猫魔女と弟子と魔法の世界

月輪林檎

文字の大きさ
13 / 82
知らなかった世界

魔法の練習

しおりを挟む
 それから一週間。魔力弾の修行を続けた。大きさの課題は、初日に改善出来た。集中させる箇所を杖の先端に変更して、身体からビー玉くらいの魔力を切り離して先端に転がすイメージだ。これで、大きさはビー玉以上に大きくならない。
 発射は、銃をイメージしている。実物は分からないし、反動もないけど、そのイメージが一番ちゃんと魔力を飛ばせた。アニメとかで見ておいて良かった。
 そして、もう一つの課題である精度は、それほど向上していない。初日が十メートル程の距離から十発撃って三発命中くらいで、今は六発命中くらいだから、三割から六割に上がったくらいだ。
 私としては、九割まで持っていきたいと考えている。命中精度が自分の命を左右するという事は分かりきっているからだ。
 それと修行が午前と午後で切り替わる事にもなった。午前中は、家の周りをひたすら走る。この間、ずっと魔力増加をし続けるというもの。体力お化けと言われた私には温いくらいの修行だけど、ずっと家の中で筋トレとかストレッチとかをしているよりかは、気分が良くなるので嬉しい。
 午後の修行は、魔力弾の修行に費やす。全部魔力弾にしたいと言ってみたけど、師匠的には基礎を満遍なく鍛えておきたいらしい。体力自体に問題も何もないという事は、師匠も分かったみたいだけど、これは変わらない。この走るという行為にも何か意味があるみたい。

 そんな一週間を過ごして、今日も師匠の身体で起こされる。

「んぐゅ……」
「起きなさい。朝よ」
「う~ん……起きたぁ……」
「ほら、顔洗って。今日は本格的な魔法の実践よ」
「ん……ん? まだ、魔力弾……終わってないよ……?」
「並行してやるのよ。精度自体は悪くないから」
「う~ん……分かったぁ……」

 私としては、もっと続けたいところだったけど、もうここで二週間も過ごしている。一ヶ月もすぐに来ると思う。あまりのんびりとしていられない。
 洗顔と歯磨きを終えて、朝食を食べる。洗い物まで済ませたところで、師匠とリビングで向き合う。

「最初に覚えて貰うのは、『隠れ蓑ヒドゥン』よ。戦闘をせずにやり過ごす事が出来るこの魔法は、裏世界では必須になるわ。イメージは、自分で作り出しなさい。条件は、周囲から見られない事よ」
「師匠と同じような感じじゃなくても良いって事?」
「ええ。人によって癖が出て来るものだから。私は、自分を周囲の景色に溶け込ませる風にイメージしているわね。相手からしたら、私のいないその場の景色が見えているという事になるわ。【隠れ蓑ヒドゥン】」

 師匠が『隠れ蓑ヒドゥン』を使うと、師匠が消えて、いつも通りのテーブルがあるだけになった。そこに師匠がいるはずなのに、全く見えない。でも、師匠が動き出した瞬間に、『隠れ蓑』が解けて師匠が出て来た。

「『隠れ蓑ヒドゥン』に共通するのは、消せるのは姿とにおいだけという事。声は通るし、その場から動いたら相手に見えるわ」
「分かった」
「それじゃあ、詠唱の仕方を教えるわ」
「そういえば、やり方は知らないかも」

 師匠が魔法を詠唱する時、声が二重に聞こえるけど、私が普通に言ってもそうはならない。つまり、詠唱にもやり方があるという事だ。

「詠唱は、喉に魔力を集中させる事で出来るようになるわ。ただ一つだけ注意が必要なのだけど、水琴の場合、言霊の発動条件の一つも喉に魔力を通す事なのよ」
「下手すると、言霊が発動するって事?」
「そうね。マシロがイメージをしっかりして詠唱すれば大丈夫なはずよ。だから、無闇に魔力を喉に集中させるのは禁止よ。分かった?」
「うん。でも、一つ疑問なんだけど、あの時は魔力の使い方とか知らなかったんだけど、何で言霊が発動したの?」

 言霊の発動条件を知った今、師匠を抱えて逃げていた時に発動した意味が分からなくなった。魔力の使い方は、ここに来てから習っている。だから、あの時に使えるはずがないと考えられた。

「言霊の発動条件の一つって言ったでしょ? その中の一つに自身に危機が迫っている状況があるの。水琴自身が危機だと判断した時に、強い想いを持って出された言葉が言霊となるのよ。水琴は、これまでの人生で、そんな経験はない?」

