18 / 54
第18話 灼熱に咲く百合の花
しおりを挟む
朝、目覚まし時計の音で小春は目を覚ました。昨晩は夜遅くまで過激派吸血姫との戦場にいたために眠気が強く残っていて、小春は重いまぶたをこすりながら腕を伸ばして目覚まし時計のアラームを止める。
「・・・ん?」
立ち上がろうとして体を捻ると柔らかな感触が肌に触れた。その正体は千秋で、これ自体は何度かあったことだし一緒に布団に入った記憶があるので別にいいのだが・・・・・・
「な、なんで裸・・・?」
一糸纏わぬ姿で千秋は横になっていた。アラームの音で目覚めず、まだ静かな寝息を立てている。
「えっ・・・わ、私も・・・・・・」
違和感を感じて視線を落とすと自分もまた素っ裸であることに気がつく。同級生達よりも大きく実った乳房が窓から差す陽の光に照らされ、とても淫猥な雰囲気を醸し出している。
「な、なぜ・・・?」
小春は頭を抱えながら必死に寝る直前のことを思い返すが、千秋に術をかけられて吸血姫の繁殖の仕方をレクチャーされたことしか思い出せない。その時点までは確かに服を着ていたはずだ。となると、その後で二人とも脱いだことになる。
「おはよう、小春。もう起床時間を過ぎていたのね」
「お、おはよう千秋ちゃん。あのさ、昨日の夜なんだけど・・・」
千秋がむくりと起き上がり、枕元に脱ぎ散らかされたパジャマを羽織る。
「うふふふふ・・・スゴイ夜だったわね」
「ど、どんな?」
「改めて口にするのは恥ずかしいわ。うふふふふ・・・・・・」
不可思議な笑いを漏らしながら千秋は部屋を出ていった。
残された小春はポカンとした表情のまま、登校時間に千秋が呼びに来るまで固まっていた。
「よっ赤時さん。予鈴五秒前ギリギリセーフだったね。ちーちとお家でナニかしてたん?」
「相田さん・・・それが分からないんだ」
「分からない?」
「いつの間にか千秋ちゃんと裸で寝ていて・・・・・・」
「フッ・・・そんなんもうアレしかないだろう」
朱音は何かに納得したようにうんうんと頷いている。
「少女二人がお肌の触れ合いをしたんだろ?アタシもよくしてることだよ」
「えっ? そうなの?」
「まっ、ともかく平和な証だな。ちーちも凶禍術を使った後遺症とかないんでしょ?」
「うん、肌もつやつやして元気そうだよ」
「良かった良かった。さっそれよりプールの時間だ。更衣室へ行こうぜ!」
一時間目から体育の授業であり、夏季には水泳を行うことになっている。
小春は学校指定のスクール水着が入ったバッグを片手に、朱音や千秋達とプールに隣接された更衣室へと向かうのであった。
大抵の生徒はプールでの授業は歓迎するものだが小春はむしろ憂鬱である。というのもカナヅチなのでまともに泳ぐことができず、個人個人の水泳タイム測定で恥を晒すのが嫌だからだ。
「はあ・・・・・・」
プールから上がり乾いたコンクリートの上に小春は座り込んだ。
「どうしたの小春?」
「私泳ぐのが苦手でさ。プールは嫌いなんだよ」
「私も泳ぎは大したことないわよ。太陽光をまともに浴びる状態では身体能力が減衰するから力が出ないのよ」
吸血姫は日光の出ている時間帯は弱体化するため、夜間のような人間離れした動きは不可能になる。だから今の千秋は普通の人間に近い力しか出せず、水泳のタイムも標準的なものであった。
「まだ泳げるだけ羨ましいよ。また他の人に下手な泳ぎを笑われちゃう・・・・・・」
「他人にどう思われてようと気にしなくていいのよ。私だけは小春をバカにしたりしない、それで充分でしょう?」
「そう、だね」
千秋さえ応援してくれれば他に何も必要ないかと小春は気が楽になった。千秋にとって小春は心の支えになっているが逆もまた同じである。何かあっても千秋が味方をしてくれるという確信があるから小春の気持ちにも余裕ができたのだ。
