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第32話 新生コノエ・エンタープライズ
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食事会の翌朝、マリカはハッとして目が覚める。途中で寝落ちしてしまったことを思い出し、カナエによって顔に落書きでもされていないか心配になった。
「おはようございます、マリカ様。よく眠れましたか?」
「まあね。なんかイイ夢を見ていたような……それはともかく、私の顔にイタズラとかされてないかな?」
「大丈夫ですよ。わたしがそんな事は誰にもさせませんから」
「カティアがいてくれて良かった。二人共まだ寝てるのか」
テーブルを挟んだ向かい側を覗き込むと、カナエとエーデリアが寄り添うようにして眠っていた。その様子は微笑ましいものだったが、マリカの視線に気がついたのかエーデリアも瞼をゆっくり開く。
「あっ…おはようございます」
カナエに密着しているのを見られて恥ずかしかったのか、少々照れくさそうに頭を掻きながら起き上がる。だが二人の親密さを知っているマリカはいつも通りの事と気にしていないし、カティアに至ってはマリカとの添い寝を妄想しながら一人興奮してエーデリア達を見ていなかった。
「シェリーお姉様とアオナさんは帰ってはいないようですね?」
昨日出かけた二人はまだ帰宅しておらず、アオナの部屋にも姿は無い。久しぶりに再会したらしいので羽目を外して楽しんでいるのだろう。
本来であれば今日の店番担当はアオナなのだが、代わりに自分が頑張ろうとマリカが眠い目をこすった時、店の入り口が開く音がした。
「ただ今戻りました……」
そこには酔ったアオナに肩を貸すシェリーが立っており、マリカも手を貸して店の商品として置いてあるソファにアオナを横たえた。衣服も乱れて乱闘した後のようにも見える姉にマリカはため息をつく。
「申し訳ありません、シェリーさん。姉がこんなお恥ずかしい」
「いえ、わたしも一緒に楽しんだので。一晩ホテルに泊まったのですがアオナの酔いは醒めませんでした」
「たらふく飲んだ姉からアルコールが抜けるには時間がかかりますから……」
酒臭いアオナは半開きの目で何かを思い出したように不気味に笑い出す。
「急に笑っちゃって…怖いよお姉ちゃん」
「うへへっ! だってぇ、昨日のシェリーったらめっちゃ可愛かったんだもん」
「そう……」
「せっかく騎士の格好をしてるからぁ、くっ殺プレイをしたらスゴク捗りましたぁ。いひひ、あんなのエーデリアちゃんには見せられないねぇシェリーさぁん」
その言葉にシェリーは目を白黒とさせてアワアワと取り乱す。シェリーは本場の騎士であり、甲冑に身を包む彼女はいかにも精悍といった雰囲気があるが、まさかそんなコトをしたのかとマリカは驚いていた。
しかも運が悪いことに、マリカを追ってきたエーデリアが二階のコノエ宅から店に降りてきたタイミングでの発言である。
「お姉様、それは本当なのですか!?」
「エ、エーデリア!? 聞いていたのですか!?」
猫のようにビクッと跳ねながら素っ頓狂な声を上げるシェリー。まるで悪さをした子供がその現場を親に見られたかのような反応で、エーデリアはコクンと頷き姉の返答を待っている。
「なんていうか、その…様々な状況に対応するための訓練のようなものです! 全く、アオナは余計なことを言うのですから…!」
シェリーは冷汗を全身にかきながらアオナを担ぎ上げ、店舗二階のコノエ宅まで運んでいく。その背中をマリカとエーデリアは見送りつつ、若干気まずい雰囲気になっていた。それは仕方のないことで、姉達の特殊な”遊び”を聞かされた妹の二人はどのような反応をしていいのか困る。
「あ~…お盛んですな、お二人は」
「お姉様は真面目な騎士として王都でも名が知れているのですが……やる事はやっているんですねぇ」
「ま、まあ趣味は人それぞれだからね!」
取り繕うようにそう言うマリカは、そそくさと開店準備に取りかかることにした。
「マリカ様、わたしのデータベースにも様々なプレイ内容に関する情報が蓄えてありますので……」
「えぇ…メイドに必要なの、それ」
「主様のご要望にお応えするのがメイドの仕事なので! ですから、マリカ様がお望みならどんなプレイにも対応します!」
