異世界旅はハンマーと共に

月輪林檎

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異世界転生

心のリフレッシュ

 翌日。朝起きた私は、夜ご飯を食べていない事に気付いた。

(メイリアさんを心配させちゃったかも)

 朝ご飯を食べる時にメイリアさんに謝ろうと考えて、いつものルーティンをしていき、半ば諦めつつあるミナお姉さんの下へ行く祈りを始める。すると、身体が浮上するような感覚を覚えた。つまりミナお姉さんの下に行けるという事だ。
 視界が戻ると、また真っ黒な空間に来たのだけど、様子がまるっきり変わっていた。ソファだけでなく、テーブルや椅子、大きなベッドまで追加されている。
 その中央にミナお姉さんがいた。なので、即座に駆け寄る。

「ミナお姉さん!」

 ミナお姉さんは私に気付いて、微笑みながら受け止めてくれた。ミナお姉さんの腕の中で深呼吸をする。安心するような花の香りが鼻から脳に向かって行く。すると、ミナお姉さんが頭を優しく撫でてくれた。

「姫奈様。今回は少し長かったですね」
「十日以上も空いちゃいました。ずっと会いたかったです」
「そう言って貰えると、私も嬉しいです。一応、姫奈様が落ち着かれるような空間にしてみようと努力したのですが、如何でしょうか?」
「凄いです! びっくりしました! こんな事も出来るんですね」
「正直私にはよく分からないものなので、どういったものが良いのかと悩みましたが、気に入って貰えたのなら幸いです」

 ミナお姉さんは、私を抱き上げてベッドまで連れて行き、そのベッドに座らせた。ふかふかだけど、ある程度の反発がある。かなり寝心地の良いベッドだ。高級ベッドって感じかな。

「こちらは再現出来ているでしょうか?」
「はい。ちゃんとベッドになってます。ミナお姉さんは、普段使っていたりするんですか?」
「いえ、私は寝ないので。姫奈様は睡眠以外にも使われていたようですが」
「やっぱり見られてた!?」

 レパとの事をミナお姉さんに完全に見られていた。本人から指摘されると、若干どころか、かなり恥ずかしい。

「私はそこまで観測をしない方なので、よく分からなかったのですが、普通はあのようなものなのでしょうか?」
「一応異種族なので、普通ではないみたいです……って、そんな事訊かないでください!」
「なるほど……姫奈様が声を荒げる程と……勉強になります」

 ミナお姉さんはそう言いながら、私の頬を撫でてくる。ベッドの上にいるからか少しおかしな気分になってくるけど、ミナお姉さんはあまり理解出来ていないみたいだから、特に何も起こらない。

「ミナお姉さんは、これまでの転生者達の観測はしてなかったんですか?」

 見守るのが仕事の一環と言っていたから、他の転生者の観測とかもしていたはずではと思っていた。

「していましたが、頑なに行為に及ばなかったので。それに姫奈様ほどずっと観測はしていませんでした」
「あっ……え? 何でですか?」
「行為に及ばなかった理由は分かりません。複数人の女性を侍らしていても、頑なに固辞して逃げていました。緊張して何も出来なかったのかもしれませんね。それに、そもそも長生きしていないというのもあるかもしれません。若くして亡くなりました」
「あ、そうなんですね」

 長生き出来なかった理由は、私みたいなものなのか、魔王との戦いがあったのか、ただ単に事故で亡くなったのか。色々と考えられるけど、ミナお姉さんが特に語らないという事は、そこまで考えなくても良いのかな。

「姫奈様を観測し続けている理由は、最初の事故があり、心配していた事に加えてこうして私の元にいらっしゃるのでお話の話題を作りやすいという事があげられます。後は何よりも私が姫奈様を好いているという事でしょうか」
「私もミナお姉さんの事好きですよ」

 ミナお姉さんの好きがどの種類の好きなのか分からないけど、一応両想いでいるという事は間違いなさそうだ。嬉しいからミナお姉さんに抱きついて、胸に顔を押し付ける。ミナお姉さんは、私の頭を撫でてくれるので幸せを感じる。

