リビルドヒストリア ~壊れたメイド型アンドロイドを拾ったので私の修復能力《リペアスキル》で直してあげたら懐かれました~

ヤマタ

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第34話 モンストロ・ウェポン

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 陽が沈み、月光が大地を照らす時刻。フリーデブルクは厳戒態勢が敷かれ、戦闘可能な魔導士達が街を背にして魔具を構えている。もう間もなく魔物の群れが到達する頃合いであり、皆一様に緊張した面持ちだ。

「あれは魔弾の光…戦いが始まったみたい」

 マリカ達の視界の先、荒野の中に佇む大きな灯台付近で閃光が走った。そこには防衛隊の戦力が配置されており、いよいよ異形との戦闘が開始されたようだ。
 防衛隊は日頃から鍛えている軍人であり、戦闘に特化した訓練を積んでいる。そんな彼女達ならいくら強敵が現れようと一歩たりとも引き下がることなく、逆に魔物達を殲滅してくれるだろう。

「ン…? なんでしょう、この電波は…?」

「カティア、どうしたの?」

「先程から妙な電波を感知しておりまして……やはりセンサーに感ありです」

 カティアはキョロキョロとしながら何かを探しているようで、頭頂部にぴょこんと生えたアホ毛もクルンと動いている。

「えっ、その毛って探知機なの?」

「はい。アンテナとしての機能がありますよ。ちなみに指揮官メイドモデルのAS-06S型には通信機能を内蔵したツノがありました」

「ツノ…メイドモデルの指揮官てことは、メイド長ということか」

 ツノの生えたカティアを想像し、それはそれでアリだなと思いつつも、カティアが探知したという電波のことが気になる。現状においては機械による通信網は失われて久しく、電波を発生するような高度機械そのものが存在しないハズなのだ。

「電波が送られてくる方向は分かりましたが、内容自体は解析できませんでした。電子戦用の装備でもあれば出来そうなのですが……」

「そっか。しかし魔物の襲撃と同時に謎の電波となれば気になるな」

「魔物の出現と同時に……ま、まさか!?」

 この現象に何か思い当たるフシがあるようで、カティアはハッとして焦るような表情をしている。

「もしわたしの仮定が当たっていたら、結構マズい事態かもしれません」

「どういうことなの?」

「旧世界において魔物を模倣した生物魔道兵器が開発されました。その名をモンストロ・ウェポンというのですが、それらは遠距離から通信コントロールを行って制御されていたのです」

「つまり、今ここを襲っているのは魔物ではなくモンストロ・ウェポンで、誰かが遠隔操作しているってこと?」

 しかし旧世界は滅亡しているのだ。モンストロ・ウェポンなどという魔道兵器を一体誰が、何のために操っているというのか。

「現時点では詳細は分かりません…ですが、襲ってきている敵を視認すればデータベースと照合して解析することが可能です」

「なら、おあつらえ向きにも敵さんから来てくれたようだよ…!」

 防衛隊の猛攻をすり抜け、複数体の敵がフリーデブルクへと急速に接近していた。どうやら敵は並みの魔物ではないらしく、防衛隊ですら手を焼いているらしい。
 西門の外で待機していた魔導士達は自分達の出番が来てしまったかと恐れを抱きつつ、それでも背水の陣で逃げ場もないために勇気を振り絞って迎え撃つ準備を整えた。

「マリカ様、わたしが前に出て攻撃をかけます」

「うん、無理はしないでね」

 頷いたカティアは膝を曲げ、履帯を地面に接地させる。

「カティア・タンク、いきます!」

 荒れ地を履帯を使って進むカティアは、バックパックから肩の上に伸びる二門の大型魔道キャノンの照準を向かいくる敵にセットした。そして発射命令を下し、轟音と共に二条の光の弾が高初速で撃ち出される。
 砂を巻き上げながら直進する魔弾は敵に直撃し、一撃で粉砕することに成功した。しかも着弾時の爆発で数体を巻き込み、異形達は血肉を散らして絶命する。

「スゴイなカティアちゃんは。あたし達も負けていられないな!」

「はい、カナエさん。わたくし達もいきましょう!」

 カティアの勇士は味方の魔導士達を奮起させ、先程までの恐怖を捨て去って突撃を開始した。防衛隊を突破してくる敵の数はどんどん増えてくるが、怖気づくことなく相対する。

「これは…やはりモンストロ・ウェポンですね」

「そうなのか……コイツらはたまに街を集団で襲うことがあるヤツらで、皆からはヒトモドキって呼ばれているよ。でも言われてみれば襲撃以外で見かけたことはないな」

「命令を元に行動するので野生化していないのでしょう。となれば、どこかに拠点を築いて潜んでいて、個体数が増えた段階でフリーデブルクなどの街に侵攻してくるのだと推察できます」

