吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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真祖となった吸血少女

大健闘

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 金属のぶつかり合う音が響き渡る。
 あの時、抜刀術をパリィした感覚が、私の防御技術を向上させていた。完全なパリィには至らないけど、確実にソルさんの攻撃を流す事が出来ている。このパリィが出来ない理由は、私の技術不足だけが問題じゃなかった。ソルさんが、私が防御する直前に、刀の軌道を微妙に変化させていたからだ。
 【双天眼】で、その動きは見えているものの、その細かい部分にまで合わせて弾く技術がない。でも、それも少しずつコツを掴んできている。
 そして、私達の攻防は移動しながら行われた。最大の理由は、抜刀術に対する対応が出来る可能性が出来た事と正面突破では、ソルさんを倒す事は出来ないと分かったからだ。かなりの速度で動けるようになったはずなのに、ソルさんには、全てを見切られている。高速移動を伴った攻撃も全てだ。
 本当にスキルではなく、素の動体視力が良いのと反射神経がズバ抜けている。どこで、そんなものを身に着けたのか気になるけど、相手のプライベートだろうし、
 ソルさんの攻撃を弾いて、近くの建物に入る。【血液武装】のクールタイムは、まだ過ぎていない。別の方法で時間を稼ぐ。
 入った建物の中には、いくつもの柱が設置されていた。私は、その内の一つに近づいて、裏に回り思いっきり蹴る。現実でやったら、ただ単純に痛いだけの行為だけど、ここでやれば、柱の一部が壊れて、飛んでいく事になる。環境活かした攻撃を繰り出した訳だけど、ソルさんは、これを普通に刀に斬っていた。

「切れ味異常でしょ……」
「腕の良い鍛冶師が作ってるからね」

 ソルさんが、すぐそこまで迫ってくる。刀が振られる前に、【操影】を使って妨害を試みる。刀と腕に影を絡める。ソルさんは、ちらっと刀の方を見たけど、すぐに視線を戻して普通に刀を振った。影で引っ掛かるかと思ったけど、一切抵抗を受けたような様子もなく、影を引き千切って攻撃してきた。大体予想通りなので、この攻撃は弾ける。

「何か力が上がるスキルでも持ってます?」
「まぁ、ステータス上昇系のスキルは取ってるけど、ハクちゃんが持っているであろう特別なスキルはないよ」

 私の異常な脚力から、【神脚】の存在がバレている。これは、戦っていればバレる事なので、問題は無い。
 【操影】を使って、周囲に散らばった柱の破片をソルさんに投げる。鞘も使って瓦礫を払っている隙を突いて、一度距離を取り、他の柱を蹴り飛ばしていく。さっきも効かなかったので、今回もソルさんに命中する事はない。

「そんな瓦礫を飛ばしても意味ないよ」
「まぁ、この量だったらそうかもしれないですね」
「?」

 ソルさんが私の意図に気付かない内に、こっちも準備を進める。一階にある柱を全て蹴り飛ばし、ソルさんの攻撃を使って、壁にも亀裂を入れていく。

「……まさか!?」

 私との攻防を続けている内に、ソルさんがこっちの作戦に気付いてしまった。でも、もう遅い。身体を硬質化で覆い、高速移動で一番奥の壁に脚から突っ込む。蹴りで壁を壊した事で、支えとなる箇所がなくなる。
 これが、私が考えた生き埋め作戦。大量の瓦礫が降り注げば、いかにソルさんと言えど、ひとたまりもないはずだ。私みたいな高速移動も出来ないし、ある程度ダメージを負うか隙が生まれるはず。

「【春花】」

 崩れ落ちる三階建ての建物が、真っ二つに割れる。

「あははは……なんじゃそりゃ……」

 馬鹿げた威力の技だ。上から降り注ぐ瓦礫を全て斬り、無傷で立っていた。

「良い考えだけど、ちょっと甘かったね」
「普通は瓦礫を斬り裂くなんて出来ないと思いますけどね」
「私としては、建物を倒壊させるって発想の方が中々出ないと思うけどね」
「そこは、ソルさんのおかげで気付いた事ですね。普通に刀が壁を傷つけていたので」

 ニコニコ笑いながら会話しているけど、互いに武器を構えている。私は、さっきのプレイヤーから抜き取っていた血を、【血液武装】に使う。血液が足りない。自前で賄うのも良いのだけど、もっと良い方法がある。

「それじゃあ、ちょっと失礼しますね」
「逃がすと思う?」

 私は、ソルさんに背を向けて駆け出す。即座に、ソルさんも追ってきた。【神脚】の分、私の方が速いと思っていたけど、あまり引き離せない。他のスキルレベルが私よりも上だから、最高速度だけで言えば、ほぼほぼ互角みたいだ。
 そんな私の耳に蝙蝠の超音波が聞こえてきた。先行させている蝙蝠が敵を見つけてくれた。その方向に一直線に走ると、正面に杖を持ったエルフの女性がいた。私を見つけて杖を構える。そこに高速移動で突っ込んだ。

