がいなくなってしまいませんか?」
「そうね。でも、実際は逆。強い種族の方が少ないのよ。なぜだか分かるかしら?」
そう問われても、答えが出ず、クララは首を傾げる事になった。
「遺伝子が強ければ強い程、子供が出来にくいのよ。だから、その逆で遺伝子が弱い種族は子供が出来やすくてね。結果、強い種族は数が少なくなるのよ」
「そうだったんですか。そう考えたら、お二人も産んでいるは、結構凄い事なんですね」
「そうね。因みに、人族と魔族からは、魔族の子供しか産まれないらしいわ。随分昔の話だから、本当かどうか分からないけどね」
「へぇ~」
ほぼ直球で弱い種族と言われているのだが、クララは、全く気にした様子はなかった。単純に気付いていないだけだが、それに気付いたとしてもクララは一切気にしないだろう。魔族領で暮らしていて、人族の弱さを実感しているからだ。
「龍族は強いって言うけど、結構不便なんだよ」
クララの太腿を触りながら、マーガレットがそう言う。若干恥ずかしいクララだったが、それよりも気になる事があった。
「不便ですか?」
「そう。例えば寝るとき。横になったら角が邪魔」
「あ、なるほど……」
改めて、カタリナ、マーガレット、ユーリーの角を見てみて、クララはマーガレットの言っている事が理解出来た。
「皆さんも大変なんですね。その角って、そんなに硬いんですか?」
「硬い。角で岩を砕けるくらいには」
「触ってみる?」
「良いんですか?」
「良いよ良いよ。散々触らせて貰ってるし」
先程からクララの身体を触り続けていたマーガレットから許可を貰って、クララはマーガレットの角に手を伸ばす。
「凄い……硬い……それに、つるつる?」
「ああ、それは人によるかな。お母さんのは、ざらざらしてるし、ユーリーのは、木の皮みたいな感じだから」
「そうね。ほら」
カタリナが頭を下げて、クララが触りやすいようにする。有り難く触らせて貰うと、本当にざらざらとしている。
「ん」
ユーリーも同じようにクララに触りやすいように屈んだ。ユーリーの角も本当に木の皮のような感じだった。
「本当に違いますね。こういうのって、他の種族の方々も特徴が違うって事があるんですか?」
「種族によってはあるわね。そこら辺も講義でやってもらうと良いわ。私達が教えるには範囲が広すぎるから」
カタリナにそう言われたクララは、リリンの事を見る。すると、リリンがこくりと頷いたので、本当に講義でやって貰える事になった。ここら辺は、ベルフェゴールの担当では無く、リリンの担当になるだろう。
「さてと、私達はそろそろ行くわね」
「えっ、私は、もう少しこの子を触っていたいんだけど」
「せっかくこっちに来たのだから、色々と挨拶を済ませなさい。そうしたら、遊びに行くと良いわ」
「面倒事は、先に片付けておいた方が良いのは事実か。それじゃあ、クララ、また今度ね」
「遊びに来る」
マーガレットとユーリーは、カタリナと共にクララの部屋を出て行った。
クララの部屋に来た二人の内の一人が、クララとリリンの状態を見てそう言った。それと同時に、リリンが立ち上がってから跪いた。
「ああ、良いって。そういう堅苦しいのは苦手だから」
そう言うのは、白い髪を背中まで伸ばし、威圧感のある赤いつり目をした女性だった。その一番の特徴は、側頭部から上向きに生えた枝分かれのない角だった。
「私も姉さんと同じ。別に知らない仲でもないのだから、そこまで畏まらなくて良い」
そう言ったのは、姉と呼んだ先程の女性と同じく白い髪を肩口まで伸ばし、これまた姉と同じだが、姉よりは威圧感はない赤いつり目をしている女性だ。だが、姉の角とは違い、枝分かれした角が側頭部から斜め下に生えていた。
「かしこまりました」
リリンはそう返事をすると、立ち上がった。姉は、ずんずんとクララに歩み寄ると、クララの顔をジロッと覗きこんだ。
威圧感のある目でジロジロと見られているため、クララは少し緊張していた。
「この子が聖女? 小っさいけど、可愛い子じゃん。ユーリーも見てみなよ」
ユーリーと呼ばれた女性は、同じようにクララを見る。
「うん。顔も整ってるし、聖女って言われても違和感はない」
唐突に二人からジロジロと見られ、完全に困ったクララは、不安げな表情でリリンを見ていた。
「マーガレット様、ユーリー様。クララさんが困っていらっしゃいますので、少し離れて頂ければ幸いです」
クララから助けを求められたリリンは、すぐに二人に進言した。そう言われたマーガレットとユーリーは、素直に一歩下がった。だが、クララをジッと見る眼は変わらなかった。
クララが居心地の悪さを感じていると、再び部屋の扉が勢いよく開いた。そこから入ってきたカタリナは、即座にマーガレットとユーリーに近づいて、頭を叩いた。
「クララちゃんを困らせないの!」
「痛っ!?」
「っ!?」
マーガレットとユーリーは、同時に叩かれた頭を押えた。
「ごめんなさいね、クララちゃん。いきなり来て怖かったでしょ?」
「いきなり具合は、カタリナさんとそう変わりないので、あまり……」
そう言われたカタリナは、苦笑いをした。