「それにしても同性の行為は初めて見ましたので、興味深かったです」

 幸せな気分から一転して、何か気まずい感じがする。私が気まずく感じているだけかもしれないけど、取り敢えず、何か別の話題に移ろう。

「そういえば、ミナお姉さんは、アーティファクトについて知ってますか?」
「アーティファクトですか……古代に召喚された転移者や転生者達が作り出した危険なものです」
「危険?」

 私が聞き返すと、ミナお姉さんが私の脇に手を入れて膝に乗せた。ちゃんと正面からしっかりと話を聞くようにさせる姿勢だ。

「姫奈様も手にされているので分かるかと思いますが、アーティファクトのステータス補正値は異常です。封印された状態でありながら、その補正値ですので、封印を完全に解いた際の補正値は、人類が持つべき武具のものではなくなります」

 完全解放したアーティファクトは、それだけ危険なものという事かな。その人自体が危険な存在となるという感じだろうし。それに、それだけの武力を持っているとなれば、簡単に国を落とすみたいな事も出来るだろうから、ミナお姉さんが危険視する理由も分かる。
 そして、そこから勇者がアーティファクトを持つ理由も分かってくる。それは、人類の脅威になり得る魔王を倒すためだ。人類が人類に対して持つべきものではない武器なら、魔王を圧倒出来る可能性が高い。そのために作られたものと考えれば、作られた経緯にも納得が出来る。

「だから、勇者はエクスカリバーを持っているんですか?」
「あのアーティファクトを完全に解放出来れば、魔王を倒す事も出来るでしょう。だからこそ、転移者はアーティファクトを解放出来る者が選ばれます。そういう召喚魔法なのです」
「つまり、ハヤトさんは何十億という人の中からエクスカリバーを完全解放出来るという資質で選ばれたという事ですか?」
「そこに加えて、人間性や成長率が高く、ある程度自分達の話を聞き判断する事が出来る年齢という条件も追加されます」

 結構な大人数の中から選ばれたのかなと思ったけど、結構厳しい条件の中で適合する人として選ばれたという事が分かった。確かにハヤトさんの人間性は、割と高いと思う。若干善に偏っている感じがするから、お人好しという面が怖くなりそうだけど、お人好しじゃないと魔王討伐に動いてくれない可能性を考えて設定したとかもあり得る。

「でも、完全解放した人って、勇者以外にいないんですよね?」

 メイリアさん達との話で、そんな事を聞いた。だから、ミナお姉さんが危険視するような出来事はそうそう起こらないのではと思った。

「それは記録されている中の話です。過去の全てを記録したようなものは存在しませんので。ですが、ここ最近では完全解放した者は勇者以外に確認されていません。アーティファクトに選ばれた者は多いと思いますが、完全解放に至るまで認められはしないという事が多いのです」
「私も完全解放出来るんでしょうか?」
「姫奈様なら可能かと思います。大丈夫だとは思いますが、力に溺れないようご注意ください」
「はい。気を付けます」

 超人的な力を得た人がどのように行動するか。事と次第によっては、世界を破滅させる事になる。力を振う責任を考えなければいけない。心に留めておこう。
 私がミナお姉さんの忠告に頷くと、ミナお姉さんは小さく笑っていた。そのままミナお姉さんの顔に吸い込まれそうになったので、慌てて別の話題を出す。

「そういえば、ミナお姉さんを信仰している宗教とかってないんですか?」
「私を祀る……ありませんね。私は信仰されるような事はしていませんので。加えて、宗教が信仰する神が実在するかどうかもわかりません。私達は下界に直接的な干渉は出来ませんので、人が勝手に作り出した神を信仰している可能性もあります」
「な、なるほど……」

 確かに神様が直接人類の前に立ったりしないと、こうして神様の世界にいるミナお姉さんとかを認識する事は出来ない。そして、ミナお姉さんは直接世界に下りるなどの干渉は不可能と言っていた。
 これならミナお姉さんを信仰する宗教がないのも頷ける。これから宗教関係の何かを知った時には、本当にいる神様ではないのかもと思うようになりそう。いや、逆にそう思っていた方が騙されずに済むか。