「そ、それよりお姉ちゃんの介護を頼むよ。シェリーさん一人じゃ手を焼くかもだからさ」
期待するように目を輝かせて意気込むカティアを落ち着かせ、アオナとシェリーの様子を見に行かせる。先程の事から分かるように酔ったアオナは極めて面倒な存在なので、自室にてさっさと寝かせるのが対策として最適であり、シェリーだけでは大変だろうと慮ったのだ。
「アオナ様は安らかにお眠りになりました」
「死んだのか…?」
マリカはカティアの報告に苦笑しながら店舗内商品の移動を行っていた。開店準備というよりは引っ越し作業のようにも見える。
「マリカ様、今日はお店はお休みされるのですか?」
「うん、臨時休業。今日はね、店の中を整理することにしたんだよ。あまりにもテキトーな陳列だし、エーデリアに経営改善のアドバイスを聞いたら、まずは見栄えを良くすることが大切って言っていたからさ」
コノエ・エンタープライズの店内はゴミ屋敷に見紛うほどに雑多な商品陳列がされていて、あまり見栄えが良いとは言えなかった。これでは新規のお客が来店するハードルは高く、マリカとアオナの整理整頓が雑な姉妹であるという負の側面が現れているのだ。
「お姉ちゃんには無断で店をいじることになるけど、まあいいっしょ。エーデリアのアドバイスは最もだと思うし、むしろ何故今までこの有様で放置してきたのか……」
「わたくしはこの雰囲気も好きなのですが、長期的な経営と新規顧客獲得のためには必要かなと……」
「協力してもらった分のお金はちゃんと渡すからね。なので改装後も手を貸してほしいな」
「はい! わたくしでお役に立てるなら!」
王都にてお宝売却をしたことで大金を手に入れたが、それで一生暮らすことは不可能だ。だからこそ自分も経営に携わるコノエ・エンタープライズの改善は必須であり、こうして人の手を借りて試行錯誤しなければならない。
「見栄え、ですか。確かに人の目に留まらなければ立ち寄ってもらえません……あっ、それなら」
手をポンと叩いたカティアは何かを思いついたようで、小走りで二階へと向かっていった。
「今のマリカさんにはカティアさんという心強い仲間がいらっしゃって、とても充実しているように見えます」
「実際、カティアと出会って充足感とか楽しいと思えることが多くなったよ。仕事に専念するようになってからは正直退屈で鬱憤もあったけど、今はカティアが傍にいてくれるだけで嬉しいもんね」
「あらあら。まるで恋人みたいですね」
「カナエにもハーフェンで似たようなコト言われたよ」
同じ事柄に取り組んでいても、誰とするかによって充実感や印象は異なるものだ。カティアとの日々は退屈しないし、もうカティアがいなかった頃に戻りたくないとマリカは思っている。
「お待たせしました! これなら人の目を惹けそうですよね!?」
パタパタと駆け寄って来たカティアはいつものメイド服ではなく、王都でカナエに譲ってもらったバニースーツを着こんでいた。派手な見た目で間違いなく関心を引けるだろうが、怪しげな店と勘違いされる気もする。
「いいのではないでしょうか。カティアさんの可憐さと、バニースーツの淫靡さが合わさって最強ですよ。ね、マリカさん?」
「最高に可愛いのは間違いないケド、いいんでしょうかね…?」
「カティアさんのアイデアも取り入れましょうよ。バニーガールによる宣伝、やってみる価値はありますよ」
せっかくのカティアの提案でもあるしマリカは了承して頷いた。現状使える物をなんでも試してみて、そこから次を考えればよいと柔軟になれたのもカティアという環境応用力の高い汎用メイドと出会ったからか。
「でも気を付けてね。そういう格好だと不審者が寄ってくる可能性もあるから…カナエみたいな」
「あたしをお呼びで?」
いつの間にか起きて来ていたカナエがアクビをしながらマリカの肩を叩く。別に呼んではいないとマリカが口を開こうとするが、
「おやっ、お嬢ちゃん可愛いね!」
と、カナエはカティアに目を付けて、怪しさ満点の気味の悪い眼光と手つきで迫るも、当然ながらマリカに制止されて首根っこを掴まれる。
「やめーや……こういう輩に絡まれたらスグに私かお姉ちゃんを呼ぶんだよ」
「は、はい」
不審者対策にキャノンパックでも背負わせるべきかと思案しつつ、店の改装を再開するマリカ。明日は普通に営業したいので急ピッチで進めなければならないのだ。