 そう訊かれて、昔の事を思い出すけど、特に命の危険とかがあった覚えはない。車に轢かれそうになった事もないし、高いところから落ちそうになったという事もない。ただただ平和に暮らしていた気がする。

「ないかも」
「それじゃあ、鴉に襲われる事で自分も危ないと思ったのね。そこで、言霊となったのよ」
「そうなんだ。じゃあ、そういう時も気を付けないとね」
「無意識下での発動は仕方ないわよ。自分で使おうと思っていなくても使ってしまうのだからね。それじゃあ、早速『隠れ蓑ヒドゥン』をやってみて。そうね。日本語で言えば、『隠れ蓑』とかになるかしらね」
「うん」

 取り敢えず、『隠れ蓑』のイメージを固める。私がイメージするのは、さっき師匠がしたような自分を風景に溶け込ませる事。自分を見つけようとしても風景と一体になって見つけられない事。ある意味では迷彩のような感じだ。でも、迷彩だと自分の身体の色を変えるような魔法になると思うので、迷彩の布を被るという風に意識してみる。その方が、『隠れ蓑』という名前に合っているイメージだと思ったからだ。

「【隠れ蓑】」

 自分の声が二重に聞こえた。それと同時に、カワードボアと遭遇した際に師匠がしたような空間の揺らぎが起こったのが分かった。自分からは自分が見えているから、ちゃんと成功しているか分からない。なので、師匠の方を見て言葉を待つ。
 師匠は、テーブルの上から私をジッと見てから、テーブルを降り、私の周りを歩いていく。

「大丈夫そうね。ちゃんと魔法として発動しているわ。上出来よ。倦怠感とかはない?」
「うん」
「過剰に魔力を使っていないようね。それじゃあ、『隠れ蓑』を解いて良いわ。魔力の供給を断つようなイメージよ」
「供給を断つ……」

 言われた通り、私の姿を隠している『隠れ蓑』に供給している魔力を断つイメージで魔法を終わらせる。すると、周囲の空間が再び揺らいだ。

「見える?」
「ええ、見えるわ。やっぱり、筋が良いわね。教え甲斐があるわ。それじゃあ、次は『洗浄ウォッシュ』と『乾燥ドライ』よ。『乾燥ドライ』に関しては、前に教えた事があるわよね。イメージの度合いをミスしたら、一大事よ」
「うん。分かってる」

 『乾燥ドライ』に関しては、前に説明を受けた。お皿や私の肌に付いた水分を取り除く事が出来るけど、同時に葉っぱの水分を完全に取り除いてパリパリにする事も出来る。だから、何に使うかでイメージの構築をしっかりしないといけない。
 『洗浄ウォッシュ』のイメージは、家で使っていた洗剤で問題なく使えた。でも、『乾燥ドライ』の度合いの調節は、結構難しかった。軽く乾燥させようと思ってみても、乾燥させすぎてしまったり、逆にあまり乾燥していなかったりと、明確なイメージが出来ていない事がよく分かった。
 三十分くらい試していたけど、調節は上手くいかない。

「難しい……」
「そうね。水琴も分かりやすいイメージにしてみると良いかもしれないわね」
「分かりやすいイメージ? ドライヤーとか?」
「そうね。そうなると、乾燥というよりも温風とかになるかもしれないわね」
「温風……でも、それだと瞬時に乾かなくならない?」

 ドライヤーでは、瞬時に乾くという事はなく、しばらくの間当て続ける必要がある。そうなると、師匠みたいに一瞬で乾かすという事は出来なくなる。

「最初はそれで良いと思うわ。『乾燥』の調節が出来るまでは、それで良いと思うわよ。魔法はイメージ次第で自由度が高いから。縛られた考え方は捨てなさい」
「うん。分かった。ドライヤー……ドライヤー……【温風】」

 杖の先端から、温かい風が出て来る。それは、ドライヤーの温度と変わらない。なので、ずっと当てていると熱く感じる。

「おぉ……出来た!」
「ええ、良い感じよ。その調子で、続けていくわよ」
「うん!」

 師匠の教え通りに魔法を使っていく。詠唱は、師匠とは違う形だけど、こっちの方が言いやすいので、私にはちょうど良い。色々な魔法を教わっていく。最初は戦闘とはあまり関係なさそうな生活に便利な魔法ばかりだった。
 最初は、そういう安全っぽい魔法で慣していくみたいな感じみたい。初めて使うものなので、その方が有り難い。それからの一週間は、午前中に走り込みで、午後に魔法を習いつつ、魔力弾の修行となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー

白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。 その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。 人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。 異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ 主人公はあまり戦ったりはしません。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

処理中です...