「多分、大体分かっていると思うけど、この子達は私の娘よ。こっちの眼が怖いのが、長女のマーガレットで、こっちの大人しそうなのが次女のユーリーよ。あなた達、どうせ自己紹介してないでしょ?」
そう訊かれたマーガレットとユーリーは、互いに顔を見合わせてから、カタリナの方を見て頷いた。
「忘れてた」
「だってさ、私達って、結構有名じゃん。だから、態々自己紹介してないでも良いって事が多いんだもん」
「どんな時でも自己紹介はしなさいって、何度も言っているでしょ!」
カタリナは、マーガレットとユーリーの顔を鷲掴みにして、力を入れる。
「「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」」
そんな親子のやり取りを見せられているクララは、相変わらず困った顔をしていた。それに気付いたカタリナは、マーガレット達を放すと、近くにある椅子を引いてきて、クララの前に座る。
「前にこの子達が会いたがっているって話したのを覚えているかしら?」
「えっと……あのパーティーの時ですよね? 確か予定があって来られなくなったって話だったと思います」
「正解よ。それで、ようやく予定が空いたから会いに来たって事なの。本当は、明後日くらいの予定だったから、まだ知らせてなかったのよ。ごめんなさいね」
「あ、そうだったんですね」
そんな事をカタリナと話していると、マーガレットがクララに近づいて来た。
「?」
どうしたのだろうとクララが思っていると、クララの頬を軽く摘まんだり、手を揉んだり、身体を持ち上げたり、匂いを嗅いだりと唐突に色々な事をしてきた。やられているクララは、どうしていいのか分からず、大人しく固まっていた。
そんなマーガレットの頭にカタリナの鉄拳が振り下ろされる。
「痛っ!?」
「一体何をしているのかしら?」
「いや、だって人族を見るの初めてだし、どんなのなんかなって」
「初対面なんだから、クララちゃんに声を掛けてからしなさい」
カタリナでさえも初対面でクララを揉みくちゃにする事はなかった。それは、クララが警戒していたからという事が大きい。だが、今のクララは、魔族に対してあまり警戒心がない。マーガレットが平然とクララに触っていた理由の一つはそれだ。
「じゃあ、ちょっと抱いて良い?」
「えっと……はい。どうぞ」
クララの許可を取ったので、マーガレットはクララを持ち上げて、自分がベッドに座ってからクララを膝に載せた。
「人族って、こんなに顔が整っているもの?」
「えっと……人によります」
「それは魔族と一緒か。身体の感触は、私達とあまり変わりないし、ちょっと拍子抜けだわ。ただ、ちょっと甘い匂いがするんだけど、これも人族の特徴?」
「?」
クララは、全く心当たりがなく、首を傾げる。唯一リリンだけ、心当たりがあった。
(媚薬が抜けた後の独特な匂いの事ですね……既に効力がなくなっているのは助かりました。取りあえず、この事は黙っている事にしましょう)
カタリナ達に言うような事でもないので、リリンは黙っておく事にした。
「聖女特有の見た目とかは?」
「特に無いと思います」
「なんだ。胸は……そこまでないか。人族って、胸の大きさは一定?」
「い、いえ、人によります……」
「ふぅん。そこら辺は個体差か」
マーガレットはそう言いながら、クララの胸を揉んでいた。そんなマーガレットの頭にカタリナの手刀が叩き込まれる。
「痛っ!?」
「いい加減にしなさい。自分がやられたら嫌でしょ」
「えっ、別にこの子だったら良いけど」
マーガレットは、男性に触られるのは嫌だが、クララくらいの女の子なら、大して抵抗はないのだった。
そんなマーガレットに、カタリナはため息を零して呆れる。
「全く……クララちゃんが恥ずかしがって、顔を赤くしているから止めなさい」
カタリナの言う通り、クララの頬は赤く染まっていた。だが、一つだけ違う点があり、恥ずかしがっているというよりも変な感じがして紅潮していた。その理由に、クララは心当たりがないでもない。だが、それは、媚薬の効果がまだ残っているという見当外れの心当たりだった。
(さすがに、あの後だからか身体が敏感なようですね。バレないと良いのですが……)
さすがに昨日一昨日の事件は、カタリナ達にバレたくないので、リリンは気付かれないようにと祈っていた。
「そういえば、この子の名前聞いてない」
ユーリーがそこに気付いて、クララが紅潮した理由に関しては気付かれなかった。
「あ、すみません。クララ・フリーゲルです」
「クララね……ねぇ、この子、ちょっと痩せすぎじゃない?」
「今の状態でも、ふっくらとしてきた方です。ここに来た当初はもっと痩せていました」
クララを触っていてクララの細さに気付いたマーガレットに、リリンがそう答えた。実際に、今の状態は、かなり改善している状態なので、マーガレットから痩せていると言われても、リリンからしたら大分マシになってきたという印象なのだ。
「そういえば、向こうでは、劣悪な環境で暮らしていたんだっけか。それを考えたら良い状態なのか」