「さてアタシの出番ですかね」
プールサイドでゴーグルをつけて腕を組んでいるのは朱音だ。タイム測定の順番が回って来て気合を入れている。
「なんでアンタと一緒の順番なのよ・・・・・・」
タイム測定は二人同時に行われ、泳ぎのレベルによって分けられたグループ順に実施される。朱音と共に泳ぐことになったのは愛佳で、朱音の隣に立ちながらため息をついていた。
「気心が知れた仲でやりやすいじゃん?」
「は? アンタとそんな関係じゃないわ。やりずらいったらないわね」
「あ、もしかしてアタシに負けるのが怖いんだ?」
「なわけないでしょう!? アンタなんかに負けるわけないわ。巫女の力、見せてあげる」
直射日光は巫女にはプラスに働く。なのでパワーアップしている愛佳の方が有利ではあるのだ。
「アタシは素の体力が割とあるんだぞ。ベッドの上で必要になるからな」
「いや、知らないけど・・・・・・」
コイツは何を言っているんだと愛佳に呆れられながら二人のタイム測定が始まった。泳ぎのスピードは拮抗していたが、やはり太陽光をエネルギーにできる巫女に分があるようで少しずつ差を広げられ最終的に愛佳の勝ちで終わった。
「くっ・・・まさか負けるとは・・・・・・」
「はーはっはっ!! 吸血姫如きがあたしに勝とうなど百年早いのよ!!」
「ぬぅ・・・わからせてぇ・・・!」
高笑いしながら勝利を誇る愛佳と悔しそうにしている朱音を微笑ましく眺めている小春。最近になって関わるようになった人間とは違う種族の者達にこうも癒されるとは。
「ねえ小春、気づいてる?」
「ん?」
そんな小春の耳元で千秋が囁きかけてきた。
「男子達の視線よ。チラチラと小春を見ているヤツが何人もいるわ」
「わ、私を? 千秋ちゃんに向けての間違いじゃ?」
「違うわ。小春をよ」
今まで気にしたこともないが、まさか自分なんかが見られているとは思いもしなかった。特徴が無いのが特徴とも言うべき平凡女子だと自認しているし、むしろスタイルも顔も最高峰レベルの千秋の方がよほど男から視線を集めるのではないだろうか。
「私なんか見てもなんの得も無いのに」
「あるわよ。少なくとも私には。小春より魅力ある人間なんて他にいないもの」
「そ、そう? こんなどこにでもいそうな女子なんか、男子は興味ないんじゃないかな」
「むしろ手を出しやすいと思っているのよ。ちょっと優しくすれば付き合えるチョロそうな相手だと勘違いしているんだわ」
「そんな風に見えているの・・・?」
朱音や千秋は学内でもトップクラスの容姿で憧れても手を出しにくいが、平凡で友達の少ない小春なら狙い目だと思っている不純なヤツはいるだろう。
だが今更目を付けても、もう遅い。
「小春には私がいるということを教えてあげないとね?」
「千秋ちゃん・・・?」
小春の背後から千秋が抱き着いて手を這わせてきた。
「見せつけてやるわ。赤時小春が誰のものかを」
「待って、こんなところでダメだよぉ」
「照れないの。ホラ、見てみて。男子どもの顔を。羨ましそうに見ているわ」
「恥ずかしいから・・・ね、もう充分だから」
濃厚に接触する二人の少女を視界の端で見ている者達の感情はただ一つだった。
尊いという、ただそれだけの感情のみが向けられていたのだ。
小春は最近、学校での平穏な時間を大切に感じ始めていた。それは過激派吸血姫との戦いに参加するようになり普通では体感できない非日常を知ったからだろう。生きていることのありがたさをこの歳で理解できたのである。
「千秋ちゃん、帰ろうか」
放課後、帰り支度を済ませた小春は千秋と廊下に出る。こうして千秋と並んで下校する日常の一端だって幸せと感じていた。
しかし、その幸せに水を差す者が現れる。
