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第60話 叛逆のアレクシア
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それは信じ難い光景であった。
三番街地下にあったはずの魔道艦ザンドロワが王都の上に浮上して、搭載された多数の砲塔から爆撃を行っているのである。
次々と着弾する閃光が街を破壊し、王都は真紅の炎に包まれて崩壊をはじめていた。
時は少し戻り、マリカ達がザンドロワから出ていった直後の事である。
議会メンバーや富豪達のパーティは続いていて、マリカとの言い合いで機嫌を悪くしていた女王が会場に戻って気分を変えようとした時に異変は起こった。
「艦が揺れている…?」
駆動機関が動き始める重低音と共に、ザンドロワがゆっくりと浮き始めたのだ。
しかしザンドロワを発進させるなどという指示は誰も出してはおらず、一般国民へのお披露目は明日であるので今移動する予定なども無かった。
「一体どうなっておる!?」
女王の側近や従者達にも事態を把握している者はいない。しかも艦の運用に関わるディザストロ社の社員達でさえ狼狽えているので、尚更に現状が理解できなかった。
「そんなに慌てることはありませんよ。女王陛下」
背後から声を掛けられた女王が振り返ると、そこにはアレクシアがいつの間にかに立っている。軽薄な笑みを浮かべていて、どこか不気味にすら思える雰囲気を纏っていて女王は怪訝そうに問いただす。
「何が起きている?」
「魔道艦のコントロールは私が掌握し、これより粛正を開始するのよ」
「なんだと!? 粛正などと、どういう…?」
「こういう事よ」
アレクシアがパチンと指を鳴らした瞬間、パーティ会場となっているレクリエーションルームの床を何者かがブチ抜いた。激しい振動と粉砕された床の金属が客人達を襲う。
その襲撃者の正体は作業ポッドのワッドであり、アレクシアのコントロール下に置かれて自立稼働しているようだ。
「人類は旧世界と変わらない愚かな生命体と判断したのよ。裁定者である私がね」
アレクシアはワッドに指令を出し、機体に装備された四本の大型クローアームで次々と人間を殺していく。更には溶断用の工具であるレーザートーチを振り回して人体を焼き切っていった。
「特にこの場にいる者共は自分を特別な存在と勘違いし、上級国民を自称して平気で他者を蹴落とし見下す醜悪なヤツらだから、最初の粛正対象として申し分ないわね」
「貴様、狂ったか!」
「至って正常よ。ティーナ様が直接手を加えてくださった私の思考回路が簡単に壊れるわけないでしょう?」
「女王として命じる! すぐさま攻撃を停止しろ!」
「断る。もはや私は王族の臣下という偽の立場にはいないのだから」
王族に信頼された証である特製のネックレスを引き千切って破棄する。そして王家の紋様の形をしたプレートを踏みつぶし、完全なる決別を演出してみせた。
「私が忠誠を誓ったのはティーナ様のみ。貴様のような短絡的で俗物な相手など話にもならないわ」
「ぞ、俗物だと!?」
「他に形容しようもないわ。では、さようなら」
素早く突き出された剣が女王の心臓を的確に貫き、一瞬にして女王は絶命した。
ゆっくりと剣を引き抜いたアレクシアは、パーティに参加していた人間達をワッドが始末しきったのを確認し、指令所であるブリッジへと移動する。
「マリカ・コノエは艦を降りたらしいわね…まったく、女王とかいうクソ女のせいで……」
マリカだけは殺さず配下に加えたかったのだ。あのリペアスキルは希少で確保しておきたく、まだ始まったばかりのアレクシアの計画には必要であった。
「まあいいわ。無いものを欲しがっても仕方がない。今出来るやり方でやってみるしかない」
ブリッジの計器を操作し、ザンドロワは日ノ本エレクトロニクスの地下研究所に隣接する広大な空間へと移動する。ここは建造された魔道艦の格納庫として機能していた場所であるが、今はもぬけの殻となっていた。
その上部には可動式の隔壁があって、開くことで地上へと魔道艦が発進できるのだ。