マーガレットはクララの髪の毛を触りながら、カタリナから送られてきた情報を思い出していた。
「ねぇ、お母さん。クララが着ている服って、私達の服じゃないの?」
ユーリーは、クララを見ていて服に見覚えがある事に気が付いた。
「そうよ。あなた達が着なかった服をあげたのよ。問題無いでしょ?」
「ない。私達よりも似合っているから。そういう服が好き?」
今日クララが着ている服は、魔王城に着た頃にも着ていた白いフリル付きのワンピースだった。
「えっと、好きと言えば好きです」
「そう」
ユーリーは、目を細めてジッとクララを見る。普通にしていれば、マーガレットよりも威圧感はないものの、こうして目を細めると少し威圧感が出る。それを受けて、クララは緊張して身体が硬くなる。
クララを膝に載せていたマーガレットは、すぐにその事に気が付いた。
「ちょっとユーリー。クララが怖がってるから」
「姉さんに抱えられているからじゃない?」
「何? 喧嘩売ってんの?」
マーガレットとユーリーが睨み合う。その間に挟まれているクララとしては、さらに緊張する事になった。それを解決したのは、やはりカタリナだった。
「喧嘩するなら、部屋の外でしなさい。クララちゃんが困っているでしょ」
そう言われた直後、二人から発せられる威圧感が消え去る。その事にクララは安堵した。
落ち着いた二人を改めて見て、クララはある事に気が付く。
「そういえば、お二人は龍族なんですね。魔王様は鬼族なのに」
「あら、そういえば、そこら辺の説明はした事がなかったわね。簡単に言うと、種族の違う魔族から産まれる子供は、遺伝子の強さが関係するわ。遺伝子っていうのは、親から子に受け継がれるものね。龍族は、この遺伝子の強さが他の種族よりも強いの。だから、私から産まれてくる子供は龍族になるのよ」
人族と違い、様々な種族を内包している魔族だからこそ起こり得る事だった。
「それって、遺伝子が弱い種族がいなくなってしまいませんか?」
「そうね。でも、実際は逆。強い種族の方が少ないのよ。なぜだか分かるかしら?」
そう問われても、答えが出ず、クララは首を傾げる事になった。
「遺伝子が強ければ強い程、子供が出来にくいのよ。だから、その逆で遺伝子が弱い種族は子供が出来やすくてね。結果、強い種族は数が少なくなるのよ」
「そうだったんですか。そう考えたら、お二人も産んでいるは、結構凄い事なんですね」
「そうね。因みに、人族と魔族からは、魔族の子供しか産まれないらしいわ。随分昔の話だから、本当かどうか分からないけどね」
「へぇ~」
ほぼ直球で弱い種族と言われているのだが、クララは、全く気にした様子はなかった。単純に気付いていないだけだが、それに気付いたとしてもクララは一切気にしないだろう。魔族領で暮らしていて、人族の弱さを実感しているからだ。
「龍族は強いって言うけど、結構不便なんだよ」
クララの太腿を触りながら、マーガレットがそう言う。若干恥ずかしいクララだったが、それよりも気になる事があった。
「不便ですか?」
「そう。例えば寝るとき。横になったら角が邪魔」
「あ、なるほど……」
改めて、カタリナ、マーガレット、ユーリーの角を見てみて、クララはマーガレットの言っている事が理解出来た。
「皆さんも大変なんですね。その角って、そんなに硬いんですか?」
「硬い。角で岩を砕けるくらいには」
「触ってみる?」
「良いんですか?」
「良いよ良いよ。散々触らせて貰ってるし」
先程からクララの身体を触り続けていたマーガレットから許可を貰って、クララはマーガレットの角に手を伸ばす。
「凄い……硬い……それに、つるつる?」
「ああ、それは人によるかな。お母さんのは、ざらざらしてるし、ユーリーのは、木の皮みたいな感じだから」
「そうね。ほら」
カタリナが頭を下げて、クララが触りやすいようにする。有り難く触らせて貰うと、本当にざらざらとしている。
「ん」
ユーリーも同じようにクララに触りやすいように屈んだ。ユーリーの角も本当に木の皮のような感じだった。
「本当に違いますね。こういうのって、他の種族の方々も特徴が違うって事があるんですか?」
「種族によってはあるわね。そこら辺も講義でやってもらうと良いわ。私達が教えるには範囲が広すぎるから」
カタリナにそう言われたクララは、リリンの事を見る。すると、リリンがこくりと頷いたので、本当に講義でやって貰える事になった。ここら辺は、ベルフェゴールの担当では無く、リリンの担当になるだろう。
「さてと、私達はそろそろ行くわね」
「えっ、私は、もう少しこの子を触っていたいんだけど」
「せっかくこっちに来たのだから、色々と挨拶を済ませなさい。そうしたら、遊びに行くと良いわ」
「面倒事は、先に片付けておいた方が良いのは事実か。それじゃあ、クララ、また今度ね」
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マーガレットとユーリーは、カタリナと共にクララの部屋を出て行った。
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