「千祟さん、クラスメイトと仲良く下校ですか?」
「・・・なにか悪い? 生徒会長には関係ないことでしょ」
「ですわね。でも今日はアナタに少しお話があるんですの」
「分かった。小春、ちょっと待っててもらえるかしら」
生徒会長の界同世薙に千秋が呼び止められ、二人で屋上へと行ってしまった。
小春は世薙が吸血姫だと千秋に聞いていたし、吸血姫界隈の話があるのだと察する。本当ならついて行きたいところだが、世薙は信用ならないから近づくなと言われていたので大人しく教室で待つことにした。もし世薙にフェイバーブラッド持ちだとバレてしまったら不都合な事になる可能性があるからだ。
「それで、なにかしら」
真夏ともなれば下校時刻でも日差しは強い。極めて不快な環境で、極めて不快な相手と対面しなければならないことに千秋は我慢ならなかった。
「早く帰りたいのだけれど」
「なら手短に。昨晩、千祟真広と戦ったそうですわね」
「アナタがもたらした情報通りに義堂寺に行ったら偶然にも遭遇したのよ。まさか、知っていたのではないでしょうね? あそこに千祟真広がいることを」
「そんなわけないでしょう。たまたまですわ」
大げさに首を振って否定する世薙。千秋はそうしたワザとらしさに苛立ちを隠せない。
「で、それが何?」
「アナタは千祟真広を撃退したとか。どうやってです? アナタが強いことは承知していますが、千祟真広を超えるほどとは思えないのですが」
「それを聞いてどうするつもりかしら?」
「単純な興味ですわ。同時にアナタがより怖くなったので、もしアナタが過激派となった時の対処方を考えたいと思ったのです」
「フッ・・・さすが神木さんに私の暗殺を依頼するだけあって素直な感想ね」
愛佳から生徒会室でのやり取りを知らされていた千秋は嫌味に言う。
「聞くところによると、あそこには多数の傀儡吸血姫もいたらしいではないですか。それらを撃滅し、あまつさえ千祟真広を退ける・・・何か秘策があったとしか思えません。それを教えてくだされば、わたくしのような低級の吸血姫でも身を守るのに役立つと思うのですよ」
「別に何もないわよ。アナタの予想を超えて私が強いということかしらね」
「傲慢な言い方ですわね」
「事実を言っただけよ。私には千祟真広をも上回る力がある。例えどんな敵が来ても倒す、それだけよ」
もう用は済んだろうと千秋は世薙に背を向ける。こんな相手と会話する体力が勿体なかったし早く小春に会いたかった。
「それは共存派には心強いことですわね。でも、強い力は災いをもたらしますわ。ただでさえ真広という巨悪が不幸をもたらしているのですから、アナタまで暴走してわたくしの心と体の平穏を奪うようなことにはならないでくださいまし」
「自分勝手ね。それでも生徒会長なの?」
「現代を生きる者は皆自分の事で精一杯ですわ。わたくしのような弱い者は特に。だから利用できるものは利用する。いけませんか?」
「別に。でも私はアナタを好かない。だから教えることもない」
ぴしゃりと言い捨て、屋上の扉を閉めた。
世薙の言うような災いをもたらす吸血姫になるもんかと心で呟き、教室で待っていてくれた小春を見てその意思を確固たるものにするのだった。
-続く-
「・・・ん?」
立ち上がろうとして体を捻ると柔らかな感触が肌に触れた。その正体は千秋で、これ自体は何度かあったことだし一緒に布団に入った記憶があるので別にいいのだが・・・・・・
「な、なんで裸・・・?」
一糸纏わぬ姿で千秋は横になっていた。アラームの音で目覚めず、まだ静かな寝息を立てている。
「えっ・・・わ、私も・・・・・・」
違和感を感じて視線を落とすと自分もまた素っ裸であることに気がつく。同級生達よりも大きく実った乳房が窓から差す陽の光に照らされ、とても淫猥な雰囲気を醸し出している。