「ふぇ?」

 唐突に眼前に来たものだから、魔法を撃つのも出来ないみたいだった。その心臓に黒百合を突き立てて、首に噛み付く。血を吸って【貯蓄】を回復しつつ、【血液武装】で双血剣に血を纏わせる。一つ分余計に血を抜き取ってから、白百合を首に突き刺して倒した。

「ふぅ……エルフの血は、比較的美味しいなっ!」

 久しぶりのエルフの血は、他の血とは違い、ちょっとマシだった。その事に感動していると、後ろからソルさんが刀を突き出してきた。ギリギリ気付いて避けたけど、呆けている場合じゃなかった。【血液武装】で、防御しやすくなっているので、そこからの追撃も防ぐ事が出来ていた。

「種族によって、血の味が違うんだ?」
「【吸血】取ってみます? 美味しくないご飯に慣れてたら、大分マシですよ?」
「う~ん……最近は、美味しいご飯ばかりだったから無理そうかな」
「高級品って事ですか?」
「ううん。基本的に、私が作ってるから。偶に仕事が空いた時とかに、恋人が作ってくれるご飯が美味しいって事」
「ただの惚気だった!!」

 【吸血】の宣伝をしたら、惚気話を聞かされた。
 そんな変なやり取りもしつつ、攻防が続く。そんな私の耳に超音波が聞こえてくる。近くに他のプレイヤーがいる。超音波の回数が六回だったので、計六人いる。この感じだと、私とソルさんは、建物の壁を突き破って、その中に突っ込む事になった。そこにいるのは、三人一組になって争っているプレイヤー達だった。片方は前衛一人後衛二人、もう片方は前衛二人に後衛一人。
 私は、その内、前衛が一人の方に突っ込む。既に虫の息だった前衛の首に、【血液武装】で強化した膝蹴りを食らわせて、HPを削りきり、後ろにいる魔法使いの一人の喉に黒百合を投げつけて、沈黙状態にし、もう片方の魔法使いの首を白百合で斬って、こっちも沈黙状態にする。
 これで、二人の魔法使いは、ただ杖で殴るしか出来なくなる。【血液武装】の一部を脚に回して思いっきり蹴る。錐揉み回転しながら近くの建物に突き刺さるのを横目に、黒百合を投げつけた方に高速移動で近寄り、その柄を握る。

「【焔血】」

 その身体を燃やし、黒百合を引き抜いて、双血剣での連撃を食らわせて倒す。蹴り飛ばした方は、建物にぶつかった衝撃のダメージで倒れていた。
 もう片方の集団は、ソルさんが倒していた。互いに敵を倒した瞬間に、今度は、私達がぶつかり合う。【焔血】で燃えている黒百合を警戒しているのか、黒百合による攻撃は、さっきより素早く反応している。

「【冬雪】」

 ソルさんが刀を振った先が凍り付く。そこには、黒百合も含まれており、【焔血】が解けた。氷の力で火が消えたのか、そもそもそういう追加効果を打ち消す効力かは分からないけど、【焔血】は使っても消される事が分かった。炎上ダメージとかで、良い感じにダメージを与えられて便利だけど仕方ない。
 ソルさんの硬直時間を利用して、黒百合を突き刺そうとする。でも、その直前で防がれてしまった。技を使った際に、警戒してちょっと下がったのだけど、そのせいで硬直時間を上手く利用出来なかった。
 私とソルさんは、互いに走りながら攻撃をしていく。【血液武装】で双血剣と脚に一段階ずつ強化して、脚も攻撃に利用していた。ソルさんにやった脚に刃を作って攻撃する方法も使って、攻めと守りを繰り返す。
 途中で出会う他のプレイヤー達は、私とソルさんがそれぞれで倒していった。ついでに、建物も次々に倒壊していく。理由は、私がソルさんを蹴り飛ばしたり、ソルさんが私を吹っ飛ばしたり、お互いの攻撃で壁や柱などを破壊していたからだ。
 結局、互いに精神の持久戦となった。この面で不利なのは、私の方だった。理由は、長時間発動している【双天眼】の副作用と【未来視】の副作用とソルさんから発せられる殺気のようなもので、ゴリゴリに減っていたからだ。それに、一撃の重さも違う。ソルさんの一撃は、私のHPを五割以上減らすような一撃になっている。その攻撃を防いで回避するのも、かなり消耗する。
 これらの事から、先にミスをしたのは私だった。ソルさんの一撃のパリィのタイミングを間違えて、諸に食らう。

「うっ……」

 HPが一気に八割も減る。続く一撃は逸らしたけど、身体には命中してしまった。それで【貯蓄】分が削れる。

「おっ、ようやく減った。それじゃあ、これで終わりだね」
「まだ……まだ……」

 【未来視】を使って、次の行動を先読み、ソルさんの攻撃を弾こうとする。その瞬間、私とソルさんの目の前にウィンドウが現れた。

『イベント終了。制限時間内に生き残ったプレイヤーの数三十人。時間内に勝者が現れなかったため、キル数の集計を行います。参加者の皆様は、その場でお待ちください』

 このウィンドウを見て、私達は動きを止めた。かなり健闘したけど、結局決着しなかった。どちらかというと、私の負けかな。
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