しかし平穏な日常は長くは続かず、突如として崩される。
新たな脅威が静かに、確実にフリーデブルクへと迫っていた……
「おはようございます、マリカ様。よく眠れましたか?」
「まあね。なんかイイ夢を見ていたような……それはともかく、私の顔にイタズラとかされてないかな?」
「大丈夫ですよ。わたしがそんな事は誰にもさせませんから」
「カティアがいてくれて良かった。二人共まだ寝てるのか」
テーブルを挟んだ向かい側を覗き込むと、カナエとエーデリアが寄り添うようにして眠っていた。その様子は微笑ましいものだったが、マリカの視線に気がついたのかエーデリアも瞼をゆっくり開く。
「あっ…おはようございます」
カナエに密着しているのを見られて恥ずかしかったのか、少々照れくさそうに頭を掻きながら起き上がる。だが二人の親密さを知っているマリカはいつも通りの事と気にしていないし、カティアに至ってはマリカとの添い寝を妄想しながら一人興奮してエーデリア達を見ていなかった。
「シェリーお姉様とアオナさんは帰ってはいないようですね?」
昨日出かけた二人はまだ帰宅しておらず、アオナの部屋にも姿は無い。久しぶりに再会したらしいので羽目を外して楽しんでいるのだろう。
本来であれば今日の店番担当はアオナなのだが、代わりに自分が頑張ろうとマリカが眠い目をこすった時、店の入り口が開く音がした。
「ただ今戻りました……」
そこには酔ったアオナに肩を貸すシェリーが立っており、マリカも手を貸して店の商品として置いてあるソファにアオナを横たえた。衣服も乱れて乱闘した後のようにも見える姉にマリカはため息をつく。
「申し訳ありません、シェリーさん。姉がこんなお恥ずかしい」
「いえ、わたしも一緒に楽しんだので。一晩ホテルに泊まったのですがアオナの酔いは醒めませんでした」
「たらふく飲んだ姉からアルコールが抜けるには時間がかかりますから……」
酒臭いアオナは半開きの目で何かを思い出したように不気味に笑い出す。
「急に笑っちゃって…怖いよお姉ちゃん」
「うへへっ! だってぇ、昨日のシェリーったらめっちゃ可愛かったんだもん」
「そう……」
「せっかく騎士の格好をしてるからぁ、くっ殺プレイをしたらスゴク捗りましたぁ。いひひ、あんなのエーデリアちゃんには見せられないねぇシェリーさぁん」
その言葉にシェリーは目を白黒とさせてアワアワと取り乱す。シェリーは本場の騎士であり、甲冑に身を包む彼女はいかにも精悍といった雰囲気があるが、まさかそんなコトをしたのかとマリカは驚いていた。
しかも運が悪いことに、マリカを追ってきたエーデリアが二階のコノエ宅から店に降りてきたタイミングでの発言である。
「お姉様、それは本当なのですか!?」
「エ、エーデリア!? 聞いていたのですか!?」
猫のようにビクッと跳ねながら素っ頓狂な声を上げるシェリー。まるで悪さをした子供がその現場を親に見られたかのような反応で、エーデリアはコクンと頷き姉の返答を待っている。
「なんていうか、その…様々な状況に対応するための訓練のようなものです! 全く、アオナは余計なことを言うのですから…!」
シェリーは冷汗を全身にかきながらアオナを担ぎ上げ、店舗二階のコノエ宅まで運んでいく。その背中をマリカとエーデリアは見送りつつ、若干気まずい雰囲気になっていた。それは仕方のないことで、姉達の特殊な”遊び”を聞かされた妹の二人はどのような反応をしていいのか困る。
「あ~…お盛んですな、お二人は」
「お姉様は真面目な騎士として王都でも名が知れているのですが……やる事はやっているんですねぇ」
「ま、まあ趣味は人それぞれだからね!」
取り繕うようにそう言うマリカは、そそくさと開店準備に取りかかることにした。
「マリカ様、わたしのデータベースにも様々なプレイ内容に関する情報が蓄えてありますので……」
「えぇ…メイドに必要なの、それ」
「主様のご要望にお応えするのがメイドの仕事なので! ですから、マリカ様がお望みならどんなプレイにも対応します!」
「そ、それよりお姉ちゃんの介護を頼むよ。シェリーさん一人じゃ手を焼くかもだからさ」