「な、なぜ・・・?」
小春は頭を抱えながら必死に寝る直前のことを思い返すが、千秋に術をかけられて吸血姫の繁殖の仕方をレクチャーされたことしか思い出せない。その時点までは確かに服を着ていたはずだ。となると、その後で二人とも脱いだことになる。
「おはよう、小春。もう起床時間を過ぎていたのね」
「お、おはよう千秋ちゃん。あのさ、昨日の夜なんだけど・・・」
千秋がむくりと起き上がり、枕元に脱ぎ散らかされたパジャマを羽織る。
「うふふふふ・・・スゴイ夜だったわね」
「ど、どんな?」
「改めて口にするのは恥ずかしいわ。うふふふふ・・・・・・」
不可思議な笑いを漏らしながら千秋は部屋を出ていった。
残された小春はポカンとした表情のまま、登校時間に千秋が呼びに来るまで固まっていた。
「よっ赤時さん。予鈴五秒前ギリギリセーフだったね。ちーちとお家でナニかしてたん?」
「相田さん・・・それが分からないんだ」
「分からない?」
「いつの間にか千秋ちゃんと裸で寝ていて・・・・・・」
「フッ・・・そんなんもうアレしかないだろう」
朱音は何かに納得したようにうんうんと頷いている。
「少女二人がお肌の触れ合いをしたんだろ?アタシもよくしてることだよ」
「えっ? そうなの?」
「まっ、ともかく平和な証だな。ちーちも凶禍術を使った後遺症とかないんでしょ?」
「うん、肌もつやつやして元気そうだよ」
「良かった良かった。さっそれよりプールの時間だ。更衣室へ行こうぜ!」
一時間目から体育の授業であり、夏季には水泳を行うことになっている。
小春は学校指定のスクール水着が入ったバッグを片手に、朱音や千秋達とプールに隣接された更衣室へと向かうのであった。
大抵の生徒はプールでの授業は歓迎するものだが小春はむしろ憂鬱である。というのもカナヅチなのでまともに泳ぐことができず、個人個人の水泳タイム測定で恥を晒すのが嫌だからだ。
「はあ・・・・・・」
プールから上がり乾いたコンクリートの上に小春は座り込んだ。
「どうしたの小春?」
「私泳ぐのが苦手でさ。プールは嫌いなんだよ」
「私も泳ぎは大したことないわよ。太陽光をまともに浴びる状態では身体能力が減衰するから力が出ないのよ」
吸血姫は日光の出ている時間帯は弱体化するため、夜間のような人間離れした動きは不可能になる。だから今の千秋は普通の人間に近い力しか出せず、水泳のタイムも標準的なものであった。
「まだ泳げるだけ羨ましいよ。また他の人に下手な泳ぎを笑われちゃう・・・・・・」
「他人にどう思われてようと気にしなくていいのよ。私だけは小春をバカにしたりしない、それで充分でしょう?」
「そう、だね」
千秋さえ応援してくれれば他に何も必要ないかと小春は気が楽になった。千秋にとって小春は心の支えになっているが逆もまた同じである。何かあっても千秋が味方をしてくれるという確信があるから小春の気持ちにも余裕ができたのだ。
「さてアタシの出番ですかね」
プールサイドでゴーグルをつけて腕を組んでいるのは朱音だ。タイム測定の順番が回って来て気合を入れている。
「なんでアンタと一緒の順番なのよ・・・・・・」
タイム測定は二人同時に行われ、泳ぎのレベルによって分けられたグループ順に実施される。朱音と共に泳ぐことになったのは愛佳で、朱音の隣に立ちながらため息をついていた。
「気心が知れた仲でやりやすいじゃん?」
「は? アンタとそんな関係じゃないわ。やりずらいったらないわね」
「あ、もしかしてアタシに負けるのが怖いんだ?」
「なわけないでしょう!? アンタなんかに負けるわけないわ。巫女の力、見せてあげる」
直射日光は巫女にはプラスに働く。なのでパワーアップしている愛佳の方が有利ではあるのだ。