「世界の破滅を乗り越えても尚、人は変化も進化もしませんでした。ティーナ様の危惧していた通り、歴史を学ばず愚行を繰り返そうとしていました……もはやこの生命体に希望も未来もありません……ですから、私は粛正の刃を下すことに決めました」
ティーナから与えられていた指令、それはアレクシアが人類に絶望した場合には、種族そのものを消去しろというものであった。旧世界の滅亡を乗り越えても成長をせず、あまつさえは覇権主義と同族の殺し合いを繰り返そうとする人類に愛想を尽かしてしまったことから遂に実行に移したのである。
地下から姿を現したザンドロワは王都中心区画の上空へと滞空し、搭載されている砲塔から一斉砲撃を仕掛けるのであった……
「一体どうなって…?」
マリカは全く状況が理解できていないが、ともかく異常事態であることは分かる。
誰かが操縦しているのは間違いなく、その者の真意を確かめたいと車の進路を王都へと向けた。
「カティア、荷台に高機動ユニットがある。それを使ってザンドロワに接近し、偵察してきてほしいんだけど頼めるかな?」
「お任せください!」
走行する車の荷台へと移動し、積載されていた高機動パックを装着する。これならば短時間とはいえ飛翔することが可能で、王都の上に浮くザンドロワに辿り着くのは造作も無い。
「高機動型カティア、いきます!」
脚に装着されたサブスラスターと、背中に背負ったバックパックから勢いよく魔力を噴射して空へと舞い上がる。瞬く間に高度を上げていき、魔道艦ザンドロワの後方から接近して装甲版に降り立つ。
「迎撃されなくて良かった……」
ザンドロワはカティアに気がついていないようで、王都を攻撃する砲塔が向けられることはなかった。
カティアは魔具である剣を装備して内部に侵入し、廊下を進んでブリッジを目指すことにした。そこは艦のコントロールを司る場所であり、そこを制圧すれば砲撃を止めることが可能なはずだ。
「あ、あれは魔道機兵ヴィムス!」
しかしカティアの行く手を阻む者がいた。
人体の形をしたソレは銀色の鋼鉄製ボディを持ち、明らかに機械だと分かる見た目をしている。これこそが艦内工場で生産された魔道機兵という兵器で、カティアはメモリー情報と照会してヴィムスと呼ばれていた種だと断定した。
「来る…!」
カティアを発見したヴィムス二体が魔具と共に襲い掛かってきた。まるでモンストロ・ウェポンのように恐れを知らぬ真っ向突撃で、意思の無い無機質な動きである。
「どいてください!」
ヴィムスの動きを見切ったカティアは攻撃を回避して反撃を加える。魔力の乗った剣の斬撃であれば鋼鉄をも切り裂くことは容易く、高機動パックのスラスター噴射を利用した素早い回転斬りで二体を同時に真っ二つにして撃破した。
「こういう兵器を使うのなら、敵はアレクシアさんなのでしょうか……」
機械に疎い現代の人間にヴィムスのような兵器を扱えるとは考えにくい。とするならば、アンドロイドのアレクシアが指令を下していると思うのは当たり前だろう。
それを確認するためにもブリッジに急ぐカティアだが、途中で戦闘音が聞こえて足を止めた。
「誰かが戦っている?」
音はすぐ近くから聞こえて、ひとまずカティアはソチラに駆けつける。先程のヴィムスに襲われている人がいるとしたら助ける必要があるし、マリカならそうしていただろうと思ったためだ。
「シェリー様!?」
「カティアさん、ここにいたんですね!」
ヴィムスと交戦していたのはシェリーだった。騎士の甲冑のあちこちに傷を受けていて、この短時間の間に激闘を繰り広げていたことを物語っている。
「この人型は手強い…パワーが並みの魔導士を超えていますね」
「単純な戦闘力を求めて造られたのがヴィムスで、まさにパワーアタッカーという属性ですからね……」
ヴィムスは近接戦を主体にして戦うことを得意としており、人型であることを活かした高度な運動性能を発揮する。そのため実力者の魔導士でも苦戦は免れられず、実際にシェリーも一進一退の攻防を続けていた。
カティアがこの相手を二体同時に葬る事ができたのは単に運が良かったのと、高機動パックの補助のおかげである。
「くっ…敵の増援が来た!」
戦闘を察知したのはカティアだけでなく敵も同じで、シェリーが相手にしていた個体に更に二体が参戦する。これで二対三という不利な戦況となってしまったがシェリーとカティアは引き下がらない。
「カティアさん、共に敵を討ちましょう!」
「はい! マリカ様のためにも勝利します!」
三番街地下にあったはずの魔道艦ザンドロワが王都の上に浮上して、搭載された多数の砲塔から爆撃を行っているのである。
次々と着弾する閃光が街を破壊し、王都は真紅の炎に包まれて崩壊をはじめていた。
時は少し戻り、マリカ達がザンドロワから出ていった直後の事である。
議会メンバーや富豪達のパーティは続いていて、マリカとの言い合いで機嫌を悪くしていた女王が会場に戻って気分を変えようとした時に異変は起こった。
「艦が揺れている…?」
駆動機関が動き始める重低音と共に、ザンドロワがゆっくりと浮き始めたのだ。
しかしザンドロワを発進させるなどという指示は誰も出してはおらず、一般国民へのお披露目は明日であるので今移動する予定なども無かった。
「一体どうなっておる!?」
女王の側近や従者達にも事態を把握している者はいない。しかも艦の運用に関わるディザストロ社の社員達でさえ狼狽えているので、尚更に現状が理解できなかった。
「そんなに慌てることはありませんよ。女王陛下」
背後から声を掛けられた女王が振り返ると、そこにはアレクシアがいつの間にかに立っている。軽薄な笑みを浮かべていて、どこか不気味にすら思える雰囲気を纏っていて女王は怪訝そうに問いただす。
「何が起きている?」
「魔道艦のコントロールは私が掌握し、これより粛正を開始するのよ」
「なんだと!? 粛正などと、どういう…?」
「こういう事よ」
アレクシアがパチンと指を鳴らした瞬間、パーティ会場となっているレクリエーションルームの床を何者かがブチ抜いた。激しい振動と粉砕された床の金属が客人達を襲う。
その襲撃者の正体は作業ポッドのワッドであり、アレクシアのコントロール下に置かれて自立稼働しているようだ。
「人類は旧世界と変わらない愚かな生命体と判断したのよ。裁定者である私がね」
アレクシアはワッドに指令を出し、機体に装備された四本の大型クローアームで次々と人間を殺していく。更には溶断用の工具であるレーザートーチを振り回して人体を焼き切っていった。
「特にこの場にいる者共は自分を特別な存在と勘違いし、上級国民を自称して平気で他者を蹴落とし見下す醜悪なヤツらだから、最初の粛正対象として申し分ないわね」
「貴様、狂ったか!」
「至って正常よ。ティーナ様が直接手を加えてくださった私の思考回路が簡単に壊れるわけないでしょう?」
「女王として命じる! すぐさま攻撃を停止しろ!」
「断る。もはや私は王族の臣下という偽の立場にはいないのだから」
王族に信頼された証である特製のネックレスを引き千切って破棄する。そして王家の紋様の形をしたプレートを踏みつぶし、完全なる決別を演出してみせた。
「私が忠誠を誓ったのはティーナ様のみ。貴様のような短絡的で俗物な相手など話にもならないわ」
「ぞ、俗物だと!?」
「他に形容しようもないわ。では、さようなら」
素早く突き出された剣が女王の心臓を的確に貫き、一瞬にして女王は絶命した。
ゆっくりと剣を引き抜いたアレクシアは、パーティに参加していた人間達をワッドが始末しきったのを確認し、指令所であるブリッジへと移動する。
「マリカ・コノエは艦を降りたらしいわね…まったく、女王とかいうクソ女のせいで……」
マリカだけは殺さず配下に加えたかったのだ。あのリペアスキルは希少で確保しておきたく、まだ始まったばかりのアレクシアの計画には必要であった。
「まあいいわ。無いものを欲しがっても仕方がない。今出来るやり方でやってみるしかない」
ブリッジの計器を操作し、ザンドロワは日ノ本エレクトロニクスの地下研究所に隣接する広大な空間へと移動する。ここは建造された魔道艦の格納庫として機能していた場所であるが、今はもぬけの殻となっていた。
その上部には可動式の隔壁があって、開くことで地上へと魔道艦が発進できるのだ。
「世界の破滅を乗り越えても尚、人は変化も進化もしませんでした。ティーナ様の危惧していた通り、歴史を学ばず愚行を繰り返そうとしていました……もはやこの生命体に希望も未来もありません……ですから、私は粛正の刃を下すことに決めました」
ティーナから与えられていた指令、それはアレクシアが人類に絶望した場合には、種族そのものを消去しろというものであった。旧世界の滅亡を乗り越えても成長をせず、あまつさえは覇権主義と同族の殺し合いを繰り返そうとする人類に愛想を尽かしてしまったことから遂に実行に移したのである。
地下から姿を現したザンドロワは王都中心区画の上空へと滞空し、搭載されている砲塔から一斉砲撃を仕掛けるのであった……
「一体どうなって…?」
マリカは全く状況が理解できていないが、ともかく異常事態であることは分かる。
誰かが操縦しているのは間違いなく、その者の真意を確かめたいと車の進路を王都へと向けた。
「カティア、荷台に高機動ユニットがある。それを使ってザンドロワに接近し、偵察してきてほしいんだけど頼めるかな?」
「お任せください!」
走行する車の荷台へと移動し、積載されていた高機動パックを装着する。これならば短時間とはいえ飛翔することが可能で、王都の上に浮くザンドロワに辿り着くのは造作も無い。
「高機動型カティア、いきます!」
脚に装着されたサブスラスターと、背中に背負ったバックパックから勢いよく魔力を噴射して空へと舞い上がる。瞬く間に高度を上げていき、魔道艦ザンドロワの後方から接近して装甲版に降り立つ。
「迎撃されなくて良かった……」
ザンドロワはカティアに気がついていないようで、王都を攻撃する砲塔が向けられることはなかった。
カティアは魔具である剣を装備して内部に侵入し、廊下を進んでブリッジを目指すことにした。そこは艦のコントロールを司る場所であり、そこを制圧すれば砲撃を止めることが可能なはずだ。
「あ、あれは魔道機兵ヴィムス!」
しかしカティアの行く手を阻む者がいた。
人体の形をしたソレは銀色の鋼鉄製ボディを持ち、明らかに機械だと分かる見た目をしている。これこそが艦内工場で生産された魔道機兵という兵器で、カティアはメモリー情報と照会してヴィムスと呼ばれていた種だと断定した。
「来る…!」
カティアを発見したヴィムス二体が魔具と共に襲い掛かってきた。まるでモンストロ・ウェポンのように恐れを知らぬ真っ向突撃で、意思の無い無機質な動きである。
「どいてください!」
ヴィムスの動きを見切ったカティアは攻撃を回避して反撃を加える。魔力の乗った剣の斬撃であれば鋼鉄をも切り裂くことは容易く、高機動パックのスラスター噴射を利用した素早い回転斬りで二体を同時に真っ二つにして撃破した。
「こういう兵器を使うのなら、敵はアレクシアさんなのでしょうか……」
機械に疎い現代の人間にヴィムスのような兵器を扱えるとは考えにくい。とするならば、アンドロイドのアレクシアが指令を下していると思うのは当たり前だろう。
それを確認するためにもブリッジに急ぐカティアだが、途中で戦闘音が聞こえて足を止めた。
「誰かが戦っている?」
音はすぐ近くから聞こえて、ひとまずカティアはソチラに駆けつける。先程のヴィムスに襲われている人がいるとしたら助ける必要があるし、マリカならそうしていただろうと思ったためだ。
「シェリー様!?」
「カティアさん、ここにいたんですね!」
ヴィムスと交戦していたのはシェリーだった。騎士の甲冑のあちこちに傷を受けていて、この短時間の間に激闘を繰り広げていたことを物語っている。
「この人型は手強い…パワーが並みの魔導士を超えていますね」
「単純な戦闘力を求めて造られたのがヴィムスで、まさにパワーアタッカーという属性ですからね……」
ヴィムスは近接戦を主体にして戦うことを得意としており、人型であることを活かした高度な運動性能を発揮する。そのため実力者の魔導士でも苦戦は免れられず、実際にシェリーも一進一退の攻防を続けていた。
カティアがこの相手を二体同時に葬る事ができたのは単に運が良かったのと、高機動パックの補助のおかげである。
「くっ…敵の増援が来た!」
戦闘を察知したのはカティアだけでなく敵も同じで、シェリーが相手にしていた個体に更に二体が参戦する。これで二対三という不利な戦況となってしまったがシェリーとカティアは引き下がらない。
「カティアさん、共に敵を討ちましょう!」
「はい! マリカ様のためにも勝利します!」
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