期待するように目を輝かせて意気込むカティアを落ち着かせ、アオナとシェリーの様子を見に行かせる。先程の事から分かるように酔ったアオナは極めて面倒な存在なので、自室にてさっさと寝かせるのが対策として最適であり、シェリーだけでは大変だろうと慮ったのだ。
「アオナ様は安らかにお眠りになりました」
「死んだのか…?」
マリカはカティアの報告に苦笑しながら店舗内商品の移動を行っていた。開店準備というよりは引っ越し作業のようにも見える。
「マリカ様、今日はお店はお休みされるのですか?」
「うん、臨時休業。今日はね、店の中を整理することにしたんだよ。あまりにもテキトーな陳列だし、エーデリアに経営改善のアドバイスを聞いたら、まずは見栄えを良くすることが大切って言っていたからさ」
コノエ・エンタープライズの店内はゴミ屋敷に見紛うほどに雑多な商品陳列がされていて、あまり見栄えが良いとは言えなかった。これでは新規のお客が来店するハードルは高く、マリカとアオナの整理整頓が雑な姉妹であるという負の側面が現れているのだ。
「お姉ちゃんには無断で店をいじることになるけど、まあいいっしょ。エーデリアのアドバイスは最もだと思うし、むしろ何故今までこの有様で放置してきたのか……」
「わたくしはこの雰囲気も好きなのですが、長期的な経営と新規顧客獲得のためには必要かなと……」
「協力してもらった分のお金はちゃんと渡すからね。なので改装後も手を貸してほしいな」
「はい! わたくしでお役に立てるなら!」
王都にてお宝売却をしたことで大金を手に入れたが、それで一生暮らすことは不可能だ。だからこそ自分も経営に携わるコノエ・エンタープライズの改善は必須であり、こうして人の手を借りて試行錯誤しなければならない。
「見栄え、ですか。確かに人の目に留まらなければ立ち寄ってもらえません……あっ、それなら」
手をポンと叩いたカティアは何かを思いついたようで、小走りで二階へと向かっていった。
「今のマリカさんにはカティアさんという心強い仲間がいらっしゃって、とても充実しているように見えます」
「実際、カティアと出会って充足感とか楽しいと思えることが多くなったよ。仕事に専念するようになってからは正直退屈で鬱憤もあったけど、今はカティアが傍にいてくれるだけで嬉しいもんね」
「あらあら。まるで恋人みたいですね」
「カナエにもハーフェンで似たようなコト言われたよ」
同じ事柄に取り組んでいても、誰とするかによって充実感や印象は異なるものだ。カティアとの日々は退屈しないし、もうカティアがいなかった頃に戻りたくないとマリカは思っている。
「お待たせしました! これなら人の目を惹けそうですよね!?」
パタパタと駆け寄って来たカティアはいつものメイド服ではなく、王都でカナエに譲ってもらったバニースーツを着こんでいた。派手な見た目で間違いなく関心を引けるだろうが、怪しげな店と勘違いされる気もする。
「いいのではないでしょうか。カティアさんの可憐さと、バニースーツの淫靡さが合わさって最強ですよ。ね、マリカさん?」
「最高に可愛いのは間違いないケド、いいんでしょうかね…?」
「カティアさんのアイデアも取り入れましょうよ。バニーガールによる宣伝、やってみる価値はありますよ」
せっかくのカティアの提案でもあるしマリカは了承して頷いた。現状使える物をなんでも試してみて、そこから次を考えればよいと柔軟になれたのもカティアという環境応用力の高い汎用メイドと出会ったからか。
「でも気を付けてね。そういう格好だと不審者が寄ってくる可能性もあるから…カナエみたいな」
「あたしをお呼びで?」
いつの間にか起きて来ていたカナエがアクビをしながらマリカの肩を叩く。別に呼んではいないとマリカが口を開こうとするが、
「おやっ、お嬢ちゃん可愛いね!」
と、カナエはカティアに目を付けて、怪しさ満点の気味の悪い眼光と手つきで迫るも、当然ながらマリカに制止されて首根っこを掴まれる。
「やめーや……こういう輩に絡まれたらスグに私かお姉ちゃんを呼ぶんだよ」
「は、はい」
不審者対策にキャノンパックでも背負わせるべきかと思案しつつ、店の改装を再開するマリカ。明日は普通に営業したいので急ピッチで進めなければならないのだ。
しかし平穏な日常は長くは続かず、突如として崩される。
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