 敵の亡骸をスキャンしたカティアはそう呟く。メモリーに残されたデータとの照合の結果、魔物そのものに見える敵の正体はかつて生みだされたモンストロ・ウェポンとの特徴と一致したのである。

「コイツらは人口魔物だったとは……けど何故? 人間が創り出した魔道兵器なのに、どうして人を襲うのだろう?」

「モンストロ・ウェポンには意思はありませんから、操作している者の仕業でしょう……」

「一体どんなヤツなんだか。こんな世界で魔物の味方をするようなマネをするのは」

「……見当は付きました。この戦闘が終わったらお話しますね」

「了解。ともかく目の前の敵を撃破しないとならないもんね」

 そんな会話をしているマリカとカティアに、一体のモンストロ・ウェポンが接近してきた。ヒトモドキと呼ばれる黄土色のソレは強靭な脚力で突進し、太い腕部を振りかざしてマリカを殴りつけようとする。

「させません!」

 カティアがマリカの前に出て、手に持った杖から魔弾を発射してモンストロ・ウェポンを撃ち貫いた。耐久性はさほど高くないらしく、通常威力の魔弾であっても撃破できるようだ。

「にしても不気味な外見だよねぇ。昆虫のような横長の胴体から人間の上半身が生えているんだから……」

 純粋な生命ではなく人間が創り出したモノということにマリカは納得する。こんな奇妙な形状が自然界で発生するとは到底思えなかったからだ。

「このタイプは魔物の機動性と、人間の汎用性を組み合わせたものです。六つの脚による安定した高速移動は魔導士をも上回り、人型部分の腕部を使えば魔具をも装備できます」

「両者の長所を合わせたんだね。合理的かもしれんけど、冒涜的にも思えるな」

 だが魔物という人類最大の脅威に対抗するためには、なりふり構っていられなかったのだろう。それ程までに旧世界も追い詰められていたことは想像に難くない。
 それから三十分程経過しても決着はまだ付かないが、多少人間側が優勢となりつつあるようだった。このままなら押し返すことができるだろうが、戦いはそう簡単には進まない。

「マリカさん、ここにいらっしゃったのですね」

「シェリーさん、どうかしましたか?」

 もう見慣れた甲冑の騎士がマリカに手を振りながら近づく。なにか焦りを感じているようで、険しい表情で眉間に皺を寄せていた。

「実は北側からも魔物の一団が侵攻しているようです。先程、北灯台の篝火台にも火が灯されました」

「なんてこった…そんなに数がいるとは」

「わたしはこれから北側の戦闘に参加しようと思うのです。こちらは多少抑えることができていますから」

「なら私とカティアも向かいます。あの、お姉ちゃんは?」

「アオナは負傷者の手当てを行っています。怪我人が何人か出ているようなので、医師達に協力しているようです」

 ようやく役に立っているんだなとマリカはホッとする。こんな状況下でもまだ酔って寝ているようでは物笑いの種になってしまう。

「カティア、行こうか」

「はい。わたしがマリカ様のことをお運びしますね」

 杖を収納したカティアがマリカをお姫様抱っこの要領で抱えた。戦場で何をしているのかと思われるかもしれないが、これは立派な移動方法となるのだ。

「発進します!」

 無限軌道の履帯を勢いよく回転させ、重武装を背負っているようには見えないほどのハイスピードで街の北側まで移動を開始する。荒れ地の上を車よりも安定した走行を行い、魔導士の全力の走りよりも速いようだ。

「めっちゃ速い!」

「しかも、こんな事もできますよ!」

 マリカを抱えた上半身だけを捻り、大型魔道キャノンに魔力をチャージする。そして高速走行したまま大出力魔弾を発射した。

「当てた!?」

「行進間射撃もお手の物ですよ! これが停止射撃しかできないキャノンパックとの明確な違いです」

 ドヤ顔のカティアはもう一射を行い敵を撃破する。マリカにカッコイイところを見せることができて強気になっているらしい。

「北側にもあんなに敵が……今回はいつも以上に数が多いかも」

「急ぎましょう!」

 もう間もなく北門に到着する距離まで迫っているが、既に戦闘は始まっていた。戦力が西側に多数配置されていたことで薄手となって押し込まれている。
 カティアは更に加速していき、支援砲撃も続けるのだった。
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