吸血少女ののんびり気ままなゲームライフ

月輪林檎

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真祖となった吸血少女

試合に勝って勝負に負けた

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 私とソルさんは、互いに武器を納めた。

「結局引き分けかぁ」
「私の負けです。最後の一撃を防げたとは思えないですし」

 私はそう言いながら、地面に寝転がる。【双天眼】と【未来視】の副作用の頭痛を抑えるために、目を閉じる。

「大丈夫? 何かかなり辛そうにしてたけど?」
「【未来視】と【双剣】の極意の副作用で頭が痛いんです」
「そうなの? このゲームの痛覚は、あまり作用しない感じだったけど、例外もあるんだね。頭痛薬とかないの?」
「頭痛薬ですか? 探した事ないですね」
「あったら、使えるかもよ?」
「う~ん……確かに……」

 頭痛薬があって、使う事が出来るのであれば、こういう頭痛も後を引かないで済むから助かるかもしれない。ゲームの中だから、全然探そうと思わなかったけど、魔法都市とかで改めて探してみるのは良いかもしれない。

「それにしても、【双剣】の極意の副作用は、結構厳しいものなんだね」
「そう言うという事は、【刀】の極意の副作用は、大した事ないって事ですか?」
「ほぼないって言っても良いかもね。極意は、【抜刀術】のスキルだったから。デメリットは、使う度に武器の耐久減少する事。これまでよりも修理の頻度が多くなるって感じかな。この刀の耐久度も残り僅かだと思うよ」
「戦闘中に壊れたら困りますし、割とキツいデメリットでは?」
「予備で後三本あるし、メインの刀は、ボス相手にしか使わないようにしているから、あまりって感じだね」

 耐久度を大きく減少させるデメリットは、武器を複数持つだけで解消出来る。だから、ソルさんにとっては、あまり大きなデメリットという訳では無いみたい。そして、もう一つ気になる言葉があった。

「という事は、今までサブ武器で戦っていたって事ですか?」
「そういう事になるね。正直、ここまで苦戦する事になるとは思わなかったしね」
「喜んで良いのか何なのか……」

 ソルさんの想定は崩せたけど、まだまだ実力を伏せていたという事で、喜んで良いのかよく分からなくなった。そんな話をしていると、またウィンドウが現れる。

『集計終了。今回のバトルロイヤルイベント。優勝者は、六十八キルで、『ハク』に決まりました。優勝おめでとうございます。優勝賞品として、選択式アイテムボックスを授与します。一度だけ表示されたレア素材を手に入れる事が出来るアイテムです。是非ご活用ください。第三回イベントにご参加頂きありがとうございました。是非、次回イベントにご参加ください。メッセージ読了後、一分でファーストタウン広場に転移します』

 結果発表を見て、一瞬固まってしまった。

「ハクちゃんが優勝かぁ。おめでとう。私と会うまでに、結構キルしてたんだね」
「ソルさんは、どうだったんですか?」
「二位だった。ハクちゃんと一緒に走り回っていた時にキルを増やしていたからかな。まぁ、今回は、ハクちゃんと白熱した戦いが出来て満足出来たから、あまり悔しさはないね」
「割と掲示板が荒れそうな事しちゃいましたね……」
「文句あるなら、私達を倒せば良かっただけの話だからね。気にする必要ないよ。それじゃあ、またどこかでね」
「あ、はい。今日はありがとうございました」
「こちらこそ」

 その会話を最後に、私達は広場へと転移した。転移直後に、またソルさんと鉢合わせるという事もなく、イベント開始前の喧騒が戻ってくる。

「よし、行くぞ」
「へ?」

 いきなり声がしたと思ったら、いきなり抱き抱えられて、持ち運びされる。これが知らない人なら全力で叫ぶけど、やっているのがフレ姉なので困惑しかなかった。

「どこに?」
「取り敢えず、ギルドハウスだな。お前の事を知っている奴がいたら、絡まれるかもしれねぇだろ。ただでさえ、悪目立ちしている事が多いんだ」
「でも、名前までは分からないんじゃない?」
「馬鹿の情報収集能力を舐めんな。こういう事に関しては、異常なまでに早い事が多い。私とお前が姉妹だって知っている可能性も十分にあり得る」
「割と失礼な事も言っている気がするんだけど……」
「失礼ではないから安心しろ。寧ろ、勝手に素性を探ってくる奴の方が悪い」

 確かに、フレ姉の言う事も分からなくはない。勝手に素性を探られるのは嫌だし。何か、変に情報を流している人もいたくらいだし。
 フレ姉の全力疾走で、フレ姉のギルドハウスに来た私達は、すぐにフレ姉の部屋に移動した。フレ姉の部屋は、色々と改装されていて、1Kのような感じになっている。

