攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎

文字の大きさ
105 / 122
可愛がられる聖女

帰宅の日

しおりを挟む
 それからさらに一ヶ月経った。その間、毎日のようにマーガレット達が泊まりに来ていた。だが、毎回二人で来るという訳では無く、どっちか一人の時もあった。
 二人に囃し立てられてから、クララがリリン達に告白するという事はなかった。マーガレット達もあれから囃し立てるという事もなかったので、それ以上進まなかったのだ。
 それ以外で言えば、クララの美術と裁縫がかなり上達した。そして、約束通り音楽も教えてもらい、簡単な曲であれば弾けるようになった。まだ、人に聴かせられるような演奏ではないが、楽しむ分には丁度良かった。
 そして、今日はマーガレットとユーリーが元の街に戻る日だった。本当は、後一ヶ月いるつもりだったのだが、手紙で早く帰ってくるようにと言われてしまったため、帰る日を繰り上げざるを得なかった。

「せめてもう少し一緒にいたかったんだけど、これ以上空けたままに出来ないみたいで、ごめん」
「でも、また来る。あれだったら、クララが私のところに来ても良い」
「ああ、確かに、それも有りか。良いでしょ、お母さん?」

 マーガレットとユーリーは、カタリナにクララの外出許可を求める。

「まぁ、二人がいる街なら城もあるし良いかしらね」
「やった! それじゃ、寂しくなったら、いつでも私の所に来てね」
「姉さんの所より私の所の方が良い」

 そう言うと、二人は睨み合った。そんな二人にカタリナの鉄拳が振り下ろされる。

「全くくだらない事で喧嘩しない! どっちかしか行かないわけじゃないんだから」

 脳天の痛みに、しばらく二人は悶えていた。

「そ、そうだ。もし興味があったら、そこの美術館にお願いして、クララの作品を飾らせて貰ったら? そのくらいの作品は描けるようになっているし、ある意味クララ自身が溶け込んできているってアピールにもなると思う。美術館が嫌だったら、小さなところ借りて、個展でも良いし」
「うん。服やぬいぐるみを飾るのも有りだと思う。元々は趣味の範囲内って話だったけど、売り物に出来るくらいの実力になってるから」
「えっと考えてみます」
「もしあれだったら、私達と共同でも良いしね。クララがやりたいって思ったら連絡して」
「はい」

 クララとしては、趣味の範囲内で終わらせるつもりだったが、マーガレット達に誘われて、少し興味を抱いていた。だが、まだ自分の作品を不特定多数に見せるのは、緊張してしまうので踏ん切りは付かなかった。

「それじゃあ、そろそろ行くから」
「あ、はい。お世話になりました」

 クララがそう言うと、マーガレットとユーリーは、きょとんとした後、二人で揃ってクララの頬を摘まんだ。

「そうじゃないでしょ」
「お姉さんに対して言う事と言えば?」

 若干困惑するクララだったが、二人が言いたい事を理解する。

「あっ、えっと……またね?」

 クララがそう言うと、二人は満足したように笑い、二人でクララの両頬にキスをする。

「またね」
「うん。また。あ、それとこれ」

 最後にユーリーはクララに手紙を渡す。

「私達が帰ったら、読んで」

 そう言って二人は馬車に乗り込む。そして、ナイトウォーカーが動き出し、馬車が進んで行く。二人は、窓から上半身を出して、クララに手を振った。
 クララも二人が見えなくなるまで手を振る。

「久しぶりに騒がしい毎日だったわ。あの子達がいないとなると、少し寂しくなるわね」
「そうですね。でも、また会えます」
「そうね。近い内に遊びに行けるように調整しないといけないわね。でも、しばらくは、元の生活を送りなさい。しばらく運動もしていなかったんだから」
「はい。分かりました」

 クララは、嫌そうな顔をしつつも素直に頷いた。また太ってきたという程ではないが、ぶくぶくになるのは嫌だからだ。

「講義も再開するから、魔法の復習を忘れないようにね」
「あ、はい!」

 すっかり講義の事を忘れていたクララは、しっかり復習しないといけないと思い、やる気を出す。
 その後、部屋に戻ったクララは、椅子に腰掛けてユーリーから貰った手紙を読む。

『布と糸が欲しくなったら、私の部屋を使って良い。姉さんも部屋にある画材は勝手に使って良いと言っているから、気にせずに使って』

 短くそれだけ書かれているかと思いきや、手紙の下の方に、

『早く告白しちゃえ』

 と書かれていた。クララはとっさに手紙をくしゃっと丸める。

「クララさん。何が書いてあったかは分かりませんが、頂いた手紙を粗末にするのはよろしくないと思いますよ?」
「良いんです。姉妹だから、このくらい当たり前です」

 クララは頬を膨らませながらそう言って、ベッドの横にある棚に手紙を放り込んだ。

「おぉ……クララちゃんが珍しくご立腹だ」
「それだけ姉妹として打ち解けたという事でしょう。喜ばしい事です」
「そ、そうなんですかね……?」

 リリンはクララの成長を喜んでいるが、サーファは、この成長は良いのかと困惑していた。
 クララは、マーガレットとユーリーという自身の姉となる存在に出会った。この出会いは、クララの人生をより華やかに彩る事になる。
 だが、クララの知らないところで、この幸せな日々に暗雲が立ちこめてきていた。クララの人生の中で、最大規模の争いが始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...