「じゃあ、私はミナお姉さんを信仰しますね。誰が何と言おうと、私が信じる神様はミナお姉さんだけです!」
「それは嬉しいですね」

 ミナお姉さんはそう言いながら、私の首辺りに顔を寄せる。その瞬間、私は一つの事に気付いて、身体を離した。急に私が離れたので、ミナお姉さんは驚いてきょとんとしていた。そんな顔も綺麗で可愛い。

「どうかされましたか?」
「い、いや……そういえば、こっちの身体って洗ってないなと思っちゃって……」

 そう。今の身体はヒナではなく小柳姫奈。ミナお姉さんの綺麗な顔が近づいてきた事で、私ってお風呂入っていたっけという思考になり、咄嗟に離れてしまったのだ。さっきまでは胸に気を取られていて気になっていなかったけど、その魔力がなくなった事で気付いてしまった。

「お気になさらずとも、姫奈様は良い匂いがしますよ。毎回身体を再構成しているので、綺麗な状態のままですから」
「そ、そうなんですか……再構成って、ちょっと怖いですね」
「元々姫奈様を構成したもので構成していますので、あまり変わりないと思いますが」
「な、なるほど……」

 何か凄い事を言われている気がする。私を構成したものは、世界に戻ると分解されてこの空間を漂い、再び私の精神が返ってきたら再構築されるという事なのかな。ちょっと怖い気もする。

「姫奈様」

 ミナお姉さんは、微笑みながら私に手を伸ばす。その手は、私の頬に触れて、もう片方の手が私の腰に回される。ミナお姉さんの表情と相まって、こっちが紅潮してしまう。

「…………」

 私はミナお姉さんの身体に吸い込まれるように近づいていき、自分の身体を委ねた。
 それから一時間半くらい経って、ミナお姉さんの腕に抱かれて。ちょっと疲れたので、ウトウトとしている感じだった。でも、大分幸せだった。
 そんな中で、ミナお姉さんは私の頭を撫でながら耳元で囁いてくる。

「一つ伝え忘れていた事がありました。姫奈様のヒナとしてのお身体は、そちらの世界で生活していた期間の経験などにより、姫奈様としての性格の他に別の性格も合わさっています。本質的には姫奈様である事に変わりありませんが、小柳姫奈様としての性格とは変わっている部分があるかもしれません」
「……少し甘えん坊になっているとかですか?」
「はい。控えようとしても、その性格が表に出て来る事がありますが、それも姫奈様の一部であり、あり得た未来ですので、ご安心ください」
「はい……」

 どうやら、記憶無しに生活していた期間の性格が合わさっているらしい。だから、少し子供っぽくなる事もあるみたい。あちらの世界では七歳で両親が死に、八年間も虐待を受けながら奴隷として暮らしていた。その分誰かに甘えたいという欲求が強くなっているのかもしれない。
 奴隷時代からレパに甘えたりするのは、そういうところが大きく影響していたのかな。今でもメイリアさんとかにも甘えちゃうし、口にソースは付けるし。ソースは別枠か。

(こうしてミナお姉さんに甘えちゃうのも、そういう子供っぽさがあるからなのかな)

 そんな事を思っていると、ミナお姉さんから爆弾が落とされた。

「こちらでは、その影響はありませんので、純度百パーセントの姫奈様のままになりますが」
「…………」

 完全に元々の自分の性格だった。うん。知ってはいた。そういう欲求は元々あったし。でも、こういう話があったら、本当はそっちの影響なのではと思うのは無理ないと思う。
 若干恥ずかしくなって、ミナお姉さんの胸に顔を埋める。すると、ミナお姉さんが頭を撫でてくれるので、恥ずかしさと嬉しさが綯い交ぜになっていく。

「お疲れのようですね。私にはよく分かりませんでしたが、姫奈様にお喜び頂けて幸いです。次のために知識を集めておきます」
「いや……えっと……ありがとうございます……」

 断ろうと思ったけど、結局お礼が出て来てしまった。自分の意志の弱さが憎い。そうこうしている内に向こうの世界に戻る時間がやって来る。

「あっ……じゃあ、また来ますね」
「はい。お待ちしております」

 二時間の間に色々とありすぎたけど、かなり幸せな時間が過ごせた。おかげで、心のリフレッシュが出来た気がする。次にここに来たら、私はどうなってしまうのだろうか……怖くもあるけど、楽しみの方が上回っている自分がいた。
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