「適当に座れ。作り置きのデザートでも出してやる」
「やった」

 ソファに座って、フレ姉のデザートを待つ。出て来たのは、チョコレートケーキだった。

「おぉ……」
「ツリータウンにカカオがあったから作った。若干苦ぇと思うが、まぁ、食えるだろ」
「うん。いただきます」

 フレ姉のチョコレートケーキは、フレ姉の言う通り、ちょっとビターなチョコレートケーキだった。でも、凄く美味しい。
 チョコレートケーキを満喫していると、部屋の扉がノックされる。

「入って良いぞ」

 フレ姉からの許可が出て、中に入ってきたのは、ゲルダさん、アク姉、アカリの三人だった。

「ハクちゃ~ん! おめでとう!」

 アク姉が飛びついてきて祝ってくれる。

「おめでとう、ハクちゃん。結局、会わないで終わっちゃったね」
「割と移動はしていたけどね。エリアが広すぎたんだと思う」

 アカリとしては、どこかしらで会えるかもしれないって思っていたみたい。私は、ソルさんと滅茶苦茶移動していたけど、それでもアカリの姿は見ていない。アカリも見ていないから、これは確実だ。正直、他のプレイヤーの顔とか、あまり見てなかったから、他に知り合いがいたかも覚えてない。

「そういえば、アメスがハクちゃんの戦いに巻き込まれて倒されたって嘆いてたよ?」
「うぇ!? 多分、私じゃなくてソルさんが倒したと……思う……」

 私の記憶の中では、アメスさんを倒した覚えはないので、多分ソルさんの方が倒したはずだった。

「ソルっていうと、前回のバトルロイヤルイベントの優勝者か」
「うん。滅茶苦茶強かったし、まだ本気じゃなかったみたい」
「あれでそうなのね。私は、台風か何かかと思ったわよ」

 ゲルダさんがため息交じりにそう言う。

「ゲルダさんも巻き込んじゃった感じですか……?」

 アメスさんと同じように巻き込んで倒してしまったのかと心配になる。

「巻き込まれてないわよ。ハクが戦っていた高いビルの上で、狩りやすい場所を探していたら、大きな音が聞こえて、ハク達が飛び出していったのよ。そこから、ビルが倒壊したり、色々ヤバいと思ってビルで見学していたわ」

 私とソルさんがいた百階よりも上にゲルダさんがいたみたい。もう少し上の方に蝙蝠を飛ばしていたら、遭遇していたかもしれない。

「そういえば、ハク達が戦っている反対側でも、かなり暴れているプレイヤーがいたわよ」
「へぇ~、そうなんですか。ビルが倒壊したりしたんですか?」
「そうね。そういう点では、ハク達の戦いよりも酷かったわよ。ハク達が小規模の台風だとしたら、向こうは大型の台風だったわね。台風よりも酷いかもしれないけれど」

 ゲルダさんが、そんな話をした瞬間、フレ姉とアク姉が気まずそうな表情をしだした。

「あなた達、二人ね」
「だって、フレ姉がしつこいんだもん」
「お前がしぶといからだろ。あんな見た事もねぇスキルばかり使いやがって」
「そっちだって、薙刀とか使ってたじゃん! 見た事ないんだけど!?」
「長槍の派生なんだから、他にも使ってる奴くらいいんだろ」
「見た事ありませ~ん」
「ガキか」

 アク姉とフレ姉が、いつも通り喧嘩し始める。

「馬鹿二人は放っておくとして、お茶を入れてくるわね。アカリもケーキ食べるでしょ?」
「あっ、じゃあ、頂きます」

 二人が喧嘩している間に、ゲルダさんがお茶を入れに行った。

「そういえば、アカリはどうだったの?」

 せっかくなので、アカリがイベントでどう立ち回っていたのか訊いてみる。

「私は、どっちの被害にも遭わなかったから、普通に頑張って倒してたよ。割と、急所狙いでの攻撃が上手くいって、十位以内入れたよ」
「へぇ~、何が貰えるの?」
「選択式アイテムボックスだって、そこそこレアな素材が手に入るんだってさ」
「私の賞品の下位互換ってところだね。私は、レアな素材が手に入るものだったよ。まだ中は見てないけど」
「良いなぁ。レア素材かぁ。私が取り扱えるのだと良いけど」

 私の防具やアクセサリーは、アカリに頼んでいるので、素材を手に入れたらアカリが取り扱う可能性は高い。武器に使う物だったら、ラングさんだけど。
 ランダムアイテムボックスが不評だったから、こういう選択式のボックス(使い切り)にしたのかもしれない。
 そんなこんなでアク姉とフレ姉の喧嘩は、お茶を入れてきたゲルダさんが雷を落とすまで続いていた。
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