「アタシは素の体力が割とあるんだぞ。ベッドの上で必要になるからな」
「いや、知らないけど・・・・・・」
コイツは何を言っているんだと愛佳に呆れられながら二人のタイム測定が始まった。泳ぎのスピードは拮抗していたが、やはり太陽光をエネルギーにできる巫女に分があるようで少しずつ差を広げられ最終的に愛佳の勝ちで終わった。
「くっ・・・まさか負けるとは・・・・・・」
「はーはっはっ!! 吸血姫如きがあたしに勝とうなど百年早いのよ!!」
「ぬぅ・・・わからせてぇ・・・!」
高笑いしながら勝利を誇る愛佳と悔しそうにしている朱音を微笑ましく眺めている小春。最近になって関わるようになった人間とは違う種族の者達にこうも癒されるとは。
「ねえ小春、気づいてる?」
「ん?」
そんな小春の耳元で千秋が囁きかけてきた。
「男子達の視線よ。チラチラと小春を見ているヤツが何人もいるわ」
「わ、私を? 千秋ちゃんに向けての間違いじゃ?」
「違うわ。小春をよ」
今まで気にしたこともないが、まさか自分なんかが見られているとは思いもしなかった。特徴が無いのが特徴とも言うべき平凡女子だと自認しているし、むしろスタイルも顔も最高峰レベルの千秋の方がよほど男から視線を集めるのではないだろうか。
「私なんか見てもなんの得も無いのに」
「あるわよ。少なくとも私には。小春より魅力ある人間なんて他にいないもの」
「そ、そう? こんなどこにでもいそうな女子なんか、男子は興味ないんじゃないかな」
「むしろ手を出しやすいと思っているのよ。ちょっと優しくすれば付き合えるチョロそうな相手だと勘違いしているんだわ」
「そんな風に見えているの・・・?」
朱音や千秋は学内でもトップクラスの容姿で憧れても手を出しにくいが、平凡で友達の少ない小春なら狙い目だと思っている不純なヤツはいるだろう。
だが今更目を付けても、もう遅い。
「小春には私がいるということを教えてあげないとね?」
「千秋ちゃん・・・?」
小春の背後から千秋が抱き着いて手を這わせてきた。
「見せつけてやるわ。赤時小春が誰のものかを」
「待って、こんなところでダメだよぉ」
「照れないの。ホラ、見てみて。男子どもの顔を。羨ましそうに見ているわ」
「恥ずかしいから・・・ね、もう充分だから」
濃厚に接触する二人の少女を視界の端で見ている者達の感情はただ一つだった。
尊いという、ただそれだけの感情のみが向けられていたのだ。
小春は最近、学校での平穏な時間を大切に感じ始めていた。それは過激派吸血姫との戦いに参加するようになり普通では体感できない非日常を知ったからだろう。生きていることのありがたさをこの歳で理解できたのである。
「千秋ちゃん、帰ろうか」
放課後、帰り支度を済ませた小春は千秋と廊下に出る。こうして千秋と並んで下校する日常の一端だって幸せと感じていた。
しかし、その幸せに水を差す者が現れる。
「千祟さん、クラスメイトと仲良く下校ですか?」
「・・・なにか悪い? 生徒会長には関係ないことでしょ」
「ですわね。でも今日はアナタに少しお話があるんですの」
「分かった。小春、ちょっと待っててもらえるかしら」
生徒会長の界同世薙に千秋が呼び止められ、二人で屋上へと行ってしまった。
小春は世薙が吸血姫だと千秋に聞いていたし、吸血姫界隈の話があるのだと察する。本当ならついて行きたいところだが、世薙は信用ならないから近づくなと言われていたので大人しく教室で待つことにした。もし世薙にフェイバーブラッド持ちだとバレてしまったら不都合な事になる可能性があるからだ。
「それで、なにかしら」
真夏ともなれば下校時刻でも日差しは強い。極めて不快な環境で、極めて不快な相手と対面しなければならないことに千秋は我慢ならなかった。
「早く帰りたいのだけれど」
「なら手短に。昨晩、千祟真広と戦ったそうですわね」
「アナタがもたらした情報通りに義堂寺に行ったら偶然にも遭遇したのよ。まさか、知っていたのではないでしょうね? あそこに千祟真広がいることを」
「そんなわけないでしょう。たまたまですわ」
大げさに首を振って否定する世薙。千秋はそうしたワザとらしさに苛立ちを隠せない。
「で、それが何?」
「アナタは千祟真広を撃退したとか。どうやってです? アナタが強いことは承知していますが、千祟真広を超えるほどとは思えないのですが」
「それを聞いてどうするつもりかしら?」
「単純な興味ですわ。同時にアナタがより怖くなったので、もしアナタが過激派となった時の対処方を考えたいと思ったのです」
「フッ・・・さすが神木さんに私の暗殺を依頼するだけあって素直な感想ね」
愛佳から生徒会室でのやり取りを知らされていた千秋は嫌味に言う。
「聞くところによると、あそこには多数の傀儡吸血姫もいたらしいではないですか。それらを撃滅し、あまつさえ千祟真広を退ける・・・何か秘策があったとしか思えません。それを教えてくだされば、わたくしのような低級の吸血姫でも身を守るのに役立つと思うのですよ」
「別に何もないわよ。アナタの予想を超えて私が強いということかしらね」
「傲慢な言い方ですわね」
「事実を言っただけよ。私には千祟真広をも上回る力がある。例えどんな敵が来ても倒す、それだけよ」
もう用は済んだろうと千秋は世薙に背を向ける。こんな相手と会話する体力が勿体なかったし早く小春に会いたかった。
「それは共存派には心強いことですわね。でも、強い力は災いをもたらしますわ。ただでさえ真広という巨悪が不幸をもたらしているのですから、アナタまで暴走してわたくしの心と体の平穏を奪うようなことにはならないでくださいまし」
「自分勝手ね。それでも生徒会長なの?」
「現代を生きる者は皆自分の事で精一杯ですわ。わたくしのような弱い者は特に。だから利用できるものは利用する。いけませんか?」
「別に。でも私はアナタを好かない。だから教えることもない」
ぴしゃりと言い捨て、屋上の扉を閉めた。
世薙の言うような災いをもたらす吸血姫になるもんかと心で呟き、教室で待っていてくれた小春を見てその意思を確固たるものにするのだった。
-続く-
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
異世界ランドへようこそ
来栖とむ
ファンタジー
都内から車で1時間半。奥多摩の山中に突如現れた、話題の新名所――「奥多摩異世界ランド」。
中世ヨーロッパ風の街並みと、ダンジョンや魔王城を完全再現した異世界体験型レジャーパークだ。
26歳・無職の佐伯雄一は、ここで“冒険者A”のバイトを始める。
勇者を導くNPC役として、剣を振るい、魔物に襲われ、時にはイベントを盛り上げる毎日。
同僚には、美人なギルド受付のサーミャ、エルフの弓使いフラーラ、ポンコツ騎士メリーナなど、魅力的な“登場人物”が勢ぞろい。
――しかしある日、「魔王が逃げた」という衝撃の知らせが入る。
「体格が似てるから」という理由で、雄一は急遽、魔王役の代役を任されることに。
だが、演技を終えた後、案内された扉の先にあったのは……本物の異世界だった!
経営者は魔族、同僚はガチの魔物。
魔王城で始まる、まさかの「異世界勤務」生活!
やがて魔王の後継問題に巻き込まれ、スタンピードも発生(?)の裏で、フラーラとの恋が動き出す――。
笑えて、トキメいて、ちょっと泣ける。
現代×異世界×職場コメディ、開園!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる